「健忘症候群」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
40行目: 40行目:


== 記憶の分類  ==
== 記憶の分類  ==
[[Image:図3時間軸からみた記憶の分類.png|thumb|300px|<b>図3.時間軸からみた記憶の分類(三村 2012<ref name=ref6>'''三村 將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>を引用)</b>]]  
[[Image:図3時間軸からみた記憶の分類.png|thumb|300px|<b>図3.時間軸からみた記憶の分類(三村 2012<ref name=ref6>'''三村將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>を引用)</b>]]  


[[Image:図4ワーキングメモリーのモデル.png|thumb|300px|<b>図4.ワーキングメモリーのモデル</b><br />2000年にBaddeleyは、それまでの[[視空間記銘メモ]]、[[音韻ループ]]に加え、[[エピソードバッファ]]を追加し、それぞれ視覚的意味、[[言語]]、[[エピソード長期記憶]]と対応するとした。図で白抜きの部分は注意や記憶の一時的な保持と関係している(Baddeley<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>を訳)。]]  
[[Image:図4ワーキングメモリーのモデル.png|thumb|300px|<b>図4.ワーキングメモリーのモデル</b><br />2000年にBaddeleyは、それまでの[[視空間記銘メモ]]、[[音韻ループ]]に加え、[[エピソードバッファ]]を追加し、それぞれ視覚的意味、[[言語]]、[[エピソード長期記憶]]と対応するとした。図で白抜きの部分は注意や記憶の一時的な保持と関係している(Baddeley<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>を訳)。]]  
78行目: 78行目:
== 健忘症候群を来す主な疾患  ==
== 健忘症候群を来す主な疾患  ==


 損傷された脳の部位や病変の大きさ、原因疾患により臨床症状はさまざまである(表1)。一般に損傷が[[優位半球]](左半球)の場合は言語性記憶、[[劣位半球]](右半球)の場合は[[視覚性記憶]]の障害が優勢となる。また、前脳基底部の障害による健忘と、それ以外の部位すなわち側頭葉や、乳頭体や視床などを含む間脳の障害による健忘のあいだに、質的相違を認めたとする報告もある<ref name=ref11>'''武田克彦、御園生 香'''<br>記憶と前脳基底部<br>In: 高倉公明、宮本忠雄監修 ''記憶とその障害の最前線、メディカル・ビュー社''、東京、1998、pp.115-122.</ref>。Damasio <ref name=ref12><pubmed>3977657</pubmed></ref>は、前脳基底部の損傷による健忘の特徴として、
 損傷された脳の部位や病変の大きさ、原因疾患により臨床症状はさまざまである(表1)。一般に損傷が[[優位半球]](左半球)の場合は言語性記憶、[[劣位半球]](右半球)の場合は[[視覚性記憶]]の障害が優勢となる。また、前脳基底部の障害による健忘と、それ以外の部位すなわち側頭葉や、乳頭体や視床などを含む間脳の障害による健忘のあいだに、質的相違を認めたとする報告もある<ref name=ref11>'''武田克彦、御園生香'''<br>記憶と前脳基底部<br>In: 高倉公明、宮本忠雄監修 ''記憶とその障害の最前線、メディカル・ビュー社''、東京、1998、pp.115-122.</ref>。Damasio <ref name=ref12><pubmed>3977657</pubmed></ref>は、前脳基底部の損傷による健忘の特徴として、


#名前や顔などの個別の情報は覚えられるが、それらの統合ができない。
#名前や顔などの個別の情報は覚えられるが、それらの統合ができない。
139行目: 139行目:
=== ウェルニッケ-コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff syndrome)  ===
=== ウェルニッケ-コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff syndrome)  ===


 [[間脳性]]の健忘の代表。ビタミンB1欠乏により、乳頭体や脳弓、視床に変性が生じ、Papez, Yakovlevの両回路が遮断されることにより健忘を生じる。意識障害、[[眼球運動障害]]、失調を示すウェルニッケ脳症が生じ、意識障害から回復してくるとコルサコフ症候群としての記憶障害が顕在化してくる<ref name=ref6>'''三村 將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>。[[見当識障害]]、前向性健忘、逆行性健忘、[[作話]]が特徴で、以前はアルコール多飲者の栄養不良が代表的原因とされた。今日では栄養状態の良くない患者にビタミンB1を含まないブドウ輸液の点滴を行ったことによる医原性もしばしばみられる。“ビタミンB1の補充が1時間遅れると、患者の回復は1日遅れる”と言われるほど、いかにこの疾患を疑いいち早くビタミンを補充するかが、患者の予後を大きく左右する。  
 [[間脳性]]の健忘の代表。ビタミンB1欠乏により、乳頭体や脳弓、視床に変性が生じ、Papez, Yakovlevの両回路が遮断されることにより健忘を生じる。意識障害、[[眼球運動障害]]、失調を示すウェルニッケ脳症が生じ、意識障害から回復してくるとコルサコフ症候群としての記憶障害が顕在化してくる<ref name=ref6>'''三村將'''<br>記憶障害<br>江藤文夫、武田克彦他編、高次脳機能障害のリハビリテーションVer.2.''医師薬出版''、東京、2004, pp.38-44. </ref>。[[見当識障害]]、前向性健忘、逆行性健忘、[[作話]]が特徴で、以前はアルコール多飲者の栄養不良が代表的原因とされた。今日では栄養状態の良くない患者にビタミンB1を含まないブドウ輸液の点滴を行ったことによる医原性もしばしばみられる。“ビタミンB1の補充が1時間遅れると、患者の回復は1日遅れる”と言われるほど、いかにこの疾患を疑いいち早くビタミンを補充するかが、患者の予後を大きく左右する。  


=== 視床梗塞/出血  ===
=== 視床梗塞/出血  ===

案内メニュー