「PSD-95」の版間の差分

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 PSDには同様の構造を持ったタンパク質として[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]が存在し、これらを含めてPSD-95 familyと呼ぶ。これら分子の発達に伴う発現パターンは異なっており、げっ歯類の海馬においては、PSD-95およびPSD-93は生後10日目あたりから発現量が増えるのに対し、SAP102は生後1週齢で既に発現量が高い<ref name=ref1><pubmed>10648730</pubmed></ref>。SAP-97については生後2週齢頃から遺伝子発現が増加することが報告されている<ref name=ref2><pubmed>7891172</pubmed></ref>。
 PSDには同様の構造を持ったタンパク質として[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]が存在し、これらを含めてPSD-95 familyと呼ぶ。これら分子の発達に伴う発現パターンは異なっており、げっ歯類の海馬においては、PSD-95およびPSD-93は生後10日目あたりから発現量が増えるのに対し、SAP102は生後1週齢で既に発現量が高い<ref name=ref1><pubmed>10648730</pubmed></ref>。SAP-97については生後2週齢頃から遺伝子発現が増加することが報告されている<ref name=ref2><pubmed>7891172</pubmed></ref>。
[[プロテオミクス]]解析や[[全反射顕微鏡]]を用いたシナプス分子の数の定量結果から、PSD family分子はシナプス後部に300個ほど存在するとされている<ref name=ref3><pubmed>16061821</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16118638</pubmed></ref>。
 
 [[プロテオミクス]]解析や[[全反射顕微鏡]]を用いたシナプス分子の数の定量結果から、PSD family分子はシナプス後部に300個ほど存在するとされている<ref name=ref3><pubmed>16061821</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>16118638</pubmed></ref>。
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[[image:PSD-95 fig2.jpg|thumb|350px|'''図2.シナプス後部構造におけるPSD-95''']]
[[image:PSD-95 fig2.jpg|thumb|350px|'''図2.シナプス後部構造におけるPSD-95''']]


 PSD-95は[[membrane-associated guanylate kinase(MAGUK)family]]に属しており、N末端側から、3つのPDZドメイン、1つの[[Src homology 3(SH3)ドメイン]]、1つの[[Guanylate kinase-like(GK)ドメイン]]を持つ。PSD-95のαアイソフォームは、N末端に[[パルミトイル化]]反応を受けうる2つの[[wikipedia:ja:|システイン]]を含み、βアイソフォームは[[L27ドメイン]]を持つ。N末端のパルミトイル化はPSD-95の[[シナプス後膜]]への局在に重要である<ref name=ref5><pubmed>11955437</pubmed></ref>。
 PSD-95は[[membrane-associated guanylate kinase(MAGUK)family]]に属しており、N末端側から、3つのPDZドメイン、1つの[[Src homology 3(SH3)ドメイン]]、1つの[[Guanylate kinase-like(GK)ドメイン]]を持つ。PSD-95のαアイソフォームは、N末端に[[パルミトイル化]]反応を受けうる2つの[[wikipedia:ja:システイン|システイン]]を含み、βアイソフォームは[[L27ドメイン]]を持つ。N末端のパルミトイル化はPSD-95の[[シナプス後膜]]への局在に重要である<ref name=ref5><pubmed>11955437</pubmed></ref>。


===PDZ ドメイン===
===PDZ ドメイン===
 PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する90程度のアミノ酸残基を含む構造である。PSD-95に含まれる、3つのPDZドメインはすべて、リガンドタンパク質のC末端から3番目の位置が[[wikipedia:ja:|セリン]]または[[wikipedia:ja:|スレオニン]]であるクラスIに分類される。PSD-95のPDZドメインと結合するタンパク質としてNR2A-D、GluR6、[[nAChRc]]、[[ErbB4]]、[[Kir2-5]]、[[Neuroligin]]、nNosなどがあげられ、これらのC末端がいずれかのPDZドメインに結合する<ref name=ref6><pubmed>15378037</pubmed></ref>。また、AMPARは補助サブユニットである[[transmembrane AMPAR regulatory proteins]]([[TARP]])がPDZドメインと結合することによって間接的にPSD-95と結合することが示されている<ref name=ref7><pubmed>11140673</pubmed></ref>。
 PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する90程度のアミノ酸残基を含む構造である。PSD-95に含まれる、3つのPDZドメインはすべて、リガンドタンパク質のC末端から3番目の位置が[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]または[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]]であるクラスIに分類される。PSD-95のPDZドメインと結合するタンパク質としてNR2A-D、GluR6、[[nAChRc]]、[[ErbB4]]、[[Kir2-5]]、[[Neuroligin]]、nNosなどがあげられ、これらのC末端がいずれかのPDZドメインに結合する<ref name=ref6><pubmed>15378037</pubmed></ref>。また、AMPARは補助サブユニットである[[transmembrane AMPAR regulatory proteins]]([[TARP]])がPDZドメインと結合することによって間接的にPSD-95と結合することが示されている<ref name=ref7><pubmed>11140673</pubmed></ref>。


(詳細は[[PDZドメインタンパク質]]の項を参照)
(詳細は[[PDZドメインタンパク質]]の項を参照)


===SH3ドメイン、GKドメイン===
===SH3ドメイン、GKドメイン===
 SH3ドメインとGKドメインはPSD-95のC末端側に位置する。これらのドメインは分子内で相互作用しており、PSD-95の分子的な安定性の向上に役だっていると考えられている。また、この相互作用は分子間でも見られ、複数のPSD-95間における会合にも資している。SH3ドメインやGKドメインには同種の分子だけでなく[[GKAP]]、SPAR、AKAP79/150、Pyk2など様々な分子と相互作用する<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>18206289</pubmed></ref>。
 SH3ドメインとGKドメインはPSD-95のC末端側に位置する。これらのドメインは分子内で相互作用しており、PSD-95の分子的な安定性の向上に役だっていると考えられている。また、この相互作用は分子間でも見られ、複数のPSD-95間における会合にも資している。SH3ドメインやGKドメインには同種の分子だけでなく[[GKAP]]、[[SPAR]]、[[AKAP79/150]]、[[Pyk2]]など様々な分子と相互作用する<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>18206289</pubmed></ref>。


==シナプス伝達機能への関与==
==シナプス伝達機能への関与==
 PSD-95はシナプスを構成する幅広い分子の足場となることで、シナプス機能やシナプス可塑性に重要な役割を果たす。PSD-95の発現を変化させた様々な実験から、PSD-95がシナプス伝達、特にAMPA型[[グルタミン酸]]受容体を介したシナプス伝達機能に重要であるという知見が報告されている。[[海馬]][[スライス培養]]系においてsh-RNAによりPSD-95を[[ノックダウン]]した[[錐体細胞]]では、AMPA受容体依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度 の低下が見られる<ref name=ref9><pubmed>17046693</pubmed></ref>。一方、PSD-95ノックアウトマウスの急性スライスを用いた研究では、AMPA受容体を介したEPSCに変化が見られないと報告されたが<ref name=ref10><pubmed>9853749</pubmed></ref>、PSD-93とのダブルノックアウトマウスではEPSCが大きく低下することが分かり、PSD-95単独のノックアウトマウスではその機能がPSD-93によって補償されている可能性が示唆されている<ref name=ref9 />。さらに、別系統のノックアウトマウスでは、幼若期(生後14-24日)において、AMPAR依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度の低下が見られている<ref name=ref11><pubmed>7891172</pubmed></ref>。また、PSD-95を過剰発現させた場合には、evoked EPSC振幅やmEPSC振幅が増加することが報告されている<ref name=ref12><pubmed>11082065</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>12359873</pubmed></ref>。
 PSD-95はシナプスを構成する幅広い分子の足場となることで、シナプス機能や[[シナプス可塑性]]に重要な役割を果たす。PSD-95の発現を変化させた様々な実験から、PSD-95が[[シナプス伝達]]、特に[[AMPA型グルタミン酸受容体]]を介したシナプス伝達機能に重要であるという知見が報告されている。
 
 [[海馬]][[スライス培養]]系において[[sh-RNA]]によりPSD-95を[[ノックダウン]]した[[錐体細胞]]では、AMPA受容体依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度 の低下が見られる<ref name=ref9><pubmed>17046693</pubmed></ref>。一方、PSD-95ノックアウトマウスの急性スライスを用いた研究では、AMPA受容体を介したEPSCに変化が見られないと報告されたが<ref name=ref10><pubmed>9853749</pubmed></ref>、PSD-93とのダブルノックアウトマウスではEPSCが大きく低下することが分かり、PSD-95単独のノックアウトマウスではその機能がPSD-93によって補償されている可能性が示唆されている<ref name=ref9 />
 
 さらに、別系統のノックアウトマウスでは、幼若期(生後14-24日)において、AMPAR依存性のevoked EPSC振幅およびmEPSC頻度の低下が見られている<ref name=ref11><pubmed>7891172</pubmed></ref>。また、PSD-95を過剰発現させた場合には、evoked EPSC振幅やmEPSC振幅が増加することが報告されている<ref name=ref12><pubmed>11082065</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>12359873</pubmed></ref>。


 NMDA受容体についても同様の実験が行われている。しかし、PSD-95はNMDA受容体に直接結合するにも関わらず、PSD-95の発現を操作しても、NMDA受容体依存性のEPSCに変化がないことが報告されており<ref name=ref9 /> <ref name=ref10 />、詳細な役割は不明である。
 NMDA受容体についても同様の実験が行われている。しかし、PSD-95はNMDA受容体に直接結合するにも関わらず、PSD-95の発現を操作しても、NMDA受容体依存性のEPSCに変化がないことが報告されており<ref name=ref9 /> <ref name=ref10 />、詳細な役割は不明である。


 PSD-95はシナプス伝達の長期可塑性にも関与する。PSD-95ノックアウトマウスの海馬スライスでは、高頻度刺激で生じるシナプス長期増強(long-term potentiation; LTP)が促進される一方で、低頻度刺激で生じるシナプス長期抑制(long-term depression; LTD)は抑制される<ref name=ref10 />。逆に、PSD-95を過剰発現させた細胞では、LTPが抑制され、LTDが亢進する<ref name=ref14><pubmed>12843250</pubmed></ref>。ノックアウトマウスにおいても空間学習能力の異常が認められており、脳機能の可塑的な変化が個体レベルでも阻害されることが分かっている<ref name=ref10 />。シナプス長期可塑性を調節する分子機構として、LTDに関しては、PSD-95がLTD発現に必要なシグナルタンパク質であるAKAP79/150と[[PP2B]]の足場となり、NMDA受容体から流入する[[カルシウム]]シグナルとこれらシグナルタンパク質を結び付けているとするモデルが提唱されている<ref name=ref15><pubmed>18215622</pubmed></ref>。また、シナプスへの局在に重要な295番目のセリン残基がシナプス長期可塑性の発現に重要であることが報告されている<ref name=ref16><pubmed>17988632</pubmed></ref>。
 PSD-95はシナプス伝達の長期可塑性にも関与する。PSD-95ノックアウトマウスの海馬スライスでは、高頻度刺激で生じる[[シナプス長期増強]](long-term potentiation; LTP)が促進される一方で、低頻度刺激で生じる[[シナプス長期抑制]](long-term depression; LTD)は抑制される<ref name=ref10 />。逆に、PSD-95を過剰発現させた細胞では、LTPが抑制され、LTDが亢進する<ref name=ref14><pubmed>12843250</pubmed></ref>
 
 [[ノックアウトマウス]]においても空間学習能力の異常が認められており、脳機能の可塑的な変化が個体レベルでも阻害されることが分かっている<ref name=ref10 />
 
 シナプス長期可塑性を調節する分子機構として、LTDに関しては、PSD-95がLTD発現に必要なシグナルタンパク質であるAKAP79/150と[[PP2B]]の足場となり、NMDA受容体から流入する[[カルシウム]]シグナルとこれらシグナルタンパク質を結び付けているとするモデルが提唱されている<ref name=ref15><pubmed>18215622</pubmed></ref>
 
 また、シナプスへの局在に重要な295番目のセリン残基がシナプス長期可塑性の発現に重要であることが報告されている<ref name=ref16><pubmed>17988632</pubmed></ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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