「PDZドメインタンパク質」の版間の差分

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 PDZドメインとは、様々なシグナルタンパク質において共通してみられる、80から90ほどの長さの特定のアミノ酸配列であり、PDZドメインを有するタンパク質をPDZドメインタンパク質と総称する。PDZという名称は[[、postsynaptic density protein]]([[95PSD95]])、[[Drosophila disc large tumor suppressor]]([[Dlg1]])、[[zonula occludens-1 protein]]([[ZO-1]])という3つのタンパク質の頭文字に由来する。このアミノ酸配列は、[[wikipedia:ja:バクテリア|バクテリア]]、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]、[[ショウジョウバエ]]など様々な生物種のタンパク質に存在することがわかっている。
 PDZドメインとは、様々な足場タンパク質において共通してみられる、80から90アミノ酸からなるタンパク質ドメインであり、PDZドメインを有するタンパク質をPDZドメインタンパク質と総称する。同様なドメインが[[wikipedia:ja:バクテリア|バクテリア]]、[[wikipedia:ja:酵母|酵母]]、[[ショウジョウバエ]]など様々な生物種のタンパク質に存在することがわかっている。


 PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する。この相互作用によって、シグナル伝達や細胞内輸送に関わる大きなタンパク質複合体が形成される。神経細胞ではPSD95ファミリー、[[PICK1]]、[[Shank]]などがPDZドメインを含む代表的なタンパク質である。細胞内におけるタンパク質の組成や空間配置は、PDZドメインタンパク質によって厳密に制御されていると考えられている。
 PDZドメインは、リガンドタンパク質のC末端に結合する。この相互作用によって、シグナル伝達や細胞内輸送に関わる大きなタンパク質複合体が形成される。神経細胞では[[PSD-95]]ファミリー、[[PICK1]]、[[Shank]]などがPDZドメインを含む代表的なタンパク質である。細胞内におけるタンパク質の組成や空間配置は、PDZドメインタンパク質によって厳密に制御されていると考えられている。
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{{Pfam_box
| Symbol = PDZ
| Name =
| image =1BFE.pdb
| width =200
| caption =PSD-95 第3PDZドメインの立体構造。1BFEによる。
| Pfam= PF00595
| InterPro= IPR001478
| SMART= PDZ
| PROSITE= PDOC50106
| SCOP = 1lcy
| TCDB =
| OPM family=
| OPM protein=
| CDD = cd00136
| PDB=
{{PDB3|1l1j}}B:248-262  {{PDB3|1lcy}}A:388-442  {{PDB3|1fc7}}A:151-232
{{PDB3|1fc9}}A:151-232  {{PDB3|1fcf}}A:151-232  {{PDB3|1fc6}}A:151-232
{{PDB3|1ueq}}A:426-492  {{PDB3|1ujv}}A:639-680  {{PDB3|1i92}}A:14-91
{{PDB3|1g9o}}A:14-91    {{PDB3|1q3o}}A:663-754  {{PDB3|1q3p}}A:663-754
{{PDB3|1uep}}A:778-859  {{PDB3|1wfv}}A:1147-1226 {{PDB3|1uew}}A:920-1007
{{PDB3|2cs5}}A:517-602  {{PDB3|1qav}}A:81-161    {{PDB3|2pdz}}A:81-161
{{PDB3|1z86}}A:81-161    {{PDB3|1z87}}A:81-161    {{PDB3|1pdr}} :466-544
{{PDB3|1tq3}}A:313-391  {{PDB3|1be9}}A:313-391  {{PDB3|1bfe}}A:313-391
{{PDB3|1tp5}}A:313-391  {{PDB3|1tp3}}A:313-391  {{PDB3|1um7}}A:386-464
{{PDB3|1iu2}}A:65-149    {{PDB3|1iu0}}A:65-149    {{PDB3|1kef}}A:65-149
{{PDB3|1zok}}A:224-308  {{PDB3|1qlc}}A:160-244  {{PDB3|2byg}}A:193-277
{{PDB3|2fe5}}A:226-310  {{PDB3|1wi2}}A:47-125    {{PDB3|1wha}}A:871-947
{{PDB3|1x5q}}A:728-812  {{PDB3|1t2m}}A:993-1073  {{PDB3|1um1}}A:974-1056
{{PDB3|1wf8}}A:504-589  {{PDB3|1gm1}}A:1357-1439 {{PDB3|1ozi}}A:1357-1439
{{PDB3|1vj6}}A:1357-1439 {{PDB3|1d5g}}A:1368-1450 {{PDB3|3pdz}}A:1368-1450
{{PDB3|1q7x}}A:1368-1450 {{PDB3|1uju}}A:1100-1189 {{PDB3|1wi4}}A:22-94
{{PDB3|1l6o}}A:254-339  {{PDB3|1mc7}}A:251-336  {{PDB3|1n7t}}A:1323-1407
{{PDB3|1mfg}}A:1323-1407 {{PDB3|1mfl}}A:1323-1407 {{PDB3|1uez}}A:140-219
{{PDB3|1uf1}}A:279-357  {{PDB3|1x5n}}A:211-289  {{PDB3|1ihj}}A:17-103
{{PDB3|1uhp}}A:249-336  {{PDB3|1uit}}A:1240-1316 {{PDB3|1x6d}}A:412-495
{{PDB3|2csj}}A:10-94    {{PDB3|1m5z}}A:988-1067  {{PDB3|2css}}A:605-688
{{PDB3|1zub}}A:619-702  {{PDB3|1wfg}}A:668-753  {{PDB3|1ufx}}A:816-887
{{PDB3|1qau}}A:17-96    {{PDB3|1b8q}}A:17-96    {{PDB3|1u38}}A:656-740
{{PDB3|1u37}}A:656-740  {{PDB3|1u3b}}A:656-740  {{PDB3|1x45}}A:656-740
{{PDB3|1p1d}}A:471-557  {{PDB3|1p1e}}A:471-557  {{PDB3|1x5r}}A:456-542
{{PDB3|1v62}}A:248-329  {{PDB3|1n7f}}A:672-751  {{PDB3|1n7e}}A:672-751
{{PDB3|1wf7}}A:5-82      {{PDB3|1rgw}}A:4-81      {{PDB3|1vb7}}A:3-81
{{PDB3|1i16}} :533-616  {{PDB3|1v6b}}A:752-838  {{PDB3|2f5y}}B:300-373
{{PDB3|1whd}}A:18-92    {{PDB3|1ybo}}A:114-191  {{PDB3|1v1t}}B:114-191
{{PDB3|1obz}}B:114-191  {{PDB3|1n99}}A:114-191  {{PDB3|1wh1}}A:419-501
{{PDB3|1va8}}A:256-333  {{PDB3|1kwa}}A:490-568  {{PDB3|1nf3}}D:157-247
{{PDB3|1rzx}}A:160-250  {{PDB3|1oby}}B:198-270  {{PDB3|1obx}}A:198-270
{{PDB3|1nte}}A:198-270  {{PDB3|1r6j}}A:198-270  {{PDB3|1u39}}A:747-820
{{PDB3|1y7n}}A:747-820
}}
== 名称の変遷 ==
== 名称の変遷 ==
 
 PDZドメインは、まずPSD-95に含まれるということが発見され、[[グリシン]]、[[wikipedia:ja:ロイシン|ロイシン]]、グリシン、[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]という特徴的な4つのアミノ酸の繰り返し配列があることから、GLGFと名付けられた。次いで、[[Drosophila disc large tumor suppressor]]([[Dlg1]])にも存在していることが確認され、Dlg homologous region(DHR)とも呼ばれることになった。その直後、zonula occludens-1 protein(ZO-1)にも存在することがわかり、最終的に、<u>P</u>SD-95、<u>D</u>lg1、<u>Z</u>O-1の頭文字を時系列にそって、PDZドメインと呼ばれるようになった<ref name=ref1><pubmed>7482701</pubmed></ref>。
 PDZドメインは、まずPSD-95に含まれるということが発見され、[[グリシン]]、[[wikipedia:ja:ロイシン|ロイシン]]、グリシン、[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]という特徴的な4つのアミノ酸の繰り返し配列があることから、GLGFと名付けられた。次いで、[[Drosophila disc large tumor suppressor]]([[Dlg1]])にも存在していることが確認され、Dlg homologous region(DHR)とも呼ばれることになった。その直後、zonula occludens-1 protein(ZO-1)にも存在することがわかり、最終的に、上述のようにそれぞれの頭文字を時系列にそって、PDZドメインと呼ばれるようになった<ref name=ref1><pubmed>7482701</pubmed></ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==
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 PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との結合は、αBの最初のアミノ酸残基とリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置(C(-2))のアミノ酸残基との相互作用によっている<ref name=ref2 />。そのため、リガンドタンパク質のC(-2)に位置するアミノ酸の種類によって、それと結合するPDZドメインタンパク質の分類が行われている。
 PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との結合は、αBの最初のアミノ酸残基とリガンドタンパク質のC末端から3番目の位置(C(-2))のアミノ酸残基との相互作用によっている<ref name=ref2 />。そのため、リガンドタンパク質のC(-2)に位置するアミノ酸の種類によって、それと結合するPDZドメインタンパク質の分類が行われている。


 クラスIには、PSD95などが含まれ、C(-2)には、[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]または[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]]が存在している。クラスIIには、PICK1などが含まれ、C(-2)には、[[wikipedia:ja:疎水性アミノ酸|疎水性アミノ酸]]残基が存在している。クラスIIIには、[[nNOS]]などが含まれ、C(-2)には、[[グルタミン酸]]や[[wikipedia:ja:アルギニン酸|アルギニン酸]]といった負の電荷をもつアミノ酸が存在する。
 クラスIには、PSD-95などが含まれ、C(-2)には、[[wikipedia:ja:セリン|セリン]]または[[wikipedia:ja:スレオニン|スレオニン]]が存在している。
 
 クラスIIには、PICK1などが含まれ、C(-2)には、[[wikipedia:ja:疎水性アミノ酸|疎水性アミノ酸]]残基が存在している。クラスIIIには、[[nNOS]]などが含まれ、C(-2)には、[[グルタミン酸]]や[[wikipedia:ja:アルギニン酸|アルギニン酸]]といった負の電荷をもつアミノ酸が存在する。


 C(-2)の位置のアミノ酸も重要であるが、その一つN末端側のC(-3)の位置のアミノ酸も、PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との特異的な結合において重要である事がわかっている。
 C(-2)の位置のアミノ酸も重要であるが、その一つN末端側のC(-3)の位置のアミノ酸も、PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質との特異的な結合において重要である事がわかっている。
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|-
|-
| T-T-R-V
| T-T-R-V
| [[Neuroligin]]
| [[ニューロリギン]]
| PSD-95 (PDZ3)
| PSD-95 (PDZ3)
|-
|-
| E-S-L-V  
| E-S-L-V  
| [[Voltage-gated Na+ channel|Voltage-gated Na<sup>+</sup> channel]]
| [[ナトリウムチャネル|電位依存性ナトリウムチャネル]]
| Syntrophin
| [[シントロフィン]]
|-
|-
| rowspan="2" | X-S/T-X-L
| rowspan="2" | X-S/T-X-L
| Q-T-R-L
| Q-T-R-L
| [[GKAP]]
| [[GKAP]]
| Shank
| [[Shank]]
|-
|-
| S-S-T-L
| S-S-T-L
| [[mGluR5]]
| [[代謝活性型グルタミン酸受容体]][[mGluR5]]
| Shank
| Shank
|-
|-
77行目: 129行目:
| rowspan="4" | X-φ-X-φ
| rowspan="4" | X-φ-X-φ
| S-V-K-I
| S-V-K-I
| [[GluR2]]
| [[AMPA型グルタミン酸受容体]][[GluR2]]
| PICK-1, GRIP (PDZ5)
| PICK-1, [[GRIP]] (PDZ5)
|-
|-
| S-V-E-V
| S-V-E-V
85行目: 137行目:
|-
|-
| E-F-Y-A
| E-F-Y-A
| [[Syndecan]]
| [[シンデカン]]
| [[CASK]]
| [[CASK]]
|-
|-
| E-Y-Y-V
| E-Y-Y-V
| [[Neurexin]]
| [[ニューレキシン]]
| CASK
| CASK
|-
|-
99行目: 151行目:
| X-D-X-V  
| X-D-X-V  
| V-D-S-V
| V-D-S-V
| [[Melatoninn receptor]]
| [[メラトニン受容体]]
| nNOS
| nNOS
|-
|-
110行目: 162行目:


==調整機構==
==調整機構==
 PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質の相互作用は[[リン酸化]]によって調節される<ref name=ref6 />。典型的には、リガンドタンパク質のC末端のリン酸化によって、PDZドメインとの相互作用が阻害される。例えば、[[カリウムイオンチャネル]]や[[β1アドレナリン受容体]]、[[stargazin]]などのC末端がリン酸化されることによって、PSD-95のPDZドメインとの結合能が低下する。また、PDZドメインのリン酸化もリガンドタンパク質との相互作用に影響を及ぼす。例えば、[[calmodulin dependent protein kinase II]][[CaMKII]])依存的に[[synapse-associated protein97]]([[SAP97]])のPDZドメインがリン酸化されることによって、[[N-methyl –D-asparate]]([[NMDA]])受容体のサブユニットの[[NR2A]]との相互作用が低下する。
 PDZドメインタンパク質とリガンドタンパク質の相互作用は[[リン酸化]]によって調節される<ref name=ref6 />。典型的には、リガンドタンパク質のC末端のリン酸化によって、PDZドメインとの相互作用が阻害される。例えば、[[カリウムチャネル]]や[[β1アドレナリン受容体]]、[[stargazin]]などのC末端がリン酸化されることによって、PSD-95のPDZドメインとの結合能が低下する。また、PDZドメインのリン酸化もリガンドタンパク質との相互作用に影響を及ぼす。例えば、[[Ca2+/カルモジュリン依存製タンパク質キナーゼII|Ca<sup>2+</sup>/カルモジュリン依存製タンパク質キナーゼII]] ([[Ca2+/calmodulin dependent protein kinase II|Ca<sup>2+</sup>/calmodulin dependent protein kinase II]], [[CaMKII]])依存的に[[synapse-associated protein97]]([[SAP97]])のPDZドメインがリン酸化されることによって、[[NMDA受容型グルタミン酸]]のサブユニットの[[NR2A]]との相互作用が低下する。


==機能==
==機能==
 PDZドメインはタンパク質間の相互作用に重要な役割を果たす。PDZドメインを含むタンパク質は受容体やシグナル分子といった情報伝達に関連するタンパク質の位置を調節し、シグナル伝達のための超分子複合体の[[足場タンパク質]]として機能する<ref name=ref2 />。例えば、[[ショウジョウバエ]]において、PDZドメインを複数もつ[[InaD]]は、光情報伝達回路中の[[イオンチャネル]]とシグナル分子を一つにまとめている<ref name=ref7><pubmed>21703451</pubmed></ref>。
 PDZドメインはタンパク質間の相互作用に重要な役割を果たす。PDZドメインを含むタンパク質は受容体やシグナル分子といった情報伝達に関連するタンパク質の位置を調節し、シグナル伝達のための超分子複合体の足場タンパク質として機能する<ref name=ref2 />。例えば、ショウジョウバエにおいて、PDZドメインを複数もつ[[InaD]]は、光情報伝達回路中の[[イオンチャネル]]とシグナル分子を一つにまとめている<ref name=ref7><pubmed>21703451</pubmed></ref>。
 
==関連項目==
*[[PSD-95]]
*[[足場タンパク質]]


==参考文献==
==参考文献==
<references />
<references />

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