「アミロイドーシス」の版間の差分

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 各アミロイドタンパク質[[Image:TTfig4.PNG|thumb|350px|'''図1.クロスβ構造'''<br>トランスサイレチン部分ペプチドからなるクロスβ構造。PDB ID: 2M5N]]には一定の共通したアミノ酸配列や構造は見られないが、アミロイド線維になると共通してクロスβ構造と呼ばれる形態をとっている<ref><pubmed> 17468747 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21456964 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23513222 </pubmed></ref>。これはアミロイド線維を構成するポリペプチド鎖が線維軸と垂直方向にβストランドとなり、かつ線維軸方向にβシート構造をとっているものである。このような構造学的特徴はイメージング技術に応用されつつあり、Aβアミロイドに特異的に結合する低分子化合物を利用したアミロイドPETスキャンが可能となった<ref><pubmed> 14991808 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21245183 </pubmed></ref>。
 各アミロイドタンパク質[[Image:TTfig4.PNG|thumb|350px|'''図1.クロスβ構造'''<br>トランスサイレチン部分ペプチドからなるクロスβ構造。PDB ID: 2M5N]]には一定の共通したアミノ酸配列や構造は見られないが、アミロイド線維になると共通してクロスβ構造と呼ばれる形態をとっている<ref><pubmed> 17468747 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21456964 </pubmed></ref><ref><pubmed> 23513222 </pubmed></ref>。これはアミロイド線維を構成するポリペプチド鎖が線維軸と垂直方向にβストランドとなり、かつ線維軸方向にβシート構造をとっているものである。このような構造学的特徴はイメージング技術に応用されつつあり、Aβアミロイドに特異的に結合する低分子化合物を利用したアミロイドPETスキャンが可能となった<ref><pubmed> 14991808 </pubmed></ref><ref><pubmed> 21245183 </pubmed></ref>。


<br> アミロイド線維形成過程では、多くの場合正常なフォールディングをうけているアミロイドタンパク質が何らかの理由で一旦部分変性し、会合することが必要である。また線維形成過程はその鋳型となるシード(種、核)の形成を契機として急速に進んでいくことが示されている<ref><pubmed> 22885025 </pubmed></ref>。すなわち、このシードの両端の末端にアミロイドタンパク質が結合して線維が伸長していくと考えられている。このようなシード依存性伸長反応モデルは、プリオンタンパク質が示す伝播能力とも関連していると考えられている。すなわち、一旦異常構造をとったタンパク質がシードとなり、別の個体におけるアミロイドタンパク質の構造及び性質を変化させていくというモデルである<ref><pubmed> 8513491 </pubmed></ref>[[Image:TTfig6.png|thumb|350px|'''図2.アミロイド線維形成過程'''<br>アミロイド線維形成過程におけるシードの役割]]。またシードへの組み込みはアミロイドタンパク質が同様の構造を取りうるかどうかに依存する。プリオンの感染性にはごく僅かなアミノ酸の違いに起因する「種の壁」が存在するが、この現象も一次配列の違いに依存する各種のプリオンが形成するシード構造の違いによって説明できる。
 アミロイド線維形成過程では、多くの場合正常なフォールディングをうけているアミロイドタンパク質が何らかの理由で一旦部分変性し、会合することが必要である。また線維形成過程はその鋳型となるシード(種、核)の形成を契機として急速に進んでいくことが示されている<ref><pubmed> 22885025 </pubmed></ref>。すなわち、このシードの両端の末端にアミロイドタンパク質が結合して線維が伸長していくと考えられている。


 最近ではAβなどアミロイドを形成しうるアミロイドタンパク質がいずれもプリオン様の伝播能力を示す可能性が推測されている<ref><pubmed> 22660329 </pubmed></ref><ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。実際、全身性アミロイドーシスの一つであるAAアミロイドーシスはモデルマウスを用いた伝播実験が確認されているが、野生のチーターにおいてAAアミロイドーシス発症頻度が近年上昇していることが示されていた。そして興味深いことに、AAアミロイドーシスを発症した個体の糞に伝播性が極めて高いアミロイドA線維が含まれていることが明らかとなった<ref><pubmed> 18474855 </pubmed></ref>。このような糞便を介したアミロイドーシス伝播は、野生動物におけるプリオン病(羊におけるスクレイピー、鹿におけるChronic wasting disease)の水平伝播メカニズムを説明できるものとして注目を集めている。特に末梢神経やリンパ節を介したプリオンの伝播に関しては、末梢組織から生じうる限局性アミロイドーシスの発症機構を担っている可能性がある<ref><pubmed> 24189576 </pubmed></ref>。またAβについても、アルツハイマー病モデルマウスの腹腔内にAβ線維を注入すると大脳皮質でのAβアミロイドの沈着が亢進することも示されている<ref><pubmed> 20966215 </pubmed></ref>
 このようなシード依存性伸長反応モデルは、プリオンタンパク質が示す伝播能力とも関連していると考えられている。すなわち、一旦異常構造をとったタンパク質がシードとなり、別の個体におけるアミロイドタンパク質の構造及び性質を変化させていくというモデルである<ref><pubmed> 8513491 </pubmed></ref>[[Image:TTfig6.png|thumb|350px|'''図2.アミロイド線維形成過程'''<br>アミロイド線維形成過程におけるシードの役割]]。またシードへの組み込みはアミロイドタンパク質が同様の構造を取りうるかどうかに依存する。プリオンの感染性にはごく僅かなアミノ酸の違いに起因する「種の壁」が存在するが、この現象も一次配列の違いに依存する各種のプリオンが形成するシード構造の違いによって説明できる。


 このようなタンパク質凝集物の細胞間伝播という概念は必ずしもアミロイドの形成には依存しておらず、凝集して線維を形成するタンパク質に普遍的に観察される可能性があり、最近では様々な神経変性疾患において細胞内に蓄積するタンパク質(タウ、シヌクレイン、TDP-43など)においても伝播能力の存在が確認されつつある<ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。また酵母などにおいてはプリオン様タンパク性因子による形質転換が報告されており、タンパク質の構造変化に依存した形質の伝播様式として注目されている<ref><pubmed> 23379365 </pubmed></ref>。一方、アルツハイマー病患者脳から得られたAβ線維の構造解析[[Image:TTfig5.PNG|thumb|350px|'''図3.アルツハイマー病患者脳由来のAβ線維構造'''<br>患者脳由来アミロイドから伸長したAβの分子構造。PDB ID: 2M4J]]がなされ、<i>in vitro</i>で凝集させた構造とは異なる凝集形態を示していたことから、<i>in vivo</i>における凝集プロセスの違いが指摘されており<ref><pubmed> 24034249 </pubmed></ref>、伝播メカニズムとの関係の解明が待たれている。
 最近ではAβなどアミロイドを形成しうるアミロイドタンパク質がいずれもプリオン様の伝播能力を示す可能性が推測されている<ref><pubmed> 22660329 </pubmed></ref><ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。実際、全身性アミロイドーシスの一つであるAAアミロイドーシスはモデルマウスを用いた伝播実験が確認されているが、野生のチーターにおいてAAアミロイドーシス発症頻度が近年上昇していることが示されていた。そして興味深いことに、AAアミロイドーシスを発症した個体の糞に伝播性が極めて高いアミロイドA線維が含まれていることが明らかとなった<ref><pubmed> 18474855 </pubmed></ref>。
 
 糞便を介したアミロイドーシス伝播は、野生動物におけるプリオン病(羊におけるスクレイピー、鹿におけるChronic wasting disease)の水平伝播メカニズムを説明できるものとして注目を集めている。特に末梢神経やリンパ節を介したプリオンの伝播に関しては、食物摂取などを介した末梢組織から生じうる限局性アミロイドーシスの発症機構を担っている可能性がある<ref><pubmed> 24189576 </pubmed></ref>。またAβについても、アルツハイマー病モデルマウスの腹腔内にAβ線維を注入すると大脳皮質でのAβアミロイドの沈着が亢進することも示されている<ref><pubmed> 20966215 </pubmed></ref>。
 
 このようなタンパク質凝集物の細胞間伝播という概念は必ずしもアミロイドの形成には依存しておらず、凝集して線維を形成するタンパク質に普遍的に観察される可能性があり、最近では様々な神経変性疾患において細胞内に蓄積するタンパク質(タウ、シヌクレイン、TDP-43など)においても伝播能力の存在が確認されつつある<ref><pubmed> 24005412 </pubmed></ref>。また酵母などにおいてはプリオン様タンパク性因子による形質転換が報告されており、タンパク質の構造変化に依存した形質の伝播様式として注目されている<ref><pubmed> 23379365 </pubmed></ref>
 
 一方、アルツハイマー病患者脳から得られたAβ線維の構造解析[[Image:TTfig5.PNG|thumb|350px|'''図3.アルツハイマー病患者脳由来のAβ線維構造'''<br>患者脳由来アミロイドから伸長したAβの分子構造。PDB ID: 2M4J]]がなされ、<i>in vitro</i>で凝集させた構造とは異なる凝集形態を示していたことから、<i>in vivo</i>における凝集プロセスの違いが指摘されており<ref><pubmed> 24034249 </pubmed></ref>、伝播メカニズムとの関係の解明が待たれている。


==アミロイドによる細胞毒性==
==アミロイドによる細胞毒性==
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