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CA3野錐体細胞の尖端樹状突起は、透明層、放線状層、網状分子層の3領域を縦に貫いている。一方、尖端樹状突起よりも短い基底樹状突起(basal dendrite)は細胞の底辺から上昇層に伸びている。 | CA3野錐体細胞の尖端樹状突起は、透明層、放線状層、網状分子層の3領域を縦に貫いている。一方、尖端樹状突起よりも短い基底樹状突起(basal dendrite)は細胞の底辺から上昇層に伸びている。 | ||
興奮性入力は、錐体細胞の樹状突起を覆うスパイン(spine)の上にシナプスを作る。中でも、苔状線維がシナプスを作るCA3錐体細胞の近位樹状突起上の棘状瘤(thorny excrescence)は、中枢神経系でもとりわけ巨大なスパインである。棘状瘤は複雑に枝分かれしており、棘状瘤1個は苔状線維ブートン1個で覆われている | 興奮性入力は、錐体細胞の樹状突起を覆うスパイン(spine)の上にシナプスを作る。中でも、苔状線維がシナプスを作るCA3錐体細胞の近位樹状突起上の棘状瘤(thorny excrescence)は、中枢神経系でもとりわけ巨大なスパインである。棘状瘤は複雑に枝分かれしており、棘状瘤1個は苔状線維ブートン1個で覆われている<ref name=ref17><pubmed>13904141</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>730852</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>746153</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>2466533</pubmed></ref>。1つのCA3錐体細胞あたり、平均41個の棘状瘤が存在すると見積もられている<ref name=ref21><pubmed>11169473</pubmed></ref>。1個の棘状瘤はただ1個の苔状線維ブートンと接触しているが、1個の苔状線維ブートンは複数の棘状瘤と接触することができる<ref name=ref22><pubmed>1460112</pubmed></ref>。海馬錐体細胞の樹状突起の定量的な解析の結果、CA3ニューロンの樹状突起は個々にかなりばらついていることが見出された<ref name=ref8><pubmed>8576427</pubmed></ref>。CA3c野(CA3野の中でも歯状回に近い側)の錐体細胞は、樹状突起の総計長が短く、CA1野に近づくほど長くなる。 | ||
CA3野の錐体細胞は非常に側枝化された軸索を持っており、それらの線維は、海馬内(CA3、CA2、CA1野)や、対側の海馬(交連投射)、もしくは中隔核に投射している。CA3野(とりわけCA3c野)の錐体細胞とCA2野の錐体細胞は、歯状回門にもわずかながら投射している。CA3野とCA2野の錐体細胞は例外なく、海馬の全領域へ分散的な投射を行っている。このうちCA3野とCA2野に投射するものは、連合線維(associational connection)と呼ばれており、CA3野からCA1野への投射は、シャッファー側枝(Schaffer collateral)と呼ばれている。 | CA3野の錐体細胞は非常に側枝化された軸索を持っており、それらの線維は、海馬内(CA3、CA2、CA1野)や、対側の海馬(交連投射)、もしくは中隔核に投射している。CA3野(とりわけCA3c野)の錐体細胞とCA2野の錐体細胞は、歯状回門にもわずかながら投射している。CA3野とCA2野の錐体細胞は例外なく、海馬の全領域へ分散的な投射を行っている。このうちCA3野とCA2野に投射するものは、連合線維(associational connection)と呼ばれており、CA3野からCA1野への投射は、シャッファー側枝(Schaffer collateral)と呼ばれている。 | ||
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CA3野の場所細胞は、CA1野のそれに比べ、研究がそれほど進んでいない。しかし、細胞外記録法を用いた、場所細胞の再配置についての知見がいくつか存在する。 | CA3野の場所細胞は、CA1野のそれに比べ、研究がそれほど進んでいない。しかし、細胞外記録法を用いた、場所細胞の再配置についての知見がいくつか存在する。 | ||
場所受容野は、外部環境に応じて動的かつ瞬時に再配置(remapping)される | 場所受容野は、外部環境に応じて動的かつ瞬時に再配置(remapping)される<ref name=ref23><pubmed>3612226</pubmed></ref>。たとえば、環境の大きさ、形、色、明暗といった、様々な要素のわずかな変化が再配置を引き起こすことが知られている<ref name=ref24><pubmed>1669293</pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>2355262</pubmed></ref>。再配置は、その規模により部分再配置(partial remapping)と完全再配置(complete remapping)に分けられる。また再配置の様式は、場所受容野そのものと発火率が共に変化する大局的再配置(global remapping)と、場所受容野は変わらないが発火率のみ変化する頻度再配置(rate remapping)とに分けられ、海馬のCA1野、CA3野、歯状回で、再配置の様式が異なる<ref name=ref26><pubmed>15272123</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>16040709</pubmed></ref>。さらに、CA1野の場所細胞の受容野は経時的に変化する一方で、CA3野のそれは経時的に変化しないことも、近年明らかになった<ref name=ref28><pubmed>23132944</pubmed></ref>。 | ||
== パターン補完との関連 == | == パターン補完との関連 == | ||
CA3野内に存在する再帰型局所回路は、連合記憶ネットワークを担っているとされる。連合記憶ネットワークでは、シナプス強度の調節を介して、部分的な情報の断片をもとに、それまでに保存されていた記憶の全体を取り戻すことである。この過程のことを、パターン補完と呼ぶ。このパターン補完にはCA3野が深く関わっているとされる。CA3野の錐体細胞選択的にNMDA受容体サブユニット1を欠損させたノックアウトマウス(CA3-NR1 KOマウス)を用い、次のような実験結果を得られている | CA3野内に存在する再帰型局所回路は、連合記憶ネットワークを担っているとされる。連合記憶ネットワークでは、シナプス強度の調節を介して、部分的な情報の断片をもとに、それまでに保存されていた記憶の全体を取り戻すことである。この過程のことを、パターン補完と呼ぶ。このパターン補完にはCA3野が深く関わっているとされる。CA3野の錐体細胞選択的にNMDA受容体サブユニット1を欠損させたノックアウトマウス(CA3-NR1 KOマウス)を用い、次のような実験結果を得られている<ref name=ref29><pubmed>12040087</pubmed></ref>。モリスの水迷路試験において、コントロールマウスは周囲の手がかり(cue)の数が4つであっても、1つであっても、記憶の想起が可能であった。しかし、CA3-NR1 KOマウスは、手がかりの数が4つの時には記憶の想起が可能であったものの、手がかりが1つになると記憶の想起は著しく障害された。また、コントロールマウスは、手がかりが4つから1つになっても、場所受容野が安定していたのに対し、CA3-NR1 KOマウスでは、手がかりが4つから1つになると、場所受容野が著しく縮小する。これらのことから、CA3野はパターン補完と深い関係があると考えられている。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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