「トポグラフィックマッピング」の版間の差分

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Topographic fine tuning  
'''Topographic fine tuning'''


 トポグラフィックファインチューニングについて書いてほしいとの依頼であるが、これは2つのおそらく分ける事のできる概念を含んでいるのではないかと考える。1つはトポグラフィックマッピング、topographic mappingで、もう1つはその過程の1つである活動性依存性ファインチューニング、activity dependent fine tuningであると思う。前者についてはwikipediaにある程度記載があるが、後者については今のところないので、前者について少しだけ述べ(特にヒストリカルなポイント)、 両者を組み合わせる形で後者について説明する。  
 トポグラフィックファインチューニングについて書いてほしいとの依頼であるが、これは2つのおそらく分ける事のできる概念を含んでいるのではないかと考える。1つはトポグラフィックマッピング、topographic mappingで、もう1つはその過程の1つである活動性依存性ファインチューニング、activity dependent fine tuningであると思う。前者についてはwikipediaにある程度記載があるが、後者については今のところないので、前者について少しだけ述べ(特にヒストリカルなポイント)、 両者を組み合わせる形で後者について説明する。  
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<各論>  
<各論>  


 ここでは視覚系と嗅覚系に関して簡単に述べる。その他にも聴覚系、体性感覚系、運動系などのトポグラフィックマップについても研究されている。  視覚系において、上記の様に、特に網膜から視蓋/上丘への投射がトポグラフィックになっていることはよく知られている。この形成には幾つかの過程があり、様々な分子が関与していることが知られている。基本的にはSperryの仮説の様に分子がグレディエントとして発現していることによる。一番よく研究されているのが網膜での耳側−鼻側の軸が視蓋/上丘での前後軸に分布するメカニズムである。まず、網膜の視神経細胞の軸索は将来の標的位置よりも後ろへオーバーシュートして伸長することが知られている。その後、EphAs-EphrinAsのグレディエントで前後軸に沿った正しい位置で軸索からinterstitial branchingがおこり、その後、そのbranchが今度は視蓋/上丘の内側−外側の軸に沿ったグレディエントで正しい最終集結点に導かれる。ここまでは神経活動に依存せずにおこる。その後、更なるマップのリファインメント(標的領域がさらにレストリクトされる)が行われるがこれには神経活動が必要である。これには網膜内でのスポンテニアスな電気活動のウェーブの存在が重要であることが示されている。こういった過程に関わるグレディエントに関してはカウンターバランスを示す2つのグレディエントがあるという考え方と、1つのグレディエントがプッシュとプルと両方やれるという考え方とある。その他、もう一つの可能性として、軸索同士が競合するという可能性もある。最近の知見では軸索同士の競合も視覚系におけるトポグラフィックマッピングに必要であるとされている。  
 ここでは視覚系と嗅覚系に関して簡単に述べる。その他にも聴覚系、体性感覚系、運動系などのトポグラフィックマップについても研究されている。  視覚系において、上記の様に、特に網膜から視蓋/上丘への投射がトポグラフィックになっていることはよく知られている。この形成には幾つかの過程があり、様々な分子が関与していることが知られている。基本的にはSperryの仮説の様に分子がグレディエントとして発現していることによる。一番よく研究されているのが網膜での耳側−鼻側の軸が視蓋/上丘での前後軸に分布するメカニズムである。まず、網膜の視神経細胞の軸索は将来の標的位置よりも後ろへオーバーシュートして伸長することが知られている。その後、EphAs-EphrinAsのグレディエントで前後軸に沿った正しい位置で軸索からinterstitial branchingがおこり、その後、そのbranchが今度は視蓋/上丘の内側−外側の軸に沿ったグレディエントで正しい最終集結点に導かれる。ここまでは神経活動に依存せずにおこる。その後、更なるマップのリファインメント(標的領域がさらにレストリクトされる)が行われるがこれには神経活動が必要である。これには網膜内でのスポンテニアスな電気活動のウェーブの存在が重要であることが示されている。こういった過程に関わるグレディエントに関してはカウンターバランスを示す2つのグレディエントがあるという考え方と、1つのグレディエントがプッシュとプルと両方やれるという考え方とある。その他、もう一つの可能性として、軸索同士が競合するという可能性もある。最近の知見では軸索同士の競合も視覚系におけるトポグラフィックマッピングに必要であるとされている。    


 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている。においはオルファクトリーレセプターで感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類のオルファクトリーレセプターを発現している。そして同じオルファクトリーレセプターを発現する細胞からの刺激は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅球の中での配置は前後軸及び内側外側の軸で決定されているが、内側外側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどのオルファクトリーレセプターが発現されているかによって産生されるcAMPの量が変わり、これによってSema3A/neuropilin1のカウンターグレディエントが嗅上皮からの軸索内でおこり、これによって標的にたどり着く前にプレソートされることによって、前後軸のどこに位置するかが決定される。内側外側に関しては、まず、嗅上皮内でのrobo2のグレディエントによってパイオニア軸索の嗅球での配置がまず決定され、その後、嗅上皮の軸索内でのSema3F/neuropilin2のカウンターグレディエントによって嗅球内での内側外側の位置づけが決まる。特徴的なのは、嗅覚の場合、アクソンアクソンの相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、やはり視覚系と同じ様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(糸球体がディスクリートにセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする細胞接着因子Kirrel2/3と接着依存性の反発因子であるEphA5-EphrinA5がやはりグレディエントで発現し、それによって糸球体が相互に分かれていくことが起こる。  
 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている。においはオルファクトリーレセプターで感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類のオルファクトリーレセプターを発現している。そして同じオルファクトリーレセプターを発現する細胞からの刺激は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅球の中での配置は前後軸及び内側外側の軸で決定されているが、内側外側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどのオルファクトリーレセプターが発現されているかによって産生されるcAMPの量が変わり、これによってSema3A/neuropilin1のカウンターグレディエントが嗅上皮からの軸索内でおこり、これによって標的にたどり着く前にプレソートされることによって、前後軸のどこに位置するかが決定される。内側外側に関しては、まず、嗅上皮内でのrobo2のグレディエントによってパイオニア軸索の嗅球での配置がまず決定され、その後、嗅上皮の軸索内でのSema3F/neuropilin2のカウンターグレディエントによって嗅球内での内側外側の位置づけが決まる。特徴的なのは、嗅覚の場合、アクソンアクソンの相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、やはり視覚系と同じ様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(糸球体がディスクリートにセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする細胞接着因子Kirrel2/3と接着依存性の反発因子であるEphA5-EphrinA5がやはりグレディエントで発現し、それによって糸球体が相互に分かれていくことが起こる。  
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