「ミエリン関連糖タンパク質」の版間の差分

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<ミエリンインヒビターとしての論争>
<ミエリンインヒビターとしての論争>


ノックアウトマウスの報告とほぼ同じ頃に驚くべき報告が行われた。Martin Schwabらは彼らの長年の研究からミエリンに神経の成長を抑制する分子が存在すると考え、ミエリンアソシエイティドインヒビターとしてその単離を試みていた。1994年に2つのグループから実はMAGがそのミエリンインヒビターではないかという報告がされたのである。一つはモントリオールのAlbert Aguayoの流れを汲むSam Davidのグループとミエリン研究グループの共同研究であり、もう一つはニューヨークのMarie Filbinのグループである。どちらも、in vitroのデータをもとにしたものであり、データとしてはソリッドなものであった。それに対して、SchwabのグループはMAGノックアウトマウスを作ったグループと共同で、ノックアウトマウスのミエリンでもまだインヒビターの活性があることから、ミエリンインヒビターはMAGではないという反論のペーパーをすぐさまだした。
ノックアウトマウスの報告とほぼ同じ頃に驚くべき報告が行われた。Martin Schwabらは彼らの長年の研究からミエリンに神経の成長を抑制する分子が存在すると考え、ミエリンアソシエイティドインヒビターとしてその単離を試みていた。1994年に2つのグループから実はMAGがそのミエリンインヒビターではないかという報告がされたのである<ref><pubmed>7524558</pubmed></ref><ref><pubmed>7522484</pubmed></ref>。一つはモントリオールのAlbert Aguayoの流れを汲むSam Davidのグループとミエリン研究グループの共同研究であり、もう一つはニューヨークのMarie Filbinのグループである。どちらも、in vitroのデータをもとにしたものであり、データとしてはソリッドなものであった。それに対して、SchwabのグループはMAGノックアウトマウスを作ったグループと共同で、ノックアウトマウスのミエリンでもまだインヒビターの活性があることから、ミエリンインヒビターはMAGではないという反論のペーパーをすぐさまだした<ref><pubmed>8845160</pubmed></ref>。
それに対して、Sam Davidのグループは地道に反論のペーパーをだしていき、また、Marie FilbinのグループもMAGの神経成長抑制の活性についての解析のペーパーをだしていった。そうこうしているうちに、Schwabと一緒にペーパーを書いていたMAGノックアウトマウスを作製したグループもSchwabを抜きに、MAGノックアウトマウスでは神経再生の促進がみられるというペーパーをだし、実はMAGもミエリンインヒビターの一つではないかということを示唆していた。
それに対して、Sam Davidのグループは地道に反論のペーパーをだしていき、また、Marie FilbinのグループもMAGの神経成長抑制の活性についての解析のペーパーをだしていった。そうこうしているうちに、Schwabと一緒にペーパーを書いていたMAGノックアウトマウスを作製したグループもSchwabを抜きに、MAGノックアウトマウスでは神経再生の促進がみられるというペーパーをだし、実はMAGもミエリンインヒビターの一つではないかということを示唆していた<ref><pubmed>8663987</pubmed></ref>。


<実はNogoレセプターのリガンドだった>
<実はNogoレセプターのリガンドだった>


Schwabのグループはその後も地道に生化学的に彼らのミエリンインヒビターの精製と同定を進めていた。その彼らの発表した部分アミノ酸配列をもとに2000年に3つのグループがこの分子の同定を発表し、Nogoと呼ばれたこの分子はMAGとは異なるものであった。その後、2001年にNogoのクローニングを行った3つのグループの一つであるSteven StrittmatterのグループによってNogoレセプターが同定された。その後、2002年に再び驚くべき報告がなされた。StrittmatterのグループとFilbinのグループが実はMAGもNogoレセプターのリガンドであることを明らかにしたのである。
Schwabのグループはその後も地道に生化学的に彼らのミエリンインヒビターの精製と同定を進めていた。その彼らの発表した部分アミノ酸配列をもとに2000年に3つのグループがこの分子の同定を発表し、Nogoと呼ばれたこの分子はMAGとは異なるものであった。その後、2001年にNogoのクローニングを行った3つのグループの一つであるSteven StrittmatterのグループによってNogoレセプターが同定された。その後、2002年に再び驚くべき報告がなされた。StrittmatterのグループとFilbinのグループが実はMAGもNogoレセプターのリガンドであることを明らかにしたのである<ref><pubmed>12160746</pubmed></ref><ref><pubmed>12089450</pubmed></ref>。
また、山下のグループはMAGの神経成長阻害の活性はp75を介しておこることを示していたが、その数ヶ月後にNogoレセプターはp75と結合しMAGを含むNogoリガンドはp75を通じて神経成長阻害を示すことが別の2つのグループによって明らかにされた。つまり、ミエリンアソシエイティドインヒビターには幾つかのものがあり、MAGもその一つで、Nogoレセプターとp75を介して神経成長を抑制するということである。Nogoを含むミエリンインヒビターについてはその項を参照されたい。
また、山下のグループはMAGの神経成長阻害の活性はp75を介しておこることを示していたが、その数ヶ月後にNogoレセプターはp75と結合しMAGを含むNogoリガンドはp75を通じて神経成長阻害を示すことが別の2つのグループによって明らかにされた<ref><pubmed>12426574</pubmed></ref><ref><pubmed>12422217</pubmed></ref>。つまり、ミエリンアソシエイティドインヒビターには幾つかのものがあり、MAGもその一つで、Nogoレセプターとp75を介して神経成長を抑制するということである。Nogoを含むミエリンインヒビターについてはその項を参照されたい。


<疾患との関係>
<疾患との関係>


MAGに対する抗体(特にIgM)は末梢性のニューロパチーに関与していることが知られている。これはMAGに抗原性の高い糖鎖が付着していることによるのかもしれない。抗体の存在は病態のマーカーともなりうるし、また、治療の対象ともなると考えられる。
MAGに対する抗体(特にIgM)は末梢性のニューロパチーに関与していることが知られている<ref><pubmed>20842571</pubmed></ref>。これはMAGに抗原性の高い糖鎖が付着していることによるのかもしれない。抗体の存在は病態のマーカーともなりうるし、また、治療の対象ともなると考えられる。


同義語:
同義語:


重要な関連語:Nogo、Nogoレセプター
重要な関連語:Nogo、Nogoレセプター
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(執筆者:櫻井武、担当編集委員:岡野栄之)
(執筆者:櫻井武、担当編集委員:岡野栄之)
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