「抗不安薬」の版間の差分

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 漫然と投与すると、以前と同量では効果が期待できず、同等の効果発現のためには増量が必要となる。これを免れるためには有効最少量を投与し、短時間作用型の漫然投与を避ける。また効果がないからといって、最高用量まで安易に増やす<ref name=ref16>'''村崎 光邦'''<br>抗不安薬の臨床用量依存<br>''精神経誌'' :1996、 98;612-621</ref>ことや同効薬(例えば短時間型同士など)の併用はより耐性(tolerance)形成に働くため、避けなければならない。
 漫然と投与すると、以前と同量では効果が期待できず、同等の効果発現のためには増量が必要となる。これを免れるためには有効最少量を投与し、短時間作用型の漫然投与を避ける。また効果がないからといって、最高用量まで安易に増やす<ref name=ref16>'''村崎 光邦'''<br>抗不安薬の臨床用量依存<br>''精神経誌'' :1996、 98;612-621</ref>ことや同効薬(例えば短時間型同士など)の併用はより耐性(tolerance)形成に働くため、避けなければならない。


 使用後最短4週間で依存(dependence)が形成される。その後の退薬によって[[反跳現象]](rebound phenomenon)や退薬症候(離脱症状)が見られる。反跳現象はベンゾジアゼピン系薬により抑えられていた症状が、退薬後より強く現れるものであり、不安、焦燥、不眠などが認められる。[[退薬症候]]([[離脱症状]])(withdrawal symptom)はベンゾジアゼピン系薬中止によりそれまでには認められていなかった症状が新たに出現するものである<ref name=ref16b>'''辻 敬一郎、田島 治'''<br>ベンゾジアゼピンの依存と離脱症状<br>臨床精神医学. 35: 1669-1674, 2006.</ref>。不安や焦燥、不眠、イライラ、抑うつ気分、記憶障害、集中力障害に加え、身体症状として発汗や心悸亢進、悪心、嘔吐、食欲低下、体重減少、筋肉痛、振戦、けいれんが、さらに[[知覚]]障害として知覚過敏や味覚異常、身体動揺感などが見られる<ref name=ref17><pubmed>8099577</pubmed></ref>。依存形成の危険因子としては、半減期が短い、高力価、高用量のベンゾジアゼピン系薬、そして長期投与などが挙げられており、このようなベンゾジアゼピン系薬の使用において、より投与中止が困難、つまり、依存が形成されやすいことになる。このため長期投与にしないよう配慮する<ref name=ref16b />。
 使用後最短4週間で依存(dependence)が形成される。その後の退薬によって[[反跳現象]](rebound phenomenon)や[[退薬症候]]([[離脱症状]])(withdrawal symptom)が見られる。反跳現象はベンゾジアゼピン系薬により抑えられていた症状が、退薬後より強く現れるものであり、不安、焦燥、不眠などが認められる。退薬症候はベンゾジアゼピン系薬中止によりそれまでには認められていなかった症状が新たに出現するものである<ref name=ref16b>'''辻 敬一郎、田島 治'''<br>ベンゾジアゼピンの依存と離脱症状<br>臨床精神医学. 35: 1669-1674, 2006.</ref>。不安や焦燥、不眠、イライラ、抑うつ気分、記憶障害、集中力障害に加え、身体症状として発汗や心悸亢進、悪心、嘔吐、食欲低下、体重減少、筋肉痛、振戦、けいれんが、さらに[[知覚]]障害として知覚過敏や味覚異常、身体動揺感などが見られる<ref name=ref17><pubmed>8099577</pubmed></ref>。依存形成の危険因子としては、半減期が短い、高力価、高用量のベンゾジアゼピン系薬、そして長期投与などが挙げられており、このようなベンゾジアゼピン系薬の使用において、より投与中止が困難、つまり、依存が形成されやすいことになる。このため長期投与にしないよう配慮する<ref name=ref16b />。


====筋弛緩作用====
====筋弛緩作用====
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 服用後の[[健忘]](amnesia)([[前向性健忘]])(anterograde amnesia)が認められる。Barkerらによるメタ解析によると、ベンゾジアゼピン系薬服用者は、非服用者と比較して、[[認知的タスク]]、特に[[言語性記憶]](verbal memory)の領域が障害されていた。なお、ベンゾジアゼピン系薬を中止して6ヶ月後に認知機能がすべての領域において改善したが、過去にベンゾジアゼピン系薬を常用していた者は非服用者と比較して、認知的タスクの多くで劣り、特に言語性記憶の領域では障害が認められていた<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。認知機能障害が消失するまでには、かなりの期間が必要ということになる。
 服用後の[[健忘]](amnesia)([[前向性健忘]])(anterograde amnesia)が認められる。Barkerらによるメタ解析によると、ベンゾジアゼピン系薬服用者は、非服用者と比較して、[[認知的タスク]]、特に[[言語性記憶]](verbal memory)の領域が障害されていた。なお、ベンゾジアゼピン系薬を中止して6ヶ月後に認知機能がすべての領域において改善したが、過去にベンゾジアゼピン系薬を常用していた者は非服用者と比較して、認知的タスクの多くで劣り、特に言語性記憶の領域では障害が認められていた<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。認知機能障害が消失するまでには、かなりの期間が必要ということになる。


 精神運動性の遂行能力低下、実行速度の低下も見られる。同じ[[wikipedia:ja:メタ解析|メタ解析]]でも、ベンゾジアゼピン系薬は有意に交通事故を増加させることが判明している<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。したがって、車の運転をするときには、できるだけベンゾジアゼピン系薬を減量する必要がある。ベンゾジアゼピン系薬の服用により、事故やけがの危険性が増すともされている<ref name=ref3 />。なおTsunodaら<ref name=ref19><pubmed>20054834</pubmed></ref>は、[[睡眠]]薬ではあるが高齢者においてベンゾジアゼピン系薬を漸減し、ほぼ中止することによって認知機能の改善を見たと報告している。
 精神運動性の遂行能力低下、実行速度の低下も見られる。同じ[[wikipedia:ja:メタ解析|メタ解析]]でも、ベンゾジアゼピン系薬は有意に交通事故を増加させることが判明している<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。ベンゾジアゼピン系薬の服用により、事故やけがの危険性が増すともされている<ref name=ref3 />。全ての抗不安薬の添付文書には、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない」との記載がある。なおTsunodaら<ref name=ref19><pubmed>20054834</pubmed></ref>は、[[睡眠]]薬ではあるが高齢者においてベンゾジアゼピン系薬を漸減し、ほぼ中止することによって認知機能の改善を見たと報告している。


 またアルコールとの併用でこうした障害がより悪化することもあるため、アルコールは控えさせる必要がある。
 またアルコールとの併用でこうした障害がより悪化することもあるため、アルコールは控えさせる必要がある。
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== おわりに ==
== 不安障害治療における薬物選択 ==
(編集コメント:この内容は治療の方向性を決定するのに重要なので、おわりにではなくもっと上(イントロの後)でも良いと思います)。
 現段階では不安障害に対し抗不安作用を発揮する薬物間の特徴において表4のように対比できる。こうしたメリット・デメリットを把握して、個々の患者の背景や希望に即して薬物を選択することが望ましいと考える。
 現段階では不安障害に対し抗不安作用を発揮する薬物間の特徴において表4のように対比できる。こうしたメリット・デメリットを把握して、個々の患者の背景や希望に即して薬物を選択することが望ましいと考える。


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