「カテニン」の版間の差分

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 カテニンは、細胞間接着の必須因子である接着分子カドヘリンの中のクラシックカドヘリンと複合体(カドヘリン・カテニン複合体)を形成するタンパク質の総称である。カドヘリン・カテニン複合体中のカテニンのうち、α–カテニンは細胞骨格との連結、β–カテニンはカドヘリンとα–カテニンとの結合を担っており、どちらもカドヘリンによる細胞接着に必須である。p120–カテニンはエンドサイトーシスを介してカドヘリンの発現量の調節を行っている。細胞接着とは別の働きとして、β–カテニンはWnt/β–カテニンシグナルにおいて重要な役割を果たし、遺伝子発現調節を行う。α–カテニンも増殖のシグナルを調節する因子として研究が進んでいる。カテニンは脳の形態形成、神経細胞の伸長、シナプス形成などにも重要な働きをしている。
 カテニンは、細胞間接着の必須因子である[[接着分子]][[カドヘリン]]の中の古典的カドヘリンと複合体(カドヘリン・カテニン複合体)を形成するタンパク質の総称である。カドヘリン・カテニン複合体中のカテニンのうち、α–カテニンは[[細胞骨格]]との連結、β–カテニンはカドヘリンとα–カテニンとの結合を担っており、どちらもカドヘリンによる細胞接着に必須である。p120–カテニンは[[エンドサイトーシス]]を介してカドヘリンの発現量の調節を行っている。細胞接着とは別の働きとして、β–カテニンは[[Wnt]]/β–カテニンシグナルにおいて重要な役割を果たし、遺伝子発現調節を行う。α–カテニンも増殖のシグナルを調節する因子として研究が進んでいる。カテニンは脳の形態形成、神経細胞の伸長、[[シナプス]]形成などにも重要な働きをしている。
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[[ファイル:fig1hh.jpg|right|thumb|350px|'''図1.アドヘレンス・ジャンクションにおけるカドヘリン・カテニン複合体の模式図''']]
[[ファイル:fig2hh.jpg|right|thumb|350px|'''図2.カテニン分子群の主な機能''']]
[[ファイル:Fig3_catenin_structure_HH02.jpg|right|thumb|350px|'''図3.カテニン分子群のタンパク一次構造''']]


==カテニンとは==
==カテニンとは==
(イントロダクションを御願い致します)


 カテニンは、クラシック[[カドヘリン]]の中のE&ndash;カドヘリンとの複合体の構成因子の総称である(図1)。接着間接着の必須分子であるE&ndash;カドヘリンの抗体を用いた免疫沈降反応でE&ndash;カドヘリンとともに共沈してくる複数のタンパク質がとれ、それらはE&ndash;カドヘリンの細胞質ドメインに 結合して複合体を形成していることが小沢らによって初めて示された<ref name=ref1><pubmed> 2788574 </pubmed></ref>。カドヘリンはアクチンフィラメントを結合している細胞間接着装置、アドへレンス・ジャンクションの形成に必須な接着分子であり、カテニンはカドヘリンと細胞骨格アクチンフィラメントとの連結を担うものと予想され、ラテン語のcatena(chain)からカテニン(catenin)と命名された。このような背景からカテニンの機能解析は、主に細胞間接着に着目して進められてきた。カテニンはカドヘリンを介した十分な接着活性に必須であることが明らかにされ、細胞間接着における接着分子カドヘリンの制御因子としての重要性が提示されている<ref name=ref2><pubmed> 20164302 </pubmed></ref>。
 カテニンは、古典的カドヘリンの中の[[E-カドヘリン]]との複合体の構成因子の総称である(図1)
 カテニンの発現は、多くの組織で認められるものと組織特異的なものとがあり(表)、細胞レベルでは通常、カドヘリンと同様の分布を示す(以下の&lceil;発現&rfloor;の項目を参照)。カテニンはカドヘリンの細胞質領域と結合してカドヘリン・カテニン複合体を作るが、カテニンが結合しうるカドヘリンはE&ndash;, N&ndash;, VE&ndash;カドヘリン等のクラッシックカドヘリンのみである<ref name=ref3><pubmed> 19401831 </pubmed></ref>。
 
 &beta;&ndash;カテニンとp120;&ndash;カテニンとに相当する分子は、上述した小沢らによるカテニン分子群の発見とは独立してほぼ同時に異なる研究者による異なる研究の中からも発見された経緯がある。[[ショウジョウバエ]]のアルマジロ遺伝子は胚の体節形成に異常を示す変異体のスクリーニングから発見され、[[Wntシグナル]]伝達系の[[転写制御因子]]として核内においても機能することが知られていた。のちに[[哺乳類]]のカドヘリン・カテニン複合体中の&beta;&ndash;カテニンがアルマジロ遺伝子のオーソログであることが判明し、脊椎動物の&beta;&ndash;カテニンにも発生における遺伝子発現において重要な役割があることがわかった<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>。p120;&ndash;カテニンは、srcによる形質転換特異的にみられるチロシン残基のリン酸化をうける分子としてReynoldsらによって同定されており、アクチン細胞骨格動態への影響が見られていたこともあり、細胞/細胞外基質間接着との関連性についての解析も展開されていった<ref name=ref5><pubmed> 17175391 </pubmed></ref>。そのような流れの中で、細胞接着だけでなく、発生・再生における遺伝子発現制御因子としての重要性が示されている(図2)。タンパクの一次構造レベルでは、&beta;&ndash;カテニンとp120;&ndash;カテニンはアルマジロ反復配列を有するタンパクとして類似性を示し、その配列はさまざまな因子の結合領域として働く(図3)<ref name=ref2><pubmed> 20164302 </pubmed></ref>。このようにカテニン分子は細胞間接着という共通の機能を担う一方で、分子としての性質は多様であり、その性質が各々のカテニン分子の多機能性を生み出していると考えられている。
 接着間接着の必須分子であるE&ndash;カドヘリンの抗体を用いた[[wikipedia:ja:免疫沈降反応|免疫沈降反応]]でE&ndash;カドヘリンとともに共沈してくる複数のタンパク質がとれ、それらはE&ndash;カドヘリンの細胞質ドメインに 結合して複合体を形成していることが小沢らによって初めて示された<ref name=ref1><pubmed> 2788574 </pubmed></ref>。カドヘリンは[[アクチン]]フィラメントを結合している細胞間接着装置、アドへレンス・ジャンクションの形成に必須な接着分子であり、カテニンはカドヘリンと細胞骨格アクチンフィラメントとの連結を担うものと予想され、ラテン語のcatena(chain)からカテニン(catenin)と命名された。
 
 このような背景からカテニンの機能解析は、主に細胞間接着に着目して進められてきた。カテニンはカドヘリンを介した十分な接着活性に必須であることが明らかにされ、細胞間接着における接着分子カドヘリンの制御因子としての重要性が提示されている<ref name=ref2><pubmed> 20164302 </pubmed></ref>。
 
 カテニンの発現は、多くの組織で認められるものと組織特異的なものとがあり(表)、細胞レベルでは通常、カドヘリンと同様の分布を示す(以下の「発現」の項目を参照)。カテニンはカドヘリンの細胞質領域と結合してカドヘリン・カテニン複合体を作るが、カテニンが結合しうるカドヘリンはE&ndash;, N&ndash;, VE&ndash;カドヘリン等のクラッシックカドヘリンのみである<ref name=ref3><pubmed> 19401831 </pubmed></ref>。
 
 &beta;&ndash;カテニンとp120-カテニンとに相当する分子は、上述した小沢らによるカテニン分子群の発見とは独立してほぼ同時に異なる研究者による異なる研究の中からも発見された経緯がある。[[ショウジョウバエ]]の[[アルマジロ]]遺伝子は胚の[[体節]]形成に異常を示す変異体のスクリーニングから発見され、[[Wntシグナル]]伝達系の[[転写制御因子]]として核内においても機能することが知られていた。のちに[[哺乳類]]のカドヘリン・カテニン複合体中の&beta;&ndash;カテニンがアルマジロ遺伝子のオーソログであることが判明し、脊椎動物の&beta;&ndash;カテニンにも発生における遺伝子発現において重要な役割があることがわかった<ref name=ref4><pubmed> 22617422 </pubmed></ref>
 
 p120-カテニンは、[[src]]による形質転換特異的にみられるチロシン残基のリン酸化をうける分子としてReynoldsらによって同定されており、アクチン細胞骨格動態への影響が見られていたこともあり、細胞/細胞外基質間接着との関連性についての解析も展開されていった<ref name=ref5><pubmed> 17175391 </pubmed></ref>。そのような流れの中で、細胞接着だけでなく、発生・再生における遺伝子発現制御因子としての重要性が示されている(図2)。タンパクの一次構造レベルでは、&beta;&ndash;カテニンとp120-カテニンはアルマジロ反復配列を有するタンパクとして類似性を示し、その配列はさまざまな因子の結合領域として働く(図3)<ref name=ref2><pubmed> 20164302 </pubmed></ref>。このようにカテニン分子は細胞間接着という共通の機能を担う一方で、分子としての性質は多様であり、その性質が各々のカテニン分子の多機能性を生み出していると考えられている。


==種類==
==種類==
 カテニンの主要な種類には、&alpha;&ndash;カテニン、&beta;&ndash;カテニン、&gamma;&ndash;カテニン/プラコグロビン、&delta;&ndash;カテニンがある。それぞれにサブタイプが存在する。
 カテニンの主要な種類には、&alpha;&ndash;カテニン、&beta;&ndash;カテニン、&gamma;&ndash;カテニン/プラコグロビン、&delta;&ndash;カテニンがある。それぞれにサブタイプが存在する。
 それぞれのカテニン分子のタンパク発現については、[[UniGene]]の中のEST(expressed sequence tag)を用いて調べたmRNA相対発現量のプロファイルにおいてゼロと報告されているもののみについて発現がみとめられないと記載したことに留意していただきたい。


{| class="wikitable" style="text-align:center"  
{| class="wikitable" style="text-align:center"  
|+ カテニン分子群の遺伝子とタンパク質の基本情報
|+ カテニンの主要な種類
|- style="background-color:#ddf"
|- style="background-color:#ddf"
| rowspan="2" | タイプ   
| rowspan="2" | タイプ   
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| データなし||脳組織に特異的な発現。
| データなし||脳組織に特異的な発現。
|}
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[[ファイル:fig1hh.jpg|right|thumb|400x256px|'''図1.アドヘレンス・ジャンクションにおけるカドヘリン・カテニン複合体の模式図''']]
 
[[ファイル:fig2hh.jpg|right|thumb|400x228px|'''図2.カテニン分子群の主な機能''']]
 それぞれのカテニン分子のタンパク発現については、[[UniGene]]の中のEST(expressed sequence tag)を用いて調べたmRNA相対発現量のプロファイルにおいてゼロと報告されているもののみについて発現がみとめられないと記載したことに留意していただきたい。
[[ファイル:Fig3_catenin_structure_HH02.jpg|right|thumb|400x228px|'''図3.カテニン分子群のタンパク一次構造''']]


==&alpha;&ndash;カテニン==
==&alpha;&ndash;カテニン==
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===構造===
===構造===
 &alpha;&ndash;カテニンは、イントロダクションにあるようにβ-カテニンやγ-カテニンに共通してみられるアルマジロ反復配列をもたないといったタンパク一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていないことが特徴の一つとなる<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。アクチン結合タンパクであるビンキュリンと塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる<ref name=ref7><pubmed> 1904011 </pubmed></ref>。最もN末に位置するVH1では、β-カテニンと結合し、VH3は[[アクチン]]繊維との結合に必要である。また、VH2には、ビンキュリンやアファディンといった他のアクチン結合タンパクとの結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク結合の制御に重要であると示唆されている。&alpha;&ndash;カテニンの立体構造については、VH1やVH2といった断片については&alpha;&ndash;カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よいX線結晶構造解析が行われている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長については&alpha;E&ndash;カテニンや&alpha;N&ndash;カテニンどちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長の構造が理解できれば、&alpha;&ndash;カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。
 &alpha;&ndash;カテニンは、β-カテニンやγ-カテニンに共通してみられるアルマジロ反復配列をもたないといったタンパク一次構造レベルにおける他のカテニンとの類似性は持ち合わせていない<ref name=ref6><pubmed> 22084304 </pubmed></ref>。アクチン結合タンパクである[[ビンキュリン]]と塩基配列において相同性(約30%程度)を示す3つの領域(VH1, VH2, VH3)を含んでいる<ref name=ref7><pubmed> 1904011 </pubmed></ref>。最もN末に位置するVH1では、β-カテニンと結合し、VH3はアクチン線維との結合に必要である。また、VH2には、ビンキュリンや[[アファディン]]といった他のアクチン結合タンパクとの結合、加えてビンキュリンの結合阻害領域も存在し、VH2の構造変化がVH2におけるタンパク結合の制御に重要であると示唆されている。&alpha;&ndash;カテニンの立体構造については、VH1やVH2といった断片については&alpha;&ndash;カテニン単体やビンキュリンとの結合状態などの条件において精度よい[[X線結晶構造解析]]が行われている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長については[[&alpha;E&ndash;カテニン]]や[[&alpha;N&ndash;カテニン]]どちらにおいても十分に高い分解能での結晶構造が得られていないものの、近年においても精力的に解析が続けられている<ref name=ref8><pubmed> 23589308 </pubmed></ref>。全長の構造が理解できれば、&alpha;&ndash;カテニン分子全体としての構造変化の制御についての理解がより進むと期待される。


===発現===
===発現===

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