「小胞アセチルコリントランスポーター」の版間の差分

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英語名: Vesicular Acetylcholine Transporter 英語略名: VAChT
<div align="right"> 
<font size="+1">奥田 隆志</font><br>
''慶應義塾大学薬学部''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2014年2月27日 原稿完成日:2014年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
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同義語 小胞性アセチルコリントランスポーター、小胞型アセチルコリントランスポーター
英語名:Vesicular Acetylcholine Transporter 英語略名:VAChT


同義語:小胞性アセチルコリントランスポーター、小胞型アセチルコリントランスポーター


小胞アセチルコリントランスポーターVAChTは12回膜貫通タンパク質で、小胞神経伝達物質トランスポーターの一つである。コリン作動性神経末端においてプロトン電気化学的勾配を利用してシナプス小胞内へアセチルコリンを輸送する。シナプス小胞内へのアセチルコリン充填は、神経末端からのアセチルコリン放出における重要な制御機構である。VAChTはコリン作動性神経に特異的に発現しており、コリン作動性神経の分子マーカーとして頻用される。
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 小胞アセチルコリントランスポーターVAChTは12回膜貫通タンパク質で、小胞神経伝達物質トランスポーターの一つである。コリン作動性神経末端においてプロトン電気化学的勾配を利用してシナプス小胞内へアセチルコリンを輸送する。シナプス小胞内へのアセチルコリン充填は、神経末端からのアセチルコリン放出における重要な制御機構である。VAChTはコリン作動性神経に特異的に発現しており、コリン作動性神経の分子マーカーとして頻用される。
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== 構造とサブファミリー ==
 1993年に線虫''Caenorhabditis elegans''から運動異常変異体の一つである''unc-17''の原因遺伝子として最初にクローニングされ<ref><pubmed> 8342028 </pubmed></ref>、その相同分子として他の生物種から同定されることにより一次構造が明らかとなった。VAChTは約530のアミノ酸からなる約70 kDaのタンパク質で、12回膜貫通領域を持つと推定されており、N末端、C末端ともに細胞質側に位置する。VAChTはSLC18ファミリーに属し、SLC18A3と呼ばれる。同じファミリーの他のメンバーは小胞モノアミントランスポーター(VMAT1, 2)の二つのみで、VAChTと約40%の相同性がある。


構造とサブファミリー
== 発現分布 ==
 中枢・末梢神経系のコリン作動性神経に限局して発現しており、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)や高親和コリントランスポーターとともにコリン作動性神経の分子マーカーである。細胞内では機能から予測されるようにシナプス小胞に局在する<ref><pubmed> 8601799 </pubmed></ref>。VAChTの細胞質側C末端領域に存在するジロイシンモチーフが細胞内局在に重要である<ref><pubmed> 9651318 </pubmed></ref>。


1993年に線虫''Caenorhabditis elegans''から運動異常変異体の一つである''unc-17''の原因遺伝子として最初にクローニングされ <ref><pubmed> 8342028 </pubmed></ref>、その相同分子として他の生物種から同定されることにより一次構造が明らかとなった。VAChTは約530のアミノ酸からなる約70 kDaのタンパク質で、12回膜貫通領域を持つと推定されており、N末端、C末端ともに細胞質側に位置する。VAChTはSLC18ファミリーに属し、SLC18A3と呼ばれる。同じファミリーの他のメンバーは小胞モノアミントランスポーター(VMAT1, 2)の二つのみで、VAChTと約40%の相同性がある。
== 遺伝子発現制御機構 ==
 VAChT遺伝子はChAT遺伝子の第1イントロン内にあり、両者はほぼ共通の転写制御を受ける。この遺伝子入れ子構造は種間でよく保存されており、コリン作動性遺伝子座と呼ばれる<ref><pubmed> 9603187 </pubmed></ref>。線虫''C. elegans''においてはVAChTやChATなどのコリン作動性機能分子群の遺伝子発現は、COE (Collie, Olf, EBF)型の転写因子であるUNC-3によって共通に制御される<ref><pubmed> 22119902 </pubmed></ref>。COE認識配列は脊椎動物のコリン作動性遺伝子座の上流領域にも存在することから、COEによる転写制御はVAChTの遺伝子発現に重要な機構である可能性がある。


== アセチルコリン輸送機構 ==
 シナプス小胞内は液胞型プロトンポンプによってプロトンの電気化学的勾配が形成されている。VAChTはシナプス小胞膜のプロトン電気化学的勾配に依存してアセチルコリン(ACh)を輸送する。正電荷のAChを輸送するため、主にプロトンの濃度勾配(&Delta;pH)に依存することになる。1分子のAChに対して、2分子のプロトンが逆輸送される<ref><pubmed> 9748347 </pubmed></ref>。他の小胞神経伝達物質トランスポーターと比較して、輸送速度は遅く(〜1 s<sup>-1</sup>)、基質親和性は低い(''K''<sub>m</sub>: 〜1 mM)<ref name=ref1><pubmed> 8910293 </pubmed></ref>。この輸送により、シナプス小胞内のACh濃度は、細胞質側に対して約100倍に濃縮される<ref><pubmed> 11099460 </pubmed></ref>。この輸送はベサミコールによって非競合的に阻害される(''K''<sub>d</sub>: 〜5 nM)<ref name=ref1 />。


発現分布
== 遺伝子改変マウスと生理的機能 ==
 アフリカツメガエルの脊髄ニューロンにVAChT を過剰発現させると、神経筋接合部における微小終板電流の頻度や振幅が増加する<ref><pubmed> 9182805 </pubmed></ref>。また、VAChT 発現量を増加させたトランスジェニックマウスではAChの放出量も増加している<ref><pubmed> 22641085 </pubmed></ref>。一方、VAChTノックアウトマウスでは、脳シナプトソーム画分における脱分極刺激後のACh放出が消失している<ref name=ref2><pubmed> 19635813 </pubmed></ref>。これらのことから、シナプス小胞膜におけるVAChT発現量は、小胞内のACh濃度を規定する重要な因子であると考えられる。


中枢・末梢神経系のコリン作動性神経に限局して発現しており、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)や高親和コリントランスポーターとともにコリン作動性神経の分子マーカーである。細胞内では機能から予測されるようにシナプス小胞に局在する <ref><pubmed> 8601799 </pubmed></ref>。VAChTの細胞質側C末端領域に存在するジロイシンモチーフが細胞内局在に重要である <ref><pubmed> 9651318 </pubmed></ref>。
 VAChTのノックアウトマウスはチアノーゼにより生後数分で致死となる。ノックアウトマウスの神経筋接合部においては運動ニューロンや筋肉の形態異常が観察される<ref name=ref2 />。また、VAChTのタンパク発現量を減弱させたノックダウンマウスが作製され、生理的機能が解析されている<ref><pubmed> 16950158 </pubmed></ref>。このマウスのヘテロ型とホモ型ではVAChT発現量がそれぞれ45%、65%減少しており、ホモ型では野生型と比べて筋力や運動能が低下している。また、ヘテロ型では筋力などは野生型と同程度に保たれているものの、物体認識記憶や社会性行動の障害などの中枢症状が認められる。中枢と末梢では、機能異常を示すに至るまでのVAChT発現量低下の閾値が異なると考えられる。
 
 
遺伝子発現制御機構
 
VAChT遺伝子はChAT遺伝子の第1イントロン内にあり、両者はほぼ共通の転写制御を受ける。この遺伝子入れ子構造は種間でよく保存されており、コリン作動性遺伝子座と呼ばれる <ref><pubmed> 9603187 </pubmed></ref>。線虫''C. elegans''においてはVAChTやChATなどのコリン作動性機能分子群の遺伝子発現は、COE (Collie, Olf, EBF)型の転写因子であるUNC-3によって共通に制御される <ref><pubmed> 22119902 </pubmed></ref>。COE認識配列は脊椎動物のコリン作動性遺伝子座の上流領域にも存在することから、COEによる転写制御はVAChTの遺伝子発現に重要な機構である可能性がある。
 
 
アセチルコリン輸送機構
 
シナプス小胞内は液胞型プロトンポンプによってプロトンの電気化学的勾配が形成されている。VAChTはシナプス小胞膜のプロトン電気化学的勾配に依存してアセチルコリン(ACh)を輸送する。正電荷のAChを輸送するため、主にプロトンの濃度勾配(&Delta;pH)に依存することになる。1分子のAChに対して、2分子のプロトンが逆輸送される <ref><pubmed> 9748347 </pubmed></ref>。他の小胞神経伝達物質トランスポーターと比較して、輸送速度は遅く(〜1 s<sup>-1</sup>)、基質親和性は低い(''K''<sub>m</sub>: 〜1 mM)<ref name=ref1><pubmed> 8910293 </pubmed></ref>。この輸送により、シナプス小胞内のACh濃度は、細胞質側に対して約100倍に濃縮される<ref><pubmed> 11099460 </pubmed></ref>。この輸送はベサミコールによって非競合的に阻害される(''K''<sub>d</sub>: 〜5 nM)<ref name=ref1 />。
 
 
遺伝子改変マウスと生理的機能
 
アフリカツメガエルの脊髄ニューロンにVAChT を過剰発現させると、神経筋接合部における微小終板電流の頻度や振幅が増加する <ref><pubmed> 9182805 </pubmed></ref>。また、VAChT 発現量を増加させたトランスジェニックマウスではAChの放出量も増加している <ref><pubmed> 22641085 </pubmed></ref>。一方、VAChTノックアウトマウスでは、脳シナプトソーム画分における脱分極刺激後のACh放出が消失している <ref name=ref2><pubmed> 19635813 </pubmed></ref>。これらのことから、シナプス小胞膜におけるVAChT発現量は、小胞内のACh濃度を規定する重要な因子であると考えられる。
 
VAChTのノックアウトマウスはチアノーゼにより生後数分で致死となる。ノックアウトマウスの神経筋接合部においては運動ニューロンや筋肉の形態異常が観察される <ref name=ref2 />。 また、VAChTのタンパク発現量を減弱させたノックダウンマウスが作製され、生理的機能が解析されている <ref><pubmed> 16950158 </pubmed></ref>。このマウスのヘテロ型とホモ型ではVAChT発現量がそれぞれ45%、65%減少しており、ホモ型では野生型と比べて筋力や運動能が低下している。また、ヘテロ型では筋力などは野生型と同程度に保たれているものの、物体認識記憶や社会性行動の障害などの中枢症状が認められる。中枢と末梢では、機能異常を示すに至るまでのVAChT発現量低下の閾値が異なると考えられる。
 
 
関連語
 
小胞モノアミントランスポーター
 
小胞GABAトランスポーター
 
小胞グルタミン酸トランスポーター


== 関連語 ==
*[[小胞モノアミントランスポーター]]
*[[小胞GABAトランスポーター]]
*[[小胞グルタミン酸トランスポーター]]


== 参考文献 ==
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