「ロドプシン」の版間の差分

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レチナールはオプシンの内部に埋め込まれており、また、そのプロトン化シッフ塩基は疎水的な環境に位置している。そのためそのままでは非常に不安定である。オプシン内にはこの正電荷を安定化する対イオン(counterion)が存在する。ロドプシンではE113が対イオンとして働き、H7のシッフ塩基プロトンの正電荷とH3のグルタミン酸の負電荷の間に塩橋(salt bridge)が形成される。また対イオンはシッフ塩基のpKaを上げシッフ塩基の加水分解を防いでいる。対イオンは単独で働いているのではなく、構造水を含む水素結合ネットワークを形成して働いていると考えられている。  
レチナールはオプシンの内部に埋め込まれており、また、そのプロトン化シッフ塩基は疎水的な環境に位置している。そのためそのままでは非常に不安定である。オプシン内にはこの正電荷を安定化する対イオン(counterion)が存在する。ロドプシンではE113が対イオンとして働き、H7のシッフ塩基プロトンの正電荷とH3のグルタミン酸の負電荷の間に塩橋(salt bridge)が形成される。また対イオンはシッフ塩基のpKaを上げシッフ塩基の加水分解を防いでいる。対イオンは単独で働いているのではなく、構造水を含む水素結合ネットワークを形成して働いていると考えられている。  


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== '''構造モチーフ'''  ==


== '''構造モチーフ''' ==
ロドプシン類あるいはGタンパク質共役型受容体(GPCR)のファミリー間で良く保存されている構造モチーフが幾つか知られており、これらは受容体の機能発現に重要である。


ロドプシン類あるいはGタンパク質共役型受容体(GPCR)のファミリー間で良く保存されている構造モチーフが幾つか知られており、これらは受容体の機能発現に重要である。
(D/E)R(Y/W)モチーフはファミリーAのGPCR間でよく保存されている構造モチーフで、ロドプシンではH3の細胞質側末端のE134/R135/Y136に相当する。また、H7とH8の先端にある302番目から306番目の残基はNPXXYモチーフと呼ばれ、このモチーフもファミリー1のGPCRの間でよく保存されている。ロドプシンの暗状態ではR135とE134の間に塩橋がある。また、R135はH6に存在するE247とT251との間で静電的な相互作用をしている(これらの相互作用を通常Ionic Lockと呼ぶ)。ロドプシンが光を受容することによりタンパク質部分の構造変化がおこると、E134は溶液中のプロトンと結合して中性になる。その結果、E134とR135の塩橋がなくなり、R135はNPXXYモチーフ中のY306やその他の残基(M257やY223)と新たな相互作用ネットワークを形成し、ロドプシンの活性構造の形成に寄与していると考えられている(図2参照)。


(D/E)R(Y/W)モチーフはファミリーAのGPCR間でよく保存されている構造モチーフで、ロドプシンではH3の細胞質側末端のE134/R135/Y136に相当する。また、H7とH8の先端にある302番目から306番目の残基はNPXXYモチーフと呼ばれ、このモチーフもファミリー1のGPCRの間でよく保存されている。ロドプシンの暗状態ではR135とE134の間に塩橋がある。また、R135はH6に存在するE247とT251との間で静電的な相互作用をしている(これらの相互作用を通常Ionic Lockと呼ぶ)。ロドプシンが光を受容することによりタンパク質部分の構造変化がおこると、E134は溶液中のプロトンと結合して中性になる。その結果、E134とR135の塩橋がなくなり、R135はNPXXYモチーフ中のY306やその他の残基(M257やY223)と新たな相互作用ネットワークを形成し、ロドプシンの活性構造の形成に寄与していると考えられている(図2参照)。
[[Image:Rhodopsin structure.png|thumb|center|800px|図2:ロドプシンの立体構造モデル
基底状態のロドプシンの立体構造(PDBID:1U19)。H1を青色で示しH8をオレンジ色で示している。7本の膜貫通ヘリックスに加えて膜面に平行なH8が特徴的である。H3は大きく傾いていて細胞質側はH4とH5の間に入り込んでいる。上が円板膜内側、下がGタンパク質と相互作用する細胞質側である。手前のH7にレチナール(11−シス)とその結合部位であるK296、そしてシッフ塩基の対イオンとして機能するH3のE113のアミノ酸、C110-C187のジスフィルド結合、細胞質側にはH3にERYモチーフH7にはNPXXYモチーフのアミノ酸を示している。
活性化に伴う構造変化。基底状態(緑色PDBID:1U19)と較べて活性状態は(オレンジ色PDBID:3PQR)H6が大きく外側に動きH5も細胞質側に伸びるている。また基底状態ではH3とH6間のイオニックロックの相互作用が活性状態では解除されR135はNPXXYモチーフやY223等と新たな相互作用を形成する。]]


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= '''ロドプシンの吸収スペクトル'''  =


[[Image:Rhodopsin_structure.png|thumb|center|800px| 図2:ロドプシンの立体構造モデル
ロドプシンは可視部に吸収極大を示す光受容タンパク質である。すでに述べたように、ロドプシンの可視部の吸収スペクトルは分子内に含まれているレチナールに由来する。有機溶媒中に溶かしたレチナールの吸収スペクトルは380 nm付近に吸収極大を示すが、レチナールがオプシン中のリシン残基とプロトン化したシッフ塩基を形成すると、500 nm付近に吸収極大がシフトする。有機溶媒中のプロトン化シッフ塩基は約440 nmに吸収極大を示す。そこで、440 nmからタンパク質の作用によって変化する差分を「オプシンシフト(Opsin shift)」と呼ぶ(図4a参照)。 このように、ロドプシンの吸収極大はプロトン化したレチナールシッフ塩基の吸収極大がまわりのアミノ酸残基によって調節されたものである。実際、多くの動物のロドプシンは500nm付近に吸収極大を示すが、深海など極端な光環境下で生息する生物はそれぞれの光環境に適した吸収極大を示す。
基底状態のロドプシンの立体構造(PDBID:1U19)。H1を青色で示しH8をオレンジ色で示している。7本の膜貫通ヘリックスに加えて膜面に平行なH8が特徴的である。H3は大きく傾いていて細胞質側はH4とH5の間に入り込んでいる。上が円板膜内側、下がGタンパク質と相互作用する細胞質側である。手前のH7にレチナール(11−シス)とその結合部位であるK296、そしてシッフ塩基の対イオンとして機能するH3のE113のアミノ酸、C110-C187のジスフィルド結合、細胞質側にはH3にERYモチーフH7にはNPXXYモチーフのアミノ酸を示している。
 
活性化に伴う構造変化。基底状態(緑色PDBID:1U19)と較べて活性状態は(オレンジ色PDBID:3PQR)H6が大きく外側に動きH5も細胞質側に伸びるている。また基底状態ではH3とH6間のイオニックロックの相互作用が活性状態では解除されR135はNPXXYモチーフやY223等と新たな相互作用を形成する。]]
オプシンシフト以外にもロドプシンはレチナールの種類を変えることによって吸収スペクトルを変えることができる。多くの脊椎動物は通常ビタミンA1(retinal)を用いるが、魚類、両生類や爬虫類のなかにはA2 retinal (3,4-dehydroretinal) を用いるものもいる。 共役二重結合系が長いのでA2レチナールはA1に比べてより長波長に吸収を持つ(図4b参照)。従ってA1/A2の視物質は同じタンパク質でもそれぞれ違う色をもつ。Opsin+A1 retinalの視物質がRhodopsin(rhod=紅)と呼ばれるのに対してOpsin+A2 retinalはPorphyropsin(porphyr=紫)と呼ばれる。(無脊椎動物の視物質ではA1, A2 retinalの他にA3(3-hydroxyretina)やA4(4-hydroxyretinal) retinalが用いられる。図4c参照)カエル幼生(オタマジャクシ)のオプシンがA2レチナールを発色団とし、成体(カエル)になるとA1レチナールを発色団とするのは有名な話である。つまり、オタマジャクシは、濁った淡水でより透過に優れた長波長の光を利用するためにA2レチナールを利用していると言われている。また、魚類(特に淡水魚)などは2種類のレチナールを持ち、季節変動などの環境要因によってA1/A2レチナールを使い分けていると考えられている。
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