「セロトニン」の版間の差分

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'''5-HT<sub>7</sub>受容体<br>'''Gsに共役し、cAMP濃度を上昇させる。Ih(過分極によって活性化される陽イオン電流)を増加させて脱分極を生じる<ref><pubmed> 11259569 </pubmed></ref>。  
'''5-HT<sub>7</sub>受容体<br>'''Gsに共役し、cAMP濃度を上昇させる。Ih(過分極によって活性化される陽イオン電流)を増加させて脱分極を生じる<ref><pubmed> 11259569 </pubmed></ref>。  


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== 中枢における生理機能  ==
== 中枢における生理機能  ==


<br>セロトニンを放出する神経細胞は脳全体に投射しており、そのためセロトニンが関与すると考えられている脳機能は多岐にわたる(セロトニン神経系の項目で詳述)。セロトニンは成熟脳機能のみならず、神経系の発達にも関与することが示されており、発達期にセロトニンレベルを変化させると体性感覚野の形態異常などが生じる<ref><pubmed> 20561690 </pubmed></ref>。中枢セロトニンレベルが5%以下に低下しているTPH2ノックアウトマウスやTPH1とTPH2のダブルノックアウトマウスなどでも脳形態に大きな変化はないため、セロトニンは神経発達に必須ではなく調節的に働くと考えられる。残存する数%のセロトニン又は母体由来のセロトニンが初期発達においては充分な役割を果たす可能性もある。<br>
 セロトニンを放出する神経細胞は脳全体に投射しており、そのためセロトニンが関与すると考えられている脳機能は多岐にわたる(セロトニン神経系の項目で詳述)。セロトニンは成熟脳機能のみならず、神経系の発達にも関与することが示されており、発達期にセロトニンレベルを変化させると体性感覚野の形態異常などが生じる<ref><pubmed> 20561690 </pubmed></ref>。中枢セロトニンレベルが5%以下に低下しているTPH2ノックアウトマウスやTPH1とTPH2のダブルノックアウトマウスなどでも脳形態に大きな変化はないため、セロトニンは神経発達に必須ではなく調節的に働くと考えられる。残存する数%のセロトニン又は母体由来のセロトニンが初期発達においては充分な役割を果たす可能性もある。<br>
 


== 精神疾患との関連  ==
== 精神疾患との関連  ==


<br>セロトニントランスポーターやセロトニン代謝酵素の阻害薬、セロトニン受容体拮抗能を持つ薬物が精神疾患の治療薬として用いられており(セロトニン神経系、抗うつ薬、抗精神病薬などの項目を参照)、セロトニン神経系の何らかの異常が精神疾患に関与すると考えられている。特にうつ病との関連は一般にも知られているが、その詳細は明らかではない。古典的なセロトニン仮説では脳内セロトニンレベルの低下、もしくはセロトニン神経系の機能低下がうつ病の原因とされたが、それを支持する直接的な証拠はない<ref><pubmed> 18585794 </pubmed></ref>。トリプトファンの欠乏によって実験的に一過性のセロトニンレベルの低下を生じさせても健常者の被験者では気分の変化は生じない。一方で、うつ病の罹患歴のある被験者では抑うつ気分が生じる。従って、うつ病に伴ってセロトニン神経系に変化が生じる可能性はあるが、それが疾患の原因もしくは病態基盤に関与するかどうかは不明である。うつ病に限らず、精神疾患におけるセロトニン系の異常の可能性は、病態生理学的事実よりも主に治療薬の作用部位に基づいて推測されたものであり、病態仮説の域を出るものではない。  
 セロトニントランスポーターやセロトニン代謝酵素の阻害薬、セロトニン受容体拮抗能を持つ薬物が精神疾患の治療薬として用いられており(セロトニン神経系、抗うつ薬、抗精神病薬などの項目を参照)、セロトニン神経系の何らかの異常が精神疾患に関与すると考えられている。特にうつ病との関連は一般にも知られているが、その詳細は明らかではない。古典的なセロトニン仮説では脳内セロトニンレベルの低下、もしくはセロトニン神経系の機能低下がうつ病の原因とされたが、それを支持する直接的な証拠はない<ref><pubmed> 18585794 </pubmed></ref>。トリプトファンの欠乏によって実験的に一過性のセロトニンレベルの低下を生じさせても健常者の被験者では気分の変化は生じない。一方で、うつ病の罹患歴のある被験者では抑うつ気分が生じる。従って、うつ病に伴ってセロトニン神経系に変化が生じる可能性はあるが、それが疾患の原因もしくは病態基盤に関与するかどうかは不明である。うつ病に限らず、精神疾患におけるセロトニン系の異常の可能性は、病態生理学的事実よりも主に治療薬の作用部位に基づいて推測されたものであり、病態仮説の域を出るものではない。  


(執筆者:小林克典、担当編集委員:林康紀)


<references />
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(執筆者:小林克典、担当編集委員:林康紀)

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