「座標系」の版間の差分

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355 バイト追加 、 2014年5月21日 (水)
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retinotopic coordinate・ retinotopy
retinotopic coordinate・ retinotopy


 眼球内に入ってきた光は、網膜上に像を結ぶ。中心窩(fovea)を原点に、網膜の何処に像を結ぶかによって表現される座標系。この座標系は眼球が固定されている条件の下で機能する。ニューロン活動から見ると、眼球の位置によって活動が変化するため、眼球中心座標系とよく混同されるが、区別する必要がある。脳内の視覚領野には、網膜の部位がその領野内の位置と点対点の対応関係にある領野が存在する。特にこれを[[視野地図]]ないし[[網膜部位局在]]というが、結果として[[網膜座標系]]としての情報表現が見られる。
 眼球内に入ってきた光は、網膜上に像を結ぶ。中心窩(fovea)を原点に、網膜の何処に像を結ぶかによって表現される座標系のことである。この座標系は眼球が固定されている条件の下で機能する。眼球中心座標系とよく混同されるが、以下に述べるように区別されなければならない。脳内の視覚領野には、網膜の部位がその領野内の位置と点対点の対応関係にある領野が存在する。特にこれを[[視野地図]]ないしは[[網膜部位局在性]]というが、結果として[[網膜座標系]]としての情報表現が見られる。


[[外側膝状体]]から、[[V1]][[V2]]、[[V3]]、[[V5]]、[[V4]]、[[V6]]<ref name=ref8><pubmed>12917375</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>11058227</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>14517595</pubmed></ref>、あるいは[[上丘]]などにこのようなマップが見られる。また、[[外側頭頂間野]] (lateral intraparietal area; LIP)<ref name=ref11><pubmed>12612015</pubmed></ref>、[[腹側頭頂間野]] (ventral intraparietal area; VIP)<ref name=ref12><pubmed>15951810</pubmed></ref>、parietal reach region (PRR)(編集コメント:日本語訳はないでしょうか)<ref name=ref1 />[[運動前野]]<ref name=ref13><pubmed>9242308</pubmed></ref>などの到達運動に関わる領域や眼球運動に関連した[[前頭眼野]] (frontal eye field, FEF)<ref name=ref14><pubmed>7288464</pubmed></ref>などの領域でも、網膜部位局在的なマップは明確ではないが、網膜座標系としての性質を持つニューロン活動が見つかっている。
[[外側膝状体]]から、[[V1]]ではきれいな視野地図がみとめられる。それ以外にも、[[V2]]、[[V3]]、[[V5]]、[[V4]]、[[V6]]<ref name=ref8><pubmed>12917375</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>11058227</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>14517595</pubmed></ref>、あるいは[[上丘]]などでこのような視野地図が見られる。また、[[頭頂葉]]にあるLIP野(lateral intraparietal area)<ref name=ref11><pubmed>12612015</pubmed></ref>、VIP野(ventral intraparietal area)<ref name=ref12><pubmed>15951810</pubmed></ref>、MIP野(medial intraparietal area)ないしparietal reach region (PRR)<ref name=ref1 />、さらに[[前頭葉]]の[[運動前野]]<ref name=ref13><pubmed>9242308</pubmed></ref>[[前頭眼野]] (frontal eye field, FEF)<ref name=ref14><pubmed>7288464</pubmed></ref>などの到達運動や眼球運動に関連した領域でも、視野地図的なマップは明確ではないが、網膜座標系としての性質を持つニューロン活動が見つかっている。


===眼球中心座標系===
===眼球中心座標系===
eye-centerred corrdinate
eye-centerred corrdinate


 眼窩の中において、目の位置(向き)を中心にした空間座標。現在の眼球の位置情報を元にした眼球を中心とした不変な空間ベクトルで表現される(図1b、c、d青丸)。Angle –Gaze effect<ref name=ref15><pubmed>6827308</pubmed></ref>は、網膜上同じ位置に視覚刺激を出しても眼球位置により、その視覚反応が異なるニューロン応答のことで、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報の統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。[[頭頂連合野]]のLIP、[[7a]]、PRR、VIP<ref name=ref1 /><ref name=ref12 />、[[V3A]]<ref name=ref16><pubmed>2703870</pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。
 眼窩の中において、目の位置(向き)を原点にした空間ベクトルで表現される空間座標。現在の視線の向きに関する情報が必要となる。眼球が動いたとしても、眼球の位置とターゲットのずれを基にして、ターゲットの位置ベクトルが表現される(図1b、c、d青丸)。
 
 [[頭頂連合野]]のLIP、[[7a]]、PRR、VIP<ref name=ref1 /><ref name=ref12 />、[[V3A]]<ref name=ref16><pubmed>2703870</pubmed></ref>にそうした座標表現に関わるニューロン活動が認められる。


===網膜座標系と眼球中心座標系===
===網膜座標系と眼球中心座標系===
 網膜座標系は外界像を2次元座標系として記述する。網膜座標系を[[符号化]]する神経活動は、網膜上の刺激に依存するため、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば、同様の応答を示す。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、注視点から対象物までの変位ベクトルを表現する。[[輻輳角]]も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系を符号化する神経活動は、眼の位置によって、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても、異なる応答をしめす<ref name=ref1 />。したがって、両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、網膜座標系と眼球中心座標系は時として混同されるが、同じではない。
 両者とも注視点が変化すると、見かけ上空間表現が変化するため、時として混同されるが同じではない。網膜座標系は外界像を中心窩を原点として2次元座標系として記述する。網膜座標系で[[符号化]]された位置は、網膜上の位置が問題であり、眼球の位置に関わらず網膜上の同じ位置に視覚刺激が像を結べば座標は同じになる。しかし、眼球が動いてしまった場合、その位置は中心窩からのベクトルで再構成される必要がある。一方、眼球中心座標系は現在の眼球の位置情報を使い、眼球の位置(向き)と対象物までの変位ベクトルで表現される。[[輻輳角]]も考えれば、3次元座標系での対象の位置の表現も可能となる<ref name=ref7 />。眼球中心座標系での符号化は、たとえ視覚刺激が網膜上同じ位置にあっても眼の位置によって異なる<ref name=ref1 />。これをAngle –Gaze effect<ref name=ref15><pubmed>6827308</pubmed></ref>と呼ぶが、網膜座標系での視覚刺激の位置情報と眼球の位置情報を統合し、網膜座標系から頭部中心座標系への変換過程にあると考えられる。 


 この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けて[[サッケード]]を行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed>    1258395</pubmed></ref>。実際、[[後頭頂葉]]の(編集コメント:後頭頂葉が障害された?)患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed>1553535</pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、目の位置に対するターゲットの位置を計算ができないことを示している<ref name=ref19>'''Powell, K.D., et al.'''<br>Space and saliance in parietal cortex, in Current Oculomotor Research: Physiological and Psychological Aspects.<br>W. Becker and H. Deubel, Editors.<br>''Plenum Press'': New York. 1999</ref>。
 この二つの座標系の違いを明らかにする例として、ダブルステップサッケード課題を考える。ある点を注視する被験者に二つのサッケードのターゲットA、Bを短時間順番に提示し(例:ターゲットA→B)、ターゲットを消した後に、それらの提示の順番に続けて[[サッケード]]を行わせる。まず、最初に網膜座標系にターゲットAとBの位置が表現される。その情報に従って1つ目のターゲット(A)にサッケードを行うことは可能である。しかし、Bへのサッケードは最初の網膜座標系に表現された情報だけでは不可能である。眼球位置が変化しているので、中心窩からターゲットBへのベクトルではターゲットに到達しない。これを成功させるためには、ターゲットAにおける眼球位置を元にしたターゲットBへのベクトルを表現(眼球中心座標系)しなければならない。HallettとLightstoneはこうした課題を用いることで、運動制御や空間認知には網膜座標系だけではなく、ターゲットの空間位置を修正するための他の座標系システムが必要であることを体系的に示した<ref name=ref17><pubmed>    1258395</pubmed></ref>[[後頭頂葉]]が損傷された患者では、ダブルステップサッケード課題で最初のターゲットにはうまくサッケードできるが、二番目のサッケードができない症状が知られている<ref name=ref18><pubmed>1553535</pubmed></ref>。これは網膜座標系を使ってサッケードはできるが、眼球中心座標系でのターゲットの位置を計算できないことを示している<ref name=ref19>'''Powell, K.D., et al.'''<br>Space and saliance in parietal cortex, in Current Oculomotor Research: Physiological and Psychological Aspects.<br>W. Becker and H. Deubel, Editors.<br>''Plenum Press'': New York. 1999</ref>。


===頭部中心座標系・身体中心座標系===
===頭部中心座標系・身体中心座標系===
head centered/body centered coordinate
head centered/body centered coordinate


 眼球の位置によらず頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。LIP<ref name=ref20><pubmed>9732870</pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed>15207243</pubmed></ref>などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、[[V6A]]のニューロン<ref name=ref22><pubmed>8270019</pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、[[聴覚]]関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。
 頭部ないしは身体軸を中心にした座標系(図1c、d)。頭部中心座標系は眼球位置に影響を受けず、身体中心座標系は頭の向きに影響を受けない。このような座標系は、到達運動のような上肢運動にももちろん必要であるが、その他に全身の運動や移動にも必要である。時として絶対位置(absolute position)とも呼ばれる。
 
 LIP<ref name=ref20><pubmed>9732870</pubmed></ref>、V6A<ref name=ref10 />、VIP<ref name=ref12 /> <ref name=ref21><pubmed>15207243</pubmed></ref>などの領域において、眼球位置に依存しない空間位置表現が認められる。たとえば、[[V6A]]のニューロン<ref name=ref22><pubmed>8270019</pubmed></ref>は、注視点の位置をいろいろに変えて、網膜中心座標系での同じ位置に視覚刺激を出してやると、視線がある方向にあるときにだけ反応した。一見、眼球中心座標系の表現に見えるが、実はこのニューロンは、視線の向きに関わらず、視覚刺激が頭部から見てある特定の位置にあるときにだけ反応するニューロンであった。つまり、頭部中心座標系での空間表現をしているといえる。また、VIPやPRR、[[聴覚]]関連領域では、聴覚のモダリティによる頭部中心座標系の表現が認められる<ref name=ref1 />。


===身体部位中心座標系===
===身体部位中心座標系===
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