「セルフコントロール」の版間の差分

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''上越教育大学 学校教育研究科 (研究院)''<br>
''上越教育大学 学校教育研究科 (研究院)''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年4月27日 原稿完成日:2012年5月7日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年4月27日 原稿完成日:2012年5月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構 生理学研究所 [[大脳皮質]]機能研究系)<br>
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 但し、0&lt;β&lt;1, 0&lt;δ&lt;1. βは双極割引を表現するパラメータで、小さいほど現在の価値を偏重。δは指数関数的な割引率  
 但し、0&lt;β&lt;1, 0&lt;δ&lt;1. βは双極割引を表現するパラメータで、小さいほど現在の価値を偏重。δは指数関数的な割引率  


 従来の経済学モデルよりも、双極割引や準双極割引モデルの方が、日常のヒトの行動や実験で得られたデータに適合することが示されている。
 従来の経済学モデルよりも、双極割引や準双極割引モデルの方が、日常の[[ヒト]]の行動や実験で得られたデータに適合することが示されている。


==関連する脳内領域==
==関連する脳内領域==
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[[Image:Nou.jpg|thumb|right|200x275px|'''図1 セルフコントロールと関連する脳内領域''']]
[[Image:Nou.jpg|thumb|right|200x275px|'''図1 セルフコントロールと関連する脳内領域''']]


 セルフコントロールには、主に2つの脳内ネットワークの関与が示唆されている。短期的な利益と関わる行動の選択については[[腹側線条体]]や[[内側前頭皮質]]などの報酬処理と関連する行動との関連が示されており、長期的な利益と関わる行動を選択する際には[[外側前頭皮質]]や[[頭頂葉]]の一部などの認知的制御や行動抑制と関わる領域が賦活することが示されている。McClureらは、成人の参加者が、二択の選択肢を与えられた際の脳活動を[[fMRI]]を用いて計測した。1つは、短期的に得られるが低い報酬であり、もう1つはすぐには得られないが高い報酬である。その結果、前者の選択をした際には腹側線条体や内側前頭皮質、[[眼窩前頭皮質]]の有意な活動が認められた。また、後者の選択と外側前頭皮質や[[頭頂間溝]]の活動に関連が見られ、特に選択が難しいときにこれらの領域の活動が強かった<ref><pubmed>15486304 </pubmed></ref>。 
 セルフコントロールには、主に2つの脳内ネットワークの関与が示唆されている。短期的な利益と関わる行動の選択については[[腹側線条体]]や[[内側前頭皮質]]などの報酬処理と関連する行動との関連が示されており、長期的な利益と関わる行動を選択する際には[[外側前頭皮質]]や[[頭頂葉]]の一部などの認知的制御や[[行動抑制]]と関わる領域が賦活することが示されている。McClureらは、成人の参加者が、二択の選択肢を与えられた際の脳活動を[[fMRI]]を用いて計測した。1つは、短期的に得られるが低い報酬であり、もう1つはすぐには得られないが高い報酬である。その結果、前者の選択をした際には腹側線条体や内側前頭皮質、[[眼窩前頭皮質]]の有意な活動が認められた。また、後者の選択と外側前頭皮質や[[頭頂間溝]]の活動に関連が見られ、特に選択が難しいときにこれらの領域の活動が強かった<ref><pubmed>15486304 </pubmed></ref>。 


 もっとも、これらのネットワークがそれぞれの選択に別個に関わっているわけではない。短期的な選択であれ、長期的な選択であれ、報酬の価値の表現には腹側線条体を中心とする[[辺縁系]]のネットワークが関与している。例えば、報酬の客観的価値よりも主観的価値を重視し、主観的価値と関連する脳領域をfMRIで検討した研究がある<ref><pubmed>17982449 </pubmed></ref>。ここでの主観的価値とは、様々な側面を考慮して作り上げる個々人に固有な価値を単一指標で表現したもので、この価値は報酬の価値の高さや遅延時間の短さによって表現され、時間割引関数に該当する。この研究の結果、腹側線条体・内側前頭皮質・[[後帯状皮質]]の活動の強さと、報酬の主観的価値との間に関連があることが示され、これらの脳領域の活動が短期的であれ、長期的であれ、報酬の価値を表していることを示唆している。
 もっとも、これらのネットワークがそれぞれの選択に別個に関わっているわけではない。短期的な選択であれ、長期的な選択であれ、報酬の価値の表現には腹側線条体を中心とする[[辺縁系]]のネットワークが関与している。例えば、報酬の客観的価値よりも主観的価値を重視し、主観的価値と関連する脳領域をfMRIで検討した研究がある<ref><pubmed>17982449 </pubmed></ref>。ここでの主観的価値とは、様々な側面を考慮して作り上げる個々人に固有な価値を単一指標で表現したもので、この価値は報酬の価値の高さや遅延時間の短さによって表現され、時間割引関数に該当する。この研究の結果、腹側線条体・内側前頭皮質・[[後帯状皮質]]の活動の強さと、報酬の主観的価値との間に関連があることが示され、これらの脳領域の活動が短期的であれ、長期的であれ、報酬の価値を表していることを示唆している。
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 セルフコントロールの発達は、満足の遅延課題で検討される<ref><pubmed>2658056 </pubmed></ref>。この課題では、子どもは菓子などの報酬を与えられる。但し、実験者が所用でその場を離れなければならないため、実験者が子どもに対して、戻ってくるまでお菓子を食べないようにと教示する。この際に、子どもがその間待てるかどうかを研究する。このような実験では2歳児は20秒、3歳児でも1分程度しか待てないのに対して、4歳児は5分以上も待てるということが報告されており、幼児期に著しい発達が見られることが示されている<ref><pubmed>16144429  </pubmed></ref>。もっとも、2歳児でも、報酬を増やすためにはセルフコントロールができることもある。2-4歳児に、実験者がいない間に待つことができれば、報酬を2、4、8倍にすると告げると、3、4歳児は、すべての条件でより待つことができた。2歳児はこれらの条件では待つことができなかったが、報酬が40倍になる条件では待つことができる<ref><pubmed>    22153324 </pubmed></ref>。
 セルフコントロールの発達は、満足の遅延課題で検討される<ref><pubmed>2658056 </pubmed></ref>。この課題では、子どもは菓子などの報酬を与えられる。但し、実験者が所用でその場を離れなければならないため、実験者が子どもに対して、戻ってくるまでお菓子を食べないようにと教示する。この際に、子どもがその間待てるかどうかを研究する。このような実験では2歳児は20秒、3歳児でも1分程度しか待てないのに対して、4歳児は5分以上も待てるということが報告されており、幼児期に著しい発達が見られることが示されている<ref><pubmed>16144429  </pubmed></ref>。もっとも、2歳児でも、報酬を増やすためにはセルフコントロールができることもある。2-4歳児に、実験者がいない間に待つことができれば、報酬を2、4、8倍にすると告げると、3、4歳児は、すべての条件でより待つことができた。2歳児はこれらの条件では待つことができなかったが、報酬が40倍になる条件では待つことができる<ref><pubmed>    22153324 </pubmed></ref>。


 初期のセルフコントロールの能力は、その後の発達を長期的に予測する。例えば、4歳時点において満足の遅延実験で衝動的な行動を示した子どもは、青年期において問題行動を示す率が高く、情緒的にも不安定であったのに対し、4歳時点でセルフコントロールができた子どもは学業成績が良かったという。さらに、最初の実験から40年後に被験者24名に[[Go/Nogo課題]]を与えて、その課題の成績とfMRIを用いて脳活動を計測した研究がある。この課題では、被験者は悲しい顔に対してはボタンを押し(“Go”)、笑顔に対してはボタンを押さない(“Nogo”)ように教示された。その結果、4歳時点でセルフコントロールに長けていた被験者は、笑顔刺激に対しても行動を制御することができ、関連する脳領域である下前頭回の活動も強かった。一方、4歳時点で衝動的な行動を選択した被験者は、笑顔に対しても反応してしまい、[[下前頭回]]の活動も比較的弱く、さらに、報酬処理と関連する腹側線条体の活動も強かったという<ref><pubmed>21876169 </pubmed></ref>。  
 初期のセルフコントロールの能力は、その後の発達を長期的に予測する。例えば、4歳時点において満足の遅延実験で衝動的な行動を示した子どもは、青年期において問題行動を示す率が高く、情緒的にも不安定であったのに対し、4歳時点でセルフコントロールができた子どもは学業成績が良かったという。さらに、最初の実験から40年後に被験者24名に[[Go/Nogo課題]]を与えて、その課題の成績とfMRIを用いて脳活動を計測した研究がある。この課題では、被験者は悲しい顔に対してはボタンを押し(“Go”)、笑顔に対してはボタンを押さない(“[[Nogo]]”)ように教示された。その結果、4歳時点でセルフコントロールに長けていた被験者は、笑顔刺激に対しても行動を制御することができ、関連する脳領域である下前頭回の活動も強かった。一方、4歳時点で衝動的な行動を選択した被験者は、笑顔に対しても反応してしまい、[[下前頭回]]の活動も比較的弱く、さらに、報酬処理と関連する腹側線条体の活動も強かったという<ref><pubmed>21876169 </pubmed></ref>。  


== ヒト以外の動物のセルフコントロール  ==
== ヒト以外の動物のセルフコントロール  ==


 ヒト以外の動物では、セルフコントロールは容易ではないことが示されている。初期の研究は[[wikipedia:JA:ハト|ハト]]などを対象に行われたが、ヒトの近縁種である[[wikipedia:JA:チンパンジー|チンパンジー]]ですらセルフコントールは難しいことが示されている<ref><pubmed>7844508</pubmed></ref>。Boysenらは、2頭のチンパンジーを対面させ、そのうち一頭に1個と4個の報酬を選択させた。この課題では、一方の個体が選択した報酬はもう一方の個体に与えられることになっていた。つまり、4個の報酬を得たいのであれば、1個の報酬を選択しなければならない。この実験で、チンパンジーは目の前にある4個の報酬の選択を選んでしまい、その傾向を制御できなかった。400試行費やしても、70%程度の確率で4個の報酬を選び、学習は見られなかった。但し、[[wikipedia:JA:アラビア数字|アラビア数字]]を学習しているチンパンジーに、実際の報酬の代わりにアラビア数字を用いて同様の実験を行った場合には、少ない方の報酬を選ぶことができたという。 <br>  
 ヒト以外の動物では、セルフコントロールは容易ではないことが示されている。初期の研究は[[wikipedia:JA:ハト|ハト]]などを対象に行われたが、ヒトの近縁種である[[wikipedia:JA:チンパンジー|チンパンジー]]ですら[[セルフコントール]]は難しいことが示されている<ref><pubmed>7844508</pubmed></ref>。Boysenらは、2頭の[[チンパンジー]]を対面させ、そのうち一頭に1個と4個の報酬を選択させた。この課題では、一方の個体が選択した報酬はもう一方の個体に与えられることになっていた。つまり、4個の報酬を得たいのであれば、1個の報酬を選択しなければならない。この実験で、チンパンジーは目の前にある4個の報酬の選択を選んでしまい、その傾向を制御できなかった。400試行費やしても、70%程度の確率で4個の報酬を選び、学習は見られなかった。但し、[[wikipedia:JA:アラビア数字|アラビア数字]]を学習しているチンパンジーに、実際の報酬の代わりにアラビア数字を用いて同様の実験を行った場合には、少ない方の報酬を選ぶことができたという。 <br>  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==

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