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細 (/* 専門家と社会とのコミュニケーションの問題礒部太一ELSI研究者のブレイン・マシン・インターフェースへの認識:倫理的・社会的問題と社会との関係について東京大学大学院情報学環...) |
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====脳バンク==== | ====脳バンク==== | ||
[[ゲノムバンク]] | [[ゲノムバンク]]などと同様に、個人の脳情報を蓄積することに関する問題。脳情報取得のインフォームド・コンセント(IC)や、脳情報の秘匿性や保管に関する問題<ref name=ref21>'''加藤忠史&ブレインバンク委員会<br>脳バンク:精神疾患の謎を解くために<br>''光文社''、2011.</ref>。 | ||
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====信仰の脳内メカニズム==== | ====信仰の脳内メカニズム==== | ||
[[wj:宗教|宗教]] | [[wj:宗教|宗教]]への信仰は人類史上において長い歴史を持つが、近年では、宗教への信仰の脳内メカニズムについて脳神経科学的手法を用いて明らかにしようとする研究が行われている。また、信仰と密接な関係にある神の認識についても研究が進んでいる状況である。崇高な宗教心や修行について、科学的手法を用いてその状態を把握することには宗教団体や信者の中からの反発心を引き起こす懸念も想定される。その一方で、これまで不透明であった、宗教体験や解脱などについて客観的手法でその様態を提示することは、社会の中の宗教のあり方に影響を及ぼすことも予想される<ref name=ref12>'''信原幸弘, 原塑'''編<br>脳神経倫理学の展望<br>''勁草書房''、2008.</ref>。 | ||
====価値規範の脳内メカニズム==== | ====価値規範の脳内メカニズム==== | ||
先に述べた「倫理判断のメカニズム解明」とも密接に関わるが、真・善・美などの判断・評価・行為などの基準となるべき原則についても、脳神経科学的手法を用いての研究がなされている。真・善・美などの基準は、人間社会における倫理判断を含む様々な側面の基盤となるものであるため、それらが慣習的な経験から形成されているというだけではなく、どのような脳内メカニズムによって体現化されているのかまで明らかになることが期待される。その一方で、真・善・美などの判断などには文化的・社会的な要因の影響が想定されるため、比較研究などの視点からの研究も必要であると予測される<ref name=ref23>'''金井良太<br>脳に刻まれたモラルの起源:人はなぜ善を求めるのか<br>''岩波書店''、2013.</ref>。 | |||
====価値判断の脳内メカニズム==== | ====価値判断の脳内メカニズム==== | ||
価値判断とは、貨幣価値に代表される物的あるいは物欲的な価値などであり、それらと関連する脳内メカニズムがどのような働きをしているのかに関する研究である<ref name=ref23>'''金井良太<br>脳に刻まれたモラルの起源:人はなぜ善を求めるのか<br>''岩波書店''、2013.</ref>。 | |||
==脳神経科学と社会== | ==脳神経科学と社会== | ||
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====エンターテインメントにおける問題==== | ====エンターテインメントにおける問題==== | ||
例えば、[[wj:脳を鍛える大人のDSトレーニング|脳を鍛える大人のDSトレーニング]]は[[wj:ニンテンドーDS|ニンテンドーDS]] | 例えば、[[wj:脳を鍛える大人のDSトレーニング|脳を鍛える大人のDSトレーニング]]は[[wj:ニンテンドーDS|ニンテンドーDS]]用のソフトとして社会に普及したが、実際の研究データから即座に「頭をよくする」ことを言及することには誇張が含まれることが、多くの脳科学者によって指摘されている。このような脳神経科学研究を用いたエンターテインメントなどが社会に普及する際に拡大解釈が付随することに関する問題であり、脳科学的知見がエンターテインメントを通して誇張されることの問題が深刻である<ref name=ref22>'''住田朋久・礒部太一'''<br>脳ブームの社会的背景とマスメディア<br>''新通史日本の科学技術第3巻''、pp.568-576, 2011</ref>。 | ||
====メディアに関する問題==== | ====メディアに関する問題==== | ||
「エンターテインメントにおける問題」にも関係するが、テレビや雑誌などにおいて脳科学者を自称する人物が、実際の脳科学研究の事例を誇張や拡大解釈して紹介や説明を行うことに関する問題。また、そのようなメディア上での脳科学の説明を聞いた聴衆が、誤解や拡大解釈をもとに脳科学に関する知識を理解し受容することに関する問題<ref name=ref22>'''住田朋久・礒部太一'''<br>脳ブームの社会的背景とマスメディア<br>''新通史日本の科学技術第3巻''、pp.568-576, 2011</ref>。 | |||
====疑似科学化の問題==== | ====疑似科学化の問題==== | ||
確たるデータや証拠がない状況で、あたかも科学らしく振る舞うことに関する問題。他の科学技術分野と同じように、脳神経科学に関しても同様の問題が生じている<ref name=ref22>'''住田朋久・礒部太一'''<br>脳ブームの社会的背景とマスメディア<br>''新通史日本の科学技術第3巻''、pp.568-576, 2011</ref>。 | |||
====神経神話==== | ====神経神話==== | ||
「疑似科学の問題」とも関連するが、実際には誤っている脳科学に関連する情報にも関わらず、広く社会(市民)の間で受け入れられている知識。例えば、「右脳型と左脳型の人がいる」などのような知識がそれに当たる<ref name=ref23>'''信原幸弘, 原塑, 山本愛実'''編<br>脳神経科学リテラシー<br>''勁草書房''、2010.</ref>。 | |||
====専門家と社会とのコミュニケーションの問題==== | ====専門家と社会とのコミュニケーションの問題==== | ||
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====教育と脳神経科学==== | ====教育と脳神経科学==== | ||
教育という側面でも、脳神経科学が大きな影響を及ぼすことが予想される。例えば、脳画像などの教育への援用の問題がある。それは、医療などでの診断以外の場である教育の現場において入学者選抜などの機会で脳画像の状態を判断基準の1つとする問題である。つまり、脳神経科学の知見による、教育現場等における社会生活上の不公平、不利益の誘発の問題と位置づけられる<ref name=ref3>'''Illess, J.''' ed.<br>Neuroethics: Defining the Issues in Theory, Practice And Policy. <br>''Oxford University Press'', Oxford, 2005.<br>(高橋隆雄、粂和彦監訳:脳神経倫理学―理論・実践・政策上の諸問題、''篠原出版新社''、2009.)</ref>。 | |||