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[[Image:Hidenoritabata fig 3.jpg|thumb|400px|'''図2.皮質発生後期に見られる脳室帯を離脱する2つの異なる移動集団''']]<br> | [[Image:Hidenoritabata fig 3.jpg|thumb|400px|'''図2.皮質発生後期に見られる脳室帯を離脱する2つの異なる移動集団''']]<br> | ||
前述した3つの移動様式は独立に存在するのではなく、個々の皮質神経細胞がこれらの移動様式の変遷をへて移動が達成される。皮質神経細胞の移動過程は時期による違いが大きいので、これらを区別して考える必要がある。まず 脳室帯、もしくは脳室下帯から産生された神経細胞の多くは発生の時期に関わらず多極性細胞の形態をとり、多極性移動を示す。これらの細胞は、基本的にはその後、ロコモーションの移動様式に変化して皮質板内へと進入する。しかし、皮質神経細胞の最初の集団(マウスの胎生12日目に産生された集団)は、明確なロコモーション様式への転換をせずに移動が達成される<ref><pubmed> 15389616 </pubmed></ref>。よって、この時期の移動には足場としての放射状線維は必要無いと考えられている。また、皮質形成初期〜中期(マウスの胎生12〜14日目)に誕生した一部の皮質神経細胞は多極性細胞を経ずに細胞体トランスロケーションにより脳室帯から辺縁帯直下に至ることが観察されている<ref name="ref1" /><ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。皮質形成後期(マウスの胎生15〜16日目)になると、脳室帯に直接由来する神経細胞と、脳室下帯でさらに分裂する集団での移動様式の違いが明確になってくる<ref><pubmed> 19150920</pubmed></ref>(図2)。脳室帯から直接産生された神経細胞は脳室帯内でしばらく留まった後、多極性細胞の形態をとり、脳室帯直上に帯状に蓄積して細胞密度の高い領域を形成する。これを多極性細胞蓄積帯(multipolar cell accumulation zone: MAZ)と呼ぶ。これらの多極性細胞は約24時間、MAZ内に留まった後、ロコモーションに変化して皮質板内へ移動する。MAZは脳室下帯の特に深部とオーバーラップするが、境界が比較的明瞭であるのが特徴である。一方、脳室下帯でさらに分裂する集団は、細胞体トランスロケーションにより脳室帯を離れ、MAZにオーバーラップしてそれより脳表面側へも広く分布する(従って、それら脳室面を離れてから分裂する細胞の分布域として定義される脳室下帯の上縁はMAZより高く、しかも不明瞭になる)。マウスの場合、これらの細胞の多くは脳室下帯で突起を失い、分裂して2つの神経細胞となるいわゆるbasal progenitorである。脳室帯由来の神経細胞と脳室下帯分裂細胞の移動パターンの違いに注目した場合、前者は後者よりも脳室帯を離れるタイミングが遅いので、前者をslowly exiting population (SEP)、後者をrapidly exiting population (REP) | 前述した3つの移動様式は独立に存在するのではなく、個々の皮質神経細胞がこれらの移動様式の変遷をへて移動が達成される。皮質神経細胞の移動過程は時期による違いが大きいので、これらを区別して考える必要がある。まず 脳室帯、もしくは脳室下帯から産生された神経細胞の多くは発生の時期に関わらず多極性細胞の形態をとり、多極性移動を示す。これらの細胞は、基本的にはその後、ロコモーションの移動様式に変化して皮質板内へと進入する。しかし、皮質神経細胞の最初の集団(マウスの胎生12日目に産生された集団)は、明確なロコモーション様式への転換をせずに移動が達成される<ref><pubmed> 15389616 </pubmed></ref>。よって、この時期の移動には足場としての放射状線維は必要無いと考えられている。また、皮質形成初期〜中期(マウスの胎生12〜14日目)に誕生した一部の皮質神経細胞は多極性細胞を経ずに細胞体トランスロケーションにより脳室帯から辺縁帯直下に至ることが観察されている<ref name="ref1" /><ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。皮質形成後期(マウスの胎生15〜16日目)になると、脳室帯に直接由来する神経細胞と、脳室下帯でさらに分裂する集団での移動様式の違いが明確になってくる<ref><pubmed> 19150920</pubmed></ref>(図2)。脳室帯から直接産生された神経細胞は脳室帯内でしばらく留まった後、多極性細胞の形態をとり、脳室帯直上に帯状に蓄積して細胞密度の高い領域を形成する。これを多極性細胞蓄積帯(multipolar cell accumulation zone: MAZ)と呼ぶ。これらの多極性細胞は約24時間、MAZ内に留まった後、ロコモーションに変化して皮質板内へ移動する。MAZは脳室下帯の特に深部とオーバーラップするが、境界が比較的明瞭であるのが特徴である。一方、脳室下帯でさらに分裂する集団は、細胞体トランスロケーションにより脳室帯を離れ、MAZにオーバーラップしてそれより脳表面側へも広く分布する(従って、それら脳室面を離れてから分裂する細胞の分布域として定義される脳室下帯の上縁はMAZより高く、しかも不明瞭になる)。マウスの場合、これらの細胞の多くは脳室下帯で突起を失い、分裂して2つの神経細胞となるいわゆるbasal progenitorである。脳室帯由来の神経細胞と脳室下帯分裂細胞の移動パターンの違いに注目した場合、前者は後者よりも脳室帯を離れるタイミングが遅いので、前者をslowly exiting population (SEP)、後者をrapidly exiting population (REP)と呼ぶ<ref><pubmed> 19150920</pubmed></ref>。皮質形成後期においては、細胞体トランスロケーションにより脳室帯から辺縁帯直下まで到達するケースは無いか、あっても非常に少数であると考えられる。皮質形成の初期においても後期においても、皮質神経細胞の移動終了地点においては、細胞体トランスロケーションの一形態であるターミナルトランスロケーション(terminal translocation)が観察される<ref name="ref1" />。辺縁帯直下には皮質板の中でもさらに細胞密度が高い部位があり、これをprimitive cortical zone (PCZ)と呼ぶ<ref name="ref2"><pubmed>23083738</pubmed></ref>。ターミナルトランスロケーションはこのPCZを乗り越えるために必要であり、ロコモーションからの転換にはReelin分子が必要であることが示されている<ref name="ref2" />。 | ||
==== 大脳皮質抑制性神経細胞に見られる接線方向移動==== | ==== 大脳皮質抑制性神経細胞に見られる接線方向移動==== | ||
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=== 小脳 === | === 小脳 === | ||
出来上がった小脳では、脳表面から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層が全体として小脳皮質を形成する。その深部には軸索に富んだ小脳髄質があり、それに埋め込まれるように小脳核が位置する。プルキンエ細胞層には大型の[[プルキンエ細胞]]が、顆粒層には小型の[[顆粒細胞]] | 出来上がった小脳では、脳表面から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層が全体として小脳皮質を形成する。その深部には軸索に富んだ小脳髄質があり、それに埋め込まれるように小脳核が位置する。プルキンエ細胞層には大型の[[プルキンエ細胞]]が、顆粒層には小型の[[顆粒細胞]]が存在する。顆粒細胞の軸索はT字型で、顆粒層から分子層へと伸び、左右に二股に分かれて小脳表面に平行に伸びる。この左右に伸びる部分は[[平行線維]]と呼ばれる。これに対して、プルキンエ細胞の樹状突起は分子層内で矢状面(左右軸に直交する面)に展開している。プルキンエ細胞の軸索は小脳核へと連絡しており、これを抑制的に支配している。 さて、このような構造がいかに形成されるかを概観する。まず中枢神経系は神経管に由来し、もとは筒状の構造であるが、マウスでは胎生10日頃に中脳後脳境界部で背屈が起こり、チューブ状の構造が左右に大きく引き伸ばされて、結果として薄い天井(蓋板と呼ぶ)の下に菱形の空間が形成される。その上唇と下唇の実質部分をそれぞれ上菱脳唇(upper rhombic lip)、下菱脳唇(lower rhombic lip)と呼び、そのうち上菱脳唇から小脳が形成される。この構造の尾側縁(蓋板との連結部)は非常に細胞分裂が活発な部分であり、germinal trigoneと呼ばれる。この部位で顆粒細胞の前駆細胞が活発に産生され、これらは上菱脳唇の表面を後方から前方へと広がりながら被い、やがて、小脳原基表面に外顆粒層(external granular layer)を形成する。顆粒細胞前駆細胞は外顆粒層内でさらに分裂を繰り返す。一方、プルキンエ細胞、および[[小脳核]]を形成する神経細胞は上菱脳唇のgerminal trigoneより吻側よりの脳室面で産生され(マウスでは胎生10〜13日目)、脳室面から小脳表面へと伸びる放射状グリアの突起を足場として移動する。小脳核神経細胞は途中で放射状グリアの突起から離脱するが、プルキンエ細胞は外顆粒層直下まで移動する。これらの細胞移動が終了すると放射状グリアは突起を短縮して細胞体を引き上げ、プルキンエ細胞に隣接するようになり、[[バーグマングリア]]と呼ばれるようになる。周生期頃になると、外顆粒層の深部のものから分裂が停止し、左右軸に沿って細胞体の両端から軸索が伸び始め、まず平行線維が形成される。次に平行線維をその場に残し、これに垂直につながる軸索を形成しながら、細胞体が小脳深部へ潜りこみ、プルキンエ細胞層を通過してその下まで移動する。その結果、プルキンエ細胞層の下に新たな顆粒細胞の層が形成され、これを内顆粒層と呼ぶ。この軸索形成と細胞移動は、外顆粒層の深部のものから表層部のものへと順番に進行し、やがて外顆粒層からは細胞がいなくなり、分子層となり、内顆粒層は単に顆粒層と呼ばれるようになる。外顆粒層から内顆粒層への顆粒細胞の移動はバーグマングリアの突起を足場としている<ref>'''Joseph Altman, Shirley Ann Bayer'''<br>Development of the cerebellar system<br>''CRC Press(Boca Ranton)'':1997</ref>。 | ||
=== 脳幹における細胞移動 === | === 脳幹における細胞移動 === |
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