「神経細胞移動」の版間の差分

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=== 小脳  ===
=== 小脳  ===
 出来上がった小脳では、脳表面から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層が全体として小脳皮質を形成する。その深部には軸索に富んだ小脳髄質があり、それに埋め込まれるように小脳核が位置する。プルキンエ細胞層には大型の[[プルキンエ細胞]]が、顆粒層には小型の[[顆粒細胞]]が存在する。顆粒細胞の軸索はT字型で、顆粒層から分子層へと伸び、左右に二股に分かれて小脳表面に平行に伸びる。この左右に伸びる部分は[[平行線維]]と呼ばれる。これに対して、プルキンエ細胞の樹状突起は分子層内で矢状面(左右軸に直交する面)に展開している。プルキンエ細胞の軸索は小脳核へと連絡しており、これを抑制的に支配している。 さて、このような構造がいかに形成されるかを概観する。まず中枢神経系は神経管に由来し、もとは筒状の構造であるが、マウスでは胎生10日頃に中脳後脳境界部で背屈が起こり、チューブ状の構造が左右に大きく引き伸ばされて、結果として薄い天井(蓋板と呼ぶ)の下に菱形の空間が形成される。その上唇と下唇の実質部分をそれぞれ上菱脳唇(upper rhombic lip)、下菱脳唇(lower rhombic lip)と呼び、そのうち上菱脳唇から小脳が形成される。この構造の尾側縁(蓋板との連結部)は非常に細胞分裂が活発な部分であり、germinal trigoneと呼ばれる。この部位で顆粒細胞の前駆細胞が活発に産生され、これらは上菱脳唇の表面を後方から前方へと広がりながら被い、やがて、小脳原基表面に外顆粒層(external granular layer)を形成する。顆粒細胞前駆細胞は外顆粒層内でさらに分裂を繰り返す。一方、プルキンエ細胞、および[[小脳核]]を形成する神経細胞は上菱脳唇のgerminal trigoneより吻側よりの脳室面で産生され(マウスでは胎生10〜13日目)、脳室面から小脳表面へと伸びる放射状グリアの突起を足場として移動する。小脳核神経細胞は途中で放射状グリアの突起から離脱するが、プルキンエ細胞は外顆粒層直下まで移動する。これらの細胞移動が終了すると放射状グリアは突起を短縮して細胞体を引き上げ、プルキンエ細胞に隣接するようになり、[[バーグマングリア]]と呼ばれるようになる。周生期頃になると、外顆粒層の深部のものから分裂が停止し、左右軸に沿って細胞体の両端から軸索が伸び始め、まず平行線維が形成される。次に平行線維をその場に残し、これに垂直につながる軸索を形成しながら、細胞体が小脳深部へ潜りこみ、プルキンエ細胞層を通過してその下まで移動する。その結果、プルキンエ細胞層の下に新たな顆粒細胞の層が形成され、これを内顆粒層と呼ぶ。この軸索形成と細胞移動は、外顆粒層の深部のものから表層部のものへと順番に進行し、やがて外顆粒層からは細胞がいなくなり、分子層となり、内顆粒層は単に顆粒層と呼ばれるようになる。外顆粒層から内顆粒層への顆粒細胞の移動はバーグマングリアの突起を足場としている<ref>'''Joseph Altman, Shirley Ann Bayer'''<br>Development of the cerebellar system<br>''CRC Press(Boca Ranton)'':1997</ref>。  
 出来上がった小脳では、脳表面から分子層、プルキンエ細胞層、顆粒層が全体として小脳皮質を形成する。その深部には軸索に富んだ小脳髄質があり、それに埋め込まれるように小脳核が位置する。プルキンエ細胞層には大型の[[プルキンエ細胞]]が、顆粒層には小型の[[顆粒細胞]]が存在する。顆粒細胞の軸索はT字型で、顆粒層から分子層へと伸び、左右に二股に分かれて小脳表面に平行に伸びる。この左右に伸びる部分は[[平行線維]]と呼ばれる。これに対して、プルキンエ細胞の樹状突起は分子層内で矢状面(左右軸に直交する面)に展開している。プルキンエ細胞の軸索は小脳核へと連絡しており、これを抑制的に支配している<ref>'''寺島俊雄'''<br>神経解剖学講義ノート<br>'金芳堂(京都)'':2011</ref>。 さて、このような構造がいかに形成されるかを概観する。まず中枢神経系は神経管に由来し、もとは筒状の構造であるが、マウスでは胎生10日頃に中脳後脳境界部で背屈が起こり、チューブ状の構造が左右に大きく引き伸ばされて、結果として薄い天井(蓋板と呼ぶ)の下に菱形の空間が形成される。その上唇と下唇の実質部分をそれぞれ上菱脳唇(upper rhombic lip)、下菱脳唇(lower rhombic lip)と呼び、そのうち上菱脳唇から小脳が形成される。この構造の尾側縁(蓋板との連結部)は非常に細胞分裂が活発な部分であり、germinal trigoneと呼ばれる。この部位で顆粒細胞の前駆細胞が活発に産生され、これらは上菱脳唇の表面を後方から前方へと広がりながら被い、やがて、小脳原基表面に外顆粒層(external granular layer)を形成する。顆粒細胞前駆細胞は外顆粒層内でさらに分裂を繰り返す。一方、プルキンエ細胞、および[[小脳核]]を形成する神経細胞は上菱脳唇のgerminal trigoneより吻側よりの脳室面で産生され(マウスでは胎生10〜13日目)、脳室面から小脳表面へと伸びる放射状グリアの突起を足場として移動する。小脳核神経細胞は途中で放射状グリアの突起から離脱するが、プルキンエ細胞は外顆粒層直下まで移動する。これらの細胞移動が終了すると放射状グリアは突起を短縮して細胞体を引き上げ、プルキンエ細胞に隣接するようになり、[[バーグマングリア]]と呼ばれるようになる。周生期頃になると、外顆粒層の深部のものから分裂が停止し、左右軸に沿って細胞体の両端から軸索が伸び始め、まず平行線維が形成される。次に平行線維をその場に残し、これに垂直につながる軸索を形成しながら、細胞体が小脳深部へ潜りこみ、プルキンエ細胞層を通過してその下まで移動する。その結果、プルキンエ細胞層の下に新たな顆粒細胞の層が形成され、これを内顆粒層と呼ぶ。この軸索形成と細胞移動は、外顆粒層の深部のものから表層部のものへと順番に進行し、やがて外顆粒層からは細胞がいなくなり、分子層となり、内顆粒層は単に顆粒層と呼ばれるようになる。外顆粒層から内顆粒層への顆粒細胞の移動はバーグマングリアの突起を足場としている<ref>'''Joseph Altman, Shirley Ann Bayer'''<br>Development of the cerebellar system<br>''CRC Press(Boca Ranton)'':1997</ref>。  


=== 脳幹における細胞移動  ===
=== 脳幹における細胞移動  ===
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