「血液脳関門」の版間の差分

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===排出輸送系===
===排出輸送系===


 BBB排出輸送系の主要な役割は、[[Image:tachikawa_fig3b.jpg|thumb|1000px|'''図3b.血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)における内因性物質輸送システム(脳から循環血液への排出輸送)'''<br>]][[Image:tachikawa_fig3c.jpg|thumb|1000px|'''図3c.血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)における内因性ペプチド・タンパク質輸送系'''<br>]]脳内で産生される神経伝達物質、メディエーターや代謝物の循環血液中へのくみ出しであり、SLCファミリーである神経伝達物質トランスポーター、[[アミノ酸トランスポーター]]、[[有機アニオントランスポーター]]や、[[ABCトランスポーター]]ファミリーである[[MRP4]]などがそれぞれ関与している。これらの輸送系は、脳細胞間隙中の神経伝達物質の第二のクリアランス機構や、脳内不要物質の脳内蓄積を防止する機構として、機能している。このほかにBBBには、脳内の免疫グロブリンIgGや心房性ナトリウム利尿ペプチドを血液方向へトランスサイトーシスによって排出輸送する輸送機構として、それぞれneonatal Fc receptor (FcRn)<ref><pubmed> 11240028 </pubmed></ref>及びnatriuretic peptide receptor (Npr-C))<ref><pubmed> 20628403 </pubmed></ref>が役割を果たしていることが知られている。さらに、BBBには、[[アルツハイマー病]]で脳内に蓄積する[[&beta;-アミロイド]](1-40)の排出輸送系が存在する<ref><pubmed> 17908238 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16926058 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20367755 </pubmed></ref>。この分子的実体には、P-糖タンパク<ref><pubmed> 16239972 </pubmed></ref>、BCRP<ref><pubmed> 19403814 </pubmed></ref>、[[lipoprotein receptor related protein-1]]([[LRP-1]]) <ref><pubmed> 11120756 </pubmed></ref>など諸説あるが、現時点で結論が出ていない。
 BBB排出輸送系の主要な役割は、[[Image:tachikawa_fig3b.jpg|thumb|1000px|'''図3b.血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)における内因性物質輸送システム(脳から循環血液への排出輸送)'''<br>]][[Image:tachikawa_fig3c.jpg|thumb|800px|'''図3c.血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)における内因性ペプチド・タンパク質輸送系'''<br>]]脳内で産生される神経伝達物質、メディエーターや代謝物の循環血液中へのくみ出しであり、SLCファミリーである神経伝達物質トランスポーター、[[アミノ酸トランスポーター]]、[[有機アニオントランスポーター]]や、[[ABCトランスポーター]]ファミリーである[[MRP4]]などがそれぞれ関与している。これらの輸送系は、脳細胞間隙中の神経伝達物質の第二のクリアランス機構や、脳内不要物質の脳内蓄積を防止する機構として、機能している。このほかにBBBには、脳内の免疫グロブリンIgGや心房性ナトリウム利尿ペプチドを血液方向へトランスサイトーシスによって排出輸送する輸送機構として、それぞれneonatal Fc receptor (FcRn)<ref><pubmed> 11240028 </pubmed></ref>及びnatriuretic peptide receptor (Npr-C))<ref><pubmed> 20628403 </pubmed></ref>が役割を果たしていることが知られている。さらに、BBBには、[[アルツハイマー病]]で脳内に蓄積する[[&beta;-アミロイド]](1-40)の排出輸送系が存在する<ref><pubmed> 17908238 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16926058 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20367755 </pubmed></ref>。この分子的実体には、P-糖タンパク<ref><pubmed> 16239972 </pubmed></ref>、BCRP<ref><pubmed> 19403814 </pubmed></ref>、[[lipoprotein receptor related protein-1]]([[LRP-1]]) <ref><pubmed> 11120756 </pubmed></ref>など諸説あるが、現時点で結論が出ていない。


== 薬物の輸送システム  ==
== 薬物の輸送システム  ==
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== 動物種差  ==
== 動物種差  ==


[[Image:Tachikawa fig 4.jpg|thumb|400px|'''図4.血液脳関門における輸送担体のタンパク質発現量の種差'''<br>A. ヒトBBBとddyマウスBBBにおけるタンパク質発現量の比較。B. ヒトBBBとカニクイザルBBBにおけるタンパク質発現量の比較。タンパク質発現量は、mean ±S.D.でプロットした。赤字, 薬物トランスポーター; 青, 内因性物質のトランスポーター; 緑, その他。 <ref name="ref2" /> <ref name="ref5" /> <ref name="ref6"/> <ref name="ref7"/>のデータを基に作成)]]  
[[Image:Tachikawa fig 4.jpg|thumb|350px|'''図4.血液脳関門における輸送担体のタンパク質発現量の種差'''<br>A. ヒトBBBとddyマウスBBBにおけるタンパク質発現量の比較。B. ヒトBBBとカニクイザルBBBにおけるタンパク質発現量の比較。タンパク質発現量は、mean ±S.D.でプロットした。赤字, 薬物トランスポーター; 青, 内因性物質のトランスポーター; 緑, その他。 <ref name="ref2" /> <ref name="ref5" /> <ref name="ref6"/> <ref name="ref7"/>のデータを基に作成)]]  


 PET, SPECTおよびMRIなどのイメージング技術を利用することによって、ヒトのBBBにおける物質の透過速度やトランスポーターの輸送活性が測定され、ヒトと実験動物の間の違いが定量的に解析されている。合成可能なリガンド数が少ないこと、特定のトランスポーターだけに輸送される物質がほとんどないことから、現在、一部の化合物やトランスポーターを対象とした解析に限られている。一方、寺崎らが開発した「機能性分子のタンパク質絶対定量法(Quantitative Targeted Absolute Proteomics (QTAP)」によって、ヒト、サル、マウスのBBBにおける複数のトランスポーターのタンパク質発現量が解明された(図4)<ref name="ref2" /> <ref name="ref4" /> <ref name="ref5" /> <ref name="ref6" />。これら2つの手法によって、ヒト血液脳関門研究およびヒト-動物間の種差研究は、発現の有無、BBBを透過する・しないなどといった定性的解析から、発現量(mol)、透過速度、輸送速度およびその差などに基づく定量的解析へと大きく舵を切りつつある。  
 PET, SPECTおよびMRIなどのイメージング技術を利用することによって、ヒトのBBBにおける物質の透過速度やトランスポーターの輸送活性が測定され、ヒトと実験動物の間の違いが定量的に解析されている。合成可能なリガンド数が少ないこと、特定のトランスポーターだけに輸送される物質がほとんどないことから、現在、一部の化合物やトランスポーターを対象とした解析に限られている。一方、寺崎らが開発した「機能性分子のタンパク質絶対定量法(Quantitative Targeted Absolute Proteomics (QTAP)」によって、ヒト、サル、マウスのBBBにおける複数のトランスポーターのタンパク質発現量が解明された(図4)<ref name="ref2" /> <ref name="ref4" /> <ref name="ref5" /> <ref name="ref6" />。これら2つの手法によって、ヒト血液脳関門研究およびヒト-動物間の種差研究は、発現の有無、BBBを透過する・しないなどといった定性的解析から、発現量(mol)、透過速度、輸送速度およびその差などに基づく定量的解析へと大きく舵を切りつつある。  
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== トランスポーターの輸送活性の再構築法  ==
== トランスポーターの輸送活性の再構築法  ==


[[Image:Tachikawa fig 5.jpg|thumb|1000px|'''図5.血液脳関門におけるトランスポーターの輸送活性の再構築'''<br>Kp brain ratioは、P-糖タンパク遺伝子欠損マウスにおける脳対血漿中薬物濃度比(Kp brain)を野生型マウスのKp brainで除した値として定義され、in vivoのBBBのmdr1a輸送活性を表す。<ref name="ref8"/>のデータを基に作成)]]
 


 トランスポーターの輸送活性を構成する個々の要素(分子数、1分子あたりの輸送活性)を''in vitro''実験等で解明し、それらのデータを統合することによって''in vivo''のトランスポーターの輸送活性を解析する手法である。イメージング技術と異なり、ヒトにプローブ化合物を投与することなく、ヒトBBBにおけるトランスポーターの輸送活性を解析することが理論的に可能であり、現在、この実現を目指している。
 トランスポーターの輸送活性を構成する個々の要素(分子数、1分子あたりの輸送活性)を''in vitro''実験等で解明し、それらのデータを統合することによって''in vivo''のトランスポーターの輸送活性を解析する手法である。イメージング技術と異なり、ヒトにプローブ化合物を投与することなく、ヒトBBBにおけるトランスポーターの輸送活性を解析することが理論的に可能であり、現在、この実現を目指している。


 理論的に、全てのトランスポーターに適用可能であり、有用な解析手法として期待されている。トランスポーターの輸送活性は、トランスポーター1分子あたりの輸送活性と分子数(タンパク質発現量, mol)の積に分解できる(図5)。従って、トランスポーター1分子あたりの輸送活性を''in vitro''実験によって測定し、ヒト死後脳から単離した脳毛細血管におけるトランスポーターのタンパク質発現量と統合することによって、''in vivo''のヒトBBBにおける輸送活性を再構築できる。この考え方を実証するために、マウスP-糖タンパク発現細胞単層膜で測定したP-糖タンパクの輸送活性をそのP-糖タンパク発現量で除することによってP-糖タンパク1分子あたりの輸送活性を算出した。これをマウス脳毛細血管におけるP-糖タンパク発現量と統合することによって、BBBのP-糖タンパク輸送活性を再構築した。その結果、異なる輸送活性を示す全11基質について再構築された輸送活性は実測値と良好に一致した(図5)<ref name="ref8" /> 。このように、''in vivo''のBBBにおける輸送活性を再構築できることが実験的に証明されている。この再構築の考え方をヒトに適用し、ヒトのトランスポーターの発現培養細胞における1分子輸送活性およびヒト脳毛細血管における発現量を測定することによって、ヒトBBBにおける種々のトランスポーターの輸送活性を解析できるようになると考えられている。  
 理論的に、全てのトランスポーターに適用可能であり、有用な解析手法として期待されている。[[Image:Tachikawa fig 5.jpg|thumb|900px|'''図5.血液脳関門におけるトランスポーターの輸送活性の再構築'''<br>Kp brain ratioは、P-糖タンパク遺伝子欠損マウスにおける脳対血漿中薬物濃度比(Kp brain)を野生型マウスのKp brainで除した値として定義され、in vivoのBBBのmdr1a輸送活性を表す。<ref name="ref8"/>のデータを基に作成)]] トランスポーターの輸送活性は、トランスポーター1分子あたりの輸送活性と分子数(タンパク質発現量, mol)の積に分解できる(図5)。従って、トランスポーター1分子あたりの輸送活性を''in vitro''実験によって測定し、ヒト死後脳から単離した脳毛細血管におけるトランスポーターのタンパク質発現量と統合することによって、''in vivo''のヒトBBBにおける輸送活性を再構築できる。この考え方を実証するために、マウスP-糖タンパク発現細胞単層膜で測定したP-糖タンパクの輸送活性をそのP-糖タンパク発現量で除することによってP-糖タンパク1分子あたりの輸送活性を算出した。これをマウス脳毛細血管におけるP-糖タンパク発現量と統合することによって、BBBのP-糖タンパク輸送活性を再構築した。その結果、異なる輸送活性を示す全11基質について再構築された輸送活性は実測値と良好に一致した(図5)<ref name="ref8" /> 。このように、''in vivo''のBBBにおける輸送活性を再構築できることが実験的に証明されている。この再構築の考え方をヒトに適用し、ヒトのトランスポーターの発現培養細胞における1分子輸送活性およびヒト脳毛細血管における発現量を測定することによって、ヒトBBBにおける種々のトランスポーターの輸送活性を解析できるようになると考えられている。  


==関連項目==
==関連項目==
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