「ゲフィリン」の版間の差分

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 ゲフィリンは、抑制性シナプス後膜における足場タンパク質であり、グリシン受容体および一部のGABA<sub>A</sub>受容体のシナプス局在に関わっている(図1)。ゲフィリンの機能や局在は翻訳後修飾、関連タンパク質との結合、神経活動、受容体の活性など様々な要因によって制御される。この他、尿酸生成や造血作用に関わるMoCo(モリブデン補因子)の生合成における触媒作用も知られている<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。
 ゲフィリンは、抑制性シナプス後膜における足場タンパク質であり、グリシン受容体および一部のGABA<sub>A</sub>受容体のシナプス局在に関わっている(図1)。ゲフィリンの機能や局在は翻訳後修飾、関連タンパク質との結合、神経活動、受容体の活性など様々な要因によって制御される。この他、尿酸生成や造血作用に関わるMoCo(モリブデン補因子)の生合成における触媒作用も知られている<ref name=ref1><pubmed>10811719</pubmed></ref>。
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==基本構造==
==基本構造==
[[image:ゲフィリン1.png|thumb|400px|'''図1.抑制性[[シナプス]]後膜におけるゲフィリン'''<br>Gドメインの三量体形成とEドメインの二量体形成による六方格子(hexagonal lattice)モデルが仮定されている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。<br>
[[image:ゲフィリン1.png|thumb|400px|'''図1.抑制性[[シナプス]]後膜におけるゲフィリン'''<br>Gドメインの三量体形成とEドメインの二量体形成による六方格子(hexagonal lattice)モデルが仮定されている<ref name=ref6><pubmed>15201864</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11554796</pubmed></ref>。<br>
注: [[グリシン]]受容体のサブユニット構成比(3つのαサブユニットと2つのβサブユニット、もしくは2つのαサブユニットと3つのβサブユニット)については、まだ明確になっていない<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。]]
注: [[グリシン]]受容体のサブユニット構成比(3つのαサブユニットと2つのβサブユニット、もしくは2つのαサブユニットと3つのβサブユニット)については、まだ明確になっていない<ref name=ref19><pubmed></pubmed></ref>。]]


 93 kDaの表在性[[膜タンパク質]]として同定されたゲフィリンは<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>、自己オリゴマー化によって凝集体を形成する<ref name=ref1 />。G、C、Eの3ドメインから成り、GドメインN末端(20 kDa)とEドメインC末端(43 kDa)がCドメイン(リンカー領域: 18-21 kDa)に結合している<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。Gドメインは安定した三量体を形成する一方、Eドメインは二量体を形成し、グリシン受容体βサブユニットの細胞内ループ(M3-M4)に高親和性を示す。グリシン受容体βサブユニットにおける[[セリン]]残基403がプロテインキナーゼC (PKC)によってリン酸化されると、ゲフィリンとの結合が減少する<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。また、結晶構造解析の結果から、ゲフィリンの二量体形成面におけるフェニルアラニン残基330、チロシン残基673、[[プロリン]]残基713残基がゲフィリンとの高い親和性に重要であると考えられる<ref name=ref4 />。「リンカー領域」とも呼ばれるCドメインにはゲフィリン結合タンパクの作用部位があり、Pin1(peptidyl-prolyl isomerase NIMA interacting protein 1)は188-201配列に、[[Dynein]] light chain 1(Dlc1)およびDynein light chain 2(Dlc2)は203-212配列に、[[アクチン]]重合に関与する[[Cdc42]]に選択的なコリビスチン(collybistin)は319-329配列に作用する。また、タンパク分解をされやすいのもCドメインである。
 93 kDaの表在性[[膜タンパク質]]として同定されたゲフィリンは<ref name=ref2><pubmed>3032237</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>1657993</pubmed></ref>、自己オリゴマー化によって凝集体を形成する<ref name=ref1 />。G、C、Eの3ドメインから成り、GドメインN末端(20 kDa)とEドメインC末端(43 kDa)がCドメイン(リンカー領域: 18-21 kDa)に結合している<ref name=ref4><pubmed>18403029</pubmed></ref>。Gドメインは安定した三量体を形成する一方、Eドメインは二量体を形成し、グリシン受容体βサブユニットの細胞内ループ(M3-M4)に高親和性を示す。グリシン受容体βサブユニットにおける[[セリン]]残基403がプロテインキナーゼC (PKC)によってリン酸化されると、ゲフィリンとの結合が減少する<ref name=ref5><pubmed>21829170</pubmed></ref>。また、結晶構造解析の結果から、ゲフィリンの二量体形成面におけるフェニルアラニン残基330、チロシン残基673、[[プロリン]]残基713残基がゲフィリンとの高い親和性に重要であると考えられる<ref name=ref4 />。「リンカー領域」とも呼ばれるCドメインにはゲフィリン結合タンパクの作用部位があり、Pin1(peptidyl-prolyl isomerase NIMA interacting protein 1)は188-201配列に、[[Dynein]] light chain 1(Dlc1)およびDynein light chain 2(Dlc2)は203-212配列に、[[アクチン]]重合に関与する[[Cdc42]]に選択的なコリビスチン(collybistin)は319-329配列に作用する。また、タンパク分解をされやすいのもCドメインである。


 組み換えゲフィリンの過剰発現実験の結果から、様々な[[細胞株]]において凝集体を形成することが確認されており、現在はGドメインの三量体化とEドメインの二量体化による六方格子(hexagonal lattice)モデルが仮定されている<ref name=ref6 /> <ref name=ref7 />(図1)。
 組み換えゲフィリンの過剰発現実験の結果から、様々な[[細胞株]]において凝集体を形成することが確認されており、現在はGドメインの三量体化とEドメインの二量体化による六方格子(hexagonal lattice)モデルが仮定されている<ref name=ref6><pubmed>15201864</pubmed></ref> <ref name=ref7 />(図1)。


==グリシン受容体/AGAB<sub>A</sub>受容体の固定化==
==グリシン受容体/AGAB<sub>A</sub>受容体の固定化==
[[image:ゲフィリン2.png|thumb|400px|'''図2.シナプス後膜におけるゲフィリンの局在(小矢印)'''<br>DAB染色による電子顕微鏡画像 (スケールバー 0.3 μm)Giustetto et al., (1998) 使用許諾 未取得]]
[[image:ゲフィリン2.png|thumb|400px|'''図2.シナプス後膜におけるゲフィリンの局在(小矢印)'''<br>DAB染色による電子顕微鏡画像 (スケールバー 0.3 μm)Giustetto et al., (1998) 使用許諾 未取得]]


 グリシン受容体が集積するマイクロドメインは、グリシン作動性[[シナプス前終末]]と対応したシナプス後膜に認められる<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>(図2)。その際、グリシン受容体βサブユニットの細胞質ループに存在する18のアミノ酸モチーフにゲフィリンが結合することで、シナプス後膜におけるグリシン受容体の係留に関与している<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。そのため、[[免疫組織化学法]]においては、しばしば(グリシン受容体βサブユニットとヘテロマーを形成する)グリシン受容体α1サブユニット特異的抗体を用い、ゲフィリン抗体と二重染色することでシナプス後膜に局在するグリシン受容体が標識される。
 グリシン受容体が集積するマイクロドメインは、グリシン作動性[[シナプス前終末]]と対応したシナプス後膜に認められる<ref name=ref8><pubmed>14715953</pubmed></ref>(図2)。その際、グリシン受容体βサブユニットの細胞質ループに存在する18のアミノ酸モチーフにゲフィリンが結合することで、シナプス後膜におけるグリシン受容体の係留に関与している<ref name=ref9><pubmed>7546736</pubmed></ref>。そのため、[[免疫組織化学法]]においては、しばしば(グリシン受容体βサブユニットとヘテロマーを形成する)グリシン受容体α1サブユニット特異的抗体を用い、ゲフィリン抗体と二重染色することでシナプス後膜に局在するグリシン受容体が標識される。


 但し、ゲフィリンはグリシン受容体α2サブユニットにも低親和性結合を示すことから、α2ホモメリックグリシン受容体がシナプスに係留される可能性も示唆されている<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。
 但し、ゲフィリンはグリシン受容体α2サブユニットにも低親和性結合を示すことから、α2ホモメリックグリシン受容体がシナプスに係留される可能性も示唆されている<ref name=ref10><pubmed>1318846</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>18946536</pubmed></ref>。


 実際にアンチセンスオリゴヌクレオチドによってゲフィリンの発現を阻害すると、シナプスにおけるグリシン受容体の局在が減少する<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>。更に、相同組み換えによって全てのゲフィリンアイソフォームをノックアウトした[[マウス]]では、シナプスにおけるグリシン受容体の局在が減少する<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref>。こうしたことから、グリシン受容体はゲフィリンと結合することで凝集体を形成し、解離することで拡散することが知られている<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。
 実際にアンチセンスオリゴヌクレオチドによってゲフィリンの発現を阻害すると、シナプスにおけるグリシン受容体の局在が減少する<ref name=ref12><pubmed>8264797</pubmed></ref>。更に、相同組み換えによって全てのゲフィリンアイソフォームをノックアウトした[[マウス]]では、シナプスにおけるグリシン受容体の局在が減少する<ref name=ref13><pubmed>9812897</pubmed></ref>。こうしたことから、グリシン受容体はゲフィリンと結合することで凝集体を形成し、解離することで拡散することが知られている<ref name=ref14><pubmed>10893193</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。


 GABA<sub>A</sub>受容体については、ゲフィリンとGABA<sub>A</sub>受容体α2サブユニット、γ2サブユニットの結合が示唆されている<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。また、GABARAPはゲフィリンCドメインと結合するものの、GABA<sub>A</sub>受容体とゲフィリンの輸送に必須ではない<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。グリシン受容体に比べGABA<sub>A</sub>受容体のサブユニットは多様であり、GABA<sub>A</sub>受容体に対するゲフィリンの役割は未だ十分明らかになっていない。
 GABA<sub>A</sub>受容体については、ゲフィリンとGABA<sub>A</sub>受容体α2サブユニット、γ2サブユニットの結合が示唆されている<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。また、GABARAPはゲフィリンCドメインと結合するものの、GABA<sub>A</sub>受容体とゲフィリンの輸送に必須ではない<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>。グリシン受容体に比べGABA<sub>A</sub>受容体のサブユニットは多様であり、GABA<sub>A</sub>受容体に対するゲフィリンの役割は未だ十分明らかになっていない。

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