「アセチルコリン」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
海馬に関する項目を追加
(海馬に関する項目を追加)
75行目: 75行目:
== 生合成 ==
== 生合成 ==


 [[コリンアセチル転移酵素]]([[acetyl-CoA: choline O-acetyltransferase]]; ChAT, EC 2.3.1.6)によりコリンと[[wikipedia:ja:アセチルCoA|アセチルCoA]]から合成される。ChATは細胞質に存在する可溶性タンパク質であるが、神経[[軸索]]を経て終末部に運ばれる。ChATの[[wikipedia:ja:比活|比活]]性(specific activity)は極めて高く、通常の条件では、連続した神経活動時にもアセチルコリンが不足することはない。ChATのコリンに対する[[親和性]]([[Km]])は細胞内のコリン濃度に比べて大きいため、コリンの供給がアセチルコリン合成の律速段階となる。ChATの特異[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]による[[免疫組織化学]]がアセチルコリンを合成する神経(コリン作動性神経)の[[細胞体]]や軸索を同定する目的で繁用される<ref name=ref1><pubmed>10594838</pubmed></ref>。
 [[コリンアセチル転移酵素]]([[acetyl-CoA: choline O-acetyltransferase]]; ChAT, EC 2.3.1.6)によりコリンと[[wikipedia:ja:アセチルCoA|アセチルCoA]]から合成される。ChATは細胞質に存在する可溶性タンパク質であるが、神経[[軸索]]を経て終末部に運ばれる。ChATの[[wikipedia:ja:比活|比活]]性(specific activity)は極めて高く、通常の条件では、連続した神経活動時にもアセチルコリンが不足することはない。ChATのコリンに対する[[親和性]]([[Km]])は細胞内のコリン濃度に比べて大きいため、コリンの供給がアセチルコリン合成の律速段階となる。ChATの特異[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]による[[免疫組織化学]]がアセチルコリンを合成する神経(コリン作動性神経)の[[細胞体]]や軸索を同定する目的で汎用される<ref name=ref1><pubmed>10594838</pubmed></ref>。


== コリンの取り込み ==  
== コリンの取り込み ==  
152行目: 152行目:


 脚橋被蓋核と背外側被蓋核コリン作動性神経は上行性と下降性の2種類の投射経路をもつ<ref name=ref11><pubmed>9219969</pubmed></ref>。視床へ投射する上行性投射系は、[[網様体賦活系]]の一部として[[睡眠]]サイクルや[[覚醒]]レベルの調節に関与する。脳幹網様体へ投射する下降性投射系は[[歩行運動]]、[[姿勢反射]]、筋緊張の調節などに関与する。また、脚橋被蓋核のコリン作動性神経は視床のほか大脳基底核にも投射する。特に、黒質緻密部のドーパミン神経細胞に投射して、ドーパミンの放出を促進する。パーキンソン病患者では、この部位のコリン作動性神経が減少することでドーパミン放出が減弱していることも病状の一因になると考えられている<ref name=ref12><pubmed>3475716</pubmed></ref>。
 脚橋被蓋核と背外側被蓋核コリン作動性神経は上行性と下降性の2種類の投射経路をもつ<ref name=ref11><pubmed>9219969</pubmed></ref>。視床へ投射する上行性投射系は、[[網様体賦活系]]の一部として[[睡眠]]サイクルや[[覚醒]]レベルの調節に関与する。脳幹網様体へ投射する下降性投射系は[[歩行運動]]、[[姿勢反射]]、筋緊張の調節などに関与する。また、脚橋被蓋核のコリン作動性神経は視床のほか大脳基底核にも投射する。特に、黒質緻密部のドーパミン神経細胞に投射して、ドーパミンの放出を促進する。パーキンソン病患者では、この部位のコリン作動性神経が減少することでドーパミン放出が減弱していることも病状の一因になると考えられている<ref name=ref12><pubmed>3475716</pubmed></ref>。
===海馬===
 海馬は内側中隔野や対角帯垂直脚からコリン作動性神経の投射を受ける。AChは錐体細胞や介在ニューロンのnAChRやmAChRに作用することで、記憶の形成や強化に関与するとされる。AChは錐体細胞の興奮と抑制のバランス調整に関与するが、そのメカニズムとしては、錐体細胞への直接作用と介在神経が関与する間接作用が知られている。nAChRとmAChRではその発現部位と作用が異なるため、コリン作動性神経の入力強度の違いにより、AChは錐体細胞に対して興奮・抑制の二面性の作用をもたらす。また、AChはシナプス長期増強(LTP)やシナプス長期抑圧(LTD)などのシナプス可塑性に関与することが示されているが、nAChRやmAChRを刺激するタイミングや強度、他の神経伝達物質による入力との相互作用など、複雑な時空間制御をうける。AChは海馬を含む神経回路でのネットワーク・オシレーションの制御にも関与する。<ref name=ref13><pubmed>23908628</pubmed></ref>。


== 非神経性アセチルコリン ==
== 非神経性アセチルコリン ==


 アセチルコリンは、[[wikipedia:ja:真性細菌|真性細菌]]などの[[wikipedia:ja:原核生物|原核生物]]を始めとして、ほぼすべての生物での存在が報告されている<ref name=ref13><pubmed>17363003</pubmed></ref>。植物では水や[[wikipedia:ja:電解質|電解質]]、栄養物質などの輸送に関与するとされるが、その生理的役割は不明な点が多い。[[wikipedia:ja:タケノコ|タケノコ]]の先端部には、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]の脳をはるかに超える量のアセチルコリンが含まれている<ref name=ref14><pubmed>12559395</pubmed></ref>。ヒトを含めた哺乳動物では、様々な非神経細胞や組織でアセチルコリンの合成と放出が確認されている。このうち、[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系細胞、[[wikipedia:ja:血管内皮細胞|血管内皮細胞]]、[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]、[[wikipedia:ja:ケラチノサイト|ケラチノサイト]]、[[wikipedia:ja:気道上皮細胞|気道上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:消化管上皮細胞|消化管上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:膀胱上皮細胞|膀胱上皮細胞]]などでは、神経系とは独立した非神経性アセチルコリンが局所の細胞間情報伝達を担うことが報告されている<ref name=ref15><pubmed>23141771</pubmed></ref>。
 アセチルコリンは、[[wikipedia:ja:真性細菌|真性細菌]]などの[[wikipedia:ja:原核生物|原核生物]]を始めとして、ほぼすべての生物での存在が報告されている<ref name=ref14><pubmed>17363003</pubmed></ref>。植物では水や[[wikipedia:ja:電解質|電解質]]、栄養物質などの輸送に関与するとされるが、その生理的役割は不明な点が多い。[[wikipedia:ja:タケノコ|タケノコ]]の先端部には、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]の脳をはるかに超える量のアセチルコリンが含まれている<ref name=ref15><pubmed>12559395</pubmed></ref>。ヒトを含めた哺乳動物では、様々な非神経細胞や組織でアセチルコリンの合成と放出が確認されている。このうち、[[wikipedia:ja:免疫|免疫]]系細胞、[[wikipedia:ja:血管内皮細胞|血管内皮細胞]]、[[wikipedia:ja:胎盤|胎盤]]、[[wikipedia:ja:ケラチノサイト|ケラチノサイト]]、[[wikipedia:ja:気道上皮細胞|気道上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:消化管上皮細胞|消化管上皮細胞]]、[[wikipedia:ja:膀胱上皮細胞|膀胱上皮細胞]]などでは、神経系とは独立した非神経性アセチルコリンが局所の細胞間情報伝達を担うことが報告されている<ref name=ref16><pubmed>23141771</pubmed></ref>。


==関連項目 ==
==関連項目 ==
15

回編集

案内メニュー