「軸索再生」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
21行目: 21行目:
 このように、これらの因子は全て構造が異なるにもかかわらず、[[Nogo受容体]] (NgR)、[[PIR-B]]といった共通の[[受容体]]を介して軸索再生阻害シグナルを伝える。NgRは[[細胞内ドメイン]]を持たないGPIアンカー型タンパク質である。従って、NgR単独では細胞内にシグナルを伝えることは不可能で、[[神経栄養因子]]の受容体として知られる[[p75]]と共受容体を形成し、ミエリン由来軸索再生阻害因子のシグナルを細胞内に伝達することが報告されている。p75はこれらの軸索再生阻害因子の存在下で、[[低分子量GTP結合タンパク質]]である[[Rho]]Aを活性化することで軸索伸展を阻害する。  
 このように、これらの因子は全て構造が異なるにもかかわらず、[[Nogo受容体]] (NgR)、[[PIR-B]]といった共通の[[受容体]]を介して軸索再生阻害シグナルを伝える。NgRは[[細胞内ドメイン]]を持たないGPIアンカー型タンパク質である。従って、NgR単独では細胞内にシグナルを伝えることは不可能で、[[神経栄養因子]]の受容体として知られる[[p75]]と共受容体を形成し、ミエリン由来軸索再生阻害因子のシグナルを細胞内に伝達することが報告されている。p75はこれらの軸索再生阻害因子の存在下で、[[低分子量GTP結合タンパク質]]である[[Rho]]Aを活性化することで軸索伸展を阻害する。  


 RhoAは、[[アクチン]]骨格系を制御する因子で、細胞内では[[Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor]] (Rho-GDI)と結合した不活性化の状態で安定となっている。p75はRhoとRho-GDIの結合を解離することでRhoの活性化を誘導し、軸索伸長を阻害する <ref><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。しかし、ある種の細胞においては、p75/NgRのみでは[[リガンド]]で刺激してもRhoが活性化されない。そこで、新たにLingo-1が受容体複合体の構成要素として同定された <ref><pubmed> 14966521 </pubmed></ref>。こうして、NgR/p75/Lingo-1の受容体複合体形成により、Rhoが活性化されて軸索伸展が阻害されるという基本モデルが確立された(図2)。Rhoの活性化は、そのエフェクターである[[Rhoキナーゼ]]の活性化を誘導し、軸索再生阻害作用を示す。これは、Rhoキナーゼの阻害剤がミエリン由来軸索再生阻害因子の作用を抑制することによって証明されている。さらに、この下流のシグナルとして、Rhoキナーゼの基質である[[CRMP-2]]の不活性化が示されている。CRMP-2は、[[微小管]]構成タンパク質である[[チューブリン]]二量体と結合し、微小管重合を促進することが知られている。MAG刺激で、CRMP-2はRhoキナーゼによるリン酸化を受けて不活性化し、微小管重合を抑制することから、ミエリン由来軸索再生阻害因子は、Rho/Rhoキナーゼの活性化を介して微小管重合を抑制し、軸索伸長阻害作用を示すことが示唆される。  
 RhoAは、[[アクチン]]骨格系を制御する因子で、細胞内では[[Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor]] (Rho-GDI)と結合した不活性化の状態で安定となっている。p75はRhoとRho-GDIの結合を解離することでRhoの活性化を誘導し、軸索伸長を阻害する <ref name=ref1><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。しかし、ある種の細胞においては、p75/NgRのみでは[[リガンド]]で刺激してもRhoが活性化されない。そこで、新たにLingo-1が受容体複合体の構成要素として同定された <ref><pubmed> 14966521 </pubmed></ref>。こうして、NgR/p75/Lingo-1の受容体複合体形成により、Rhoが活性化されて軸索伸展が阻害されるという基本モデルが確立された(図2)。Rhoの活性化は、そのエフェクターである[[Rhoキナーゼ]]の活性化を誘導し、軸索再生阻害作用を示す。これは、Rhoキナーゼの阻害剤がミエリン由来軸索再生阻害因子の作用を抑制することによって証明されている。さらに、この下流のシグナルとして、Rhoキナーゼの基質である[[CRMP-2]]の不活性化が示されている。CRMP-2は、[[微小管]]構成タンパク質である[[チューブリン]]二量体と結合し、微小管重合を促進することが知られている。MAG刺激で、CRMP-2はRhoキナーゼによるリン酸化を受けて不活性化し、微小管重合を抑制することから、ミエリン由来軸索再生阻害因子は、Rho/Rhoキナーゼの活性化を介して微小管重合を抑制し、軸索伸長阻害作用を示すことが示唆される。  


 近年、MAG、Nogo、OMgpの三者を欠損したマウスが作成された。中枢神経軸索再生の研究には、脊髄損傷モデルがよく使われるが、MAG、Nogo、OMgp全てを欠損したマウスにおいても、脊髄損傷後の有為な軸索再生は認められなかった。このことから、これら以外の軸索再生阻害因子による寄与も大きいことが考えられる <ref><pubmed> 20547125 </pubmed></ref>。MAG、Nogo、OMgp以外に軸索再生を阻害する因子として、[[軸索反発因子]]がある <ref><pubmed> 16858390 </pubmed></ref>。軸索反発因子は、発生期における神経回路の形成を担うことが知られている。脊髄損傷モデル動物では、損傷領域周辺で、[[セマフォリン]](Semaphorin)、[[エフリン]](Ephrin)、[[Wnt]]、[[Repulsive guidance molecule]] (RGM)などの軸索反発因子の発現が増強する。これらの因子の作用を減弱させることで、損傷後の神経軸索の再生や機能回復に繋がることが報告されている。脊髄損傷モデルにおいて、[[Sema3A]]の発現上昇が確認されており、Sema3A阻害剤の投与により縫線核脊髄路の再生、運動機能の回復が示された。Ephrin-B3は、発生期に脊髄正中線に発現し、軸索反発因子として働くが、ミエリン存在下、神経突起の伸長を抑制することが示された。Ephrin-B3は成体マウス脊髄白質の[[オリゴデンドロサイト]]に発現することが確認されている。''In vitro''の神経突起伸展アッセイにおいて、Ephrin-B3が[[小脳]][[顆粒細胞]]や[[大脳皮質]]神経細胞の突起伸展を抑制することが確認されている。''In vivo''の実験においても、Ephrin-B3の受容体であるEphA4欠損マウスでは、脊髄損傷後の[[皮質脊髄路]]と[[赤核脊髄路]]の再生と機能回復が示されたことから、Ephrin-B3は軸索再生阻害タンパク質の一種であると考えられている。[[Wnt1]]、[[Wnt5a]]の発現は、脊髄損傷後1日で損傷部周辺での発現が上昇する。これらの受容体である[[Ryk]]の中和[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]の投与により、脊髄損傷後の再生軸索の増加が認められている。RGMは、GPIアンカー型のタンパク質であり、脊髄損傷後、損傷部周辺での発現上昇が確認されている。[[In vivo]](In vitroの誤り?)の神経突起伸展アッセイにおいて、RGMがRhoAの活性化を介して小脳顆粒細胞の突起伸展を抑制することが示されている。''In vivo''においても、脊髄損傷後2週間にわたり、RGM中和抗体を局所投与し、その機能を抑制すると、皮質脊髄路の再生及び運動機能の回復が認められている。RGMはオリゴデンドロサイト由来のミエリンに発現しているが、脊髄損傷後の損傷部位に集積する[[ミクログリア]]にも強く発現している。これは、免疫系細胞の軸索再生への関与を示唆している。  
 近年、MAG、Nogo、OMgpの三者を欠損したマウスが作成された。中枢神経軸索再生の研究には、脊髄損傷モデルがよく使われるが、MAG、Nogo、OMgp全てを欠損したマウスにおいても、脊髄損傷後の有為な軸索再生は認められなかった。このことから、これら以外の軸索再生阻害因子による寄与も大きいことが考えられる <ref><pubmed> 20547125 </pubmed></ref>。MAG、Nogo、OMgp以外に軸索再生を阻害する因子として、[[軸索反発因子]]がある <ref><pubmed> 16858390 </pubmed></ref>。軸索反発因子は、発生期における神経回路の形成を担うことが知られている。脊髄損傷モデル動物では、損傷領域周辺で、[[セマフォリン]](Semaphorin)、[[エフリン]](Ephrin)、[[Wnt]]、[[Repulsive guidance molecule]] (RGM)などの軸索反発因子の発現が増強する。これらの因子の作用を減弱させることで、損傷後の神経軸索の再生や機能回復に繋がることが報告されている。脊髄損傷モデルにおいて、[[Sema3A]]の発現上昇が確認されており、Sema3A阻害剤の投与により縫線核脊髄路の再生、運動機能の回復が示された。Ephrin-B3は、発生期に脊髄正中線に発現し、軸索反発因子として働くが、ミエリン存在下、神経突起の伸長を抑制することが示された。Ephrin-B3は成体マウス脊髄白質の[[オリゴデンドロサイト]]に発現することが確認されている。''In vitro''の神経突起伸展アッセイにおいて、Ephrin-B3が[[小脳]][[顆粒細胞]]や[[大脳皮質]]神経細胞の突起伸展を抑制することが確認されている。''In vivo''の実験においても、Ephrin-B3の受容体であるEphA4欠損マウスでは、脊髄損傷後の[[皮質脊髄路]]と[[赤核脊髄路]]の再生と機能回復が示されたことから、Ephrin-B3は軸索再生阻害タンパク質の一種であると考えられている。[[Wnt1]]、[[Wnt5a]]の発現は、脊髄損傷後1日で損傷部周辺での発現が上昇する。これらの受容体である[[Ryk]]の中和[[wikipedia:ja:抗体|抗体]]の投与により、脊髄損傷後の再生軸索の増加が認められている。RGMは、GPIアンカー型のタンパク質であり、脊髄損傷後、損傷部周辺での発現上昇が確認されている。[[In vivo]](In vitroの誤り?)の神経突起伸展アッセイにおいて、RGMがRhoAの活性化を介して小脳顆粒細胞の突起伸展を抑制することが示されている。''In vivo''においても、脊髄損傷後2週間にわたり、RGM中和抗体を局所投与し、その機能を抑制すると、皮質脊髄路の再生及び運動機能の回復が認められている。RGMはオリゴデンドロサイト由来のミエリンに発現しているが、脊髄損傷後の損傷部位に集積する[[ミクログリア]]にも強く発現している。これは、免疫系細胞の軸索再生への関与を示唆している。


==== グリア瘢痕  ====
==== グリア瘢痕  ====

案内メニュー