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Masashifujitani (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
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= 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|400px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]] = | = 蛋白の一次構造とドメイン[[Image:Nogo 一次構造.jpg|thumb|right|400px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]] = | ||
Nogo-A蛋白は、1163アミノ酸で構成される蛋白である。<br> 図1に示されるとおり、Nogo蛋白の一次構造は、''RTN4''遺伝子によりコードされる二回膜貫通型の蛋白である。 ''RTN4''遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる<ref name="ref2"><pubmed> 21045861 </pubmed></ref>。 | Nogo-A蛋白は、1163アミノ酸で構成される蛋白である。<br> 図1に示されるとおり、Nogo蛋白の一次構造は、''RTN4''遺伝子によりコードされる二回膜貫通型の蛋白である。 ''RTN4''遺伝子からは、3つのアイソフォームNogo-A,Nogo-B,Nogo-Cが作られる<ref name="ref2"><pubmed> 21045861 </pubmed></ref>。 | ||
軸索伸展阻害作用を持つNogo-66はNogo-A,-B,-Cに共通の66個のアミノ酸からなるドメインである。一方、もう一つの軸索伸展阻害作用を持つΔ20ドメインは、Nogo-Aのみが持つことが分かっている。Δ20ドメインが重要と考えているグループとNogo-66が重要と考えているグループに分かれているが、一般的に、Nogoの作用を指すのは、Nogo-66の作用である場合が多い。 | |||
細胞内では、他のreticulonファミリー蛋白と同様に、小胞体もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。神経系において、発生時期には、DCX 陽性の新生神経細胞に比較的限局した蛋白と遺伝子発現が認められる。<ref name="ref3"><pubmed> 11978832 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20093372 </pubmed></ref> 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として希突起膠細胞そして、神経細胞に発現が認められる<ref name="ref3" />。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。また、蛋白はシナプス前部・後部の両方に発現しており、シナプス可塑性を担っている可能性が示唆されている。<ref><pubmed> 18337405 </pubmed></ref> Nogo(''RTN4'')遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な希突起膠細胞と神経細胞への発現が認められるが、蛋白の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、パラホルムアルデヒド固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている<ref name="ref3" />。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない<ref name="ref3" />。 | Nogo-Aは二回膜貫通型で、図2で示されるように、アミノ末端部は細胞外に露出していると考えられている。また、アミノ末端側の膜貫通ドメインは二回膜貫通できるのに十分長いと考えられている。 | ||
= 蛋白・遺伝子の発現様式 = | |||
細胞内では、他のreticulonファミリー蛋白と同様に、小胞体もしくは図2に示されるように細胞表面に発現していると考えられている。神経系において、発生時期には、DCX 陽性の新生神経細胞に比較的限局した蛋白と遺伝子発現が認められる。<ref name="ref3"><pubmed> 11978832 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20093372 </pubmed></ref> 一方、生後および成体脳・脊髄においては主として希突起膠細胞そして、神経細胞に発現が認められる<ref name="ref3" />。希突起膠細胞内では、ミエリン自体における発現はなく、細胞体での発現が高い。また、蛋白はシナプス前部・後部の両方に発現しており、シナプス可塑性を担っている可能性が示唆されている。<ref><pubmed> 18337405 </pubmed></ref> Nogo(''RTN4'')遺伝子は成体脳・脊髄の比較的広範な希突起膠細胞と神経細胞への発現が認められるが、蛋白の発現は固定方法によって結果が異なるとされ、パラホルムアルデヒド固定によっては、希突起膠細胞により高い発現があると報告されている<ref name="ref3" />。なお、脳や脊髄への損傷によっては発現の変化は認められない<ref name="ref3" />。 | |||
= 蛋白の機能 [[Image:Nogo signal 400.jpg|thumb|right|400px|(図2)Nogoとそのシグナル伝達経路]]<br> = | = 蛋白の機能 [[Image:Nogo signal 400.jpg|thumb|right|400px|(図2)Nogoとそのシグナル伝達経路]]<br> = | ||
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==== 受容体と細胞内シグナル ==== | ==== 受容体と細胞内シグナル ==== | ||
StrittmatterらはNogo-66の受容体、Nogo受容体NgRを同定した<ref><pubmed> 11201742 </pubmed></ref>。 Nogo受容体は細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、神経栄養因子の受容体であるp75受容体がシグナル伝達を担う受容体であることが証明された<ref><pubmed>12011108 </pubmed></ref>。p75とNogo受容体は結合して受容体複合となっている<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>(図2左側)。細胞内へのシグナルはRho-GDIからRhoが解離されることによって開始される<ref><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。活性化されたRho/ | StrittmatterらはNogo-66の受容体、Nogo受容体NgRを同定した<ref><pubmed> 11201742 </pubmed></ref>。 Nogo受容体は細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示す。更に、神経栄養因子の受容体であるp75受容体がシグナル伝達を担う受容体であることが証明された<ref><pubmed>12011108 </pubmed></ref>。p75とNogo受容体は結合して受容体複合となっている<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>(図2左側)。細胞内へのシグナルはRho-GDIからRhoが解離されることによって開始される<ref><pubmed> 12692556 </pubmed></ref>。活性化されたRho/ROCK経路を介して、軸索や成長円錐の細胞骨格が制御され、軸索伸張阻害や成長円錐虚脱が起こる。 | ||
だが、p75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではNogoで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。 | |||
近年、paired immunoglobulin-like receptor B(PirB)が、Nogo-66に対するもう一つの受容体であることが報告された(図2右側)。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンやNogo-66の軸索伸展阻害作用は、ほぼ完全に消失する<ref><pubmed> 18988857 </pubmed></ref>。また最近、このNogo受容体に対する内因性の不活性化因子として、LOTUSが同定されている<ref><pubmed> 21817055 </pubmed></ref>。 | |||
==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用 ==== | ==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用 ==== | ||
当初、IN-1抗体や、NEP1-40という阻害ペプチドを用いて、脊髄損傷モデル動物の軸索再生が促進されると報告され、Nogoはin vivoで再生阻害蛋白として働くと考えられていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、グループ間で結果が異なった<ref><pubmed> 12718854 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718855 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718856 </pubmed></ref>。また、最近になり、主要な再生阻害因子(MAG,Nogo,OMgp)のトリプルノックアウトマウスにおいても脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された<ref><pubmed> 20547125 </pubmed></ref>。これらの結果については様々な議論がなされている。 | 当初、IN-1抗体や、NEP1-40という阻害ペプチドを用いて、脊髄損傷モデル動物の軸索再生が促進されると報告され、Nogoはin vivoで再生阻害蛋白として働くと考えられていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、グループ間で結果が異なった<ref><pubmed> 12718854 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718855 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12718856 </pubmed></ref>。また、最近になり、主要な再生阻害因子(MAG,Nogo,OMgp)のトリプルノックアウトマウスにおいても脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された<ref><pubmed> 20547125 </pubmed></ref>。これらの結果については様々な議論がなされている。 | ||
=== その他の機能 | === その他の機能 === | ||
Nogoの生理的な機能も解析されている。その中では | Nogoの生理的な機能も解析されている。その中では | ||
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*βセクレターゼ活性の制御によるAPPの切断を制御すること | *βセクレターゼ活性の制御によるAPPの切断を制御すること | ||
が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />。 | が報告されている。明確な証明はないが、ミエリンや、ミエリン由来の軸索伸展阻害因子は、軸索の余計な芽生えや分枝が起こることを防ぐことにより、適切な神経回路を維持するのに役立っているのではないかという考えが提唱されている<ref name="ref2" />。 | ||
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執筆者:藤谷昌司、山下俊英 編集委員:岡野栄之 |