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構造 | ==構造== | ||
中脳は、[[中脳水道]]より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋、大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には、視覚反射中枢である上丘および聴覚中枢である下丘が存在する。中脳被蓋には、黒質や赤核など、主として運動制御に関与する神経核が存在する。中脳水道の周囲[[灰白質]]である[[中心灰白質]]には、[[動眼神経]]核や[[滑車神経]]核など、眼球運動を支配する[[脳神経]]核が存在する。また、中脳の中心部には脳幹網様体が分布し、脳幹を貫くカラム構造の最前方部を形成する。以下に、主な構造について概説する。 | 中脳は、[[中脳水道]]より背側の中脳蓋と、腹側の中脳被蓋、大脳脚の3つの部分に大別される。中脳蓋には、視覚反射中枢である上丘および聴覚中枢である下丘が存在する。中脳被蓋には、黒質や赤核など、主として運動制御に関与する神経核が存在する。中脳水道の周囲[[灰白質]]である[[中心灰白質]]には、[[動眼神経]]核や[[滑車神経]]核など、眼球運動を支配する[[脳神経]]核が存在する。また、中脳の中心部には脳幹網様体が分布し、脳幹を貫くカラム構造の最前方部を形成する。以下に、主な構造について概説する。 | ||
==上丘== | ===上丘=== | ||
上丘は、7層から成る明瞭な層構造を示す。[[哺乳類]]より下等の[[脊椎動物]]では、上丘はもっとも重要な視覚中枢であり、視蓋とよばれる。哺乳類の上丘では、視覚中枢としての機能が失われ、移動目標の捕捉や追視のための眼球および頭頸部の反射運動に関与する。特に、上丘により誘発される眼球運動は、サッカードと呼ばれる衝動性眼球運動としてよく知られている。このような視覚性反射に関わる網膜からの視索線維は、視床の外側膝状体には終止せず、対側優位に上丘の浅層に直接投射する(網膜視蓋投射)。網膜視蓋投射線維網は上丘において[[網膜部位局在]]的に分布する。また、[[大脳皮質]]後頭葉の一次視覚野から上丘浅層に投射する皮質視蓋投射も正確な部位局在性を示す。上丘浅層が主に視覚入力を受ける層であるのに対して、上丘深層は眼球運動に関わる中脳網様体や頭頸部の運動に関わる脊髄(頸髄上部)に投射線維を送る出力層である。 | 上丘は、7層から成る明瞭な層構造を示す。[[哺乳類]]より下等の[[脊椎動物]]では、上丘はもっとも重要な視覚中枢であり、視蓋とよばれる。哺乳類の上丘では、視覚中枢としての機能が失われ、移動目標の捕捉や追視のための眼球および頭頸部の反射運動に関与する。特に、上丘により誘発される眼球運動は、サッカードと呼ばれる衝動性眼球運動としてよく知られている。このような視覚性反射に関わる網膜からの視索線維は、視床の外側膝状体には終止せず、対側優位に上丘の浅層に直接投射する(網膜視蓋投射)。網膜視蓋投射線維網は上丘において[[網膜部位局在]]的に分布する。また、[[大脳皮質]]後頭葉の一次視覚野から上丘浅層に投射する皮質視蓋投射も正確な部位局在性を示す。上丘浅層が主に視覚入力を受ける層であるのに対して、上丘深層は眼球運動に関わる中脳網様体や頭頸部の運動に関わる脊髄(頸髄上部)に投射線維を送る出力層である。 | ||
==下丘== | ===下丘=== | ||
内耳の[[蝸牛]]に由来する聴覚情報は、[[蝸牛神経]]核や台形体核から外側毛帯を介して下丘に入力する。下丘は聴覚の中継核として、処理した情報を視床の[[内側膝状体]]に送る。下丘の中心部にある中心核のニューロンはタマネギ状の層状配列を呈し、各層は蝸牛における周波数局在と密接に関連した周波数局在を示す。 | 内耳の[[蝸牛]]に由来する聴覚情報は、[[蝸牛神経]]核や台形体核から外側毛帯を介して下丘に入力する。下丘は聴覚の中継核として、処理した情報を視床の[[内側膝状体]]に送る。下丘の中心部にある中心核のニューロンはタマネギ状の層状配列を呈し、各層は蝸牛における周波数局在と密接に関連した周波数局在を示す。 | ||
==黒質== | ===黒質=== | ||
黒質は中脳被蓋の腹側部に位置し、背側の緻密部と腹側の網様部に分けられる。黒質の緻密部は[[ドーパミン]]作動性ニューロンを含み、ドーパミン合成過程でメラニン色素を産生するため肉眼的に黒く見える。ドーパミンニューロンは線条体に投射し(黒質線条体路)、このニューロンの変性・脱落により重篤な運動障害を主徴とするパーキンソン病が発症する。黒質緻密部の内側には、もうひとつのドーパミンニューロン群である腹側被蓋野が存在し、大脳皮質に投射する中脳皮質路と辺縁系に投射する中脳辺縁系路が起こる。これらの神経路は認知機能や精神活動に関係すると考えられている。黒質の網様部は[[GABA作動性]]ニューロンを含み、大脳基底核の出力部として、視床や上丘などに投射する。 | 黒質は中脳被蓋の腹側部に位置し、背側の緻密部と腹側の網様部に分けられる。黒質の緻密部は[[ドーパミン]]作動性ニューロンを含み、ドーパミン合成過程でメラニン色素を産生するため肉眼的に黒く見える。ドーパミンニューロンは線条体に投射し(黒質線条体路)、このニューロンの変性・脱落により重篤な運動障害を主徴とするパーキンソン病が発症する。黒質緻密部の内側には、もうひとつのドーパミンニューロン群である腹側被蓋野が存在し、大脳皮質に投射する中脳皮質路と辺縁系に投射する中脳辺縁系路が起こる。これらの神経路は認知機能や精神活動に関係すると考えられている。黒質の網様部は[[GABA作動性]]ニューロンを含み、大脳基底核の出力部として、視床や上丘などに投射する。 | ||
==赤核== | ===赤核=== | ||
赤核は中脳被蓋の内側部に位置し、鉄分を含有するためピンク色の外観を呈する。赤核は対側の[[小脳]]核から上行性投射を、大脳皮質運動野から下行性投射を受ける。大細胞性赤核と小細胞性赤核に分類されるが、[[ヒト]]では大部分が小細胞性であり、同側の下オリーブ核や網様体に投射する。大細胞性赤核のニューロンは脊髄に投射する。このような線維結合から、赤核は運動野と脊髄の間の中継部位として(皮質―赤核―脊髄路)、また、下オリーブ核を介した小脳へのフィードバック系の中継部位として(赤核―オリーブ核―小脳路)、運動制御に関わる神経核であると考えられている。 | 赤核は中脳被蓋の内側部に位置し、鉄分を含有するためピンク色の外観を呈する。赤核は対側の[[小脳]]核から上行性投射を、大脳皮質運動野から下行性投射を受ける。大細胞性赤核と小細胞性赤核に分類されるが、[[ヒト]]では大部分が小細胞性であり、同側の下オリーブ核や網様体に投射する。大細胞性赤核のニューロンは脊髄に投射する。このような線維結合から、赤核は運動野と脊髄の間の中継部位として(皮質―赤核―脊髄路)、また、下オリーブ核を介した小脳へのフィードバック系の中継部位として(赤核―オリーブ核―小脳路)、運動制御に関わる神経核であると考えられている。 | ||
==中脳被蓋を通る神経線維== | ===中脳被蓋を通る神経線維=== | ||
中脳被蓋の外側部には内側毛帯、脊髄視床路、[[三叉神経]]視床路などを形成する神経線維が通る。また、背側部には中心被蓋路と内側縦束が走行する。 | 中脳被蓋の外側部には内側毛帯、脊髄視床路、[[三叉神経]]視床路などを形成する神経線維が通る。また、背側部には中心被蓋路と内側縦束が走行する。 | ||
==大脳脚== | ===大脳脚=== | ||
大脳脚には橋核に投射する皮質橋線維と脊髄に投射する皮質脊髄路が含まれる。大脳脚の内側部には[[前頭葉]]からの皮質橋線維が、外側部には[[頭頂葉]]、後頭葉、側頭葉からの皮質橋線維が通る。皮質脊髄路は大脳脚の中央部に位置する。 | 大脳脚には橋核に投射する皮質橋線維と脊髄に投射する皮質脊髄路が含まれる。大脳脚の内側部には[[前頭葉]]からの皮質橋線維が、外側部には[[頭頂葉]]、後頭葉、側頭葉からの皮質橋線維が通る。皮質脊髄路は大脳脚の中央部に位置する。 | ||
==動眼神経核と滑車神経核== | ===動眼神経核と滑車神経核=== | ||
中心灰[[白質]]の腹側部には、眼球運動に関与する脳神経核である動眼神経核と滑車神経核が存在し、それぞれ動眼神経、滑車神経が起こる。動眼神経は腹内側方に向かい、脚間窩から脳の外に出る。滑車神経は、脳幹の背側部から外に出る唯一の脳神経である。また、中心灰白質の辺縁部には、感覚性脳神経核として三叉神経中脳路核のニューロンが分布する。 | 中心灰[[白質]]の腹側部には、眼球運動に関与する脳神経核である動眼神経核と滑車神経核が存在し、それぞれ動眼神経、滑車神経が起こる。動眼神経は腹内側方に向かい、脚間窩から脳の外に出る。滑車神経は、脳幹の背側部から外に出る唯一の脳神経である。また、中心灰白質の辺縁部には、感覚性脳神経核として三叉神経中脳路核のニューロンが分布する。 | ||
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==参考文献== | ==参考文献== | ||
1. 脳神経科学<br> | 1. '''脳神経科学'''<br> (監修 伊藤正男、編集 金澤一郎、篠田義一、廣川信隆、御子柴克彦、宮下保司)<br> ''三輪書店'' 2003. | ||
2. イラストレイテッド神経科学<br> | |||
2. '''イラストレイテッド神経科学'''<br> (監訳 白尾智明)<br> ''丸善出版'' 2013 |