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{{box|text= カスパーゼは、インターロイキン1β変換酵素遺伝子と、線虫''C. elegans''の細胞死実行遺伝子ced-3と相同性を持つ、一群の細胞内システインプロテアーゼである。基質の切断部位P1にアスパラギン酸を要求する。基質を限定的に切断し、タンパク質の成熟、活性化、不活性化を引きおこす。活性化にはミトコンドリアから放出されたシトクロムcが関わる内因性経路と、FasやTNF受容体などの細胞死受容体が関わる外因性経路がある。1000以上の基質が知られており、アポトーシスに関わる基質の活性化の他、サイトカインの成熟・分泌、シグナル因子の分泌にも関わることで、細胞分化、移動、増殖、形態形成、シナプス機能調節といった様々な生命現象に関わっている。}}
{{box|text= カスパーゼは、インターロイキン1β変換酵素遺伝子と、線虫''C. elegans''の細胞死実行遺伝子ced-3と相同性を持つ、一群の細胞内システインプロテアーゼである。基質の切断部位P1にアスパラギン酸を要求する。基質を限定的に切断し、タンパク質の成熟、活性化、不活性化を引きおこす。活性化にはミトコンドリアから放出されたシトクロムcが関わる内因性経路と、FasやTNF受容体などの細胞死受容体が関わる外因性経路がある。1000以上の基質が知られており、アポトーシスに関わる基質の活性化の他、サイトカインの成熟・分泌、シグナル因子の分泌にも関わることで、細胞分化、移動、増殖、形態形成、シナプス機能調節といった様々な生命現象に関わっている。}}
[[画像:Caspases_diagram_jp.png|thumb|right|300px|'''図. カスパーゼの構造と分類'''<br/>黒い矢印(↓)は活性化によって切断される部位。p20の右端近くの黄色い丸は活性中心のシステイン残基。括弧書きで示したカスパーゼ-11と12はヒトではまだ見つかっていない。図並び解説文は[http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Caspases_diagram_jp.png Wikipedia]より。CARD: caspase recruitment domain、DED: death effector domain。]]
[[画像:Caspases_diagram_jp.png|thumb|right|400px|'''図. カスパーゼの構造と分類'''<br/>黒い矢印(↓)は活性化によって切断される部位。p20の右端近くの黄色い丸は活性中心のシステイン残基。括弧書きで示したカスパーゼ-11と12はヒトではまだ見つかっていない。図並び解説文は[http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Caspases_diagram_jp.png Wikipedia]より。CARD: caspase recruitment domain、DED: death effector domain。]]


==カスパーゼとは==
==カスパーゼとは==
 カスパーゼは、[[ヒト]][[単球細胞]]からクローニングされた[[インターロイキン1β|インターロイキン1 (IL-1)β]]を成熟・分泌させる変換酵素[[ICE]] ([[interleukin 1β-converting enzyme]])遺伝子と、[[線虫]]''[[C. elegans]]''の全ての[[細胞死]]を実行する遺伝子[[ced-3]]と相同性を持つ一群の細胞内[[プロテアーゼ]]である。基質を限定的に切断し、タンパク質の成熟、活性化、不活性化を引きおこす<ref name=ref1 />。これまでに1000以上の基質が知られている。カスパーゼが活性化されるとそれに引き続いて[[アポトーシス]]に特徴的な形態変化や分子の動きが見られるようになる。カスパーゼ基質の中にはアポトーシスに特徴的な[[核]]凝縮・[[DNA]]の断片化促進に関わる[[ICAD]] ([[inhibitor of caspase activated DNase]])<ref name=ref2><pubmed>9422513</pubmed></ref>、アポトーシス細胞膜上に[[フォスファチジルセリン]](PS)が露出することに関わる[[スクランブラーゼ]][[Xkr8]]<ref name=ref3><pubmed>23845944</pubmed></ref>、PSの非対称性を制御する[[フリッパーゼ]][[ATP11C]]<ref name=ref4><pubmed>24904167</pubmed></ref>、アポトーシスに特徴的な細胞の形態変化に関わるキナーゼ[[ROCK-1]]<ref name=ref5><pubmed>11283606</pubmed></ref>が含まれ、アポトーシス時の細胞変化を引き起こすプロテアーゼであることが判る<ref name=ref1 />。
 カスパーゼは、[[ヒト]][[単球細胞]]からクローニングされた[[インターロイキン1β|インターロイキン1 (IL-1)β]]を成熟・分泌させる[[インターロイキン1β変換酵素]] ([[interleukin 1β-converting enzyme]], [[ICE]]}遺伝子と、[[線虫]]''[[C. elegans]]''の全ての[[細胞死]]を実行する遺伝子[[ced-3]]と相同性を持つ一群の細胞内[[プロテアーゼ]]である。基質の切断部位P1にアスパラギン酸を要求する特徴的なシステインプロテアーゼである(Cはシステインプロテアーゼ、aspaseはアスパラギン酸の後で切断するという特徴を示している)。
 
 基質を限定的に切断し、タンパク質の成熟、活性化、不活性化を引きおこす<ref name=ref1 />。これまでに1000以上の基質が知られている。カスパーゼが活性化されるとそれに引き続いて[[アポトーシス]]に特徴的な形態変化や分子の動きが見られるようになる。基質の中にはアポトーシスに特徴的な[[核]]凝縮・[[DNA]]の断片化促進に関わる[[ICAD]] ([[inhibitor of caspase activated DNase]])<ref name=ref2><pubmed>9422513</pubmed></ref>、アポトーシス細胞膜上に[[フォスファチジルセリン]](PS)が露出することに関わる[[スクランブラーゼ]][[Xkr8]]<ref name=ref3><pubmed>23845944</pubmed></ref>、PSの非対称性を制御する[[フリッパーゼ]][[ATP11C]]<ref name=ref4><pubmed>24904167</pubmed></ref>、アポトーシスに特徴的な細胞の形態変化に関わるキナーゼ[[ROCK-1]]<ref name=ref5><pubmed>11283606</pubmed></ref>が含まれ、アポトーシス時の細胞変化を引き起こすプロテアーゼであることが判る<ref name=ref1 />。


==種類==
==種類==
 [[哺乳類]]では18種が知られている<ref name=ref6><pubmed>18281271</pubmed></ref>。[[ヒト]]からは[[カスパーゼ1]]〜[[カスパーゼ10|10]]、[[カスパーゼ12|12]]と[[カスパーゼ14|14]]の12種類がクローニングされた。ヒトカスパーゼ12はエキソン4に終止コドンがあって分断されたタンパク質しかできないものに加え、全長型のタンパク質ができる遺伝子多型が報告されている。[[マウス]]カスパーゼ12は[[小胞体ストレス]]によって活性化される。マウス[[カスパーゼ11]]はヒト[[カスパーゼ4]]あるいは[[カスパーゼ5|5]]と似ている。カスパーゼ1サブファミリー(カスパーゼ1、4、5、11、12)は遺伝子重複でできたと考えられ染色体上に連続して存在する<ref name=ref7><pubmed>14685161</pubmed></ref>。[[線虫]]には[[CED-3]]を含めて4種<ref name=ref8><pubmed>9857046</pubmed></ref>、[[ショウジョウバエ]]には7種がゲノム中に存在する<ref name=ref9><pubmed>11139276</pubmed></ref>。
 [[哺乳類]]では18種が知られている<ref name=ref6><pubmed>18281271</pubmed></ref>。[[ヒト]]からは[[カスパーゼ1]]〜[[カスパーゼ10|10]]、[[カスパーゼ12|12]]と[[カスパーゼ14|14]]の12種類がクローニングされた。ヒトカスパーゼ12はエキソン4に終止コドンがあって分断されたタンパク質しかできないものに加え、全長型のタンパク質ができる遺伝子多型が報告されている。[[マウス]]カスパーゼ12は[[小胞体ストレス]]によって活性化される。マウス[[カスパーゼ11]]はヒト[[カスパーゼ4]]あるいは[[カスパーゼ5|5]]と似ている。カスパーゼ1サブファミリー(カスパーゼ1、4、5、11、12)は遺伝子重複でできたと考えられ[[染色体]]上に連続して存在する<ref name=ref7><pubmed>14685161</pubmed></ref>。[[線虫]]には[[CED-3]]を含めて4種<ref name=ref8><pubmed>9857046</pubmed></ref>、[[ショウジョウバエ]]には7種がゲノム中に存在する<ref name=ref9><pubmed>11139276</pubmed></ref>。


 カスパーゼと類似の配列を持ったタンパク質が広く存在する<ref name=ref10><pubmed>11090634</pubmed></ref>。[[メタカスパーゼ]]は[[植物]]、[[菌]]、[[原生動物]]や[[細菌]]で、[[パラカスパーゼ]]は[[動物]]、[[粘菌]]、細菌で見つかっている。植物、菌、原生動物のメタカスパーゼは細胞死に関わることが報告されているがパラカスパーゼの細胞死への関与は不明である。
 カスパーゼと類似の配列を持ったタンパク質が広く存在する<ref name=ref10><pubmed>11090634</pubmed></ref>。[[メタカスパーゼ]]は[[植物]]、[[菌]]、[[原生動物]]や[[細菌]]で、[[パラカスパーゼ]]は[[動物]]、[[粘菌]]、細菌で見つかっている。植物、菌、原生動物のメタカスパーゼは細胞死に関わることが報告されているがパラカスパーゼの細胞死への関与は不明である。


==構造==
==構造==
 カスパーゼは基質の切断部位P1にアスパラギン酸を要求する特徴的なシステインプロテアーゼである(Cはシステインプロテアーゼ、aspaseはアスパラギン酸の後で切断するという特徴を示している)。全てのカスパーゼは前駆体(プロカスパーゼ)として[[翻訳]]される。前駆体の酵素活性は非常に低い。N末端からプロドメイン、P20、P10をコードするサブユニットからなるが、プロドメインの構造と基質特異性からカスパーゼはサブタイプに分類することができる。短いプロドメインを持つ[[細胞死]]実行[[カスパーゼ3]]、[[カスパーゼ6|6]]、[[カスパーゼ7|7]]は、長いプロドメインを持つイニシエーターカスパーゼ([[カスパーゼ2]]、[[カスパーゼ8|8]]、[[カスパーゼ9|9]]、[[カスパーゼ10|10]])によって切断されて活性化される<ref name=ref1><pubmed>14634618</pubmed></ref>。細胞死実行カスパーゼは酵素活性が強く、活性化されると様々な基質を切断して細胞死を実行する。
 全てのカスパーゼは前駆体(プロカスパーゼ)として[[翻訳]]される。前駆体の酵素活性は非常に低い。N末端からプロドメイン、P20、P10をコードするサブユニットからなるが、プロドメインの構造と基質特異性からカスパーゼはサブタイプに分類することができる。短いプロドメインを持つ[[細胞死]]実行[[カスパーゼ3]]、[[カスパーゼ6|6]]、[[カスパーゼ7|7]]は、長いプロドメインを持つイニシエーターカスパーゼ([[カスパーゼ2]]、[[カスパーゼ8|8]]、[[カスパーゼ9|9]]、[[カスパーゼ10|10]])によって切断されて活性化される<ref name=ref1><pubmed>14634618</pubmed></ref>。細胞死実行カスパーゼは酵素活性が強く、活性化されると様々な基質を切断して細胞死を実行する。


 活性型のカスパーゼはP20とP10がヘテロダイマーを作り、これが2つ合わさった4量をとる。イニシエーターカスパーゼの長いプロドメインはCARD (Caspase Recruitment Domain)あるいはDED (Death Effecter Domain)から構成され、タンパク質間相互作用に使われる。イニシエーターカスパーゼのDEDあるいはCARDにアダプタータンパク質が結合することによってイニシエーターカスパーゼが凝集し活性化する。これがカスパーゼによるタンパク質分解カスケードの開始シグナルとなる<ref name=ref1 />。
 活性型のカスパーゼはP20とP10がヘテロダイマーを作り、これが2つ合わさった4量をとる。イニシエーターカスパーゼの長いプロドメインはCARD (Caspase Recruitment Domain)あるいはDED (Death Effecter Domain)から構成され、タンパク質間相互作用に使われる。イニシエーターカスパーゼのDEDあるいはCARDにアダプタータンパク質が結合することによってイニシエーターカスパーゼが凝集し活性化する。これがカスパーゼによるタンパク質分解カスケードの開始シグナルとなる<ref name=ref1 />。
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 哺乳類神経系において、[[網膜]][[神経節細胞]]が[[外側膝状体]]に投射する際に軸索の刈り込みがおこるが、このプロセスにもカスパーゼが関わる可能性が示されている。
 哺乳類神経系において、[[網膜]][[神経節細胞]]が[[外側膝状体]]に投射する際に軸索の刈り込みがおこるが、このプロセスにもカスパーゼが関わる可能性が示されている。


 シナプス形成や機能とカスパーゼとの関連も報告されている。マウス[[嗅覚]]神経のシナプス成熟にカスパーゼ活性が関与することが示された<ref name=ref44><pubmed>25710534</pubmed></ref>。[[キンカチョウ]]の[[歌学習]]時には後シナプス終末でのカスパーゼ活性化がおこり、その阻害によって長期記憶形成が抑制される<ref name=ref45><pubmed>17178408</pubmed></ref>。哺乳類では[[長期抑制]]([[LTD]])とAMPA型グルタミン酸受容体の内在化にカスパーゼ3の活性が使われている<ref name=ref46><pubmed>20510932</pubmed></ref>。
 シナプス形成や機能とカスパーゼとの関連も報告されている。マウス[[嗅覚]]神経のシナプス成熟にカスパーゼ活性が関与することが示された<ref name=ref44><pubmed>25710534</pubmed></ref>。[[キンカチョウ]]の[[歌学習]]時には後シナプス終末でのカスパーゼ活性化がおこり、その阻害によって長期記憶形成が抑制される<ref name=ref45><pubmed>17178408</pubmed></ref>。哺乳類では[[長期抑制]]([[LTD]])と[[AMPA型グルタミン酸受容体]]の内在化にカスパーゼ3の活性が使われている<ref name=ref46><pubmed>20510932</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==

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