「細胞死」の版間の差分

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 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。[[wikipedia:ja:ロバート・ホロビッツ|Horvitz]]らの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制される[[ced-3]]、[[ced-4]]変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体[[ced-9]]等が得られた<ref name=ref4><pubmed>838129</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>1560823</pubmed></ref>。CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働く[[アダプタータンパク質]][[Apaf-1]] (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有する[[wikipedia:ja:がん遺伝子|がん遺伝子]][[bcl-2]]に相当する。
 アポトーシスは、タンパク質すなわち遺伝子産物の制御による能動的な細胞死である。[[wikipedia:ja:ロバート・ホロビッツ|Horvitz]]らの[[線虫]]を用いた遺伝学的な研究によって、プログラム細胞死に影響のある変異体、中でも、全ての細胞死実行が抑制される[[ced-3]]、[[ced-4]]変異体や、これらの遺伝子の作用を抑制する変異体[[ced-9]]等が得られた<ref name=ref4><pubmed>838129</pubmed></ref> <ref name=ref5><pubmed>1560823</pubmed></ref>。CED-3は[[カスパーゼ]] (caspase)、CED-4はカスパーゼ活性化に働く[[アダプタータンパク質]][[Apaf-1]] (apoptotic protease activating factor-1)、CED-9はアポトーシス抑制活性を有する[[wikipedia:ja:がん遺伝子|がん遺伝子]][[bcl-2]]に相当する。


 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、ミトコンドリア膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜のフォスファチジル[[セリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる<ref name=ref6><pubmed>9422506</pubmed></ref>。これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。
 アポトーシス刺激を受けた細胞では、カスパーゼの活性化、[[ミトコンドリア]]膜の透過性増大・膜電位低下、細胞膜の[[フォスファチジルセリン]](phosphatidylserine: PS)の細胞表面への露出、クロマチンの切断が見られる<ref name=ref6><pubmed>9422506</pubmed></ref>。これらはアポトーシス細胞で一般的に観察されるため、アポトーシスのよいマーカーとして用いられる。しかし、これら変化は生理的な変化や[[細胞分化]]に伴って引き起こされる場合や、アポトーシス以外の原因で生じることもあるため、一部のマーカー変化だけでアポトーシスと断定できない点に留意が必要である。


 アポトーシスの活性化経路としては、主に[[外因性(デスレセプター)経路]]と[[内因性(ミトコンドリア)経路]]が知られる。
 アポトーシスの活性化経路としては、主に[[外因性経路|外因性(デスレセプター)経路]]と[[内因性経路|内因性(ミトコンドリア)経路]]が知られる。


*'''外因性経路'''では、[[TNF]]や[[Fasリガンド]]といった[[細胞死誘導因子]]が細胞に作用するとアポトーシスが誘導される。これら細胞死誘導因子が受容体に結合すると受容体直下には[[DISC]] ([[Death Inducing Signaling Complex]])と呼ばれる複合体が形成され、[[カスパーゼ8]]が活性化される。そして次に[[カスパーゼ3]]が活性化しアポトーシスが実行される。この他に活性化したカスパーゼ8がBH3-onlyファミリー [[Bid]]を切断し、切断された Bid (tBid)がミトコンドリアの[[Bax]]、[[Bak]]を凝集させて[[シトクロムc]]のミトコンドリアからの放出を促しApaf-1/[[カスパーゼ9]]/カスパーゼ3経路(ミトコンドリア経路)を活性化する経路が働く細胞もある。
*'''外因性経路'''では、[[TNF]]や[[Fasリガンド]]といった[[細胞死誘導因子]]が細胞に作用するとアポトーシスが誘導される。これら細胞死誘導因子が受容体に結合すると受容体直下には[[DISC]] ([[Death Inducing Signaling Complex]])と呼ばれる複合体が形成され、[[カスパーゼ8]]が活性化される。そして次に[[カスパーゼ3]]が活性化しアポトーシスが実行される。この他に活性化したカスパーゼ8がBH3-onlyファミリー [[Bid]]を切断し、切断された Bid (tBid)がミトコンドリアの[[Bax]]、[[Bak]]を凝集させて[[シトクロムc]]のミトコンドリアからの放出を促しApaf-1/[[カスパーゼ9]]/カスパーゼ3経路(ミトコンドリア経路)を活性化する経路が働く細胞もある。


*'''内因性(ミトコンドリア)経路'''では、ミトコンドリア[[膜電位]]低下が活性化の引き金となる。アポトーシスシグナルを受けた[[ほ乳類]]細胞では、種々のBH3 onlyタンパク質が発現誘導あるいは[[翻訳後修飾]]を受けてBcl−2ファミリータンパク質に作用し、ミトコンドリア膜電位低下およびシトクロムcの放出を促進する。放出されたシトクロムcは、アダプター分子Apaf-1に結合してApaf-1の多量体化がおこる。カスパーゼ9がアダプター分子Apaf-1によって多量体化され活性化されることで細胞死実行にいたるカスパーゼ分解カスケードが開始される。線虫のCED-4はApaf-1とホモロジーを持つ分子であるがシトクロムcを結合する[[WD40リピート]]を欠いている。線虫では通常はミトコンドリアにあるCED-9 (Bcl-2ファミリー分子)にCED-4が結合しているが、死に行く細胞でBH3 onlyタンパク質である[[Egl-1]]が発現するとCED-4と置き換わる。そして細胞質に移動したCED-4がCED-3と結合し、CED-3の多量体化を促進することで活性化する。
*'''内因性経路'''では、ミトコンドリア[[膜電位]]低下が活性化の引き金となる。アポトーシスシグナルを受けた[[ほ乳類]]細胞では、種々のBH3 onlyタンパク質が発現誘導あるいは[[翻訳後修飾]]を受けてBcl−2ファミリータンパク質に作用し、ミトコンドリア膜電位低下およびシトクロムcの放出を促進する。放出されたシトクロムcは、アダプター分子Apaf-1に結合してApaf-1の多量体化がおこる。カスパーゼ9がアダプター分子Apaf-1によって多量体化され活性化されることで細胞死実行にいたるカスパーゼ分解カスケードが開始される。線虫のCED-4はApaf-1とホモロジーを持つ分子であるがシトクロムcを結合する[[WD40リピート]]を欠いている。線虫では通常はミトコンドリアにあるCED-9 (Bcl-2ファミリー分子)にCED-4が結合しているが、死に行く細胞でBH3 onlyタンパク質である[[Egl-1]]が発現するとCED-4と置き換わる。そして細胞質に移動したCED-4がCED-3と結合し、CED-3の多量体化を促進することで活性化する。


==制御されたネクローシス==
==制御されたネクローシス==

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