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英語名:substance P 英略語:SP | 英語名:substance P 英略語:SP | ||
{{box|text= | {{box|text= サブスタンスPは、11個のアミノ酸からなる神経ペプチドである。類似の構造を持つペプチドと共に、タキキニンtachykininsと総称される。サブスタンスPに高親和性を持つNK1受容体を介して、様々な細胞内情報伝達系を活性化し、複数のイオンチャネルを修飾する。サブスタンスPおよびNK1受容体は、神経細胞だけでなく、末梢の非神経細胞にも発現している。従って痛覚、神経原性炎症、情動、報酬系等、広範囲な生理機能と疾患病態に関与している。}} | ||
{{chembox | {{chembox | ||
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== サブスタンスPとは == | == サブスタンスPとは == | ||
サブスタンスPとはウマの脳および腸管に存在し、血圧を下降させ、平滑筋を収縮させる物質として、1931年にvon EulerとGaddumによって見出され、1971年に単離された11個のアミノ酸からなる[[神経ペプチド]]である。SPは一次求心性ニューロンの一部に含まれ、脊髄後角で刺激に応じて[[神経終末]]の[[シナプス小胞]]から放出され、脊髄ニューロンで時間経過の遅い脱分極をひきおこす。 | |||
== ファミリー == | |||
SPはタキキニンファミリーに属している。同じファミリーには、ニューロキニンA neurokinin A (NKA)、ニューロキニンB neurokinin B (NKB)、ヘモキニン-1 hemokinin-1 (HK-1)が含まれ、そのC末端に共通のアミノ酸配列、-Phe-X-Gly-Leu-Met-NH2を持っている。SP、NKA、NKBは[[哺乳類]]でアミノ酸全配列が共通であるが、HK-1は[[ヒト]]と[[マウス]]/ラット間で配列に違いがある。(表1)。ヒトでは、Tac 1遺伝子から選択的スプライシングによって、α, β, γ, δ Tac1 [[mRNA]][[スプライスバリアント]]が生成され、それぞれのmRNAからSPが[[翻訳]]される。NKAもTac 1遺伝子に由来するが、β, γ Tac1 mRNAから翻訳される。NKBはTac3遺伝子、HK-1、endokinin AおよびBは Tac4遺伝子にコードされている<ref name=ref3><pubmed>24382888</pubmed></ref>。(表1) | SPはタキキニンファミリーに属している。同じファミリーには、ニューロキニンA neurokinin A (NKA)、ニューロキニンB neurokinin B (NKB)、ヘモキニン-1 hemokinin-1 (HK-1)が含まれ、そのC末端に共通のアミノ酸配列、-Phe-X-Gly-Leu-Met-NH2を持っている。SP、NKA、NKBは[[哺乳類]]でアミノ酸全配列が共通であるが、HK-1は[[ヒト]]と[[マウス]]/ラット間で配列に違いがある。(表1)。ヒトでは、Tac 1遺伝子から選択的スプライシングによって、α, β, γ, δ Tac1 [[mRNA]][[スプライスバリアント]]が生成され、それぞれのmRNAからSPが[[翻訳]]される。NKAもTac 1遺伝子に由来するが、β, γ Tac1 mRNAから翻訳される。NKBはTac3遺伝子、HK-1、endokinin AおよびBは Tac4遺伝子にコードされている<ref name=ref3><pubmed>24382888</pubmed></ref>。(表1) | ||
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== 機能 == | == 機能 == | ||
ニューロンにおいて、様々なチャネルの修飾機構が報告されている。[[前脳]]基底野細胞では、Gq/11およびPLCβ-1を細胞内情報伝達系として、SPは内向き整流性[[K+チャネル]]を抑制し、脱分極をおこす<ref name=ref11><pubmed> 8890327</pubmed></ref>。[[ラット]][[上頸神経節]]細胞では、SPが電位非依存性にN型[[Ca2+チャネル]]を抑制するが<ref name=ref12><pubmed>19858358</pubmed></ref>、チャネルを構成するCaVβサブユニットの種類によっては、SPがN電流を増強する報告もある<ref name=ref13><pubmed>7678964</pubmed></ref>。ラット舌下運動神経およびラット延髄pre-Bőtzinger complex吸気ニューロンでは、SP は[[two-pore domainカリウムチャネル]]1つであるTASK-1を抑制する<ref name=ref14><pubmed>10719894</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>20335463</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>19321769</pubmed></ref>。TASK-1を介したリーク電流は、これらのニューロンにおいて静止膜電位の形成やリズムの制御に関わっている。Von EulerとGaddumが見出したSPによる血圧下降作用は、血管内皮細胞のNK1受容体刺激を介して産生された[[一酸化窒素]]によって、細動脈平滑筋が弛緩したと考えられている<ref name=ref17><pubmed> 2479442</pubmed></ref>。 | ニューロンにおいて、様々なチャネルの修飾機構が報告されている。[[前脳]]基底野細胞では、Gq/11およびPLCβ-1を細胞内情報伝達系として、SPは内向き整流性[[K+チャネル]]を抑制し、脱分極をおこす<ref name=ref11><pubmed> 8890327</pubmed></ref>。[[ラット]][[上頸神経節]]細胞では、SPが電位非依存性にN型[[Ca2+チャネル]]を抑制するが<ref name=ref12><pubmed>19858358</pubmed></ref>、チャネルを構成するCaVβサブユニットの種類によっては、SPがN電流を増強する報告もある<ref name=ref13><pubmed>7678964</pubmed></ref>。ラット舌下運動神経およびラット延髄pre-Bőtzinger complex吸気ニューロンでは、SP は[[two-pore domainカリウムチャネル]]1つであるTASK-1を抑制する<ref name=ref14><pubmed>10719894</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>20335463</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>19321769</pubmed></ref>。TASK-1を介したリーク電流は、これらのニューロンにおいて静止膜電位の形成やリズムの制御に関わっている。Von EulerとGaddumが見出したSPによる血圧下降作用は、血管内皮細胞のNK1受容体刺激を介して産生された[[一酸化窒素]]によって、細動脈平滑筋が弛緩したと考えられている<ref name=ref17><pubmed> 2479442</pubmed></ref>。 | ||
==不活化機構== | |||
[[neprilysin]] (EC 3.4.24.11: enkephalinase)、aminopeptidase N (EC 3.4.11.2)やpeptidyl dipeptidase A (EC 3.4.15.1: angiotensin converting enzyme)など複数の酵素で分解されて不活性化される<ref name=ref1><pubmed> 7682720</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>7529113</pubmed></ref>。 | |||
== 疾患との関連 == | == 疾患との関連 == |