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(ページの作成:「<div align="right"> <font size="+1">青山 曜、高橋 英機</font><br> ''国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)''<br> DOI:...」) |
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==実験動物と動物実験について== | ==実験動物と動物実験について== | ||
===実験動物=== | ===実験動物=== | ||
実験[[動物]] | 実験[[動物]]とは、学術的研究や病気の診断、治療法の開発等の科学上の目的のために、維持、繁殖、供給される動物のことであり、動物実験に利用される。動物実験では、いくつかの群を比較しその違いが優位であることを統計的に示す必要があり、1つの郡には複数の動物を使用する。再現性の高い動物実験結果を得るためには、実験動物は遺伝的背景や飼育環境がコントロールされている必要がある。これらのコントロールが正確行われているかどうかを確認するためには、一部の動物を用いて定期的に遺伝的モニタリングや微生物モニタリングを行う必要がある。飼育環境を均一にするためには特に、環境因子(温度、湿度、換気など)、栄養因子(飼料、飲料水など)、生物因子(感染性微生物など)に注意が必要である。 | ||
===動物実験=== | ===動物実験=== | ||
動物実験とは動物を利用して情報を得る実験のことである。動物に何らかの処置を加え、その処置に対する反応を統計学的に比較検討して情報を得る。2006年「動物の愛護及び管理に関する法律」改正時に動物実験の倫理原則である3Rが追加された。3Rは下記の3種類の単語の頭文字Rから由来し、動物福祉の視点から実験動物の取扱いには十分な配慮が必要であり、3Rを十分に考慮した動物実験の計画を立てる必要がある。 | 動物実験とは動物を利用して情報を得る実験のことである。動物に何らかの処置を加え、その処置に対する反応を統計学的に比較検討して情報を得る。2006年「動物の愛護及び管理に関する法律」改正時に動物実験の倫理原則である3Rが追加された。3Rは下記の3種類の単語の頭文字Rから由来し、動物福祉の視点から実験動物の取扱いには十分な配慮が必要であり、3Rを十分に考慮した動物実験の計画を立てる必要がある。 | ||
*Replacement(代替法の利用)<br> | |||
[[培養細胞]]を用いたin vitro実験や[[ショウジョウバエ]]などの発生的に下位の動物種に変更できないかを検討する。 | |||
*Reduction(使用動物数の削減)<br> | |||
不必要な実験を行っていないかどうか、統計学上必要最低限の動物数で実験を行っているか、など可能な限り使用する動物数を減らすことを検討する。 | |||
*Refinement(苦痛の軽減)<br> | |||
適切な飼育環境であること、動物実験を行う際には必要に応じた麻酔処置を行うこと、適切な安楽死処置を行うこと、など動物に不要な苦痛を与えないことを検討する。 | |||
==各種実験動物について== | ==各種実験動物について== | ||
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===セブラフィッシュ=== | ===セブラフィッシュ=== | ||
分類学上では、コイ目コイ科ラスボラ亜科(Danio | 分類学上では、コイ目コイ科ラスボラ亜科(Danio rerio)に属し、体長5cm ほどの小型の魚である。生活環は約3か月で寿命は約5年である。雑食であるため飼育が容易であること、多産であり1組の雌雄から数百個の卵を得ることができること、得られた卵が透明であり発生が早いこと(受精後24時間で器官形成がほぼ終了し、数日で孵化する)、などの特徴をもつ。2013年に全ゲノム解読が完了し、胚の観察や遺伝子改変が比較的容易であることから、様々な遺伝子改変[[ゼブラフィッシュ]]が作製され研究に利用されている。 | ||
===キンカチョウ=== | ===キンカチョウ=== | ||
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====遺伝子組換えマウス==== | ====遺伝子組換えマウス==== | ||
偶発的である自然発症マウスとは異なり、人為的に遺伝子操作を行って塩基配列に変異を導入したマウス。 | 偶発的である自然発症マウスとは異なり、人為的に遺伝子操作を行って塩基配列に変異を導入したマウス。 | ||
=====トランスジェニックマウス===== | |||
人為的に外来遺伝子を導入し発現させたマウス。トランスジェニックマウスが初めて報告されたのは、1980年のGordonらによる現在も主流となっているマイクロインジェクション法によるトランスジェニックマウスの作製である<ref name=ref1><pubmed>6261253</pubmed></ref>。また、1982年にはメタロチオネインプロモータを用いた[[ラット]]GH遺伝子の導入による巨大マウスの作製がPalmiter、BrinsterらによりNatureに投稿された<ref name=ref2><pubmed>6958982</pubmed></ref>。本論文は人為的に導入された外来遺伝子が生体内で機能することを初めて具体的に示した例であり、これ以降多くのトランスジェニックマウスが作製されている。 | |||
1つ以上の遺伝子の機能が無効化されたマウス。2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞したEvans、Capecchi、Smithiesらの相同組換え法の応用により、最初のノックアウトマウスは1988年に誕生した | |||
=====ノックアウトマウス===== | |||
1つ以上の遺伝子の機能が無効化されたマウス。2007年にノーベル生理学・医学賞を受賞したEvans、Capecchi、Smithiesらの相同組換え法の応用により、最初のノックアウトマウスは1988年に誕生した<ref name=ref3><pubmed>3821905</pubmed></ref>。ノックアウトマウスでは特定の遺伝子が無効化されるため、正常マウスと比較することでその遺伝子機能の研究に有用である。 | |||
近年ではZinc-finger nuclease(ZFN)やTranscription activator-like effector nuclease(TALEN)などの人工制限酵素を用いたゲノム編集が報告され、さらにCRISPR/Cas法などのより簡便な方法での[[遺伝子組換え動物]]の作製が行われている<ref name=ref4><pubmed>23664777</pubmed></ref>。 | |||
===ラット=== | ===ラット=== | ||
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===コモンマーモセット=== | ===コモンマーモセット=== | ||
[[マーモセット]]属は[[霊長目]]オマキザル科(Cebidae)に含まれる。[[コモンマーモセット]](Callithrix | [[マーモセット]]属は[[霊長目]]オマキザル科(Cebidae)に含まれる。[[コモンマーモセット]](Callithrix jacchus)は、体長が約20cm、体重が200〜400g程度で、寿命は10〜15年である。妊娠期間は約145日、周年繁殖で年間2回出産し、1産で2〜3頭を出産する。3〜4ヶ月程度の授乳期間を経て生後1年〜1年半で性成熟し、繁殖が可能となる。2009年に[[霊長類]]初の遺伝子組換え動物トランスジェニックマーモセットの作製が報告された<ref name=ref5><pubmed>19478777</pubmed></ref>。 | ||
===マカク属サル=== | ===マカク属サル=== | ||
[[マカク属]]は霊長目オナガザル科(Cercopithecidae)に含まれる。実験動物としては、主に[[カニクイザル]]、[[アカゲザル]]、ニホンザルが使用されている。ヒトと同じ霊長類であることから、他の動物と比較してヒトに近い研究が可能である。 | [[マカク属]]は霊長目オナガザル科(Cercopithecidae)に含まれる。実験動物としては、主に[[カニクイザル]]、[[アカゲザル]]、ニホンザルが使用されている。ヒトと同じ霊長類であることから、他の動物と比較してヒトに近い研究が可能である。 | ||
===カニクイザル===(Macaca fascicularis) | ====カニクイザル==== | ||
(Macaca fascicularis) | |||
インドネシア、フィリピンなどの東南アジアに生息する中型の[[サル]]で、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は38~55cm、尾の長さは40~65cm、体重はオスで5~9kg、メスで3~6kg。実験用の主なサル類として神経生理学実験、生殖生理学実験、医薬品の安全性試験やワクチンの検定試験など広範囲に利用されている。 | インドネシア、フィリピンなどの東南アジアに生息する中型の[[サル]]で、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は38~55cm、尾の長さは40~65cm、体重はオスで5~9kg、メスで3~6kg。実験用の主なサル類として神経生理学実験、生殖生理学実験、医薬品の安全性試験やワクチンの検定試験など広範囲に利用されている。 | ||
===アカゲザル===(Macaca mulatta) | ====アカゲザル==== | ||
(Macaca mulatta) | |||
インド、中国などのアジア地域を生息し、腰、足、尾の付け根部分が赤褐色をしている中型のサルで、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は49~64cm、尾の長さは20~31cm、体重はオスで5~11kg、メスで4~10kg。カニクイザルと同様に広範囲に利用されている。 | インド、中国などのアジア地域を生息し、腰、足、尾の付け根部分が赤褐色をしている中型のサルで、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は49~64cm、尾の長さは20~31cm、体重はオスで5~11kg、メスで4~10kg。カニクイザルと同様に広範囲に利用されている。 | ||
===ニホンザル===(Macaca fuscata) | ====ニホンザル==== | ||
(Macaca fuscata) | |||
日本固有種であるニホンザルは学習能力が高く、他種[[マカクザル]]に比べて遺伝変異性が低い。大人の個体で、体長は47~60cm、尾の長さは7~11cm、体重はオスで6~18kg、メスで6~14kg。ナショナルバイオリソースプロジェクトより国内で繁殖された個体が研究に利用されている。 | 日本固有種であるニホンザルは学習能力が高く、他種[[マカクザル]]に比べて遺伝変異性が低い。大人の個体で、体長は47~60cm、尾の長さは7~11cm、体重はオスで6~18kg、メスで6~14kg。ナショナルバイオリソースプロジェクトより国内で繁殖された個体が研究に利用されている。 | ||
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長期増強など脳神経に直接処置を加えそれに対する影響や反応を観察する電気生理学的実験や記憶や情動などの高次脳機能や運動機能を調べる行動学的実験などでは、マウス、ラット、マカク属サルなどの実験動物が有用である。特にマウスやラットでは行動解析実験の実験方法や実験機器等が確立されているものが多くあり、実際に動物の行動を観察することで、脳機能に関する様々な情報を得ることが可能である。行動解析実験機器としては、学習・記憶能力を調べるモーリス[[水迷路]]、[[バーンズ円形迷路]]や[[恐怖条件付け]]実験装置、運動協調性を調べるローターロッド試験、不安様行動を調べる[[高架式十字迷路]]や明暗往来実験装置、鬱病様行動を評価する強制水泳実験装置やテールサスペンション[[テスト]]装置、総合失調症を評価する[[プレパルスインヒビション]]テスト装置、概日リズムの評価を行う回転かご走行試験装置などがある。 | 長期増強など脳神経に直接処置を加えそれに対する影響や反応を観察する電気生理学的実験や記憶や情動などの高次脳機能や運動機能を調べる行動学的実験などでは、マウス、ラット、マカク属サルなどの実験動物が有用である。特にマウスやラットでは行動解析実験の実験方法や実験機器等が確立されているものが多くあり、実際に動物の行動を観察することで、脳機能に関する様々な情報を得ることが可能である。行動解析実験機器としては、学習・記憶能力を調べるモーリス[[水迷路]]、[[バーンズ円形迷路]]や[[恐怖条件付け]]実験装置、運動協調性を調べるローターロッド試験、不安様行動を調べる[[高架式十字迷路]]や明暗往来実験装置、鬱病様行動を評価する強制水泳実験装置やテールサスペンション[[テスト]]装置、総合失調症を評価する[[プレパルスインヒビション]]テスト装置、概日リズムの評価を行う回転かご走行試験装置などがある。 | ||
*順行性遺伝学 | ヒトの病気に類似した疾患を呈する実験動物は疾患モデル動物とよばれる。疾患モデル動物の原因遺伝子の特定とその機能解析は、疾患モデル動物の有用性に大きく関わる。疾患モデル動物への遺伝学的アプローチ法には、 フォワードジェネティクス(順行性遺伝学)とリバースジェネティクス(逆行性遺伝学)のふたつの方法がある。 | ||
<br>表現型より遺伝子を調べる方法。突然変異により生じた異常を持つ動物の表現型(病態や症状など)を調べ、その原因となる遺伝子の存在領域、遺伝子構造、塩基配列等を特定する。 | |||
*逆行性遺伝学 | *順行性遺伝学<br> | ||
<br>遺伝子より表現型を調べる方法。特定の遺伝子に注目し、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し、その病態や症状などを調べることで、その遺伝子の機能を調べる。 | 表現型より遺伝子を調べる方法。突然変異により生じた異常を持つ動物の表現型(病態や症状など)を調べ、その原因となる遺伝子の存在領域、遺伝子構造、塩基配列等を特定する。 | ||
*逆行性遺伝学<br> | |||
遺伝子より表現型を調べる方法。特定の遺伝子に注目し、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し、その病態や症状などを調べることで、その遺伝子の機能を調べる。 | |||
順行性遺伝学と逆行性遺伝学は、表現型から始めるか、遺伝子から始めるか、の違いであるが、ある疾患モデルマウスの発現型から特定された遺伝子を改変したマウスを作製しその発現型が一致するかどうか検討を行うなど相互的な実験が有用である。 | 順行性遺伝学と逆行性遺伝学は、表現型から始めるか、遺伝子から始めるか、の違いであるが、ある疾患モデルマウスの発現型から特定された遺伝子を改変したマウスを作製しその発現型が一致するかどうか検討を行うなど相互的な実験が有用である。 | ||
現在までにヒトの[[アルツハイマー病]] | 現在までにヒトの[[アルツハイマー病]]を反映したアルツハイマー病モデルマウス<ref name=ref6><pubmed>24728269</pubmed></ref>など、様々な疾病に対する疾患モデル動物が作製され、今後も詳細な病態メカニズムの解析、検査方法や治療法の開発のために利用されていくことが期待される。その一方でヒト特異的疾患を対象とした場合、マウスなどではその生理・代謝機能が必ずしもヒトを忠実に反映していない部分もあり、ヒトへの外挿面で十分な効果を得られないことも多く知られており、考察には注意が必要である。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> | ||