「レット症候群」の版間の差分

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==臨床像==
==臨床像==


 生後しばらくは正常発達をとげるが、乳児期(生後6か月から1歳半)に異常に気付かれ、以後進行性の経過を示す。[[wikipedia:ja:頸定|頸定]]は正常だが、[[wikipedia:ja:おすわり|おすわり]]・[[wikipedia:ja:寝返り|寝返り]]はやや遅れ、幼児期になると徐々に症状が進行し、本症の特徴である手もみ動作(常同運動)や自閉症状、てんかん発作、過呼吸、[[不眠]]などの症状が出現する。
 生後しばらくは正常発達をとげるが、乳児期(生後6か月から1歳半)に異常に気付かれ、以後進行性の経過を示す。[[wikipedia:ja:頸定|頸定]]は正常だが、[[wikipedia:ja:おすわり|おすわり]]・[[wikipedia:ja:寝返り|寝返り]]はやや遅れ、幼児期になると徐々に症状が進行し、本症の特徴である手もみ動作(常同運動)や自閉症状、てんかん発作、過呼吸、[[不眠]]などの症状が出現する。


 小児期になると進行が緩やかになるが、成人期には筋緊張が低下傾向から亢進傾向に変わり、運動の減少がみられ、車いすでの生活が必要となる。さらに[[パーキンソン病]]様症状に発展することもある<ref><pubmed> 17160339 </pubmed></ref>。
 小児期になると進行が緩やかになるが、成人期には筋緊張が低下傾向から亢進傾向に変わり、運動の減少がみられ、車いすでの生活が必要となる。さらに[[パーキンソン病]]様症状に発展することもある<ref><pubmed> 17160339 </pubmed></ref>。
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 レット症候群の発症率は女児10,000人に1人といわれている。レット症候群の原因遺伝子は、家系解析により[[X染色体]]長腕末端Xq28領域に存在するMECP2遺伝子であることが判明している。典型的なレット症候群患者の80%がこの遺伝子の変異を有する。本症候群と同様の症状を呈する患者の中に、[[CDKL5]](cyclin-dependent kinase-like 5)遺伝子の変異を持つ患者も報告されている<ref><pubmed> 18948693 </pubmed></ref>。
 レット症候群の発症率は女児10,000人に1人といわれている。レット症候群の原因遺伝子は、家系解析により[[X染色体]]長腕末端Xq28領域に存在するMECP2遺伝子であることが判明している。典型的なレット症候群患者の80%がこの遺伝子の変異を有する。本症候群と同様の症状を呈する患者の中に、[[CDKL5]](cyclin-dependent kinase-like 5)遺伝子の変異を持つ患者も報告されている<ref><pubmed> 18948693 </pubmed></ref>。


 現在までに300を超える様々な変異が報告されてきた。また、変異のタイプにより正常なMeCP2タンパク質の機能への影響が異なることが明らかにされてきた。一方、本症候群では、患者ごとに重症度や臨床経過に大きな差異があることが知られている。従って、本症患者の臨床的差異の要因の1つに、遺伝子変異の違いが想定されている。例えば、MeCP2のN末側領域([[wikipedia:ja:核内移行シグナル|核内移行シグナル]])の欠損([[wikipedia:ja:フレームシフト変異|フレームシフト変異]])は[[wikipedia:ja:ミスセンス変異|ミスセンス変異]]と比較して重篤な症状を示す。例えば、ミスセンス変異の1つであるR133C変異は部分的にタンパク質機能が保たれているため患者は比較的軽症であるのに対し、欠損変異である能R270X変異の患者は重篤な経過を辿る<ref name=ref3><pubmed> 17988628 </pubmed></ref>。
 現在までに300を超える様々な変異が報告されてきた。また、変異のタイプにより正常なMeCP2タンパク質の機能への影響が異なることが明らかにされてきた。一方、本症候群では、患者ごとに重症度や臨床経過に大きな差異があることが知られている。従って、本症患者の臨床的差異の要因の1つに、遺伝子変異の違いが想定されている。例えば、MeCP2のN末側領域([[wikipedia:ja:核内移行シグナル|核内移行シグナル]])の欠損([[wikipedia:ja:フレームシフト変異|フレームシフト変異]])は[[wikipedia:ja:ミスセンス変異|ミスセンス変異]]と比較して重篤な症状を示す。例えば、ミスセンス変異の1つであるR133C変異は部分的にタンパク質機能が保たれているため患者は比較的軽症であるのに対し、欠損変異である能R270X変異の患者は重篤な経過を辿る<ref name=ref3><pubmed> 17988628 </pubmed></ref>。


===X染色体不活化の臨床的影響===
===X染色体不活化の臨床的影響===


 レット症候群患者の重症度に影響を与える第2の要因としてX染色体不活化の影響がある。[[X染色体]]不活化とは、女性の父由来・母由来の2本のX染色体はどちらか1本がランダムに不活化される女性特有の現象のことをいう。多くの女性では、父由来Xが不活化された細胞と母由来Xが不活化された細胞は半々に存在するが、一部の女性ではどちらかの細胞が非常に多くなっている。レット症候群患者集団(全員女性)においても、正常女性集団と同様に、
 レット症候群患者の重症度に影響を与える第2の要因としてX染色体不活化の影響がある。[[X染色体]]不活化とは、女性の父由来・母由来の2本のX染色体はどちらか1本がランダムに不活化される女性特有の現象のことをいう。多くの女性では、父由来Xが不活化された細胞と母由来Xが不活化された細胞は半々に存在するが、一部の女性ではどちらかの細胞が非常に多くなっている。レット症候群患者集団(全員女性)においても、正常女性集団と同様に、
#半々に存在する患者
#半々に存在する患者
#父由来Xが不活化された細胞が多めの患者
#父由来Xが不活化された細胞が多めの患者
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==展望==
==展望==


 一般に、本症のような先天性疾患では根本的治療は困難とされてきたが、患者の福音となるような報告が最近2つなされた。いずれも動物モデルの段階だが、1つは本症の神経症状を模倣するMecp2遺伝子欠失マウスに、正常なMecp2遺伝子をOFFの状態で導入しておき、症状がかなり進行した生後3ヶ月の段階でONにしたところ(導入遺伝子をONにする薬を投与)、症状が改善し、長生きした、という報告である。もう1つは、生後2ヶ月に、正常マウス由来の[[wikipedia:ja:骨髄細胞|骨髄細胞]]を上述のMecp2遺伝子欠失マウスに移植したところ、移植した骨髄細胞がミクログリアとなり、KOマウス脳内で貪食機能を発揮して、神経症状の軽快につながった、というものである。
 一般に、本症のような先天性疾患では根本的治療は困難とされてきたが、患者の福音となるような報告が最近2つなされた。いずれも[[動物モデル]]の段階だが、1つは本症の神経症状を模倣するMecp2遺伝子欠失マウスに、正常なMecp2遺伝子をOFFの状態で導入しておき、症状がかなり進行した生後3ヶ月の段階でONにしたところ(導入遺伝子をONにする薬を投与)、症状が改善し、長生きした、という報告である。もう1つは、生後2ヶ月に、正常マウス由来の[[wikipedia:ja:骨髄細胞|骨髄細胞]]を上述のMecp2遺伝子欠失マウスに移植したところ、移植した骨髄細胞がミクログリアとなり、KOマウス脳内で貪食機能を発揮して、神経症状の軽快につながった、というものである。


 近年、iPS細胞技術の開発で、レット症候群患者由来の神経細胞が作製され始めた。これを用いた、さらなる神経病態の理解と、治療薬開発や細胞移植治療に向けた研究が加速していくことが期待される<ref><pubmed> 21916843 </pubmed></ref>。
 近年、iPS細胞技術の開発で、レット症候群患者由来の神経細胞が作製され始めた。これを用いた、さらなる神経病態の理解と、治療薬開発や細胞移植治療に向けた研究が加速していくことが期待される<ref><pubmed> 21916843 </pubmed></ref>。

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