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==各種実験動物について== | ==各種実験動物について== | ||
===Caenorhabditis elegans=== | ===''Caenorhabditis elegans''=== | ||
[[Caenorhabditis elegans|''Caenorhabditis elegans'']]は、分類学上は[[wikipedia:ja:線形動物門|線形動物門]] | [[Caenorhabditis elegans|''Caenorhabditis elegans'']]は、分類学上は[[wikipedia:ja:線形動物門|線形動物門]]に属する。単に実験動物として[[線虫]]というと、この種を指すことが多い。成虫の体長は約1mmで雌雄同体である。全ての神経細胞が同定されており、[[電子顕微鏡]]での解析により神経細胞同士の接続関係が解明されている。[[wikipedia:ja:多細胞生物|多細胞生物]]として初めて全[[wikipedia:ja:ゲノム配列|ゲノム配列]]が解読された種であり、遺伝子発現調節領域に連結させた[[マーカー遺伝子]]を発現させることにより発生研究などを行うのに適したモデル動物である。 | ||
===ショウジョウバエ=== | ===ショウジョウバエ=== | ||
[[wj:線形動物門|線形動物門]]に属する[[wikipedia:ja:ハエ目|ハエ目]]([[wikipedia:ja:双翅目|双翅目]])[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ科|ショウジョウバエ科]]([[wikipedia:ja:Drosophilidae|''Drosophilidae'']])に属するハエの一種である[[キイロショウジョウバエ]]([[Drosophila melanogaster|''Drosophila melanogaster'']])が研究によく用いられている。[[ショウジョウバエ]]は飼育が容易で、体長2〜3 mmで世代間隔は10日と短い生活環であり、寿命は約2か月である。[[wj:多細胞生物|多細胞生物]]としては線虫に次いで二番目に全ゲノム配列が解読された。ショウジョウバエは、夜(暗期)には[[哺乳類]]の睡眠に類似した行動を示す[[サーカディアンリズム]]([[概日周期]] | [[wj:線形動物門|線形動物門]]に属する[[wikipedia:ja:ハエ目|ハエ目]]([[wikipedia:ja:双翅目|双翅目]])[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ科|ショウジョウバエ科]]([[wikipedia:ja:Drosophilidae|''Drosophilidae'']])に属するハエの一種である[[キイロショウジョウバエ]]([[Drosophila melanogaster|''Drosophila melanogaster'']])が研究によく用いられている。[[ショウジョウバエ]]は飼育が容易で、体長2〜3 mmで世代間隔は10日と短い生活環であり、寿命は約2か月である。[[wj:多細胞生物|多細胞生物]]としては線虫に次いで二番目に全ゲノム配列が解読された。ショウジョウバエは、夜(暗期)には[[哺乳類]]の睡眠に類似した行動を示す[[サーカディアンリズム]]([[概日周期]])を刻み、この周期が変化する[[変異体]]が得られている。また[[記憶]]・[[学習]]に関係する遺伝子が同定され記憶や学習に関与する脳神経回路の解析に用いられている。 | ||
===ヤリイカ=== | ===ヤリイカ=== | ||
[[ヤリイカ]] | [[ヤリイカ]]([[Heterololigo bleekeri|''Heterololigo bleekeri'']])は、分類学上は[[軟体動物門]][[ヤリイカ科]]に属するイカの一種である。イカ類は飼育が非常に難しいとされていたが、1975年に人工飼育が成功し実験動物としての利用が容易となった。非常に太い[[神経線維]]と、巨大な[[シナプス]]を持っているため、神経生理学分野でのモデル生物として用いられる。 | ||
===アフリカツメガエル=== | ===アフリカツメガエル=== | ||
[[アフリカツメガエル]] | [[アフリカツメガエル]]([[Xenopus laevis|''Xenopus laevis'']])は、分類学上は[[wikipedia:ja:ピパ科|ピパ科]][[wikipedia:ja:クセノプス属|クセノプス属]]の[[カエル]]の一種である。成体も水中で生活し、他のカエルと異なり生き餌を必要せず人工飼料で飼育が容易である。[[wj:卵|卵]]は他の[[脊椎動物]]卵と比較してサイズが大きく、[[胚]]操作が容易であることから、特に発生学の分野において有用なモデル動物である。 | ||
===ゼブラフィッシュ=== | ===ゼブラフィッシュ=== | ||
[[ゼブラフィッシュ]] | [[ゼブラフィッシュ]]([[Danio rerio|''Danio rerio'']])は、分類学上では[[wikipedia:ja:コイ目|コイ目]][[wikipedia:ja:コイ科|コイ科]][[wikipedia:ja:ラスボラ亜科|ラスボラ亜科]]に属し、体長5cm ほどの小型の魚である。生活環は約3か月で寿命は約5年である。雑食であるため飼育が容易であること、多産であり1組の雌雄から数百個の卵を得ることができること、得られた卵が透明であり発生が早いこと(受精後24時間で器官形成がほぼ終了し、数日で孵化する)、などの特徴をもつ。2013年に全ゲノム解読が完了し、胚の観察や遺伝子改変が比較的容易であることから、様々な遺伝子改変ゼブラフィッシュが作製され研究に利用されている。 | ||
===キンカチョウ=== | ===キンカチョウ=== | ||
[[キンカチョウ]] | [[キンカチョウ]]([[Taeniopygia guttata|''Taeniopygia guttata'']])は[[wikipedia:ja:スズメ目|スズメ目]][[wikipedia:ja:カエデチョウ科|カエデチョウ科]]に分類される鳥の一種で、体長は10~11cmで寿命は約5年である。性成熟は3ヶ月、1回の産卵数は5~6個、排卵日数は約16日、巣立ちには約21日かかる。キンカチョウは歌を歌う鳥として、[[発声学習]]の研究に適したモデル動物として用いられている。 | ||
===マウス=== | ===マウス=== | ||
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====自然発症マウス==== | ====自然発症マウス==== | ||
[[突然変異]]による特定の遺伝子や[[染色体]]の異常に伴い、様々な異常を示すマウス。偶発的に生じた突然変異個体の中で、異常形質を持つ個体を系統化することで、多くの疾患モデルマウス系統が樹立されている。 | |||
====遺伝子組換えマウス==== | ====遺伝子組換えマウス==== | ||
偶発的である自然発症マウスとは異なり、人為的に遺伝子操作を行って塩基配列に変異を導入したマウス。 | |||
:*'''トランスジェニックマウス''' | :*'''トランスジェニックマウス''' | ||
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===ハダカデバネズミ=== | ===ハダカデバネズミ=== | ||
[[ハダカデバネズミ]]([[Heterocephalus glaber|''Heterocephalus glaber'']])は、[[wikipedia:ja:ハダカデバネズミ属|ハダカデバネズミ属]]に分類される[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]である。体長8~9cm、尾長3~4.5cm、体重30~80gで、体表には細かい体毛しか生えておらず地中で生活する。寿命は長く(平均寿命28歳)、[[wj:癌|癌]]に耐性であり、真社会性の社会構造を持つことが大きな特徴である。 | |||
===コモンマーモセット=== | ===コモンマーモセット=== | ||
[[ | [[コモンマーモセット]]([[Callithrix jacchus|''Callithrix jacchus'']])は、[[wikipedia:ja:霊長目|霊長目]][[wikipedia:ja:オマキザル科|オマキザル科]]([[wikipedia:ja:Cebidae|''Cebidae'']])[[wikipedia:ja:マーモセット属|マーモセット属]]に含まれる。体長が約20cm、体重が200〜400g程度で、寿命は10〜15年である。妊娠期間は約145日、周年繁殖で年間2回出産し、1産で2〜3頭を出産する。3〜4ヶ月程度の授乳期間を経て生後1年〜1年半で性成熟し、繁殖が可能となる。2009年に[[霊長類]]初の遺伝子組換え動物トランスジェニックマーモセットの作製が報告された<ref name=ref5><pubmed>19478777</pubmed></ref>。 | ||
===マカク属サル=== | ===マカク属サル=== | ||
[[マカク属]]は[[wikipedia:ja:霊長目|霊長目]][[wikipedia:ja:オナガザル科|オナガザル科]](''Cercopithecidae'')に含まれる。実験動物としては、主に[[カニクイザル]]、[[アカゲザル]]、[[ニホンザル]]が使用されている。ヒトと同じ霊長類であることから、他の動物と比較してヒトに近い研究が可能である。 | [[マカク属]]は[[wikipedia:ja:霊長目|霊長目]][[wikipedia:ja:オナガザル科|オナガザル科]](''Cercopithecidae'')に含まれる。実験動物としては、主に[[カニクイザル]]、[[アカゲザル]]、[[ニホンザル]]が使用されている。ヒトと同じ霊長類であることから、他の動物と比較してヒトに近い研究が可能である。 | ||
====カニクイザル==== | ==== カニクイザル ==== | ||
カニクイザル([[Macaca fascicularis|''Macaca fascicularis'']])はインドネシア、フィリピンなどの東南アジアに生息する中型の[[サル]]で、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は38~55cm、尾の長さは40~65cm、体重はオスで5~9kg、メスで3~6kg。実験用の主なサル類として神経生理学実験、生殖生理学実験、医薬品の安全性試験やワクチンの検定試験など広範囲に利用されている。 | |||
====アカゲザル==== | ====アカゲザル==== | ||
アカゲザル([[Macaca mulatta|''Macaca mulatta'']]))はインド、中国などのアジア地域を生息し、腰、足、尾の付け根部分が赤褐色をしている中型のサルで、輸入された個体が研究に利用されている。大人の個体で、体長は49~64cm、尾の長さは20~31cm、体重はオスで5~11kg、メスで4~10kg。カニクイザルと同様に広範囲に利用されている。 | |||
====ニホンザル==== | ====ニホンザル==== | ||
ニホンザル([[Macaca fuscata|''Macaca fuscata'']])は日本固有種で、学習能力が高く、他種[[マカクザル]]に比べて遺伝変異性が低い。大人の個体で、体長は47~60cm、尾の長さは7~11cm、体重はオスで6~18kg、メスで6~14kg。ナショナルバイオリソースプロジェクトより国内で繁殖された個体が研究に利用されている。 | |||
==脳機能研究におけるモデル生物の有用性== | ==脳機能研究におけるモデル生物の有用性== | ||
脳神経は、[[感覚]]、[[運動]] | 脳神経は、[[感覚]]、[[運動]]、記憶や[[情動]]などの機能を担っているため、そのメカニズム解析には遺伝子や細胞レベルの研究だけでは不十分であり、実際に生体を用いて経時的に考察ができる動物実験が必要不可欠である。 | ||
基礎的な研究においては、線虫などの発生上、下位の生物が用いられている。線虫は全ての神経細胞が同定されており、神経発生や個々の神経細胞の機能、神経回路を研究するために有用なモデル動物である。ヤリイカは非常に太い神経線維と巨大なシナプスを持っており神経生理学の分野では非常に有用なモデル動物である。アフリカツメガエルは母体外で発生するため、その発生過程を実体顕微鏡下で直接観察することができる利点を持ち、特に[[神経管]]形成の仕組みを解明するためのモデル動物として古くから用いられている。 | |||
[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]は鳴くことで音声コミュニケーションをとっていると考えられており、その中でもキンカチョウはよく利用されている。幼鳥は親鳥の鳴き声から学習し、また発声練習をしてさえずりを学習する。音声コミュニケーションでの社会性行動やさえずりの学習能力に関するモデル動物として有用であると考えられている。 | [[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]は鳴くことで音声コミュニケーションをとっていると考えられており、その中でもキンカチョウはよく利用されている。幼鳥は親鳥の鳴き声から学習し、また発声練習をしてさえずりを学習する。音声コミュニケーションでの社会性行動やさえずりの学習能力に関するモデル動物として有用であると考えられている。 | ||
[[長期増強]]など脳神経に直接処置を加えそれに対する影響や反応を観察する電気生理学的実験や記憶や情動などの高次脳機能や運動機能を調べる行動学的実験などでは、マウス、ラット、マカク属サルなどの実験動物が有用である。特にマウスやラットでは行動解析実験の実験方法や実験機器等が確立されているものが多くあり、実際に動物の行動を観察することで、脳機能に関する様々な情報を得ることが可能である。行動解析実験機器としては、学習・記憶能力を調べる[[モーリス水迷路]]、[[バーンズ円形迷路]]や[[恐怖条件づけ]]実験装置、[[運動協調性]]を調べる[[ローターロッド]]試験、[[不安様行動]]を調べる[[高架式十字迷路]]や[[明暗往来実験]]装置、[[鬱病]]様行動を評価する[[強制水泳]]実験装置や[[テールサスペンションテスト]]装置、[[総合失調症]]を評価する[[プレパルスインヒビション]]テスト装置、概日リズムの評価を行う[[回転かご走行試験]]装置などがある。 | |||
ヒトの病気に類似した疾患を呈する実験動物は疾患モデル動物とよばれる。疾患モデル動物の原因遺伝子の特定とその機能解析は、疾患モデル動物の有用性に大きく関わる。疾患モデル動物への遺伝学的アプローチ法には、[[フォワードジェネティクス]]([[順行性遺伝学]])と[[リバースジェネティクス]]([[逆行性遺伝学]])のふたつの方法がある。 | ヒトの病気に類似した疾患を呈する実験動物は疾患モデル動物とよばれる。疾患モデル動物の原因遺伝子の特定とその機能解析は、疾患モデル動物の有用性に大きく関わる。疾患モデル動物への遺伝学的アプローチ法には、[[フォワードジェネティクス]]([[順行性遺伝学]])と[[リバースジェネティクス]]([[逆行性遺伝学]])のふたつの方法がある。 | ||
*順行性遺伝学<br> | *'''順行性遺伝学'''<br> | ||
表現型より遺伝子を調べる方法。突然変異により生じた異常を持つ動物の表現型(病態や症状など)を調べ、その原因となる遺伝子の存在領域、遺伝子構造、塩基配列等を特定する。 | :表現型より遺伝子を調べる方法。突然変異により生じた異常を持つ動物の表現型(病態や症状など)を調べ、その原因となる遺伝子の存在領域、遺伝子構造、塩基配列等を特定する。 | ||
*逆行性遺伝学<br> | *'''逆行性遺伝学'''<br> | ||
遺伝子より表現型を調べる方法。特定の遺伝子に注目し、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し、その病態や症状などを調べることで、その遺伝子の機能を調べる。 | :遺伝子より表現型を調べる方法。特定の遺伝子に注目し、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し、その病態や症状などを調べることで、その遺伝子の機能を調べる。 | ||
順行性遺伝学と逆行性遺伝学は、表現型から始めるか、遺伝子から始めるか、の違いであるが、ある疾患モデルマウスの発現型から特定された遺伝子を改変したマウスを作製しその発現型が一致するかどうか検討を行うなど相互的な実験が有用である。 | 順行性遺伝学と逆行性遺伝学は、表現型から始めるか、遺伝子から始めるか、の違いであるが、ある疾患モデルマウスの発現型から特定された遺伝子を改変したマウスを作製しその発現型が一致するかどうか検討を行うなど相互的な実験が有用である。 |