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英語名:headache、cephalalgia 独:Kopfschmerz 仏:Céphalée、mal de tête | 英語名:headache、cephalalgia 独:Kopfschmerz 仏:Céphalée、mal de tête | ||
{{box|text=300-500字程度の抄録をお願い致します}} | |||
==定義== | ==定義== | ||
頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wikipedia:ja:首|首]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wikipedia:ja:外傷|外傷]]や[[wikipedia:ja:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。 | 頭痛は頭部の一部あるいは全体の[[痛み]]の総称。後頭部と[[wikipedia:ja:首|首]](後頚部)の境界、眼の奥の痛みも頭痛として扱う。頭皮の[[wikipedia:ja:外傷|外傷]]や[[wikipedia:ja:化膿|化膿]]などによる頭の表面の一部の痛みは通常は頭痛には含めない。 頭痛は、[[発熱]]や[[腹痛]]と同様に症状の名称であるが、慢性的に頭痛発作を繰り返す場合は頭痛性疾患(headache disorder)として扱う。 | ||
==メカニズムと疼痛感受部位== | ==メカニズムと疼痛感受部位== | ||
一般的に[[疼痛]]は発生メカニズムにより、[[侵害受容性痛]] | 一般的に[[疼痛]]は発生メカニズムにより、[[侵害受容性痛]]、[[神経障害性痛]]、[[心因性痛]]に分類される。 | ||
頭痛の多くは侵害受容性痛と考えられている。頭蓋外の[[皮膚]]、[[筋肉]]、[[血管]]には[[痛覚受容器]]が存在し、疼痛感受部位になりうる。皮膚の刺激は限局した疼痛が発生するが、血管が刺激されると、より広汎な部位の疼痛として認識される。頭蓋の[[骨]]組織は痛覚受容器が存在せず、侵害刺激が加わっても痛みを発生しないが、[[骨膜]]には痛覚受容器があり、疼痛が発生する。 | 頭痛の多くは侵害受容性痛と考えられている。頭蓋外の[[皮膚]]、[[筋肉]]、[[血管]]には[[痛覚受容器]]が存在し、疼痛感受部位になりうる。皮膚の刺激は限局した疼痛が発生するが、血管が刺激されると、より広汎な部位の疼痛として認識される。頭蓋の[[骨]]組織は痛覚受容器が存在せず、侵害刺激が加わっても痛みを発生しないが、[[骨膜]]には痛覚受容器があり、疼痛が発生する。 | ||
頭蓋内では、脳実質は痛覚受容器が無く、無痛であるが、[[静脈洞]] | 頭蓋内では、脳実質は痛覚受容器が無く、無痛であるが、[[静脈洞]]や[[脳硬膜]]に分布する動脈、脳底部の動脈は疼痛感受部位である。頭蓋内組織に侵害刺激が加わると、その部位のみならず、[[関連痛]]として広範な部位の頭痛として感じられる。 | ||
頭痛発生の一般的メカニズムとして、痛覚感受部位の炎症、圧迫、牽引、脳動脈の伸展や拡張、炎症、頭頚部の持続的筋収縮、[[脳神経]]([[三叉神経]]、[[中間神経]])や上部[[頚髄]][[脊髄神経]]の圧迫などがあげられる。頭痛の進展や慢性化には[[神経障害性痛]]の関与も示されている。 | 頭痛発生の一般的メカニズムとして、痛覚感受部位の炎症、圧迫、牽引、脳動脈の伸展や拡張、炎症、頭頚部の持続的筋収縮、[[脳神経]]([[三叉神経]]、[[中間神経]])や上部[[頚髄]][[脊髄神経]]の圧迫などがあげられる。頭痛の進展や慢性化には[[神経障害性痛]]の関与も示されている。 | ||
==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版== | ==頭痛の分類と診断 国際頭痛分類第3版== | ||
頭痛の系統的分類は1962年に[[ | 頭痛の系統的分類は1962年に[[wj:アメリカ国立衛生研究所|米国衛生研究所]]のad-hoc委員会で作成された分類が、いわゆる"''ad hoc''分類"として広く認知されていた<ref name=ref1>''Headache AHCoCo'''<br>Classification of headache. <br>''Journal of the American Medical Association.''179:717-718, 1962.</ref>。1988年には[[wikipedia:ja:国際頭痛学会|国際頭痛学会]]が頭痛分類と診断基準の初版<ref name=ref2><pubmed>3048700</pubmed></ref>を刊行し、2004年に第2版<ref name=ref3><pubmed>14979299</pubmed></ref>、2013年に第3版beta版<ref name=ref4><pubmed>23771276</pubmed></ref>が公開されている。第2版<ref name=ref5>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類普及委員会訳'''<br>国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版<br>東京: ''医学書院''; 2007.</ref>、第3版beta版の日本語版<ref name=ref6>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳'''<br>国際頭痛分類第3版beta版<br>東京: ''医学書院''; 2014.</ref>が書籍として刊行されており、[[wikipedia:ja:日本頭痛学会|日本頭痛学会]]のWebサイトで全文を閲覧できる。 | ||
[[wikipedia:ja:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は国際疾病分類との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]] | [[wikipedia:ja:国際頭痛分類|国際頭痛分類]]は国際疾病分類との整合性に配慮されており、分類は階層化されている。さらに、各頭痛の[[操作的診断基準]]が記載されている。第1部 [[一次性頭痛]]、第2部 [[二次性頭痛]]、第3部:[[有痛性脳神経ニューロパチー]]、他の顔面痛およびその他の頭痛に大別され、14のグループに分類されている(表1)。ICHD-3βの頭分類は階層的に作成されており、コード番号が割り振られている。各頭痛性疾患には操作的診断基準が掲載されている。 | ||
[[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[ | [[一次性頭痛]]は、頭痛の原因となる他の患がなく、頭痛そのものが障害となっている神経疾患である。[[片頭痛]]、[[緊張型頭痛]]、[[三叉神経・自律神経性頭痛]]([[群発頭痛]])が代表的である。 | ||
[[二次性頭痛]]とは、頭蓋内や頭部、顔面、全身の疾患の症状として頭痛が出現するものである。二次性頭痛には、頭蓋内疾患、脳血管障害など多くの原因が挙げられる。国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)では、第二部、5章以降に掲載されている(表1)。 | [[二次性頭痛]]とは、頭蓋内や頭部、顔面、全身の疾患の症状として頭痛が出現するものである。二次性頭痛には、頭蓋内疾患、脳血管障害など多くの原因が挙げられる。国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)では、第二部、5章以降に掲載されている(表1)。 | ||
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|+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) | |+ 表1.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)の大項目(グループ) | ||
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| '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[ | | '''第1部:[[一次性頭痛]]'''<br> 1.[[片頭痛]]<br> 2.[[緊張型頭痛]]<br> 3.[[三叉神経・自律神経性頭痛]](TACs)<br> 4.その他の一次性頭痛疾患 | ||
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| '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wikipedia:ja感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wikipedia:ja:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wikipedia:ja:頸|頸]]、[[眼]]、[[wikipedia:ja:耳|耳]]、[[wikipedia:ja:鼻|鼻]]、[[wikipedia:ja:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wikipedia:ja:歯|歯]]、[[wikipedia:ja:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛 | | '''第2部:[[二次性頭痛]]''' <br> 5.頭頸部外傷・傷害による頭痛<br> 6.頭頸部血管障害による頭痛<br> 7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛<br> 8.物質またはその離脱による頭痛<br> 9.[[wikipedia:ja感染症|感染症]]による頭痛<br> 10.[[wikipedia:ja:ホメオスターシス|ホメオスターシス]]障害による頭痛<br> 11.[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]、[[wikipedia:ja:頸|頸]]、[[眼]]、[[wikipedia:ja:耳|耳]]、[[wikipedia:ja:鼻|鼻]]、[[wikipedia:ja:副鼻腔|副鼻腔]]、[[wikipedia:ja:歯|歯]]、[[wikipedia:ja:口|口]]あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛<br> 12.[[精神疾患]]による頭痛 | ||
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|} | |} | ||
==== | ====疫学==== | ||
片頭痛の有病率は北米では一般人口の13%(男性6%、女性18%)、欧州15%(男性7%、女性18%)などの報告がある<ref name=ref7>'''竹島多賀夫, 中島健二'''<br>片頭痛の疫学<br>''脳'' 21.8:411-417, 2005.</ref>。わが国のSakai&Igarashiの調査<ref name=ref8><pubmed>9051330</pubmed></ref>では、片頭痛全体で8.4%、MO 5.8%(男2.1%、女9.3%)、MA 2.6%(男1.4%、女3.6%)であった。Takeshimaらの大山町研究<ref name=ref9><pubmed> 14979878</pubmed></ref>では MO 5.2%(男1.9%、女8.1%)、MA 0.9%(男0.4%、女1.06%)であった。片頭痛は男性より女性に多く、30歳代、40歳代にピークがある。 | 片頭痛の有病率は北米では一般人口の13%(男性6%、女性18%)、欧州15%(男性7%、女性18%)などの報告がある<ref name=ref7>'''竹島多賀夫, 中島健二'''<br>片頭痛の疫学<br>''脳'' 21.8:411-417, 2005.</ref>。わが国のSakai&Igarashiの調査<ref name=ref8><pubmed>9051330</pubmed></ref>では、片頭痛全体で8.4%、MO 5.8%(男2.1%、女9.3%)、MA 2.6%(男1.4%、女3.6%)であった。Takeshimaらの大山町研究<ref name=ref9><pubmed> 14979878</pubmed></ref>では MO 5.2%(男1.9%、女8.1%)、MA 0.9%(男0.4%、女1.06%)であった。片頭痛は男性より女性に多く、30歳代、40歳代にピークがある。 | ||
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====病因と病態仮説==== | ====病因と病態仮説==== | ||
歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[ | 歴史的には、血管説、神経説、[[セロトニン]]学説、[[wikipedia:ja:血小板|血小板]]説などが提唱されてきた。近年の神経科学的知見から、片頭痛の疼痛は、脳硬膜の三叉神経血管系の[[神経原性炎症]]とその後惹起される神経感作が主たる病態と理解されている(三叉神経血管説<ref name=ref10><pubmed>8217498</pubmed></ref>)。神経原性炎症には[[カルシトニン遺伝子関連ペプチド]]([[CGRP]])が重要な関与をしている。この他、発痛物質[[サブスタンスP]]、セロトニン、[[ヒスタミン]]なども神経原性炎症の進展に関与すると考えられている。 | ||
前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で、発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。 | 前兆のある片頭痛でみられる、閃輝暗点は、大脳皮質[[後頭葉]][[視覚野]]で、発生する皮質拡延性抑制がその本態であると考えられている<ref name=ref11><pubmed>11287655</pubmed></ref> <ref name=ref12>'''古和久典'''<br>片頭痛のメカニズム In: 竹島多賀夫、ed. 頭痛治療薬の考え方、使い方<br>東京: ''中外医学社''; 2015:9-16.</ref>。 | ||
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[[神経原性炎症]]と皮質拡延性抑制のより上流の病態として、[[視床下部]]や脳幹の異常を片頭痛発生器(generator)として想定する仮設も提唱されている。 | [[神経原性炎症]]と皮質拡延性抑制のより上流の病態として、[[視床下部]]や脳幹の異常を片頭痛発生器(generator)として想定する仮設も提唱されている。 | ||
家族性片麻痺性片頭痛では、[[Ca2+ | 家族性片麻痺性片頭痛では、[[Ca2+チャンネル|Ca<sup>2+</sup>チャンネル]]遺伝子([[CACNA1A]])の変異が発見され、その後、[[ATP1A2]]遺伝子や[[SCN1A]]遺伝子の変異が報告されている<ref name=ref13>'''竹島多賀夫、今村恵子、中島健二'''<br>【頭痛診療の進歩】 頭痛発症に関与する遺伝子 片麻痺性片頭痛<br>''神経内科'' 66:244-251, 2007.</ref>。いずれも[[イオンチャネル]]に関連する遺伝子であり、片頭痛はチャネル病であるとの説も唱えられているが、片頭痛全般に一般化できるかどうかはさらなる検討が必要である。 | ||
====治療==== | ====治療==== | ||
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'''急性期薬物治療''':片頭痛発作時に頭痛を頓挫させる目的で使用する。[[鎮痛薬]]、[[非ステロイド性抗炎症薬]]([[NSAIDs]])、[[エルゴタミン]]、[[トリプタン]]などが用いられる<ref name=ref14>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -2 片頭痛の急性期治療には、どのような方法があり、どのように使用するか<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:114-117.</ref>。随伴症状の悪心、嘔吐の改善にためには、[[制吐剤]]を併用する<ref name=ref15>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -8 急性期治療において制吐薬の使用は有用か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:131-132.</ref>。 | '''急性期薬物治療''':片頭痛発作時に頭痛を頓挫させる目的で使用する。[[鎮痛薬]]、[[非ステロイド性抗炎症薬]]([[NSAIDs]])、[[エルゴタミン]]、[[トリプタン]]などが用いられる<ref name=ref14>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -2 片頭痛の急性期治療には、どのような方法があり、どのように使用するか<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:114-117.</ref>。随伴症状の悪心、嘔吐の改善にためには、[[制吐剤]]を併用する<ref name=ref15>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>Ⅱ片頭痛 2 -8 急性期治療において制吐薬の使用は有用か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:131-132.</ref>。 | ||
# | #鎮痛薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):[[アセトアミノフェン]]、[[アスピリン]]、[[複合鎮痛薬]]、[[インドメタシン]]、[[cox-2阻害薬]]など | ||
#エルゴタミン: [[クリアミン]] | #エルゴタミン: [[クリアミン]] | ||
#[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。 | #[[トリプタン]]:セロトニン作動薬: セロトニンアナログ: [[スマトリプタン]]、[[ゾルミトリプタン]]、[[エレトリプタン]]、[[リザトリプタン]]、[[ナラトリプタン]]などがある。片頭痛特異的治療薬として広く使用されている。 | ||
#[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認) | #[[ゲパント]]:CGRP[[拮抗薬]](本邦未承認) | ||
#抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体:開発中 | #抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体:開発中 | ||
'''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛 3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref> | '''予防薬''':頭痛発作頻度が高い場合、急性期治療薬で十分なQOL改善が得られない場合に使用する。[[Ca2+拮抗薬|Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]([[ロメリジン]]、[[ベラパミル]])、[[β遮断薬]]([[プロプラノロール]]、[[メトプロロール]])、[[抗てんかん薬]]([[バルプロ酸]]、[[トピラマート]])、[[抗うつ薬]]([[アミトリプチリン]])、[[アンジオテンシン受容体ブロッカー]] [[ARB]]([[カンデサルタン]])、[[ACE阻害剤]]([[リシノプリル]])などが使用される<ref name=ref16>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>II 片頭痛 3. 予防療法<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:145-187.</ref>。漢方薬では、[[呉茱萸湯]]が有効とされている。[[ビタミンB2]]や、サプリメントのfeverfewも有用性が示されている。 | ||
非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。 | 非薬物療法として、[[運動療法]]や、[[認知行動療法]]、[[リラクセーション]]、[[鍼灸療法]]もおこなわれる。片頭痛の運動療法は非発作時に実施する。頭痛発作中は運動により頭痛が増悪する。 | ||
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|} | |} | ||
=== | ===三叉神経・自律神経性頭痛(群発頭痛)=== | ||
[[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。 | [[群発頭痛]]は、[[眼窩]]、眼窩周囲、前頭部、側頭部の三叉神経領域の激痛と、眼充血、流涙、鼻汁漏などの自律神経症状で特徴づけられる頭痛性疾患である。頭痛発作は15分から3時間程度の持続で連日おこり、数カ月間の群発期が過ぎると自然に消退する<ref name=ref6 />。 | ||
2004年の国際頭痛分類第2版で、発作性片側頭痛などの群発頭痛類縁疾患と合わせて三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)としてまとめられた。ICHD-3βではさらにサブタイプの追加整理がなされている(表6) | |||
==== 疫学 ==== | ==== 疫学 ==== | ||
群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。 | 群発頭痛の有病率は10万人あたり56~401人程度と報告されている<ref name=ref20>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 3. 群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛にはどの程度の患者が存在するか.危険因子、増悪因子にはどのようなものが存在するか.<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:221-222.</ref>。 | ||
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'''予防療法''':群発期には発作頻度の低減、頭痛強度の軽減のため予防療法を行う。[[ベラパミル]]、[[副腎皮質ステロイド]]ホルモンなどが使用される<ref name=ref23>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 6. 群発頭痛発作期の予防療法にはどのような薬剤があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: 医学書院; 2013:229-232.</ref>。 | '''予防療法''':群発期には発作頻度の低減、頭痛強度の軽減のため予防療法を行う。[[ベラパミル]]、[[副腎皮質ステロイド]]ホルモンなどが使用される<ref name=ref23>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 6. 群発頭痛発作期の予防療法にはどのような薬剤があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編、ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: 医学書院; 2013:229-232.</ref>。 | ||
群発頭痛の他、[[発作性片側頭痛]]、[[短時間持続性片側神経痛様頭痛発作]]、[[持続性片側頭痛]]などが記載されている。発作性片側頭痛と、持続性片側頭痛はインドメタシンが著効する。診断基準にもインドメタシンへの反応性が規定されており、[[インドメタシン反応性頭痛]]として纏められることもある<ref name=ref24>'''慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会'''<br>IV 群発頭痛 7. 発作性片側頭痛治療薬にはどのような種類があり、どの程度有効か<br>In: 日本神経学会・日本頭痛学会編, ed. 慢性頭痛の診療ガイドライン 2013<br>東京: ''医学書院''; 2013:233-234.</ref>。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
283行目: | 285行目: | ||
===その他の一次性頭痛=== | ===その他の一次性頭痛=== | ||
片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛が主要な一次性頭痛であるが、その他の一次性頭痛として表8のようなものが記載されている<ref name=ref6 />。[[一次性雷鳴頭痛]]は、[[くも膜下出血]]の際の頭痛に類似した突発性の激しい頭痛であるが、他に原因となる疾患がないものである。6.7.3 「[[可逆性脳血管攣縮症候群]](RCVS)による頭痛」との鑑別が問題となる。 | |||
「[[冷たいものの摂取または冷気吸息による頭痛]]」は、かき氷を摂取した際に多くの人が経験する頭痛である。[[アイスクリーム頭痛]]と称されることもある。 | |||
[[睡眠時頭痛]]は[[目覚まし時計頭痛]]とも称される。夜間に一定の時刻に頭痛で目覚めるが、群発頭痛にみられるような自律神経症状を伴わない。[[カフェイン]]や[[リチウム]]が有効である。 | [[睡眠時頭痛]]は[[目覚まし時計頭痛]]とも称される。夜間に一定の時刻に頭痛で目覚めるが、群発頭痛にみられるような自律神経症状を伴わない。[[カフェイン]]や[[リチウム]]が有効である。 | ||
385行目: | 387行目: | ||
6.8.3 その他の遺伝性血管異常症による頭痛 | 6.8.3 その他の遺伝性血管異常症による頭痛 | ||
|- | |- | ||
|6.9 | |6.9 [[下垂体卒中]]による頭痛 | ||
|- | |- | ||
|} | |} | ||
399行目: | 401行目: | ||
===ホメオスターシス障害による頭痛=== | ===ホメオスターシス障害による頭痛=== | ||
10.1.2 「[[飛行機頭痛]]」が、ICHD-3βでこの章に加えられた。また、付録にはA10.8. | 10.1.2 「[[飛行機頭痛]]」が、ICHD-3βでこの章に加えられた。また、付録にはA10.8.1「[[宇宙飛行による頭痛]]」も加えられている。10.3「[[高血圧性頭痛]]」もここで定義されている。通常の高血圧は頭痛の原因とみなされず、多くは頭痛の結果として血圧が上昇傾向にあるということにも注意が必要である(表11)。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
423行目: | 425行目: | ||
|10.5 絶食による頭痛 | |10.5 絶食による頭痛 | ||
|- | |- | ||
|10.6 心臓性頭痛 | |10.6 [[心臓性頭痛]] | ||
|- | |- | ||
|10.7 その他のホメオスターシス障害による頭痛 | |10.7 その他のホメオスターシス障害による頭痛 | ||
430行目: | 432行目: | ||
===頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛=== | ===頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛=== | ||
ICHD-2のA11. | ICHD-2のA11.5.1「[[鼻粘膜接触点頭痛]]」はA11.5.3「[[鼻粘膜、鼻甲介、鼻中隔の障害による頭痛]]」に集約されている(表12)。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ 表12.11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(ICHD-3β、抜粋) | |+ 表12.11.頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛(ICHD-3β、抜粋) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.1 [[頭蓋骨疾患による頭痛]](Headache attributed to disorder of cranial bone) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.2 [[頸部疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the neck) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.3 [[眼疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the eyes) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.4 [[耳疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the ears) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.5 [[鼻・副鼻腔疾患による頭痛]] (Headache attributed to disorder of the nose or paranasal sinuses) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.6 [[歯・顎の障害による頭痛]](Headache attributed to disorder of the teeth or jaw) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.7 [[顎関節症(TMD)による頭痛]] (Headache attributed to temporomandibular disorder:TMD) | ||
|- | |- | ||
|11. | |11.8 [[茎突舌骨靱帯炎による頭痛あるいは顔面痛]] (Head or facial pain attributed to inflammation of the stylohyoid ligament) | ||
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|11. | |11.9 [[その他の頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛]] | ||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+ | |+ 表13.11.[[頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頸部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛]](ICHD-3β、抜粋) | ||
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|13.1 [[三叉神経痛]](Trigeminal neuralgia)<br> | |13.1 [[三叉神経痛]](Trigeminal neuralgia)<br> | ||
503行目: | 505行目: | ||
==その他の頭痛性疾患== | ==その他の頭痛性疾患== | ||
第14章には14. | 第14章には14.1 「[[分類不能の頭痛]]」、14.2「[[詳細不明の頭痛]]」が掲載されている。ICHD-3βの頭痛分類のいずれにも該当しないものは「分類不能の頭痛」として記載しておき、将来の知見の集積をまつように設計されている。 | ||
頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。 | 頭痛の存在は確実であるが、正確な頭痛の分類に必要な情報が不足している場合には「詳細不明の頭痛」としてコード化しておく。 |