16,040
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
6行目: | 6行目: | ||
</div> | </div> | ||
英語名: P1 receptor 独:P1 | 英語名: P1 purinergic receptor 独:P1 purinerge Rezeptoren 仏:récepteur purinergique P1 | ||
{{box|text= | {{box|text= P1受容体とは、アデノシンをリガンドとする一群の細胞表面受容体である。Gタンパク質共役型受容体(GPCR)で、A1、A2A、A2BおよびA3に分類される。}} | ||
{{PBB|geneid=134}} | {{PBB|geneid=134}} | ||
{{PBB|geneid=135}} | {{PBB|geneid=135}} | ||
35行目: | 35行目: | ||
|} | |} | ||
編集部にて[[w:Purinergic receptor|Wikipedia]]より翻訳、改変。 | 編集部にて[[w:Purinergic receptor|Wikipedia]]より翻訳、改変。 | ||
== サブタイプ == | |||
== A1受容体 == | === A1受容体 === | ||
[[Giタンパク質|Gi]]/[[Goタンパク質]]共役型受容体である。[[カフェイン]]の作用標的としても知られている。[[脳]]や[[脊髄]]などの[[中枢神経系]]組織に加え、[[心臓]]や[[腎臓]]、[[肺]]といった末梢組織を含む全身の様々な組織に発現している<ref name=ref3><pubmed>8234299</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>18984166</pubmed></ref>。A1受容体は[[P2Y1受容体]]とヘテロマーを形成することも知られている<ref name=ref5><pubmed>12417330</pubmed></ref>。これまでに数十種類の選択的[[作動薬]]や[[拮抗薬]]が合成され、その機能解明も進んでいる。例えば、脳において[[興奮性シナプス]]伝達を抑制的に制御していることが知られており<ref name=ref6><pubmed>23332692</pubmed></ref>、A1受容体欠損マウスの[[海馬]]においては、シナプス伝達の異常興奮が観察される<ref name=ref7><pubmed>11470917</pubmed></ref>。また、[[心筋]]の収縮力や[[心拍数]]の制御に加え、[[血管]]拡張作用、[[体温調節]]機構にも関与していると考えられている<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>11641103</pubmed></ref>。A1受容体欠損マウスは、[[てんかん]]症状や[[痛覚]]過敏症状、[[不安]]関連行動を呈するほか、[[インスリン]][[分泌]]の亢進や低酸素性障害や[[虚血]][[ストレス]]に対する抵抗性の低下が観察される<ref name=ref7 /> <ref name=ref9><pubmed>15661449</pubmed></ref>。 | [[Giタンパク質|Gi]]/[[Goタンパク質]]共役型受容体である。[[カフェイン]]の作用標的としても知られている。[[脳]]や[[脊髄]]などの[[中枢神経系]]組織に加え、[[心臓]]や[[腎臓]]、[[肺]]といった末梢組織を含む全身の様々な組織に発現している<ref name=ref3><pubmed>8234299</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>18984166</pubmed></ref>。A1受容体は[[P2Y1受容体]]とヘテロマーを形成することも知られている<ref name=ref5><pubmed>12417330</pubmed></ref>。これまでに数十種類の選択的[[作動薬]]や[[拮抗薬]]が合成され、その機能解明も進んでいる。例えば、脳において[[興奮性シナプス]]伝達を抑制的に制御していることが知られており<ref name=ref6><pubmed>23332692</pubmed></ref>、A1受容体欠損マウスの[[海馬]]においては、シナプス伝達の異常興奮が観察される<ref name=ref7><pubmed>11470917</pubmed></ref>。また、[[心筋]]の収縮力や[[心拍数]]の制御に加え、[[血管]]拡張作用、[[体温調節]]機構にも関与していると考えられている<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>11641103</pubmed></ref>。A1受容体欠損マウスは、[[てんかん]]症状や[[痛覚]]過敏症状、[[不安]]関連行動を呈するほか、[[インスリン]][[分泌]]の亢進や低酸素性障害や[[虚血]][[ストレス]]に対する抵抗性の低下が観察される<ref name=ref7 /> <ref name=ref9><pubmed>15661449</pubmed></ref>。 | ||
==A2A受容体== | ===A2A受容体=== | ||
[[Gsタンパク質]]共役型GPCRで、受容体刺激により[[アデニル酸シクラーゼ]]が活性化され、[[cAMP]]の産生が亢進する。A1受容体<ref name=ref10><pubmed>16481441</pubmed></ref>や他の[[神経伝達物質]]受容体([[ドーパミン]][[D2受容体]]<ref name=ref11><pubmed>16012194</pubmed></ref>, [[D3受容体]]<ref name=ref12><pubmed>15539641</pubmed></ref>, [[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR5]]<ref name=ref13><pubmed>18246094 </pubmed></ref>, [[CB1受容体]]<ref name=ref14><pubmed>18691604</pubmed></ref>)とヘテロマーを形成することがある。A1受容体と同様に、カフェインが拮抗薬として作用する。また、A2A受容体に対する選択的作用薬として[[CGS21680]]や[[DPMA]]、拮抗薬として[[イストラデフィリン]]や[[SCH-58261]]がある<ref name=ref15><pubmed>22371149</pubmed></ref>。A2A受容体は、生体内に幅広く分布し、[[線条体]]や海馬、[[冠血管]]、肺、[[血小板]]、腎臓などに発現する<ref name=ref16><pubmed>9822147</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>8522976</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>8732278</pubmed></ref>。生理的役割としては、血管拡張、[[睡眠]]、神経活動制御があり、A2A受容体欠損マウスにおいて不安行動及び[[攻撃性]]増加や[[痛覚]]鈍麻、心拍数増加、血圧上昇、血小板凝集が見られる<ref name=ref19><pubmed>8650205</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>9262401</pubmed></ref>。最近、[[ミクログリア]]細胞にA2A受容体が発現し、突起の退縮に関与していることも報告された<ref name=ref21><pubmed>19525944</pubmed></ref>。現在、A2A受容体作動薬[[レガデノソン]](レキスキャン®、アステラス製薬/CVセラピューティクス)が心筋血流イメージングの薬物負荷剤として、A2A受容体拮抗薬イストラデフィリン(ノウリアスト®、協和発酵キリン)が[[パーキンソン病]]治療薬として用いられている。 | [[Gsタンパク質]]共役型GPCRで、受容体刺激により[[アデニル酸シクラーゼ]]が活性化され、[[cAMP]]の産生が亢進する。A1受容体<ref name=ref10><pubmed>16481441</pubmed></ref>や他の[[神経伝達物質]]受容体([[ドーパミン]][[D2受容体]]<ref name=ref11><pubmed>16012194</pubmed></ref>, [[D3受容体]]<ref name=ref12><pubmed>15539641</pubmed></ref>, [[代謝型グルタミン酸受容体]][[mGluR5]]<ref name=ref13><pubmed>18246094 </pubmed></ref>, [[CB1受容体]]<ref name=ref14><pubmed>18691604</pubmed></ref>)とヘテロマーを形成することがある。A1受容体と同様に、カフェインが拮抗薬として作用する。また、A2A受容体に対する選択的作用薬として[[CGS21680]]や[[DPMA]]、拮抗薬として[[イストラデフィリン]]や[[SCH-58261]]がある<ref name=ref15><pubmed>22371149</pubmed></ref>。A2A受容体は、生体内に幅広く分布し、[[線条体]]や海馬、[[冠血管]]、肺、[[血小板]]、腎臓などに発現する<ref name=ref16><pubmed>9822147</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>8522976</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>8732278</pubmed></ref>。生理的役割としては、血管拡張、[[睡眠]]、神経活動制御があり、A2A受容体欠損マウスにおいて不安行動及び[[攻撃性]]増加や[[痛覚]]鈍麻、心拍数増加、血圧上昇、血小板凝集が見られる<ref name=ref19><pubmed>8650205</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>9262401</pubmed></ref>。最近、[[ミクログリア]]細胞にA2A受容体が発現し、突起の退縮に関与していることも報告された<ref name=ref21><pubmed>19525944</pubmed></ref>。現在、A2A受容体作動薬[[レガデノソン]](レキスキャン®、アステラス製薬/CVセラピューティクス)が心筋血流イメージングの薬物負荷剤として、A2A受容体拮抗薬イストラデフィリン(ノウリアスト®、協和発酵キリン)が[[パーキンソン病]]治療薬として用いられている。 | ||
==A2B受容体== | ===A2B受容体=== | ||
A2A受容体と同様にGs共役型GPCRであるが、アデノシンへの親和性が低く、アデノシンの他に[[ネトリン-1]]の受容体としても機能する<ref name=ref22><pubmed>11048721</pubmed></ref>。A2B受容体選択的作動薬として[[BAY 60-6583]]や[[NECA]]、拮抗薬として[[MRS-1754]]や[[MRE-2029-F20]]、[[CVT6883]]、[[PSB-1115]]などがある<ref name=ref15 />。A2B受容体は、中枢神経系を含め、全身に広く発現しており<ref name=ref23><pubmed>9443164</pubmed></ref>、特に脳や腸、腎臓、肺に多く、心臓や[[大動脈]]にもわずかに発現が見られるが、[[肝臓]]ではほとんど見られない<ref name=ref24><pubmed>16823489</pubmed></ref>。また、[[肥満細胞]]や[[線維芽細胞]]にも発現する<ref name=ref23 /> <ref name=ref25><pubmed>17200408</pubmed></ref>。A2B受容体欠損マウスにおいて、[[リポ多糖]](LPS)による炎症及び[[サイトカイン]]産生の抑制や[[リンパ球]]の血管付着の増加<ref name=ref24 />、肥満細胞の活性化及び[[IgE]]誘発[[アナフィラキシー]]亢進<ref name=ref25 />、心筋虚血プレコンデショニングによる心臓保護作用の抑制が報告されている<ref name=ref26><pubmed>17353435</pubmed></ref>。 | A2A受容体と同様にGs共役型GPCRであるが、アデノシンへの親和性が低く、アデノシンの他に[[ネトリン-1]]の受容体としても機能する<ref name=ref22><pubmed>11048721</pubmed></ref>。A2B受容体選択的作動薬として[[BAY 60-6583]]や[[NECA]]、拮抗薬として[[MRS-1754]]や[[MRE-2029-F20]]、[[CVT6883]]、[[PSB-1115]]などがある<ref name=ref15 />。A2B受容体は、中枢神経系を含め、全身に広く発現しており<ref name=ref23><pubmed>9443164</pubmed></ref>、特に脳や腸、腎臓、肺に多く、心臓や[[大動脈]]にもわずかに発現が見られるが、[[肝臓]]ではほとんど見られない<ref name=ref24><pubmed>16823489</pubmed></ref>。また、[[肥満細胞]]や[[線維芽細胞]]にも発現する<ref name=ref23 /> <ref name=ref25><pubmed>17200408</pubmed></ref>。A2B受容体欠損マウスにおいて、[[リポ多糖]](LPS)による炎症及び[[サイトカイン]]産生の抑制や[[リンパ球]]の血管付着の増加<ref name=ref24 />、肥満細胞の活性化及び[[IgE]]誘発[[アナフィラキシー]]亢進<ref name=ref25 />、心筋虚血プレコンデショニングによる心臓保護作用の抑制が報告されている<ref name=ref26><pubmed>17353435</pubmed></ref>。 | ||
==A3受容体== | ===A3受容体=== | ||
薬理学的機能同定前にクローニングされた唯一のアデノシン受容体サブタイプで、Gi、Goあるいは[[Gqタンパク質]]と共役し細胞内にシグナルを伝える<ref name=ref6 />。肺や腎臓、心臓、脳、脾臓、肝臓など全身の様々な組織に発現しているが、その発現レベルは動物種間で大きく異なっている<ref name=ref4 /> <ref name=ref27><pubmed>18029023</pubmed></ref>。例えば、[[ラット]]では[[睾丸]]や肥満細胞で発現量が高いのに対して、ヒトでは肺や肝臓でその発現が高く、脳や大動脈での発現量は低い<ref name=ref3 />。A3受容体欠損マウスにおいては、野生型マウスと比較して、眼圧の低下<ref name=ref28><pubmed>12202525</pubmed></ref>や局所炎症反応の減少<ref name=ref29><pubmed>12220556</pubmed></ref>など、いくつかの表現型の違いが観察される。 | 薬理学的機能同定前にクローニングされた唯一のアデノシン受容体サブタイプで、Gi、Goあるいは[[Gqタンパク質]]と共役し細胞内にシグナルを伝える<ref name=ref6 />。肺や腎臓、心臓、脳、脾臓、肝臓など全身の様々な組織に発現しているが、その発現レベルは動物種間で大きく異なっている<ref name=ref4 /> <ref name=ref27><pubmed>18029023</pubmed></ref>。例えば、[[ラット]]では[[睾丸]]や肥満細胞で発現量が高いのに対して、ヒトでは肺や肝臓でその発現が高く、脳や大動脈での発現量は低い<ref name=ref3 />。A3受容体欠損マウスにおいては、野生型マウスと比較して、眼圧の低下<ref name=ref28><pubmed>12202525</pubmed></ref>や局所炎症反応の減少<ref name=ref29><pubmed>12220556</pubmed></ref>など、いくつかの表現型の違いが観察される。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" |