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脳に整然と配置されているミクログリアが脳細胞を無差別に攻撃するなどありえない。では、どのような条件でミクログリアの活性が高まり、そのようにして特定の損傷を受けた細胞のみを貪食するのか。 | 脳に整然と配置されているミクログリアが脳細胞を無差別に攻撃するなどありえない。では、どのような条件でミクログリアの活性が高まり、そのようにして特定の損傷を受けた細胞のみを貪食するのか。 | ||
損傷を受けた脳細胞からはATPが放出される。細胞外液のATP濃度は正常状態では低く保たれているので、ATP濃度の高い部位はそこに損傷細胞が存在することを示す信号になる。ミクログリアは多様な[[プリン受容体]] | 損傷を受けた脳細胞からはATPが放出される。細胞外液のATP濃度は正常状態では低く保たれているので、ATP濃度の高い部位はそこに損傷細胞が存在することを示す信号になる。ミクログリアは多様な[[プリン受容体]]を発現しているが、そのうち、P2X<sub>4</sub>受容体が刺激されると、ミクログリアの突起はATP濃度の高い方向に向かって伸びて行く<ref><pubmed>17299767</pubmed></ref>。さらに、その部位に近づくと、[[P2Y12受容体|P2Y<sub>12</sub>受容体]]が刺激され、[[BDNF]]などの[[ニューロトロフィン]]を遊離する<ref><pubmed>20653959</pubmed></ref>。この段階では損傷部位の修復のために機能しているようである。ここまでの過程を見ると、損傷を受けた脳細胞はATPを救助信号として、「私を見つけて、助けて、Find me and help me」と叫んでいるようである。 | ||
ところが、その救助がすでに間に合わない状態である場合にミクログリアはアメーバ状に形を変えて、その場に移動する。そして、損傷を受けた細胞を貪食する。この時、貪食する必要のある死んだ細胞を見つけ出している。これが成り立つためには、死にかかった細胞から出される信号を認知する必要がある。実はミクログリアにはもう一つプリン受容体、[[P2Y6受容体]] | ところが、その救助がすでに間に合わない状態である場合にミクログリアはアメーバ状に形を変えて、その場に移動する。そして、損傷を受けた細胞を貪食する。この時、貪食する必要のある死んだ細胞を見つけ出している。これが成り立つためには、死にかかった細胞から出される信号を認知する必要がある。実はミクログリアにはもう一つプリン受容体、[[P2Y6受容体|P2Y<sub>6</sub>受容体]]が存在している。この受容体は不思議なことに、ATPやADPには反応しない。発見以後しばらくはその役目が不明であったが、やがて、P2Y<sub>6</sub>受容体を活性化するのは[[ウリジン二リン酸]]([[UDP]])であることが明らかにされた<ref><pubmed>19262132</pubmed></ref>。 | ||
UDPは通常細胞外に遊離される分子ではない。死にかかった細胞からごく少量遊離されるだけである。P2Y<sub>6</sub>受容体がUDPで刺激されると、ミクログリアのアメーバ運動が活性化され貪食機能が活性化される。こうして、貪食能が高まったミクログリアが周辺に分布する細胞のすべてを貪食するのはない。もう一つ条件がある。死んで[[細胞膜]]が壊れた時に、提示される膜成分のリン脂質の成分である[[ホスファチジルセリン]]である。これを提示していることを認識して、その細胞のみを貪食する。このホスファチジルセリンは「私を食べて信号、Eat me signal」なのである<ref><pubmed>3464483</pubmed></ref>(図15)。ミクログリアは単なる破壊者でも、無差別な掃除係でもない。非常に高度な認識機能を備えた、環境整備係として機能していることがわかる。 | |||
====シナプスの保守点検==== | ====シナプスの保守点検==== |