「記憶痕跡」の版間の差分

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 記憶痕跡の形成には、シナプス可塑性が重要な役割を果たしていると考えられている。外界から情報(刺激)を得たときに、脳内ではさまざまな組み合わせのニューロンが活動する。同期活動したニューロン間のシナプスではシナプス伝達効率の上昇現象である長期増強(long-term potentiation; LTP,図5)が起きていると考えられている。
 記憶痕跡の形成には、シナプス可塑性が重要な役割を果たしていると考えられている。外界から情報(刺激)を得たときに、脳内ではさまざまな組み合わせのニューロンが活動する。同期活動したニューロン間のシナプスではシナプス伝達効率の上昇現象である長期増強(long-term potentiation; LTP,図5)が起きていると考えられている。


 LTPはニューロン間の信号の受け渡しの場であるシナプスで観察される経験依存的な神経可塑性の代表例であり、ニューロンにおける[[AMPA型グルタミン酸受容体|α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸型グルタミン酸受容体]](AMPA型受容体)の新規タンパク質合成依存的な発現量の上昇を伴う<ref><pubmed>9716131</pubmed></ref>。実際に、げっ歯類を用いた[[恐怖音条件付け学習]]の際に外側扁桃体のニューロンにおいて学習依存的に機能的なAMPA型受容体がシナプスへ組み込まれ、このAMPA型受容体の組み込みを阻害すると[[LTP]]だけでなく恐怖記憶の獲得および保持が阻害される<ref><pubmed>15746389</pubmed></ref>。加えて、LTPおよび記憶の保持はともに新規タンパク質合成が必要である<ref><pubmed>3401749</pubmed></ref> <ref><pubmed>2874497</pubmed></ref>。さらに、記憶形成時に実際にLTPが観察されたことから、LTPは記憶のシナプスレベルでの素過程であると考えられている。
 LTPはニューロン間の信号の受け渡しの場であるシナプスで観察される経験依存的な神経可塑性の代表例であり、ニューロンにおける[[AMPA型グルタミン酸受容体|α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸型グルタミン酸受容体]](AMPA型受容体)の新規タンパク質合成依存的な発現量の上昇を伴う<ref><pubmed>9716131</pubmed></ref>。実際に、げっ歯類を用いた[[恐怖音条件づけ]]学習の際に外側扁桃体のニューロンにおいて学習依存的に機能的なAMPA型受容体がシナプスへ組み込まれ、このAMPA型受容体の組み込みを阻害すると[[LTP]]だけでなく恐怖記憶の獲得および保持が阻害される<ref><pubmed>15746389</pubmed></ref>。加えて、LTPおよび記憶の保持はともに新規タンパク質合成が必要である<ref><pubmed>3401749</pubmed></ref> <ref><pubmed>2874497</pubmed></ref>。さらに、記憶形成時に実際にLTPが観察されたことから、LTPは記憶のシナプスレベルでの素過程であると考えられている。


 これらのことより、学習時に活動したニューロン同士は強いシナプス結合で結ばれた回路を形成しており、ニューロン間のシナプスにおいて生じる神経可塑的変化(シナプス可塑性)がシナプスレベルでの記憶痕跡となりうること、さらに、記憶が経験依存的に活動したニューロン間でのシナプス可塑性を介して脳内に保存されることが示唆された。このようにしてシナプス伝達が増強したニューロンセットが活動することにより記憶の想起が行われる(図1)。
 これらのことより、学習時に活動したニューロン同士は強いシナプス結合で結ばれた回路を形成しており、ニューロン間のシナプスにおいて生じる神経可塑的変化(シナプス可塑性)がシナプスレベルでの記憶痕跡となりうること、さらに、記憶が経験依存的に活動したニューロン間でのシナプス可塑性を介して脳内に保存されることが示唆された。このようにしてシナプス伝達が増強したニューロンセットが活動することにより記憶の想起が行われる(図1)。

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