「アセチル化」の版間の差分

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=== ヒストンアセチル化と神経機能 ===
=== ヒストンアセチル化と神経機能 ===


 哺乳類においてヒストンのアセチル化、脱アセチル化、及びHAT、HDACの活性は[[シナプス]]の[[可塑性]]や記憶の形成に関与する。[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の活性化及びそれに伴う[[protein kinase A]]([[PKA]])、[[protein kinase C]]([[PKC]])経路の活性化はヒストンH3のアセチル化を誘導し<ref name="ref3"><pubmed>18003853</pubmed></ref>、海馬神経のKClによる[[脱分極]]はヒストンH2Bのアセチル化を促進する<ref><pubmed>20167251</pubmed></ref>。さらに、マウスでの記憶学習訓練もヒストンH3のアセチル化を誘導することが知られている<ref name="ref3" /><ref><pubmed>18638560</pubmed></ref>。また、[[恐怖条件付け]]が[[脳由来神経栄養因子]]([[brain-derived neurotrophic factor]]:[[BDNF]])[[プロモーター]]領域のヒストンH3のアセチル化と[[ホスホアセチル化]]を亢進することが報告されている<ref name="ref6"><pubmed>17522015</pubmed></ref><ref><pubmed>18923034</pubmed></ref>。ヒストンH3のアセチル化亢進は[[記憶]]の[[再固定]]や[[想起]]の際に誘導されることも明らかになっており、ヒストンのアセチル化が記憶に密接に関わっていることが示されている<ref><pubmed>17880897</pubmed></ref>。同様にHDACやHATの活性も神経機能に重要である。HDACの阻害は、シナプス間での神経伝達物質の伝達効率の指標であり、学習・記憶に重要とされる[[長期増強]](long-term potentiation:LTP)や記憶形成を増強させ<ref><pubmed>19424149</pubmed></ref><ref><pubmed>19470462</pubmed></ref>、恐怖条件付けによる恐怖の消去を促進させる<ref name="ref6" /><ref><pubmed>17907845</pubmed></ref>。代表的なHATであるCBPの変異マウスはLTP及び記憶形成が障害を受け<ref><pubmed>15805310</pubmed></ref>、抑制性の切断型p300の[[トランスジェニックマウス]]やPCAF欠損マウスでは記憶障害が起こることが報告されている<ref><pubmed>17761541</pubmed></ref><ref><pubmed>17805310</pubmed></ref>。さらに、重度の脳萎縮、及び神経脱落を起こしたマウスにHDAC阻害剤を投与すると、[[樹状突起]]の再形成と[[シナプス]]の増加が観察され、学習能力や長期記憶が回復することが明らかになっている<ref><pubmed>17468743</pubmed></ref>。これらのように、シナプス可塑性(LTP)や記憶形成においてヒストンのアセチル化とそれを制御する酵素は非常に重要な役割を果たしている。  
 哺乳類においてヒストンのアセチル化、脱アセチル化、及びHAT、HDACの活性は[[シナプス]]の[[可塑性]]や記憶の形成に関与する。[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の活性化及びそれに伴う[[protein kinase A]]([[PKA]])、[[protein kinase C]]([[PKC]])経路の活性化はヒストンH3のアセチル化を誘導し<ref name="ref3"><pubmed>18003853</pubmed></ref>、海馬神経のKClによる[[脱分極]]はヒストンH2Bのアセチル化を促進する<ref><pubmed>20167251</pubmed></ref>。さらに、マウスでの記憶学習訓練もヒストンH3のアセチル化を誘導することが知られている<ref name="ref3" /><ref><pubmed>18638560</pubmed></ref>。また、[[恐怖条件づけ]]が[[脳由来神経栄養因子]]([[brain-derived neurotrophic factor]]:[[BDNF]])[[プロモーター]]領域のヒストンH3のアセチル化と[[ホスホアセチル化]]を亢進することが報告されている<ref name="ref6"><pubmed>17522015</pubmed></ref><ref><pubmed>18923034</pubmed></ref>。ヒストンH3のアセチル化亢進は[[記憶]]の[[再固定]]や[[想起]]の際に誘導されることも明らかになっており、ヒストンのアセチル化が記憶に密接に関わっていることが示されている<ref><pubmed>17880897</pubmed></ref>。同様にHDACやHATの活性も神経機能に重要である。HDACの阻害は、シナプス間での神経伝達物質の伝達効率の指標であり、学習・記憶に重要とされる[[長期増強]](long-term potentiation:LTP)や記憶形成を増強させ<ref><pubmed>19424149</pubmed></ref><ref><pubmed>19470462</pubmed></ref>、恐怖条件づけによる恐怖の消去を促進させる<ref name="ref6" /><ref><pubmed>17907845</pubmed></ref>。代表的なHATであるCBPの変異マウスはLTP及び記憶形成が障害を受け<ref><pubmed>15805310</pubmed></ref>、抑制性の切断型p300の[[トランスジェニックマウス]]やPCAF欠損マウスでは記憶障害が起こることが報告されている<ref><pubmed>17761541</pubmed></ref><ref><pubmed>17805310</pubmed></ref>。さらに、重度の脳萎縮、及び神経脱落を起こしたマウスにHDAC阻害剤を投与すると、[[樹状突起]]の再形成と[[シナプス]]の増加が観察され、学習能力や長期記憶が回復することが明らかになっている<ref><pubmed>17468743</pubmed></ref>。これらのように、シナプス可塑性(LTP)や記憶形成においてヒストンのアセチル化とそれを制御する酵素は非常に重要な役割を果たしている。


=== ヒストンアセチル化と神経疾患 ===
=== ヒストンアセチル化と神経疾患 ===

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