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 Cornichon、Cornichon homolog (CNIH)は酵母から哺乳類まで保存されているタンパク質ファミリーである<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。その一部は、イオンチャネル型のグルタミン酸受容体と特異的に結合し、補助サブユニットとしてチャネル活性や細胞膜発現を制御すると考えられている。哺乳類CNIH2/3はAMPA型グルタミン酸受容体と結合しチャネル活性を制御することが<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>、線虫ホモログのCNI-1は グルタミン酸受容体GLR-1の局在を調整することが報告されている<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。
 Cornichon、Cornichon homolog (CNIH)は酵母から哺乳類まで保存されているタンパク質ファミリーである<ref name=ref1><pubmed>16396907</pubmed></ref>。その一部は、イオンチャネル型のグルタミン酸受容体と特異的に結合し、補助サブユニットとしてチャネル活性や細胞膜発現を制御すると考えられている。哺乳類CNIH2/3はAMPA型グルタミン酸受容体と結合しチャネル活性を制御することが<ref name=ref2><pubmed>   19265014</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>23522044</pubmed></ref>、線虫ホモログのCNI-1は グルタミン酸受容体GLR-1の局在を調整することが報告されている<ref name=ref4><pubmed>24094107</pubmed></ref>。
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==イントロダクション==
==イントロダクション==
 cornichon(cni)の[[ショウジョウバエ]]変異体は、gurken(grk、TGF様成長因子)変異体と類似の卵軸形成異常を示す変異体として見出された<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。これらの変異体の卵は、背足付属器(dorsal appendage)を欠損し長く伸びた形態を示す(gurkenはキュウリ(独)、cornichonはキュウリの漬物(仏)の意)。CNIはショウジョウバエにおいて小胞体からのGRKの搬出・[[分泌]]を制御する<ref name=ref1 />。
 cornichon(cni)の[[ショウジョウバエ]]変異体は、gurken(grk、TGF様成長因子)変異体と類似の卵軸形成異常を示す変異体として見出された<ref name=ref5><pubmed>2123463</pubmed></ref>。これらの変異体の卵は、背足付属器(dorsal appendage)を欠損し長く伸びた形態を示す(gurkenはキュウリ(独)、cornichonはキュウリの漬物(仏)の意)。CNIはショウジョウバエにおいて小胞体からのGRKの搬出・[[分泌]]を制御する<ref name=ref1 />。


 一方で近年、[[哺乳類]]のCornichon homolog isoform 2/3(CNIH2/3)が[[イオンチャネル]]共役型のAMPA型[[グルタミン酸受容体]](AMPA受容体)の結合因子として同定された<ref name=ref2 />。
 一方で近年、[[哺乳類]]のCornichon homolog isoform 2/3(CNIH2/3)が[[イオンチャネル]]共役型のAMPA型[[グルタミン酸受容体]](AMPA受容体)の結合因子として同定された<ref name=ref2 />。
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[[image:コーニション2.png|thumb|300px|'''図2.コーニションホモログの系統樹''']]
[[image:コーニション2.png|thumb|300px|'''図2.コーニションホモログの系統樹''']]


 哺乳類においてはCNIH1-4の4つの分子が報告されている。ほかに、[[線虫]]ではCornichon-1(CNI-1)の1つ4、ショウジョウバエではCornichon(CNI)とCornichon related(CNIR)の2つが同定されており<ref name=ref1 />、酵母においてこれらと相同性の高い分子としてErv14pが知られている<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref>(図2)<ref name=ref1 />。
 哺乳類においてはCNIH1-4の4つの分子が報告されている。ほかに、[[線虫]]ではCornichon-1(CNI-1)の1つ4、ショウジョウバエではCornichon(CNI)とCornichon related(CNIR)の2つが同定されており<ref name=ref1 />、酵母においてこれらと相同性の高い分子としてErv14pが知られている<ref name=ref6><pubmed>9732282</pubmed></ref>(図2)<ref name=ref1 />。


==分布==
==分布==
 酵母、ショウジョウバエ、線虫、哺乳類において、蛍光タグなどとの融合タンパク質の発現によって、小胞体と[[ゴルジ体]] への局在が示されている<ref name=ref1 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref6 />。また線虫や哺乳類においてCNI-1、CNIH2/3は、細胞表面・[[シナプス]]へも局在することが示唆されており<ref name=ref4 /> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>、実際にCNIH2/3遺伝子欠損[[マウス]]がAMPA受容体のチャネル特性を変化させることから<ref name=ref3 />、CNIH2/3とAMPA受容体は細胞表面やシナプスにおいて共局在すると考えられている。ただし、内在性CNIH2/3の脳内分子局在は示されていない。
 酵母、ショウジョウバエ、線虫、哺乳類において、蛍光タグなどとの融合タンパク質の発現によって、小胞体と[[ゴルジ体]] への局在が示されている<ref name=ref1 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref6 />。また線虫や哺乳類においてCNI-1、CNIH2/3は、細胞表面・[[シナプス]]へも局在することが示唆されており<ref name=ref4 /> <ref name=ref7><pubmed>21172611</pubmed></ref>、実際にCNIH2/3遺伝子欠損[[マウス]]がAMPA受容体のチャネル特性を変化させることから<ref name=ref3 />、CNIH2/3とAMPA受容体は細胞表面やシナプスにおいて共局在すると考えられている。ただし、内在性CNIH2/3の脳内分子局在は示されていない。


 組織レベルでは、 哺乳類では内在性[[mRNA]]の発現が、CNIH2/3は脳において、CNIH1は末梢の様々な組織において<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>、それぞれ[[ノザンブロット]]、in situ hybridizationによって示されている(Allen Brain Atlas)。CNIH2については脳、特に[[海馬]]において強く発現していることがタンパク質レベルで示されており<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>、これはin situ hybridizationの結果と一致する 。また、内在性[[プロモーター]]を用いた[[トランスジェニック動物]]によって、生殖細胞系・胚濾胞上皮細胞・成体体細胞(ショウジョウバエ)<ref name=ref1 />、GLR-1陽性細胞を含む神経系の細胞(線虫)<ref name=ref4 />で発現が確認されている。
 組織レベルでは、 哺乳類では内在性[[mRNA]]の発現が、CNIH2/3は脳において、CNIH1は末梢の様々な組織において<ref name=ref8><pubmed>10209299</pubmed></ref>、それぞれ[[ノザンブロット]]、in situ hybridizationによって示されている(Allen Brain Atlas)。CNIH2については脳、特に[[海馬]]において強く発現していることがタンパク質レベルで示されており<ref name=ref9><pubmed>21172604</pubmed></ref>、これはin situ hybridizationの結果と一致する 。また、内在性[[プロモーター]]を用いた[[トランスジェニック動物]]によって、生殖細胞系・胚濾胞上皮細胞・成体体細胞(ショウジョウバエ)<ref name=ref1 />、GLR-1陽性細胞を含む神経系の細胞(線虫)<ref name=ref4 />で発現が確認されている。


==機能==
==機能==
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 哺乳類においてCNIH2/3がAMPA受容体と直接結合し、補助サブユニットとして機能することが報告されている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 />。CNIH2/3は海馬に強く発現しており、別の補助サブユニットTARP(Transmembrane AMPA receptor regulatory protein)の海馬アイソフォームであるTARPγ-8とともに図3のような3者AMPA受容体機能複合体を形成することで、チャネル特性や細胞表面発現などの生理機能を制御していると考えられている<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。
 哺乳類においてCNIH2/3がAMPA受容体と直接結合し、補助サブユニットとして機能することが報告されている<ref name=ref2 /> <ref name=ref3 />。CNIH2/3は海馬に強く発現しており、別の補助サブユニットTARP(Transmembrane AMPA receptor regulatory protein)の海馬アイソフォームであるTARPγ-8とともに図3のような3者AMPA受容体機能複合体を形成することで、チャネル特性や細胞表面発現などの生理機能を制御していると考えられている<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 />。


 一方、ショウジョウバエのcni変異体の卵は軸形成異常を示し、背足付属器が欠損し長く伸びた形態となる<ref name=ref5 />。この表現型はTGF様成長因子grkとその受容体torpedoの変異体においても観察される<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。cni変異体ではGRKの局在・分泌に異常が見られることからCNIはGRKの小胞体からの搬出を制御していると考えられている<ref name=ref1 />。
 一方、ショウジョウバエのcni変異体の卵は軸形成異常を示し、背足付属器が欠損し長く伸びた形態となる<ref name=ref5 />。この表現型はTGF様成長因子grkとその受容体torpedoの変異体においても観察される<ref name=ref10><pubmed>3107840</pubmed></ref>。cni変異体ではGRKの局在・分泌に異常が見られることからCNIはGRKの小胞体からの搬出を制御していると考えられている<ref name=ref1 />。


===CNIH2/3欠損マウス===
===CNIH2/3欠損マウス===