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==グルタミン酸トランスポーターとは== | ==グルタミン酸トランスポーターとは== | ||
[[image:グルタミン酸トランスポーター1.png|thumb|300px| | [[image:グルタミン酸トランスポーター1.png|thumb|300px|'''図1.シナプスにおけるグルタミン酸の動態'''<br>Glu:グルタミン酸、Gln:グルタミン、GS:グルタミン合成酵素、GT:グルタミナーゼ]] | ||
[[image:グルタミン酸トランスポーター2.png|thumb|300px| | [[image:グルタミン酸トランスポーター2.png|thumb|300px|'''図2.グルタミン酸トランスポーターの基本的構造''']] | ||
[[グルタミン酸]]は、[[哺乳類]]中枢神経系において約70%の神経細胞が用いる主要な[[興奮性]]神経伝達物質であり、記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たしている[1]。しかし、その機能的な重要性の反面、興奮毒性という概念で表されるように[2]、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち、様々な[[精神神経疾患]]の発症に関与することが明らかになりつつある[3,] [4]。従って、[[シナプス]]間隙におけるグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。シナプスにおけるグルタミン酸の動態は図1のように考えられている。[[シナプス前終末]]から放出されたグルタミン酸は、シナプス後細胞の[[グルタミン酸受容体]]に結合しその効果を発揮するが、伝達終了後シナプス間隙のグルタミン酸はアストロサイトおよびシナプス後神経[[細胞膜]]に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。アストロサイトに取り込まれたグルタミン酸は、グルタミン合成酵素によりグルタミンに変換され、[[グリア細胞]]外に放出され、グルタミンーグルタミン酸サイクルを経て、再び[[シナプス小胞]]に蓄えられる。中枢神経系には5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーが存在することが知られおり[5]、グルタミン酸トランスポーター欠損[[マウス]]の解析を通じ、グルタミン酸トランスポーターの各サブファミリーの機能的役割が明らかになりつつある。 | [[グルタミン酸]]は、[[哺乳類]]中枢神経系において約70%の神経細胞が用いる主要な[[興奮性]]神経伝達物質であり、記憶・学習などの脳高次機能に重要な役割を果たしている[1]。しかし、その機能的な重要性の反面、興奮毒性という概念で表されるように[2]、過剰なグルタミン酸は神経細胞障害作用を持ち、様々な[[精神神経疾患]]の発症に関与することが明らかになりつつある[3,] [4]。従って、[[シナプス]]間隙におけるグルタミン酸濃度は厳密に制御されなければならない。シナプスにおけるグルタミン酸の動態は図1のように考えられている。[[シナプス前終末]]から放出されたグルタミン酸は、シナプス後細胞の[[グルタミン酸受容体]]に結合しその効果を発揮するが、伝達終了後シナプス間隙のグルタミン酸はアストロサイトおよびシナプス後神経[[細胞膜]]に存在するグルタミン酸トランスポーターにより細胞内に取り込まれる。アストロサイトに取り込まれたグルタミン酸は、グルタミン合成酵素によりグルタミンに変換され、[[グリア細胞]]外に放出され、グルタミンーグルタミン酸サイクルを経て、再び[[シナプス小胞]]に蓄えられる。中枢神経系には5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーが存在することが知られおり[5]、グルタミン酸トランスポーター欠損[[マウス]]の解析を通じ、グルタミン酸トランスポーターの各サブファミリーの機能的役割が明らかになりつつある。 | ||
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==発現== | ==発現== | ||
[[image:グルタミン酸トランスポーター3.png|thumb|300px| | [[image:グルタミン酸トランスポーター3.png|thumb|300px|'''図3.グルタミン酸トランスポーターサブファミリーの脳内分布''']] | ||
5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーは、中枢神経系だけでなく末梢組織にも発現していることが知られているが、本稿では中枢神経系における発現に関して記述する(表1)。Slc1a2(GLT-1/EAAT2)は[[大脳皮質]]・[[海馬]]のアストロサイトに、slc1a3(GLAST/EAAT1)は[[小脳]]のアストロサイトに優位に発現している[7]。Slc1a1(EAAC1/EAAT3)は神経細胞に存在し、中枢神経系に広く分布している[7]。Slc1a6(EAAT4)は小脳の[[プルキンエ細胞]]に[8]、またslc1a7(EAAT)は網膜の視細胞・双極細胞に特異的に発現している[9](図3)。神経細胞に発現しているslc1a1とscl1a4は、神経細胞の終末ではなく細胞体・樹状突起に主に局在している[10] [11]。アストロサイトに発現しているslc1a2とscl1a3は、シナプス周囲を覆っている突起に密度高く局在している[12]。最近、CDC42EP4/septinがslc1a3をシナプス周囲を覆う[[バーグマングリア]]の突起に局在させることが明らかになった[13]。成人脳ではアストロサイトに局在するscl1a2は、胎児期から生後3日の発生初期には、一過性に神経細胞に発現する[14]。また、成人脳ではアストロサイトに局在するslc1a3は、発生初期には[[神経幹細胞]]に発現しており、神経幹細胞のマーカーとして用いられている[15][16]。 | 5種類のグルタミン酸トランスポーターサブファミリーは、中枢神経系だけでなく末梢組織にも発現していることが知られているが、本稿では中枢神経系における発現に関して記述する(表1)。Slc1a2(GLT-1/EAAT2)は[[大脳皮質]]・[[海馬]]のアストロサイトに、slc1a3(GLAST/EAAT1)は[[小脳]]のアストロサイトに優位に発現している[7]。Slc1a1(EAAC1/EAAT3)は神経細胞に存在し、中枢神経系に広く分布している[7]。Slc1a6(EAAT4)は小脳の[[プルキンエ細胞]]に[8]、またslc1a7(EAAT)は網膜の視細胞・双極細胞に特異的に発現している[9](図3)。神経細胞に発現しているslc1a1とscl1a4は、神経細胞の終末ではなく細胞体・樹状突起に主に局在している[10] [11]。アストロサイトに発現しているslc1a2とscl1a3は、シナプス周囲を覆っている突起に密度高く局在している[12]。最近、CDC42EP4/septinがslc1a3をシナプス周囲を覆う[[バーグマングリア]]の突起に局在させることが明らかになった[13]。成人脳ではアストロサイトに局在するscl1a2は、胎児期から生後3日の発生初期には、一過性に神経細胞に発現する[14]。また、成人脳ではアストロサイトに局在するslc1a3は、発生初期には[[神経幹細胞]]に発現しており、神経幹細胞のマーカーとして用いられている[15][16]。 | ||
==機能== | ==機能== | ||
[[image:グルタミン酸トランスポーター4.png|thumb|300px| | [[image:グルタミン酸トランスポーター4.png|thumb|300px|'''図4.神経活動・エネルギー補給連関におけるグルタミン酸トランスポーターの役割''']] | ||
===分子機能=== | ===分子機能=== | ||
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==疾患との関わり== | ==疾患との関わり== | ||
[[image:グルタミン酸トランスポーター5.png|thumb|300px| | [[image:グルタミン酸トランスポーター5.png|thumb|300px|'''図5.グルタミン酸トランスポーターの機能異常による興奮と抑制のアンバランスが様々な精神神経疾患を引き起こす''']] | ||
脳の興奮性亢進は、多くの精神神経疾患に共通する病態と考えられている(図5)。脳の興奮性を亢進させる原因として、グルタミン酸シナプス伝達の亢進と[[GABA]]シナプス伝達の低下がある。グルタミン酸トランスポーターの機能障害は、グルタミン酸シナプス伝達を亢進させる主要な原因の一つである。 | 脳の興奮性亢進は、多くの精神神経疾患に共通する病態と考えられている(図5)。脳の興奮性を亢進させる原因として、グルタミン酸シナプス伝達の亢進と[[GABA]]シナプス伝達の低下がある。グルタミン酸トランスポーターの機能障害は、グルタミン酸シナプス伝達を亢進させる主要な原因の一つである。 |