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ボールドウィン効果(the Baldwin Effect)とは1896年に、Baldwin<ref>'''Baldwin, J.M.'''<br>A new factor in evolution.<br>''American Naturalist, 30, 441-451.'':1896</ref>, Osborn<ref>'''Osborn, H.F.'''<br>Ontogenic and phylogenic variation<br>''Science, 4, 786-789.'':1896</ref>, Morgan<ref>'''Morgan, C.L.'''<br>On modification and variation<br>''Science4:733-740.'':1896</ref>がそれぞれ独自に提唱した、生物の可塑性による獲得形質が進化に与える影響を考察した理論である。当時はボールドウィン効果との名前は用いられなかったが、1953年にアメリカの進化生物学者Simpson<ref>'''Simpson, G.G.'''<br>The Baldwin Effect<br>'' Evolution, 7, 110-117.'':1953</ref>が現代的進化理論を用いて再定義の上、ボールドウィン効果と名づけたことから知られるようになった。 | ボールドウィン効果(the Baldwin Effect)とは1896年に、Baldwin<ref>'''Baldwin, J.M.'''<br>A new factor in evolution.<br>''American Naturalist, 30, 441-451.'':1896</ref>, Osborn<ref>'''Osborn, H.F.'''<br>Ontogenic and phylogenic variation<br>''Science, 4, 786-789.'':1896</ref>, Morgan<ref>'''Morgan, C.L.'''<br>On modification and variation<br>''Science4:733-740.'':1896</ref>がそれぞれ独自に提唱した、生物の可塑性による獲得形質が進化に与える影響を考察した理論である。当時はボールドウィン効果との名前は用いられなかったが、1953年にアメリカの進化生物学者Simpson<ref>'''Simpson, G.G.'''<br>The Baldwin Effect<br>'' Evolution, 7, 110-117.'':1953</ref>が現代的進化理論を用いて再定義の上、ボールドウィン効果と名づけたことから知られるようになった。 | ||
生物の可塑性が進化に与える影響は、獲得形質の遺伝を論じたLamarckの用不用説がよく知られている。しかしながら、Weismann<ref>'''Weismann, A.'''<br>The Germ-Plasm: A Theory of Heredity.<br>''New York: Scribners'':1889</ref>(1893) | 生物の可塑性が進化に与える影響は、獲得形質の遺伝を論じたLamarckの用不用説がよく知られている。しかしながら、Weismann<ref>'''Weismann, A.'''<br>The Germ-Plasm: A Theory of Heredity.<br>''New York: Scribners'':1889</ref>(1893)が多細胞生物において遺伝は生殖細胞のみで起こる現象であり、体細胞に関する獲得形質は世代を超えて継承されることはないと主張して以降、獲得形質の遺伝は現在に至るまでほぼ否定されている。一方、ボールドウィン効果は生物の可塑性が直接的に遺伝子に影響を及ぼすことはないとしても、可塑性によってもたらされた獲得形質が適応度に寄与し、かつ獲得の過程において適応上何らかのコストが生じるのであれば、そのコストをターゲットとした適応進化が起こりうることを示している。コストには獲得の失敗や、可塑性自体がもたらす生理学的負担、獲得完了までの機会喪失等が考えられる。適応進化によってこれらのコストが圧縮されるということは、すなわち獲得を可能にした可塑性が失われ,結果としてより生得的になったということである。このことからボールドウィン効果は一般的には獲得形質の生得化と理解されている。 | ||
== Hinton & Nowlanの実験 == | == Hinton & Nowlanの実験 == | ||
1987年のHinton & Nowlan<ref>'''Hinton, G.E., and Nowlan, S.J.'''<br>How learning can guide evolution.<br>''Complex Systems, 1, 495-502.'':1987</ref> | 1987年のHinton & Nowlan<ref>'''Hinton, G.E., and Nowlan, S.J.'''<br>How learning can guide evolution.<br>''Complex Systems, 1, 495-502.'':1987</ref>の遺伝的アルゴリズムの実験によって、個体における可塑性の存在がフラットな適応度地形においても漸進的な適応進化を起こしうることが示された。遺伝的アルゴリズムにおける適応度地形は個体を決定づける2つの要素、すなわち平面上の位置を決定する表現型と、その地点における高低度合いを決定する適応度によって決定される。通常の遺伝的アルゴリズムでは表現型は個体の遺伝型と完全に1対1の対応関係にあり、任意の遺伝型を持った個体の表現型は一意に決定され、結果的に適応度も完全に固定されている。別な言い方をすれば、適応度地形における個体の位置と高さは遺伝型によって完全に同定される。 | ||
適応度の違い、すなわち個体間の高低差はこれらの個体から複製される子孫数の違いに反映されるので、適応度地形が富士山のような単峰型の場合、世代交代を重ねることにより多くの個体が頂上に収斂する漸進的な進化が可能になる。一方適応度地形がごく一部を除いてフラットな場合は、このような繁殖上の差異が生まれず、ランダムウォークが起きてしまう。可塑性は適応度地形上における局所探索、すなわち個体による地形上の移動と考えられる。このような場合、生得的な適応度が高くない個体であっても、局所探索によってより良い適応度を持つ地点を発見する可能性が発生し、その確率に応じた仮想的な高低差が適応度地形上に生まれることになる。個体をゴルフボール、適応度地形をグリーンに見立てれば(ホールを適応度地形上の最高地としよう)、完全に生得的な個体とはパットが許されない状態、可塑性による仮想的な適応度の差異とは、例えばボールとホールまでの距離の違いや、その間にある芝目の有無などと考えることができる。Hinton & Nowlanは実験を通して、Needle-in-a-haystackと呼ばれるホール以外完全にフラットな適応度地形においても、可塑性の導入によって個体が局所探索を通してホールの発見が可能になる反面、個体間でその可能性に差異が生まれる結果、より少ない局所探索でホールを発見するような個体が集団内で増える過程を明らかにした。より少ない局所探索とはすなわちより生得的にホールに近いことを意味する。 | |||
== Waddingtonの遺伝的同化 == | == Waddingtonの遺伝的同化 == |
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