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刺激等価性

105 バイト除去, 2016年2月3日 (水) 11:30
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==刺激等価性成立の例成立の例==
 刺激等価性の成立は、代表的にはことばの学習に例証される。子どもが母親から「[[ウサギ]]さんはどれ?」と尋ねられてウサギのぬいぐるみを選んだり、ウサギのぬいぐるみを見て[うさぎ]の文字カードを選んだりできたとき、その子は「ウサギ」という母親の発声がどの事物を指し、どのような記号に対応するかについて、何らかの理解をしたと考えられる。この後、子どもは特に教えられなくても、ぬいぐるみを見て「ウ・サ・ギ」と発声したり、文字カードを見てウサギのぬいぐるみを[[指差し]]たり、「ウサギ」と聞いて[うさぎ]の文字カードを選んだり、文字カードを見て「ウ・サ・ギ」と読めたりする。これらが観察されたとき、「ウサギ」という音声、ウサギのぬいぐるみ、[うさぎ]の文字カードの間に刺激等価性が成立したという。このような現象は日常の[[語彙]]の獲得場面では当然のこととして知られていたが、背景にある行動原理は明らかでなかった。「ウサギ」の音声は聴覚刺激、写真と文字は視覚刺激だがそれぞれの間に物理的な連続性・類似性がないため、刺激般化による説明は難しい。すべての関係が明示的に訓練(強化)されていたわけではないため、[[オペラント条件づけ]]の反応-強化随伴性や、古典的条件づけの刺激-刺激連合のみによる説明にも困難がある。そこで、このような現象を実証的分析の対象とするため、研究の枠組みを作ったのがアメリカの心理学者シドマンである。彼は、1970年代から小頭症や[[ダウン症]]と診断された知的[[発達障害]]者において、音声反応、図形刺激、つづり単語の間にある関係の一部を訓練し獲得させることにより、直接訓練されていなかった関係が創発したことを報告した<ref name=ref1>'''Sidman, M.'''<br>Equivalence relations and behavior: A research story.<br> ''Boston: Authors Cooperative''. 1994</ref>。また、1982年にはアカゲザル、アヌビスヒヒ、ヒトの幼児を対象とした実験を行い<ref name=ref2><pubmed> 7057127</pubmed></ref>、刺激等価性が[[ヒト]]に固有であり、[[言語]]的能力との深い関係が示唆されることを指摘し、初めて刺激等価性の概念の整理と研究の定式化を行った<ref name=ref3><pubmed>7057129</pubmed></ref>。
==刺激等価性の構成構成==
 刺激等価性を成立させるためには、刺激間にありうるすべての関係を訓練する必要はない。部分的な訓練の後、未訓練の刺激間に派生的、創発的に新規な関係を成立させることが可能であり、これこそが般化や転移で説明できない刺激等価性の特徴といえる。刺激等価性を[[テスト]]するためには、前提となる刺激間関係を獲得させる必要があり、典型的には条件性弁別conditional discrimination手続きが用いられる。条件性弁別とは、例えば3つの刺激A、B、Cを使った場合、見本刺激(A)に対して提示された比較刺激の中から特定の刺激(B)を選択させる手続きを指し、これを通して「AならばB」の関係が構築される。これに加えて、Bを見本刺激として比較刺激Cを選択させ、もうひとつの条件性弁別「BならばC」を訓練する。それぞれを見本刺激・比較刺激として6種類の条件性弁別が可能であるが、ここではその中の2つが訓練されたことになる。残りの4つの関係は、刺激等価性の成立を示す決定的なテストとして、訓練せずに残しておく。シドマンは、この4つの刺激間関係が包含する性質を数学的概念から引用して反射性reflexivity、対称性symmetry、推移性transitivity、等価性equivalenceと呼び、訓練から派生した刺激間関係を最も節約的に評価するための構成要素とすることを提案した。これらの性質が成立したかどうかは、非[[分化]]強化場面で学習の要素を排除しながらテストする。
#反射性reflexivity 見本刺激Aに対して比較刺激Aを選ぶことで表されるような、刺激それ自身に対する関係を指す。反射性は、見本刺激と同じ比較刺激を選べば示されることから、反射性テストと「同じ」の概念を形成する同一見本合わせ訓練後の転移テストとは、手続き上は同じであるが、概念的に両者は全く異なる。前者は刺激間に等価クラスが成立した後で見られる、刺激等価性のひとつの特徴として捉えられ、機能的に等価であることが要件となるが、後者は見本刺激と物理的に同じ特徴を持った刺激を選ぶことにより強化される関係の転移である。
 反射性、対称性、推移性、等価性の各テストで用いられる見本刺激と比較刺激の組み合わせは、被験者・被験体に対してそれまで提示されたことがないものであるため、強化履歴によるバイアスは存在せず、理論的にはランダムな選択反応が予測される。それにもかかわらず、ヒトはほとんどの場合、これらの関係の成立を示すことが知られている。選択に対してフィードバックがない場合でさえ、等価性テスト試行に繰り返しさらされるだけで徐々に成績が上がるという報告もある<ref name=ref4><pubmed>10966098</pubmed></ref>。このことは、ヒトでの刺激等価性が、条件性弁別が獲得されるのと同時に、付随するように成立する可能性を示している。そして、ヒト以外の動物では、条件性弁別後に4つの関係を示すことは極めて稀という結果と比べて対照的である<ref name=ref5>'''山﨑由美子'''<br>動物における刺激等価性<br>''動物心理学研究'', 49, 107-137. 1999</ref>。
==刺激等価性と言語機能言語機能==
 刺激等価性はラベル獲得や語彙の拡張を促進し、刺激様相による制約を受けずにコミュニケーションを可能にさせることから、その研究の開始当初から言語の恣意性や象徴的・指示的機能との関わりの可能性が指摘されてきた。これに加え、ヒト以外の[[動物]]で成立が非常に困難であることがわかったため、刺激等価性がある程度の言語能力を前提とするか、ネーミング(命名反応)のような言語行動を媒介としているのではないかという説が出された。しかし、命名反応のみならず機能的な発声すら困難な重度発達障害者やカリフォルニアアシカで、刺激等価性が成立するという結果が得られたため<ref name=ref6>'''Schusterman, R. J. & Kastak, D.'''<br> A California sea lion (Zalophus californianus) is capable of forming equivalence relations. <br>''The Psychological Record'', 43, 823-839. 1993</ref>、成立には特定の言語能力を必要としないことが明らかになった<ref name=ref7><pubmed>13677612</pubmed></ref>。むしろ、刺激等価性は、対象物と記号との間の、恣意的関係の成立を可能にすることから、ヒトの言語・表象機能の発現に不可欠な能力として背景にあると考えられている。
 ヒトとヒト以外の動物との間で、等価性テストの結果に大きな差が存在する理由として、刺激順序の処理における違いが考えられる<ref name=ref10>'''山﨑由美子・小川昭利・入來篤史'''<br>対称性に関わる生物学的要因の解明に向けて<br>''認知科学'', 15, 366-377. 2008</ref>。標準的な条件性弁別課題では見本刺激が比較刺激の提示に先行する。このような時間的順序はヒト以外の動物において、次のような理由から、とりわけ対称性の成立に対し妨害的に働いている可能性がある。第1に、条件性弁別課題中に行う反応は、見本刺激Aの提示後比較刺激Bを選択することであり、2つの刺激AとBの関係が学習される保証はなく、刺激系列ABの学習となっていても不思議はない。第2に、各刺激の物理的特性は出現順序に関わらず不変であっても、見本刺激、比較刺激のどちらとして現れるかにより機能が全く異なる。このような刺激提示順序の影響から、ヒト以外の動物では刺激順序の逆転を求める対称性の成立が極めて稀で、訓練対と刺激の出現順序が変わらない推移性を示す例の方が多いと考えられる。一方、ヒト被験者はこれらの要因に影響されないかのように等価関係を示す。ヒトの刺激処理におけるこの特徴が、言語のような時空間の制約を受けずに存在することのできる象徴的記号の利用を背景で支えている可能性がある。
==刺激等価性と系統発生系統発生==
 刺激等価性はヒトの言語の運用上必要不可欠な行動特性であるばかりでなく、論理学的な真偽はともかく迅速な判断が求められるヒトの推論の背後にあるメカニズムとしても捉えられる。このように、ヒトにとって刺激等価性は、ヒトの認知能力を特色付けるような要素に関わっていると考えられる一方、ヒト以外の動物における刺激等価性成立の証拠は大変少ない。シドマンの定式化以後、様々なヒト以外の動物を対象として刺激等価性の成立がテストされてきた。[[哺乳類]]ではアヌビスヒヒ、[[アカゲザル]]、[[カニクイザル]]、フサオマキザル、チンパンジー、シロ[[イルカ]]、カリフォルニアアシカ、[[ラット]]、[[鳥類]]ではデンショバト、セキセイインコ、ハシブトガラスなどが挙げられる<ref name=ref5 />。この中で、刺激等価性の成立が確認されたのはカリフォルニアアシカとチンパンジーであった。中でも、成立した等価クラスの数、関連する認知機能の検査を加えての追試により、個体内で繰り返し等価関係の成立を確認できたのは、シュスターマンR. Schustermanらの被験体であるカリフォルニアアシカのみである<ref name=ref6 />。
 第2に神経学的要因がある。条件性弁別訓練後に、刺激等価性テスト中の脳活動を機能的MRIにより検討した実験では、全関係のテストで右[[前頭前野]]と[[頭頂葉]]での賦活が認められた<ref name=ref13><pubmed>19702470</pubmed></ref>。右前頭前野は刺激のカテゴリー学習に関連する脳部位とされており、等価クラスの形成と関連した活動と考えられる。頭頂葉は多感覚入力とその統合、および刺激の空間的処理に関わる部位とされているため、等価クラスを構成する多様相刺激とその提示順序位置の処理に関連する活動と考えられる。対称性ではMRIスキャン中の短時間でも、テストを重ねるごとに賦活部位が限局されていき、行動データもこれを裏付けるように訓練済の条件性弁別と変わらない成績に達した。このような刺激等価性課題遂行時の脳活動は、ヒトで特に発達したと考えられている前頭前野と頭頂葉の神経連絡を基盤としている可能性を示唆するものであり、刺激等価性の生物学的基盤の有力な候補と考えられる。
==刺激等価性と個体発生個体発生==
 ヒトでは、生後まもなくから養育者に言葉をかけられ、名前のついた物に囲まれて成長していく。このようなことから、ヒト以外の動物での等価性不成立の理由には、記号操作を要するような環境での強化履歴が少ないことによるのではないかと考えられた。事実、ヒト以外の動物で刺激等価性の成立を示した個体は、いずれも等価性以外の実験に従事した履歴が長く、条件性弁別課題の経験も少なくなかった。そして、彼らが等価性成立を示した実験では、通常の訓練とテストの方法を修正し、いくつかの例を用いて等価性の訓練をした後に、新規な刺激対への転移を評価するという手続きが用いられていた。特に、カリフォルニアアシカは30対という通常用いられるよりもはるかに多い刺激対をベースラインとして訓練され、その一部については等価関係の要件すべてを訓練により獲得させていた<ref name=ref6 />。テストにおいても、最初から一様に高い成績を示したのではなく、テストを繰り返すごとに等価性成立の割合が増加していった。物理的に類似しない刺激間に存在する関係が他の対に転移することを説明するのは難しいが、実験を行ったシュスターマンは、等価性を直接訓練することにより「双方向概念bidirectional concept」とも呼ぶべきものが形成され、これがアシカの等価性成立を支えたのかもしれないと論じた。つまり、ある種の学習がその後の刺激等価性の成立に影響を与えるという立場である <ref name=ref1 />。
 刺激等価性がヒトの発達の中でいつ発現するのかについての研究は少ない。乳幼児を対象とした縦断的研究は、いずれも2歳未満で刺激等価性の成立を報告しており、必ずしも表出言語の出現を前提としていない<ref name=ref14><pubmed>8245768</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>17575901</pubmed></ref>。順序としては、最初に対称性が示され、続いて推移性・等価性がそれぞれ成立することが示されている。健常成人を被験者とした場合、条件性弁別訓練の後いちどきに刺激等価性の要件すべてが観察されることが多く、刺激等価関係は刺激間関係を強化随伴性によって成立させた後に創発的に生じる分割不可能な行動単位、と考えるシドマンの主張とも合致するが <ref name=ref1 />、より詳細に乳幼児の発達を追って見た場合要件間に時間差が存在する可能性もある。
==刺激等価性の応用応用==
 刺激等価性はその枠組が明快で、条件性弁別課題という多くの種に適用可能な実験方法を土台としているため、幅広い被験者を対象に応用研究が進められてきている。中でも、言葉やコミュニケーションに問題がある被験者を対象として行われた研究は数多い。例えば、サイン言語と文字と対象物の理解に何らかの問題がある場合、どの関係の、どの方向の理解に問題があるのかを機能的に評価し、最小セットの直接訓練から効率良く双方向関係を引き出すことを計画できる。失語症の患者を対象とした場合、漢字、ひらがな、読みの間のどこに問題があるのかを知るための分析ツールとして、刺激等価性の枠組みが有効であることがわかっている。

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