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Akihiromuramatsu (トーク | 投稿記録) 編集の要約なし |
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<div align="right"> | |||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/bakakyoudai 松村 晃寛]、[http://researchmap.jp/phoca 川又 純]、[http://researchmap.jp/read0012356 下濱 俊]</font><br> | |||
''札幌医科大学 医学部 神経内科学講座''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月5日 原稿完成日:2016年月日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br> | |||
</div> | |||
英:dementia, major neurocognitive disorder 独:Demenz 仏:démence | 英:dementia, major neurocognitive disorder 独:Demenz 仏:démence | ||
{{box|text= | 同義語:痴呆、呆け、耄け、老耄、耄碌 | ||
{{box|text= 認知症(英: dementia, DSM-5ではmajor neurocognitive disorder)は、一度正常に達した認知機能が意識清明下で後天的に低下し日常生活や社会生活に支障をきたす状態を言う。原因疾患はアルツハイマー病などの神経変性疾患の他、血管性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、感染症、各種内科疾患、薬物中毒など多彩である。本邦では「痴呆」という用語が定着していたが、その差別感・侮蔑感が指摘され2005年より「認知症」に変更することが定められた。国際的に広く用いられる診断基準としてICD-10やDSM-Ⅲ-R、DSM-Ⅳ-TRなどが挙げられ、Dementiaという用語が用いられていたが、2013年に改訂されたDSM-5においてはNeurocognitive Disordersという用語で記憶障害を必須としない定義に変更されている。高齢化の進展に伴い患者数は増加しており、また有効な根治療法が確立していないケースが多く経済的、社会的観点からも重大な課題となっている。}} | |||
== 認知症とは == | == 認知症とは == | ||
13行目: | 22行目: | ||
==== 診断基準 ==== | ==== 診断基準 ==== | ||
認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては世界保健機関による[[ICD-10]]や、米国精神学会によるDSM-Ⅲ、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。 | 認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては世界保健機関による[[ICD-10]]や、米国精神学会によるDSM-Ⅲ、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。 | ||
ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、Dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に記憶、思考、見当識、理解、計算、学習能力、[[言語]]、判断を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br> | ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、Dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に記憶、思考、見当識、理解、計算、学習能力、[[言語]]、判断を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br> | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="949" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="949" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表1.ICD-10による認知症の診断基準の要約''' | ||
| G1.以下の各項目を示す証拠が存在する。 | | G1.以下の各項目を示す証拠が存在する。 | ||
1) 記憶力の低下<br> | 1) 記憶力の低下<br> | ||
33行目: | 43行目: | ||
| G4.診断確定にはG1症状が6ヶ月以上存在していることが必要。それより短い期間の場合は暫定診断とする。 | | G4.診断確定にはG1症状が6ヶ月以上存在していることが必要。それより短い期間の場合は暫定診断とする。 | ||
|} | |} | ||
DSM-Ⅲは1980年出版の「[[精神障害]]の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」第3版であり、1987年にはその改訂版であるDSM-Ⅲ-Rが出版されている。DSM-Ⅲ-Rにおける認知症の診断基準の要約を'''表2'''に示す。また1994年には第4版にあたるDSM-Ⅳが出版され、2000年にDSM-Ⅳ-TRとして改訂されている。DSM-Ⅳ-TRにおける認知症の診断基準の要約を'''表3'''に示す。<br> | DSM-Ⅲは1980年出版の「[[精神障害]]の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」第3版であり、1987年にはその改訂版であるDSM-Ⅲ-Rが出版されている。DSM-Ⅲ-Rにおける認知症の診断基準の要約を'''表2'''に示す。また1994年には第4版にあたるDSM-Ⅳが出版され、2000年にDSM-Ⅳ-TRとして改訂されている。DSM-Ⅳ-TRにおける認知症の診断基準の要約を'''表3'''に示す。<br> | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="550" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="550" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表2.DSM-Ⅲ-Rによる認知症の診断基準の要約''' | ||
| A.短期・[[長期記憶]]障害の明らかな証拠が存在する。 | | A.短期・[[長期記憶]]障害の明らかな証拠が存在する。 | ||
|- | |- | ||
58行目: | 67行目: | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="602" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="602" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表3.DSM-Ⅳ-TRによる認知症の診断基準の要約''' | ||
| A.多彩な認知機能障害の発現として以下の2項目がある。<br> | | A.多彩な認知機能障害の発現として以下の2項目がある。<br> | ||
1) 記憶障害(新規情報の学習や、過去に学習した情報の想起の障害)<br> | 1) 記憶障害(新規情報の学習や、過去に学習した情報の想起の障害)<br> | ||
80行目: | 89行目: | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="680" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="680" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表4.DSM-5による認知症(Major Neurocognitive Disorder)の診断基準の要約''' | ||
| A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、[[知覚]]-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> | | A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、[[知覚]]-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> | ||
1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> | 1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> | ||
101行目: | 110行目: | ||
認知症であるか否か、あるいは認知症性疾患であるとしてどのような診断であるのか、以下のような検査が必要になる。 | 認知症であるか否か、あるいは認知症性疾患であるとしてどのような診断であるのか、以下のような検査が必要になる。 | ||
===== 神経心理検査 ===== | ===== 神経心理検査 ===== | ||
認知症であるか否かのスクリーニング検査のうち、質問式の方法としては本邦では長谷川式認知症スケール(Hasegawa's Dementia Scale-Revised:HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く用いられる。HDS-Rは1974年に作成された長谷川式簡易知能スケールの改訂版(1991年)であり、2004年の認知症への改称に伴い2005年から現在の名称になっている。9つの設問からなり最高点は30点満点で21点以上を正常、20点以下を認知症の疑いとする。MMSEは国際的に最も広く使用されている方法で、11の設問からなる。最高点は30点満点で24点以上を正常、23点以下を認知症の疑いとしていたが、最近では27点以上を正常、22〜26点を軽度認知症の疑い、21点以下を認知症の疑いが強いとする基準も用いられる。他にも、より簡便なスクリーニング法として「10時10分もしくは8時20分を指す時計の文字盤を描かせる」Clock Drawing [[Test]](CDT)や年齢、日付、生年月日などのみを質問する方法なども行われる。またHDS-RやMMSEでは評価が困難な[[前頭葉]]機能の評価法としてFrontal Assessment Battery(FAB)が挙げられる。これは6設問からなり最高点は18点満点でカットオフ値については諸説あり、11、12点を勧める報告<ref>'''前島 伸、種村 純、大沢 愛、川原田 美、関口 恵、et al.'''<br>高齢者に対するFrontal assessment battery(FAB)の臨床意義について.<br>''脳と神経'': 2006, 58; 207-11</ref>などが散見される。 | |||
===== 血液検査 ===== | ===== 血液検査 ===== | ||
107行目: | 116行目: | ||
===== 脳脊髄液検査 ===== | ===== 脳脊髄液検査 ===== | ||
[[脳脊髄液]]検査は髄膜脳炎や[[くも膜]]下出血、各種神経免疫疾患、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。亜急性硬化性全脳炎においては脳脊[[髄液]]麻疹抗体、進行性多巣性白質脳症ではJCウイルス[[DNA]] PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液14-3- | [[脳脊髄液]]検査は髄膜脳炎や[[くも膜]]下出血、各種神経免疫疾患、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。亜急性硬化性全脳炎においては脳脊[[髄液]]麻疹抗体、進行性多巣性白質脳症ではJCウイルス[[DNA]] PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液14-3-3タンパク質や総タウタンパク質の測定がそれぞれ有用とされる。またアルツハイマー病では脳脊髄液中のタウタンパク質やAβが検証され、近年注目されている。 | ||
===== 画像検査 ===== | ===== 画像検査 ===== | ||
169行目: | 178行目: | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="800" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="800" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表5.アルツハイマー病([[Alzheimer's disease]] ; AD)治療薬の特徴''' | ||
! 一般名 !! 作用機序 !! 適応 !! 副次的効果 !! 剤型 !! | ! 一般名 !! 作用機序 !! 適応 !! 副次的効果 !! 剤型 !! 用法(回/日) !! 代謝・排泄 | ||
|- | |- | ||
! ドネペジル | ! ドネペジル | ||
| rowspan="3" style="text-align:center"| ChE阻害剤 || style="text-align:center" | 軽〜重度AD || style="text-align:center" | なし || style="text-align:center" | 錠剤・散剤<br>口腔内崩壊錠<br>ゼリー剤等 || style="text-align:center" | | | rowspan="3" style="text-align:center"| ChE阻害剤 || style="text-align:center" | 軽〜重度AD || style="text-align:center" | なし || style="text-align:center" | 錠剤・散剤<br>口腔内崩壊錠<br>ゼリー剤等 || style="text-align:center" | 1 || rowspan="2" style="text-align:center" | 肝 | ||
|- | |- | ||
! ガランタミン | ! ガランタミン | ||
| rowspan="2" style="text-align:center" | 軽〜中等度AD || style="text-align:center" | nACh受容体への<br> | | rowspan="2" style="text-align:center" | 軽〜中等度AD || style="text-align:center" | nACh受容体への<br>アロステリック(APL)作用 || style="text-align:center" | 錠剤 || style="text-align:center" | 2 | ||
|- | |- | ||
! リバスチグミン | ! リバスチグミン | ||
| style="text-align:center" | BuChE阻害作用 || style="text-align:center" | 経皮吸収型製剤 || style="text-align:center" | | | style="text-align:center" | BuChE阻害作用 || style="text-align:center" | 経皮吸収型製剤 || style="text-align:center" | 1 || rowspan="2" style="text-align:center" | 腎 | ||
|- | |- | ||
! メマンチン | ! メマンチン | ||
| style="text-align:center" | NMDA受容体拮抗薬 || style="text-align:center" | 中等度〜重度AD || style="text-align:center" | なし || style="text-align:center" | 錠剤 || style="text-align:center" | | | style="text-align:center" | NMDA受容体拮抗薬 || style="text-align:center" | 中等度〜重度AD || style="text-align:center" | なし || style="text-align:center" | 錠剤 || style="text-align:center" | 1 | ||
|} | |} | ||
<small>nACh:[[ニコチン性]] | <small>nACh:[[ニコチン性]]アセチルコリン(nicotic acetylcholine)、BuChE:ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、</small><br> | ||
<small> | <small>VaD:血管性認知症(vascular dementia)、DLB:レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies)</small> | ||
<br> | <br> | ||
===== アルツハイマー病以外の認知症性疾患の中核症状に対する対症療法 ===== | ===== アルツハイマー病以外の認知症性疾患の中核症状に対する対症療法 ===== | ||
血管性認知症ではドーパミン放出促進作用とNMDA受容体拮抗作用を有するアマンタジンが「脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下」に対し保険承認されている他、保険適応外の臨床研究でChE阻害剤が有効とする報告もある。外傷性脳損傷についてはこれも保険適応外だが、注意障害に対しメチルフェニデートやChE阻害剤、アマンタジンなどが有効との報告がある。レビー小体型認知症ではChE阻害剤にて認知機能や妄想、幻覚など臨床症状全般が改善したという報告があり本邦では2014年9月よりアリセプトが承認されている。メマンチンも本邦未承認ではあるがランダム化比較試験で改善が報告されている。しかし前頭側頭葉変性症など他の神経変性疾患や[[プリオン]]病は現状では有効な治療薬はない。 | |||
==== BPSD ==== | ==== BPSD ==== | ||
かつて認知症の問題行動や異常行動とよばれた概念で行動症状と心理症状に二分される。前者は不穏、多動、徘徊、攻撃性、興奮、拒絶、拒食・異食、不潔行為、つきまとい、概日リズム障害、社会的・性的逸脱行動が、後者は抑うつや不安、[[アパシー]]、幻覚、妄想などがあげられる。認知症患者の約60〜90%が少なくとも1つ以上のBPSD症状を呈し、特に無関心、興奮、易刺激性、抑うつなどの頻度が高いとされる。 | かつて認知症の問題行動や異常行動とよばれた概念で行動症状と心理症状に二分される。前者は不穏、多動、徘徊、攻撃性、興奮、拒絶、拒食・異食、不潔行為、つきまとい、概日リズム障害、社会的・性的逸脱行動が、後者は抑うつや不安、[[アパシー]]、幻覚、妄想などがあげられる。認知症患者の約60〜90%が少なくとも1つ以上のBPSD症状を呈し、特に無関心、興奮、易刺激性、抑うつなどの頻度が高いとされる。 | ||
197行目: | 206行目: | ||
{| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="965" height="20"" | {| cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" width="965" height="20"" | ||
|+ ''' | |+ '''表6.BPSDの各症状に対する向精神薬治療''' | ||
! style="width:9%" | 分類 !! style="width:12%" | 作用機序など !! style="width:13%" | 薬物名 !! style="width:21%" | 想定される<br>認知症への使用 !! style="width:43%" | 特徴・注意点 !! style="width:2%" | 用量 | ! style="width:9%" | 分類 !! style="width:12%" | 作用機序など !! style="width:13%" | 薬物名 !! style="width:21%" | 想定される<br>認知症への使用 !! style="width:43%" | 特徴・注意点 !! style="width:2%" | 用量 | ||
|- | |- | ||
214行目: | 223行目: | ||
| rowspan="4" style="text-align:center"| [[SSRI]] || style="text-align:center" | フルボキサミン || rowspan="4" style="text-align:center" | うつ症状、FTDの脱抑制、<br>情動行動、食行動異常 ||・分3、食直後の服用<br>・開始時悪心や嘔吐が出現することあり<br>・高齢者では慎重投与 || style="text-align:center" | 25-75〜75-100mg | | rowspan="4" style="text-align:center"| [[SSRI]] || style="text-align:center" | フルボキサミン || rowspan="4" style="text-align:center" | うつ症状、FTDの脱抑制、<br>情動行動、食行動異常 ||・分3、食直後の服用<br>・開始時悪心や嘔吐が出現することあり<br>・高齢者では慎重投与 || style="text-align:center" | 25-75〜75-100mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | パロキセチン || | | style="text-align:center" | パロキセチン || ・うつ病とうつ状態では用量は右記。原則1週ごとに10mg/日ずつ増量<br>・高齢者では慎重投与(SIADH、出血のリスク増)<br>・分1、夕直後の服用<br>・開始時悪心や嘔吐が出現することあり || style="text-align:center" | 10〜40mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | セルトラリン || | | style="text-align:center" | セルトラリン || ・分1<br>・高齢者では慎重投与 || style="text-align:center" | 25〜50mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | エスシタロプラム || | | style="text-align:center" | エスシタロプラム || ・分1、夕食後<br>・QT延長例は禁忌<br>・肝機能障害、高齢者では10mgを上限が望ましい || style="text-align:center" | 10mg | ||
|- | |- | ||
| rowspan="2" style="text-align:center"| [[SNRI]] || style="text-align:center" | ミルナシプラン || style="text-align:center" | うつ症状 || | | rowspan="2" style="text-align:center"| [[SNRI]] || style="text-align:center" | ミルナシプラン || style="text-align:center" | うつ症状 ||・分3、[[MAO阻害薬]]との併用は禁忌<br>・[[前立腺]]疾患等合併例では尿閉が起きることあり || style="text-align:center" | 15〜60mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center" | デュロキセチン || style="text-align:center" | うつ症状、舌などの[[痛み]]<br>を訴える心気症状に<br>効果がある可能性あり || | | style="text-align:center" | デュロキセチン || style="text-align:center" | うつ症状、舌などの[[痛み]]<br>を訴える心気症状に<br>効果がある可能性あり || ・分1、夕直後の服用<br>・SSRI類似の消化器症状が出現することあり<br>・高度の肝・腎機能障害では禁忌<br>・高齢者では慎重投与 || style="text-align:center" | 20〜40mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center"| NaSSA || style="text-align:center" | ミルタザピン || style="text-align:center" | うつ症状、抗不安作用、睡眠障害の改善、食欲改善効果 || | | style="text-align:center"| NaSSA || style="text-align:center" | ミルタザピン || style="text-align:center" | うつ症状、抗不安作用、睡眠障害の改善、食欲改善効果 ||・分1、眠気が出やすい、眠前投与<br>・高齢者では血中濃度上昇のリスクあり、慎重投与 || style="text-align:center" | 7.5〜30mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center"| 三環系 || style="text-align:center" | [[アモキサピン]] || style="text-align:center" | うつ症状<br>(SSRI無効時) ||・抗コリン作用、弱心毒性 || style="text-align:center" | 25〜75mg | | style="text-align:center"| 三環系 || style="text-align:center" | [[アモキサピン]] || style="text-align:center" | うつ症状<br>(SSRI無効時) ||・抗コリン作用、弱心毒性 || style="text-align:center" | 25〜75mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center"| 四環系 || style="text-align:center" | [[ミアンセリン]] || style="text-align:center" | せん妄、不眠 ||・弱抗コリン作用、鎮静効果<br> | | style="text-align:center"| 四環系 || style="text-align:center" | [[ミアンセリン]] || style="text-align:center" | せん妄、不眠 ||・弱抗コリン作用、鎮静効果<br>・心毒性なし、分1で眠前投与も可 || style="text-align:center" | 10〜30mg | ||
|- | |- | ||
| style="text-align:center"| 異環系 || style="text-align:center" | トラゾドン || style="text-align:center" | 焦燥、不眠 | | style="text-align:center"| 異環系 || style="text-align:center" | トラゾドン || style="text-align:center" | 焦燥、不眠 | ||
||・抗コリン作用、心毒性なし<br>・眠気のため就寝前に投与も可<br> | ||・抗コリン作用、心毒性なし<br>・眠気のため就寝前に投与も可<br>・1〜数回分服、高齢者では安全性未確立 || style="text-align:center" | 25〜100mg | ||
|- | |- | ||
! rowspan="6" | [[抗不安薬]]/<br>睡眠導入薬 | ! rowspan="6" | [[抗不安薬]]/<br>睡眠導入薬 | ||
246行目: | 255行目: | ||
|} | |} | ||
<small>厚生労働省 かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインより改変引用</small><br> | <small>厚生労働省 かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドラインより改変引用</small><br> | ||
<small>SDA:[[セロトニン]] | <small>SDA:[[セロトニン]]・ドーパミン拮抗薬、DLB:レビー小体型認知症、MARTA:多受容体作用抗精神病薬</small><br> | ||
<small>FTD:[[前頭側頭型認知症]] | <small>FTD:[[前頭側頭型認知症]]、SSRI:選択的セロトニン取り込み阻害薬、SNRI:[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]、NaSSA:[[ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬]]</small><br> | ||
==== その他の治療アプローチ ==== | ==== その他の治療アプローチ ==== | ||
254行目: | 263行目: | ||
===== 日常生活動作(Activities of daily living:ADL)障害への対応 ===== | ===== 日常生活動作(Activities of daily living:ADL)障害への対応 ===== | ||
認知症の初期には家事動作・服薬管理・買い物・電話・交通機関の利用など社会的活動に必要な、複雑で高度な手段的ADL(instrumental ADL:IADL)から障害される。その後、中等度以降に進行すると食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動などの基本的ADL(basic ADL :BADL)が障害される。IADL障害に対しては記憶の代償手段の活用(メモや日毎の内服分包、タイマー使用など)で対応する。症状が進行してBADL障害も出現するようになったら、「できるADL」を評価しながら段階的に介護量を調整し、安全面や負担も考慮して「していくADL」を検討する。また環境設定を統一し、同じ動作・方法を繰り返して[[手続き記憶]]を活用して学習したり、目印や着衣の容易な服への変更など環境整備により自立度を高める。 | 認知症の初期には家事動作・服薬管理・買い物・電話・交通機関の利用など社会的活動に必要な、複雑で高度な手段的ADL(instrumental ADL:IADL)から障害される。その後、中等度以降に進行すると食事・排泄・入浴・更衣・整容・移動などの基本的ADL(basic ADL :BADL)が障害される。IADL障害に対しては記憶の代償手段の活用(メモや日毎の内服分包、タイマー使用など)で対応する。症状が進行してBADL障害も出現するようになったら、「できるADL」を評価しながら段階的に介護量を調整し、安全面や負担も考慮して「していくADL」を検討する。また環境設定を統一し、同じ動作・方法を繰り返して[[手続き記憶]]を活用して学習したり、目印や着衣の容易な服への変更など環境整備により自立度を高める。 | ||
===== 非薬物療法 ===== | ===== 非薬物療法 ===== | ||
認知機能、BPSD、ADLの改善を目指して行う。米国精神医学会の治療ガイドラインによると、標的とされるのは「認知」「刺激」「行動」「感情」の4つで、「認知」に関しては、見当識について他者とコミュニケーションをとりながら繰り返し学習するリアリティオリエンテーション療法、「刺激」については音楽療法などの各種芸術療法、「行動」に関しては行動異常を観察・評価して介入法を導き出すアプローチが、「感情」については過去の思い出について聞き手が受容・[[共感]]的に傾聴する回想法などが試みられる。また他にも認知刺激療法、運動療法などが試みられる。 | |||
== 疫学 == | == 疫学 == | ||
2014年の国際アルツハイマー病協会の報告によると、2013年時点での世界の認知症患者数は4400万人にものぼるとされ、疾患別内訳としてはアルツハイマー病が50-75%、血管性認知症が30-40%、前頭側頭葉変性症が5−10%、レビー小体型認知症が5%以下と記載されている。本邦においても厚生労働省研究班の調査により認知症患者数は2012年時点で460万人以上にのぼることが報告され、2025年には700万人にものぼると推計されている<ref>'''朝田 | 2014年の国際アルツハイマー病協会の報告によると、2013年時点での世界の認知症患者数は4400万人にものぼるとされ、疾患別内訳としてはアルツハイマー病が50-75%、血管性認知症が30-40%、前頭側頭葉変性症が5−10%、レビー小体型認知症が5%以下と記載されている。本邦においても厚生労働省研究班の調査により認知症患者数は2012年時点で460万人以上にのぼることが報告され、2025年には700万人にものぼると推計されている<ref>'''朝田 隆、泰羅 雅、石合 純、清原 裕、池田 学、et al.'''<br>都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応.<br>''平成23年度-平成24年度総合研究報告書 : 厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業'': 2013</ref><ref>'''二宮 利、清原 裕、小原 知、米本 孝'''<br>日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究.<br>''平成26年度総括・分担研究報告書 : 厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業'': 2015</ref>。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references/> | <references/> | ||