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同義語:痴呆、呆け、耄け、老耄、耄碌 | 同義語:痴呆、呆け、耄け、老耄、耄碌 | ||
{{box|text= 認知症は、一度正常に達した認知機能が意識清明下で後天的に低下し日常生活や社会生活に支障をきたす状態を言う。原因疾患はアルツハイマー病などの神経変性疾患の他、血管性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、感染症、各種内科疾患、薬物中毒など多彩である。本邦では「痴呆」という用語が定着していたが、その差別感・侮蔑感が指摘され2005年より「認知症」に変更することが定められた。国際的に広く用いられる診断基準としてICD-10やDSM-Ⅲ-R、DSM-Ⅳ- | {{box|text= 認知症は、一度正常に達した認知機能が意識清明下で後天的に低下し日常生活や社会生活に支障をきたす状態を言う。原因疾患はアルツハイマー病などの神経変性疾患の他、血管性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、感染症、各種内科疾患、薬物中毒など多彩である。本邦では「痴呆」という用語が定着していたが、その差別感・侮蔑感が指摘され2005年より「認知症」に変更することが定められた。国際的に広く用いられる診断基準としてICD-10やDSM-Ⅲ-R、DSM-Ⅳ-TRなどが挙げられ、dementiaという用語が用いられていたが、2013年に改訂されたDSM-5においてはneurocognitive disordersという用語で記憶障害を必須としない定義に変更されている。高齢化の進展に伴い患者数は増加しており、また有効な根治療法が確立していないケースが多く経済的、社会的観点からも重大な課題となっている。}} | ||
== 認知症とは == | == 認知症とは == | ||
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==== 歴史的推移 ==== | ==== 歴史的推移 ==== | ||
本邦において本概念は古来、「呆ける、惚ける、耄ける(ぼける、ほける、ほうける)」「老い痴らふ(おいしらふ)」などの一般語で表わされ、少なくとも平安時代以降の文学などにおいて記載が散見される。江戸時代には広義に「老化による衰え」というニュアンスを含む「耄碌(もうろく)」という一般語が使用されるようになる。一方、医学用語としては、江戸時代の医師である浅井貞庵の著書「方彙口訣」や本間棗軒の著書「内科秘録」の中に「[[健忘]] | 本邦において本概念は古来、「呆ける、惚ける、耄ける(ぼける、ほける、ほうける)」「老い痴らふ(おいしらふ)」などの一般語で表わされ、少なくとも平安時代以降の文学などにおいて記載が散見される。江戸時代には広義に「老化による衰え」というニュアンスを含む「耄碌(もうろく)」という一般語が使用されるようになる。一方、医学用語としては、江戸時代の医師である浅井貞庵の著書「方彙口訣」や本間棗軒の著書「内科秘録」の中に「[[健忘]]」の語が認められる。江戸時代末期から明治初期にかけて様々な西洋医学用語が日本語に訳されたが「dementia」については1872年(明治5年)の「医語類聚」では「狂ノ一種」と訳され、以後も「痴狂」や「瘋癩」「痴呆」など様々に訳され一定しなかった。その後、1908年(明治41年)、東京帝国大学精神病学講座の呉秀三教授が「狂」の文字を避ける観点から「痴呆」の使用を提唱し、それが一般化した。しかし、徐々に「痴呆」という用語における差別感・侮蔑感・不適切感が指摘されるようになり、厚生労働省における議論や検討会を経て、2004年末に公的な用語としてはそれまでの「痴呆」を「認知症」と呼び変えることが決定した。一方、人間が外界の情報を内部に[[取り入れ]]る知的機能・現象を表わす「認知」という言葉の後に「〜の状態」という意味の「症」を続けるのは日本語として意味が不明であり、不適切であると言う議論も出ている。 | ||
== 診断 == | == 診断 == | ||
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認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]によるICD-10や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。 | 認知症の診断基準のうち、国際的に広く用いられているものとしては[[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]]によるICD-10や、[[wikipedia:ja:米国精神学会|米国精神学会]]による[[DSM-Ⅲ]]、[[DSM-Ⅳ]]-TRおよび2013年5月に公開された[[DSM-5]]などが挙げられる。 | ||
ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health | ICD-10は1990年の第43回世界保健総会において採択された「疾病および関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」第10版であり、dementiaを「脳疾患により慢性(6ヶ月以上)あるいは進行性に]]記憶]]、[[思考]]、[[見当識]]、[[理解]]、[[計算]]、[[学習能力]]、[[言語]]、[[判断]]を含む高次皮質機能障害を示す症候群で、意識は清明である」としている。ICD-10における認知症の具体的な診断基準の要約を'''表1'''に示す。2017年にはICD-11が制定・公表される予定である。<br> | ||
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これらの診断基準を踏まえ、本邦の認知症疾患治療ガイドライン2010では認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときに見られる。」と定義している。<br> | これらの診断基準を踏まえ、本邦の認知症疾患治療ガイドライン2010では認知症を「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときに見られる。」と定義している。<br> | ||
他方、2013年に公表されたDSM- | 他方、2013年に公表されたDSM-5ではdementiaという用語は消失し、代わりに「[[神経認知障害]]:neurocognitive disorders(ND)」と総称することを提唱している。dementiaという用語が廃止されたのは語源的に「de (without) + mentia (mind)」と構成されており、「mad」「crazy」「insane」「lunatic」など「狂」を意味する語と類義で差別的・侮蔑的なためとされる。認知症に該当するMajor NDの診断基準を'''表4'''に示す。<br> | ||
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|+ '''表4.DSM- | |+ '''表4.DSM-5による認知症(major neurocognitive disorder)の診断基準の要約''' | ||
| A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> | | A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、知覚-運動、社会的認知)において過去の水準から明らかな認知の低下を来しているという以下に基づく証拠がある。<br> | ||
1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> | 1) 本人、本人を良く知る情報提供者、もしくは臨床医による認知機能の明らかな低下があるという懸念。<br> | ||
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DSM- | DSM-5の変更点に対する本邦の対応は、major NDが内容的に従来のdementiaと重なる部分が多いこと、またdementiaに対する用語が本邦ではすでに「痴呆」から「認知症」へと変更されており社会的にも受け入れられていることから、Major NDを「認知症」とすることが日本精神神経学会 精神科用語検討委員会 精神科病名検討連絡会にて承認されている。 | ||
==== 鑑別診断 ==== | ==== 鑑別診断 ==== |