「てんかん」の版間の差分

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 この分類では発作は全般発作と部分発作に 分類され、それぞれ欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作に分けられ、後者は単純部分発作、複雑部分発作と2次性全般化発作に分けられる。これらの分類に従って治療のための抗てんかん薬が選択される。
 この分類では発作は全般発作と部分発作に 分類され、それぞれ欠神発作、ミオクロニー発作、間代発作、強直発作、強直間代発作、脱力発作に分けられ、後者は単純部分発作、複雑部分発作と2次性全般化発作に分けられる。これらの分類に従って治療のための抗てんかん薬が選択される。
{| class="wikitable"
|+表1.てんかん発作型国際分類(1981年)
|-
| style="background-color:#d3d3d3" |部分発作(焦点性、局在性発作)
| style="background-color:#d3d3d3" |全般発作
|-
|A.単純部分発作(意識減損はない)
#運動徴候を呈するもの
#体性感覚または特殊感覚症状を呈するもの
#自立神経症状あるいは徴候を呈するもの
#精神症状を呈するもの<br>
(多くは“複雑部分発作”として経験される)
| A.
#欠神発作<br> a.意識減損のみのもの<br> b.軽度の間代要素を伴うもの<br> c.脱力要素を伴うもの<br> d.強直要素を伴うもの<br> e.自動症を伴うもの<br> f.自律神経要素を伴うもの<br> (b~fは単独でも組み合わせでもあり得る)
#非定型欠神発作<br> a.筋緊張の変化はA.1.よりも明瞭<br> b.発作の起始/終末は急激ではない
|-
|B.複雑部分発作
#単純部分発作で始まり意識減損に移行するもの<br> a.単純部分発作で始まるもの<br> b.自動症を伴うもの
#意識減損で始まるもの
|B.ミオクロニー発作
|-
| rowspan="4" | C.二次的に全般化する部分発作
#単純部分発作(A)が全般発作に進展するもの
#複雑部分発作(B)が全般発作に進展するもの
#単純部分発作から複雑部分発作を経て全般発作に進展するもの
|C.間代発作
|-
|D.強直発作
|-
|E.強直間代発作
|-
|F.脱力(失立)発作
|-
| colspan="2" style="background-color:#d3d3d3" |未分類てんかん発作
|-
| colspan="2"|不適切あるいは不完全なデータのため分類できないものや上記カテゴリーに分類できないすべてのものを含む。
|-
|}


===全般発作===
===全般発作===
 発作の起始から発作発射が脳全体に及び起こる発作で、発作直後から意識は失われる。原因として遺伝的素因が関与すると考えられている。
 発作の起始から発作発射が脳全体に及び起こる発作で、発作直後から意識は失われる。原因として遺伝的素因が関与すると考えられている。
#欠神発作はごく短時間の意識喪失を示す発作で定型と否定型の2種類に分けられる。<BR>
#欠神発作はごく短時間の意識喪失を示す発作で定型と否定型の2種類に分けられる。<BR> 定型欠神発作は数秒から十数秒の意識障害が突然始まり速やかに回復する。発作は頻発する傾向があり、思春期頃には消失することが多いが、一部は強直間代発作に移行する。発作時脳波は3Hz棘徐派結合ないし多棘徐派結合を示す。<BR> 否定形欠神発作は意識障害以外にも各種症状が混在した臨床症状(ミオクロニー、自働症、間代運動、自律神経症状など)がより多く見られ、脱力などの筋緊張の変化がみられることも多い。発作の始まりと終わりがゆっくりで、脳波所見も不規則で左右非対称、背景活動も突発性異常波が混在することもある。欠神発作は複雑部分発作との鑑別が必要なときがあるが、複雑部分発作は発作持続時間がより長く、成人に多い。
定型欠神発作は数秒から十数秒の意識障害が突然始まり速やかに回復する。発作は頻発する傾向があり、思春期頃には消失することが多いが、一部は強直間代発作に移行する。発作時脳波は3Hz棘徐派結合ないし多棘徐派結合を示す。<BR>
否定形欠神発作は意識障害以外にも各種症状が混在した臨床症状(ミオクロニー、自働症、間代運動、自律神経症状など)がより多く見られ、脱力などの筋緊張の変化がみられることも多い。発作の始まりと終わりがゆっくりで、脳波所見も不規則で左右非対称、背景活動も突発性異常波が混在することもある。欠神発作は複雑部分発作との鑑別が必要なときがあるが、複雑部分発作は発作持続時間がより長く、成人に多い。
#ミオクロニー発作は突然に両側同時に強い筋のれん縮が出現する。瞬間的なので意識障害を伴わず、光刺激により誘発されやすい。思春期に好発し、覚醒直後、入眠期に起こりやすい。発作時の脳波では両側同期性の棘徐波結合が出現し、棘波に一致し筋れん縮が起こる。
#ミオクロニー発作は突然に両側同時に強い筋のれん縮が出現する。瞬間的なので意識障害を伴わず、光刺激により誘発されやすい。思春期に好発し、覚醒直後、入眠期に起こりやすい。発作時の脳波では両側同期性の棘徐波結合が出現し、棘波に一致し筋れん縮が起こる。
#間代発作は意識消失とともに数秒から1分以上の左右対称性の全身の律動的な筋の痙攣を起こす。発作時脳波では10Hz以上の速波と徐派から構成され、棘徐派結合も出現する。
#間代発作は意識消失とともに数秒から1分以上の左右対称性の全身の律動的な筋の痙攣を起こす。発作時脳波では10Hz以上の速波と徐派から構成され、棘徐派結合も出現する。
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 脳波上の異常波が脳の一定部位から始まり、発作症状も脳の一定部位から始まる。部分発作は1)意識障害を伴わない単純部分発作、2)意識障害を伴う複雑部分発作、3)、二次性全般か発作に分類される。
 脳波上の異常波が脳の一定部位から始まり、発作症状も脳の一定部位から始まる。部分発作は1)意識障害を伴わない単純部分発作、2)意識障害を伴う複雑部分発作、3)、二次性全般か発作に分類される。


#単純部分発作<br>
#単純部分発作<br> 意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。<br> 運動徴候を伴う発作は焦点性運動発作、ジャクソン型発作、回転発作、姿勢発作、音声発作がある。焦点性運動発作は前中心回の運動領野に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これをトッドの麻痺という。<br> 回転発作は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。姿勢発作は捕捉運動野に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。<br> [[体性感覚]]ないし特殊感覚症状を伴う発作には体性感覚発作、視覚発作、聴覚発作、[[めまい]]発作がある。体性感覚発作は後中心回の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの[[知覚]]異常が出現する。視覚発作は後頭葉にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。<br> 聴覚発作はてんかn焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。<br> 自律神経症状ないし兆候を伴う発作は、数分以内の自律維新系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、瞳孔散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。<br>精神症状を伴う発作<br> 発作発射は側頭葉皮質から辺縁系の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、情動発作が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、不安、恐怖、怒り、多幸感、を感ずるものである。[[言語中枢]]付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる(運動性失語)あるいは言葉を理解できなくなる(感覚性失語)を起こす。記憶障害発作は一過性の健忘、既視体験、未視体験などの発作症状を示し、認知発作には夢幻様体験、強制思考などがある。[[錯覚]]発作の症状として変形視、巨視症、小視症などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。構成幻覚発作は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。<br> これらの単純部分発作は複雑部分発作、二次性全般化発作の初期症状として出現することも少なくない。
意識障害を示さず、発作時脳波は脳皮質の局所性の放電である。これは発作症状から4種類に分けられる。<br>
#複雑発作<br> 発作時に意識障害を認め、発作後に健忘を残す。発作の始めから意識障害を示す発作と単純部分発作から複雑部分発作へと移行する発作があり、それぞれ意識障害のみを示す発作と自働症を伴う発作に細[[分化]]される。意識障害は数十秒から数分間に及び、意識障害の始まりと終わりは欠神発作に比較し、よりゆっくりとしている。発作中は動作が止まるときと体を奇妙に動かす自働症を示すこともある。側頭葉起源の自働症は運動を伴わない凝視と意識の断絶で始まり、噛む、嚥下する、衣類をなでるなどの、単純かつ定型的な自働症が続発する。側頭葉以外に起始場合には凝視を欠き、歩行性自働症、両側四肢の持続的運動および強直性の反体側への頭部、眼球の運動を特徴とする場合、あるいは転倒発作で開始され、錯乱と健忘を伴い、徐々に回復するタイプがある(5)。<br> 前葉性の複雑部分発作の特徴は蹴ったり叩いたりする複雑な運動性自働症、奇妙な発語、軽症の発作後もうろう状態と急速な回復とがある。複雑部分発作時の脳波所見は側頭部、前頭部ないしは広範性の一側性ないしは両側性放電を示すが、脳波異常を記録できない場合もあり、心因性発作と誤診されることもある。
 運動徴候を伴う発作は焦点性運動発作、ジャクソン型発作、回転発作、姿勢発作、音声発作がある。焦点性運動発作は前中心回の運動領野に焦点があり、その脳部位に関連する身体部位のけいれんが出現する。ジャクソン型発作は前中心回の一部に始まった発作発射が周囲の脳部位に波及するため手ー腕ー下肢などのように同側の身体部位を巻き込んで発作が拡大してゆく。発作後に足などの麻痺が残ることがあり、これをトッドの麻痺という。<br>
 回転発作は脳皮質焦点の反対側へ眼球、顔、躯幹を向ける発作である。姿勢発作は捕捉運動野に焦点がある場合、反対側の上肢を挙上し、それを見上げるように頭部、眼球を回転させる。音声発作は前中心回の発作発射により同じ言葉を反復する、叫ぶ、あるいは言葉を話せなくなる発作である。<br>
 [[体性感覚]]ないし特殊感覚症状を伴う発作には体性感覚発作、視覚発作、聴覚発作、[[めまい]]発作がある。体性感覚発作は後中心回の発作発射によりその部位がつかさどる体の一部にしびれ感などの[[知覚]]異常が出現する。視覚発作は後頭葉にてんかん焦点があるとき、閃光、渦巻く雲が見えたり視野が狭くなったりする。<br>
 聴覚発作はてんかn焦点が側頭葉上部にあると、発作として音が聞こえあるいは逆に聞こえなくなる。鉤回に焦点があると匂いを感ずる発作が、焦点が島、弁蓋部にあると苦味、酸味などの味覚発作が出現する。側頭葉上回にあるとめまい発作が出現すると考えられている。<br>
 自律神経症状ないし兆候を伴う発作は、数分以内の自律維新系症状(悪心、嘔吐、頭痛、腹部不快感など)を示す発作で、血圧の上昇、瞳孔散大、くしゃみなどもみられる。成人の場合には多彩な自律神経症状は発作症状の一部として出現する。<br>
精神症状を伴う発作<br>
 発作発射は側頭葉皮質から辺縁系の一部に限局するため、意識は失われない。発作症状は多彩であり、情動発作が多い。これは側頭葉下面皮質に焦点があるとき、不安、恐怖、怒り、多幸感、を感ずるものである。[[言語中枢]]付近に焦点がある場合、言葉を話せなくなる(運動性失語)あるいは言葉を理解できなくなる(感覚性失語)を起こす。記憶障害発作は一過性の健忘、既視体験、未視体験などの発作症状を示し、認知発作には夢幻様体験、強制思考などがある。[[錯覚]]発作の症状として変形視、巨視症、小視症などの視覚症状と音が大きくあるいは小さく聞こえるなどの聴覚性症状がある。構成幻覚発作は人の声、動作が意味を持ち、情景が見え、音楽が聞こえるなどの複雑な幻覚を感ずる発作である。<br>
 これらの単純部分発作は複雑部分発作、二次性全般化発作の初期症状として出現することも少なくない。
#複雑発作<br>
 発作時に意識障害を認め、発作後に健忘を残す。発作の始めから意識障害を示す発作と単純部分発作から複雑部分発作へと移行する発作があり、それぞれ意識障害のみを示す発作と自働症を伴う発作に細[[分化]]される。意識障害は数十秒から数分間に及び、意識障害の始まりと終わりは欠神発作に比較し、よりゆっくりとしている。発作中は動作が止まるときと体を奇妙に動かす自働症を示すこともある。側頭葉起源の自働症は運動を伴わない凝視と意識の断絶で始まり、噛む、嚥下する、衣類をなでるなどの、単純かつ定型的な自働症が続発する。側頭葉以外に起始場合には凝視を欠き、歩行性自働症、両側四肢の持続的運動および強直性の反体側への頭部、眼球の運動を特徴とする場合、あるいは転倒発作で開始され、錯乱と健忘を伴い、徐々に回復するタイプがある(5)。<br>
 前葉性の複雑部分発作の特徴は蹴ったり叩いたりする複雑な運動性自働症、奇妙な発語、軽症の発作後もうろう状態と急速な回復とがある。複雑部分発作時の脳波所見は側頭部、前頭部ないしは広範性の一側性ないしは両側性放電を示すが、脳波異常を記録できない場合もあり、心因性発作と誤診されることもある。
#二次性全般化発作には単純部分発作から、複雑部分発作から、単純部分から複雑部分発作を経て二次性全般化発作にいたる3経路がある。強直・間代発作が多いが、強直あるいは間代だけの場合もある。発作時脳波は焦点性発射が全般化することが多く、発作間歇期には焦点性異常波が記録される。しかし、異常所見が記録されないこともある。
#二次性全般化発作には単純部分発作から、複雑部分発作から、単純部分から複雑部分発作を経て二次性全般化発作にいたる3経路がある。強直・間代発作が多いが、強直あるいは間代だけの場合もある。発作時脳波は焦点性発射が全般化することが多く、発作間歇期には焦点性異常波が記録される。しかし、異常所見が記録されないこともある。


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===個別化治療===
===個別化治療===
[[IMAGE:てんかん1.png|thumb|350px|'''図1.GABA 受容体の膜展開図'''<br>膜の上は細胞外、下は細胞内を示す。GABA受容体には膜貫通部位が4個ある。<br>
NはN端をCはC端を示し、数字は変異の位置を示す。(10)。]]
 てんかんの遺伝情報に基づいた個別化治療の戦略はてんかんの病態(例えば、[[イオンチャネル]]の異常)、その異常に対応する抗てんかん薬、その抗てんかん薬の副作用を考慮し薬剤を選択する。一方、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターの遺伝子多型からその個人の適量を決定する、という個別化治が示されている(21)。表4は抗てんかん薬が基質となる代謝酵素(CYPs)分子種を示しているが、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19が抗てんかん薬の代謝に重要であり、各CYPには遺伝的多型が存在し代謝能力が異なる(extensive、intermediate、poor metabolizer)。日本人ではCYP2C19のpoor metabolizerは約18%、CYP2C9は約7%がpoor metabolizerである。
 てんかんの遺伝情報に基づいた個別化治療の戦略はてんかんの病態(例えば、[[イオンチャネル]]の異常)、その異常に対応する抗てんかん薬、その抗てんかん薬の副作用を考慮し薬剤を選択する。一方、薬物代謝酵素、薬剤排泄トランスポーターの遺伝子多型からその個人の適量を決定する、という個別化治が示されている(21)。表4は抗てんかん薬が基質となる代謝酵素(CYPs)分子種を示しているが、CYP3A4、CYP2C9、CYP2C19が抗てんかん薬の代謝に重要であり、各CYPには遺伝的多型が存在し代謝能力が異なる(extensive、intermediate、poor metabolizer)。日本人ではCYP2C19のpoor metabolizerは約18%、CYP2C9は約7%がpoor metabolizerである。


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