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(ページの作成:「<div align="right"> <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0081768 有賀 純]、畑山 実</font><br> ''長崎大学大学院医歯薬学総合研究科''<br> DO...」) |
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Zic(Zinc-finger protein of the cerebellum)とは進化的に保存された亜鉛フィンガー(zinc finger)を持つタンパク質をコードする遺伝子の一群で、神経発生や初期発生に関わる細胞分化を制御することが知られている。その機能不全は、前脳や小脳の形成障害、内臓左右軸異常などの原因となる。[1-4] | |||
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==生物における分布== | ==生物における分布== | ||
カイメン[[動物]] | カイメン[[動物]]および有櫛動物を除く後生動物(metazoa)に存在することが確認されている[5, 6]。[[哺乳類]]では5種類の関連遺伝子(Zic1-Zic5)が存在する。各動物における相同遺伝子、関連遺伝子を総称してZicファミリーと呼ぶ。[[ショウジョウバエ]]、クモのOdd-paired、[[線虫]]のREF-2、ホヤのmacho-1もZicファミリーに含まれる。 | ||
==構造== | ==構造== | ||
「システイン-Xn-システイン-Xn-[[ヒスチジン]]-Xn- | [[image:zic1.png|thumb|350px|'''図.Zicタンパク質の構造''']] | ||
「システイン-Xn-システイン-Xn-[[ヒスチジン]]-Xn-ヒスチジン」のモチーフが5回繰り返すC2H2型の亜鉛(Zn)フィンガードメインは全てのZicファミリータンパク質で保存されている。その他にN末のZOC(Zic-Opa conserved)ドメインとZFNC(Zinc finger N–terminus conserved)ドメインが多くのZicファミリータンパク質で保存された構造として知られている(図)。各動物グループ(門)間における保存性の差異の存在が提唱されている[5]。Zicファミリーの亜鉛フィンガードメインはGliファミリーおよびGlisファミリーのものと類似しており、3グループを総称して、Gli(-Glis-Zic)スーパーファミリーと呼ぶこともある。 | |||
==分子機能== | ==分子機能== | ||
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====左右軸決定==== | ====左右軸決定==== | ||
ZIC3は内臓左右不定位症(ヘテロタキシー、heterotaxy, situs ambiguous)と心奇形(一部の完全大動脈転位症、両大血管右室起始症)の原因遺伝子である。散発性のヘテロタキシーの3.7%でZIC3の変異が認められる[17]。マウスでは左右軸の決定に重要な役割を果たすと考えられているノード(node)の形成にZic3が必要であることが示されている[18]。 | |||
====脊索の形成==== | ====脊索の形成==== | ||
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髄芽細胞腫、髄膜腫、脂肪肉腫、肝細胞癌、胃癌、膵管癌、肺癌、大腸癌、[[子宮]]頚癌、[[卵巣]]癌などにおけるZICファミリーの発現が報告され、腫瘍化または腫瘍抑制における役割、診断・予後予測への応用が検討されている。肝細胞癌ではZIC2が[[転写因子]]OCT4の発現を活性化して、癌幹細胞の維持に関わることが報告された [35]。 | 髄芽細胞腫、髄膜腫、脂肪肉腫、肝細胞癌、胃癌、膵管癌、肺癌、大腸癌、[[子宮]]頚癌、[[卵巣]]癌などにおけるZICファミリーの発現が報告され、腫瘍化または腫瘍抑制における役割、診断・予後予測への応用が検討されている。肝細胞癌ではZIC2が[[転写因子]]OCT4の発現を活性化して、癌幹細胞の維持に関わることが報告された [35]。 | ||
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|+ 表.ヒトとマウスにおけるZicファミリーの役割のまとめ | |||
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|'''ヒトで遺伝的な関与がある疾患''' | |||
|'''遺伝子欠損マウスの症状''' | |||
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|Zic1 | |||
|Dandy-Walker 奇形(小脳形成の異常)<br>頭蓋骨癒合症(狭頭症)・学習障害[32] | |||
|小脳形成の異常<br>椎弓・肋骨形成の異常<br>筋緊張度の低下 | |||
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|Zic2 | |||
|全前脳症(HPE5、前脳正中部形成異常)<br>近視 [36, 37] | |||
|全前脳症・二分脊椎症様奇形<br>中軸・四肢骨格系形成の異常<br>筋肉発生の異常<br>大脳層構造の異常<br>視交叉での神経走向の異常<br>認知機能・社会行動の異常<br>髄膜の形成不全 | |||
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|Zic3 | |||
|内臓左右不定位症<br>(situs ambiguous, heterotaxy)<br> | |||
心奇形(内臓の左右位置異常と関係したもの、完全大動脈転位、両大血管右室起始症など)<br> | |||
VACTERL症候群(脊椎奇形、肛門直腸奇形、心奇形、気管食道瘻、腎奇形、<br>四肢欠陥などが合併する先天奇形)[38] | |||
|尾の屈曲、脊椎の形成異常<br>神経管奇形<br>左右軸形成の異常<br>小脳形成の異常<br>動眼調節機能の異常<br>筋緊張度の低下<br> | |||
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==参考文献== | ==参考文献== | ||
(2003年以前の文献は文献1-4の中に引用されている文献を参照) | |||
<references /> | <references /> |