「運動視」の版間の差分

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サイズ変更なし 、 2016年2月25日 (木)
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==運動検出器==
==運動検出器==
[[image:運動視1.png|thumb|350px|図1.]]
[[image:運動視1.png|thumb|300px|図1.]]


 動いている物体は、時々刻々と、その位置を変える。前額平行面内で一方向に等速で動いている物体は、時間軸・空間軸のつくる2次元平面上では斜めの直線となって表される。そのため、運動を検出するには、この時空間軸上での傾きを検出すればよい。V1の単純型細胞のなかには、時空間軸上での傾きを検出する細胞が存在する[19]。さらに複雑型細胞では、受容野内のどの位置で物体が動いても正しく運動が検出されるための統合が行われる[19]。このような初期視覚系での運動検出のモデルとして、エネルギーモデル(図1)が提唱されている[4]。実際に、霊長類のV1ニューロンの特徴はこのエネルギーモデルの予測とよくあっている。動物種によっては、運動検出器が網膜にあるという報告もある[20]。
 動いている物体は、時々刻々と、その位置を変える。前額平行面内で一方向に等速で動いている物体は、時間軸・空間軸のつくる2次元平面上では斜めの直線となって表される。そのため、運動を検出するには、この時空間軸上での傾きを検出すればよい。V1の単純型細胞のなかには、時空間軸上での傾きを検出する細胞が存在する[19]。さらに複雑型細胞では、受容野内のどの位置で物体が動いても正しく運動が検出されるための統合が行われる[19]。このような初期視覚系での運動検出のモデルとして、エネルギーモデル(図1)が提唱されている[4]。実際に、霊長類のV1ニューロンの特徴はこのエネルギーモデルの予測とよくあっている。動物種によっては、運動検出器が網膜にあるという報告もある[20]。


==窓問題==
==窓問題==
[[image:運動視2.png|thumb|350px|図2.]]
[[image:運動視2.png|thumb|300px|図2.]]
[[image:運動視3.png|thumb|350px|図3.]]
[[image:運動視3.png|thumb|300px|図3.]]


 運動視において視覚系が直面する問題として窓問題が挙げられる。運動する物体を小さい窓枠から覗いたときには、物体全体の運動方向によらず、窓枠から見える物体の局所輪郭線に直行する方向の運動成分が検出されてしまう(図2)。これを窓問題という。物体運動の最初の検出が行われるV1は、ニューロンの受容野が小さいため、実質的には窓枠となっている。このため、運動を正しく計算するには、V1で検出された局所運動を空間・方位にわたって統合する必要がある。この統合過程はV1より高次の領野、MT野やMST野で行われると考えられている[21]。二つのGratingを重ねたPlaidパターン(図3)と呼ばれる格子状の刺激を用いた生理学的研究によると、MT野では約1/3のニューロンが[22]、MST野ではほぼ全てのニューロンが[23]この統合過程に関わっていると示唆されている。実際、MT野ニューロンが反応する方位と時空間周波数をマッピングすると、個々のニューロンは、特定の方向に動いている物体から生成される方位・時空間周波数成分を統合していることが判明している[24]。
 運動視において視覚系が直面する問題として窓問題が挙げられる。運動する物体を小さい窓枠から覗いたときには、物体全体の運動方向によらず、窓枠から見える物体の局所輪郭線に直行する方向の運動成分が検出されてしまう(図2)。これを窓問題という。物体運動の最初の検出が行われるV1は、ニューロンの受容野が小さいため、実質的には窓枠となっている。このため、運動を正しく計算するには、V1で検出された局所運動を空間・方位にわたって統合する必要がある。この統合過程はV1より高次の領野、MT野やMST野で行われると考えられている[21]。二つのGratingを重ねたPlaidパターン(図3)と呼ばれる格子状の刺激を用いた生理学的研究によると、MT野では約1/3のニューロンが[22]、MST野ではほぼ全てのニューロンが[23]この統合過程に関わっていると示唆されている。実際、MT野ニューロンが反応する方位と時空間周波数をマッピングすると、個々のニューロンは、特定の方向に動いている物体から生成される方位・時空間周波数成分を統合していることが判明している[24]。
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==運動方向弁別==
==運動方向弁別==
[[image:運動視4.png|thumb|350px|図4.]]
[[image:運動視4.png|thumb|300px|図4.]]


 運動視の研究は知覚判断の分野において重要な知見をもたらした。運動方向弁別課題では、ランダムドットの動きの方向を答えるが、一定方向に動くドットの割合(motion coherence、図4)を変えることで動きの強さを調整できるため、ある正答率を得るために必要なcoherenceを運動視の閾値として定義できる。閾値は動物でもヒトでも測定できる。以下、一連の研究で明らかになった重要事項を解説する。
 運動視の研究は知覚判断の分野において重要な知見をもたらした。運動方向弁別課題では、ランダムドットの動きの方向を答えるが、一定方向に動くドットの割合(motion coherence、図4)を変えることで動きの強さを調整できるため、ある正答率を得るために必要なcoherenceを運動視の閾値として定義できる。閾値は動物でもヒトでも測定できる。以下、一連の研究で明らかになった重要事項を解説する。

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