「ミクログリア」の版間の差分

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==歴史==
==歴史==
 ミクログリアは1920年代にPio del Rio-Hortegaによって中枢神経系における「第3のエレメント」として位置付けられ、「ミクログリア」と命名された。彼の一連の研究から、ミクログリアの発達初期に脳への浸潤し、その細胞はアメボイド形態で中胚葉由来であろうということ、成体脳では枝分かれした形態で一定間隔を保って分布し、病態ではアメボイド形態になり、移動、増殖、貪食能を有するという仮説が立てられた<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。これらは、現在までの多くの研究から明らかになったミクログリアの特徴や機能にマッチしており、非常に先駆的な研究といえる(彼はFather of Microgliaとも呼ばれている)。その後、中枢神経系においてミクログリアを他の細胞と識別できる[[F4]]/80、Fc受容体、補体受容体<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>、Iba1<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>に対する抗体や細胞培養法の開発により、ミクログリア研究が大きく発展した。さらに、1960年代後半にKreutzbergが、[[血液脳関門]]が正常なままである[[顔面神経]]切断モデルを開発し、神経損傷によるミクログリアの応答性の研究に飛躍的な発展をもたらした<ref name=ref1 />。その後、ミクログリアに蛍光タンパク質を発現する[[トランスジェニックマウス]]が開発され、[[免疫]]組織染色をすることなくミクログリアの可視化が実現し、生体イメージング技術との組み合わせで、ミクログリアのin vivoイメージングが可能になった(後述)。これにより、これまで正常時のミクログリアは「静止型(resting)」とされてきたが、ミクログリアは細胞突起をダイナミックに動かし、[[シナプス]]との物理的コンタクトや細胞障害に鋭敏に応答することが明らかになった。さらに、遺伝子改変による細胞ラベリング技術等により、長らく議論になっていたミクログリアの起源が骨髄由来細胞ではなく[[胎生期]]に卵黄嚢で発生する前駆細胞であることが発見され、更なるブレイクスルーとなった(後述)。また、生体からミクログリアのみをFACS等で分取し、マイクロアレイや次世代シーケンス技術等による網羅的遺伝子解析からミクログリアに高発現する遺伝子群(P2ry12、P2ry13、Tmem119、Gpr34、Siglech、Trem2、Cx3cr1など)も明らかになり、骨髄由来の単球やマクロファージとは異なる遺伝子発現パターンを有していることが報告された<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref>。最近では脳部位によってもミクログリアの遺伝子発現が異なることも報告されている<ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。加えて、ミクログリア選択的な遺伝子改変技術も開発され、ミクログリアの生理および病態における多くの興味深い役割が次々と明らかになってきており<ref name=ref1 /> <ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>、中枢神経系機能の維持や異常にこの「第3のエレメント」が世界的な注目を集めている。
 ミクログリアは1920年代にPio del Rio-Hortegaによって中枢神経系における「第3のエレメント」として位置付けられ、「ミクログリア」と命名された。彼の一連の研究から、ミクログリアの発達初期に脳への浸潤し、その細胞はアメボイド形態で中胚葉由来であろうということ、成体脳では枝分かれした形態で一定間隔を保って分布し、病態ではアメボイド形態になり、移動、増殖、貪食能を有するという仮説が立てられた<ref name=ref1><pubmed>21527731</pubmed></ref>。これらは、現在までの多くの研究から明らかになったミクログリアの特徴や機能にマッチしており、非常に先駆的な研究といえる(彼はFather of Microgliaとも呼ばれている)。その後、中枢神経系においてミクログリアを他の細胞と識別できる[[F4]]/80、Fc受容体、補体受容体<ref name=ref2><pubmed>3895031</pubmed></ref>、Iba1<ref name=ref3><pubmed>8713135</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>9630473</pubmed></ref>に対する抗体や細胞培養法の開発により、ミクログリア研究が大きく発展した。さらに、1960年代後半にKreutzbergが、[[血液脳関門]]が正常なままである[[顔面神経]]切断モデルを開発し、神経損傷によるミクログリアの応答性の研究に飛躍的な発展をもたらした<ref name=ref1 />。その後、ミクログリアに蛍光タンパク質を発現する[[トランスジェニックマウス]]が開発され、[[免疫]]組織染色をすることなくミクログリアの可視化が実現し、生体イメージング技術との組み合わせで、ミクログリアのin vivoイメージングが可能になった(後述)。これにより、これまで正常時のミクログリアは「静止型(resting)」とされてきたが、ミクログリアは細胞突起をダイナミックに動かし、[[シナプス]]との物理的コンタクトや細胞障害に鋭敏に応答することが明らかになった。さらに、遺伝子改変による細胞ラベリング技術等により、長らく議論になっていたミクログリアの起源が骨髄由来細胞ではなく[[胎生期]]に卵黄嚢で発生する前駆細胞であることが発見され、更なるブレイクスルーとなった(後述)。また、生体からミクログリアのみをFACS等で分取し、マイクロアレイや次世代シーケンス技術等による網羅的遺伝子解析からミクログリアに高発現する遺伝子群(P2ry12、P2ry13、Tmem119、Gpr34、Siglech、Trem2、Cx3cr1など)も明らかになり、骨髄由来の単球やマクロファージとは異なる遺伝子発現パターンを有していることが報告された<ref name=ref5><pubmed>23023392</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>24316888</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>25480297</pubmed></ref>。最近では脳部位によってもミクログリアの遺伝子発現が異なることも報告されている<ref name=ref8><pubmed>26780511</pubmed></ref>。加えて、ミクログリア選択的な遺伝子改変技術も開発され、ミクログリアの生理および病態における多くの興味深い役割が次々と明らかになってきており<ref name=ref1 /> <ref name=ref9><pubmed>21068834</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>   22660301</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>23307732</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>、中枢神経系機能の維持や異常にこの「第3のエレメント」が世界的な注目を集めている。


==発生==
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