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Hirokazuyokokawa (トーク | 投稿記録) 細 (→主な理論) |
Hirokazuyokokawa (トーク | 投稿記録) 細 (→外国語の獲得・処理・学習) |
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言語運用を可能にする語彙知識は,人間の脳内に存在すると仮定されているメンタルレキシコン(mental lexicon; [[心内辞書]])に格納されている。Levelt(1989)によれば,語の形態(morphology)および音韻(phonology)に関する情報が保存されているレキシーム(lexeme)と語の統語(syntax)および意味(semantics)に関する情報が保存されているレマ(lemma)という二層構造をもつと仮定されている<ref>'''Levelt, W.J. M.'''<br>Speaking: from intention to articulation<br>''Cambridge, MA: MIT Press'': 1989</ref>。母語も外国語の場合も同様に,ある語彙項目(lexical item)についてさまざまな語彙情報が符号化され(encoding),獲得される。これらの語彙情報は,一度に獲得されるものではなく,言語経験によって少しずつ情報が付加され,ときには修正・更新されていく性質のものである。このようにして,脳内に貯蔵(storage)された語彙情報は,言語理解や言語産出のプロセスにおいて,[[検索]]され(retrieval),利用される点は,外国語の場合も同じである<ref>'''門田修平編著'''<br>英語のメンタルレキシコン:語彙の獲得・処理・学習(第3版)<br>''松柏社'': 2014</ref>。 | 言語運用を可能にする語彙知識は,人間の脳内に存在すると仮定されているメンタルレキシコン(mental lexicon; [[心内辞書]])に格納されている。Levelt(1989)によれば,語の形態(morphology)および音韻(phonology)に関する情報が保存されているレキシーム(lexeme)と語の統語(syntax)および意味(semantics)に関する情報が保存されているレマ(lemma)という二層構造をもつと仮定されている<ref>'''Levelt, W.J. M.'''<br>Speaking: from intention to articulation<br>''Cambridge, MA: MIT Press'': 1989</ref>。母語も外国語の場合も同様に,ある語彙項目(lexical item)についてさまざまな語彙情報が符号化され(encoding),獲得される。これらの語彙情報は,一度に獲得されるものではなく,言語経験によって少しずつ情報が付加され,ときには修正・更新されていく性質のものである。このようにして,脳内に貯蔵(storage)された語彙情報は,言語理解や言語産出のプロセスにおいて,[[検索]]され(retrieval),利用される点は,外国語の場合も同じである<ref>'''門田修平編著'''<br>英語のメンタルレキシコン:語彙の獲得・処理・学習(第3版)<br>''松柏社'': 2014</ref>。 | ||
言語刺激は,音韻的,視覚的,意味的に符号化され,貯蔵されることが知られているが,外国語学習の環境においては,音韻・形態・統語・意味などの語彙情報が必ずしもバランスよく獲得される保証はない。たとえば,よく言われることであるが,語彙項目の中には,文字として見れば理解できるが,音声として聞いたときには理解できないものがある。このようなことが生じる一つの可能性としては,メンタルレキシコンに形態と意味の表象は登録(entry)されたが,音韻の表象は登録されなかったか,または 音韻表象が不正確に登録されたと考えることができる。もう一つの可能性は,音韻・形態・意味の表象は正しく登録されており,文字としてはよく見る語であるので検索が容易であったが,音声としては聞き慣れていないために検索に時間がかかり,リスニングという時間的制約が強い言語処理プロセスにおいては検索に時間がかかり,結果として聞いて理解することに失敗したという可能性が考えられる。他にも,いくつかの可能性が考えられるだろう。 | |||
外国語学習では,語を知っている(knowing a word)とはどういうことかが問題となるが,ネイション(Nation, I.S.P., 2001)は,①形式的知識(話し言葉,書き言葉,語構成),②語彙的知識(形式と意味,語の概念と指示対象,[[連想]]),③使用に関する知識(文法機能,コロケーション,社会的使用に関する制約)の3つを知っていることであるとし,語彙の指導・学習を念頭に置いて,さらに受容面と表出面に分けて,18の構成要素からなる枠組みを提案している<ref>'''Nation, I. S. P.'''<br>Learning vocabulary in another language<br>''Cambridge: Cambridge University Press'': 2001</ref>。 | 外国語学習では,語を知っている(knowing a word)とはどういうことかが問題となるが,ネイション(Nation, I.S.P., 2001)は,①形式的知識(話し言葉,書き言葉,語構成),②語彙的知識(形式と意味,語の概念と指示対象,[[連想]]),③使用に関する知識(文法機能,コロケーション,社会的使用に関する制約)の3つを知っていることであるとし,語彙の指導・学習を念頭に置いて,さらに受容面と表出面に分けて,18の構成要素からなる枠組みを提案している<ref>'''Nation, I. S. P.'''<br>Learning vocabulary in another language<br>''Cambridge: Cambridge University Press'': 2001</ref>。 | ||
==== 新規の音韻の学習 ==== | ==== 新規の音韻の学習 ==== | ||
ワーキングメモリの[[音韻ループ]] | ワーキングメモリの[[音韻ループ]]で操作される音韻情報はすぐに衰退してしまうが,'''構音リハーサル'''で反復することによって[[長期記憶]]への移行を可能にする。新規の音韻パターンをもつ外国語の学習にも貢献しており,音韻ループが言語習得装置(language learning device)と言われる所以である<ref>'''Baddeley, A. D., Gathercole, S. & Papagno, C.'''<br>The phonological loop as a language learning device<br>''Psychological Review, 105, 168-173'': 1998</ref>。音韻ループにおける音韻情報の保持には,'''左下前頭回'''<ref>'''Fiez, J. A., Raife, E. A., Petersen, S. E., Balota, D. A., & Raichle, E.'''<br>A [[Positron Emission Tomography|positron emission tomography]] study of the short-term maintenance of verbal information<br>''The Journal of Neuroscience, 76(2), 808–822'': 1996</ref> <ref>'''Gruber, O.'''<br>Effects of domain-specific interference on brain activation associated with verbal working memory task performance<br>''Cerebral Cortex, 11(11), 1047-1055'': 2001</ref>,'''小脳'''が関与していると報告されている<ref>'''Chiricozzi, F. R., Clausi, S., Molinari, M., & Leggio, M. G.'''<br>Phonological short-term store impairment after cerebellar lesion: a single case study<br>''Neuropsychologia, 46(7), 1940–1053'': 2008 </ref> <ref>'''Chen, S. H. A., & Desmond, J. E.'''<br>Cerebrocerebellar networks during articulatory rehearsal and verbal working memory tasks<br>''NeuroImage, 24(2), 332-338'': 2005</ref>。口頭での繰り返しによって外国語のような新規の音韻情報が強固な手続き記憶として脳内に形成されることが示されている<ref>'''Makita, K., Yamazaki, M., Tanabe, C. H., Koike, T., Kochiyama, T., Yokokawa, H., Yoshida, H., & Sadato, N.'''<br>A Functional Magnetic Resonance Imaging Study of Foreign-Language Vocabulary Learning Enhanced by Phonological Rehearsal: The Role of the Right Cerebellum and Left Fusiform Gyrus<br>''Mind, Brain and Education, 7(4), 213-224'': 2013</ref>。 | ||
==== 語彙の長期記憶への保存:語彙化 ==== | ==== 語彙の長期記憶への保存:語彙化 ==== | ||
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==== 言語情報の脳内処理 ==== | ==== 言語情報の脳内処理 ==== | ||
Ojima, Nakata, & Kakigi (2005)は<ref>'''Ojima, S., Nakata, H., & Kakigi, R.'''<br>An ERP study of second language learning after childhood: Effects of proficiency<br>''Journal of Cognitive Neuroscience, 17, 1212-1228'': 2005</ref>,英語の母語話者と上級・中級程度の外国語学習者を対象に,[[事象関連電位]]の手法を用いて,言語情報に対する敏感さ(sensitivity)を調査した。たとえば,Mike listened to Max’s *orange about war.といった意味的に不適格な文(* | Ojima, Nakata, & Kakigi (2005)は<ref>'''Ojima, S., Nakata, H., & Kakigi, R.'''<br>An ERP study of second language learning after childhood: Effects of proficiency<br>''Journal of Cognitive Neuroscience, 17, 1212-1228'': 2005</ref>,英語の母語話者と上級・中級程度の外国語学習者を対象に,[[事象関連電位]]の手法を用いて,言語情報に対する敏感さ(sensitivity)を調査した。たとえば,Mike listened to Max’s *orange about war.といった意味的に不適格な文(*は違反が起こっている箇所を示す)に対しては,N400という成分が出現することがわかっているが,外国語学習者の場合にも同様の現象が見られた。一方,Yesterday he *play a guitar.のような形態統語違反(正しくはplayed),Susan liked Jack’s *about joke the man.のような句構造違反(正しくはJack’s joke about the man)に対しては,LANと呼ばれる早期に行われる文法判断にかかわる成分とP600と呼ばれる後期における情報の統合や修正にかかわる成分が出現するはずであるが<ref>'''Friederici, A. D.'''<br>Towards a neural basis of auditory sentence processing<br>''TRENDS in Cognitive Sciences, 6, 78-84'': 2002</ref>,外国語学習者では,上級熟達度のみにLANに近い成分の出現が観察されただけであったと報告している。これら研究結果は,外国語学習者にとって,文法を操作することに関わる処理が困難でることを示唆しており,Shallow Structure Hypothesis (Felser & Clahsen, 2006) <ref name=ref2 />にも一致する。 | ||
==== 言語情報処理の熟達度依存性 ==== | ==== 言語情報処理の熟達度依存性 ==== |
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