「神経細胞極性」の版間の差分

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<font size="+1">勝野 弘子、[http://researchmap.jp/read0056281 稲垣 直之]</font><br>
<font size="+1">勝野 弘子、[http://researchmap.jp/read0056281 稲垣 直之*]</font><br>
'' 奈良先端科学技術大学院大学''<br>
''奈良先端科学技術大学院大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月10日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月10日 原稿完成日:2016年3月17日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0080380 上口 裕之](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
 *corresponding author
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</div>


英語名:cell polarization
英語名:neuronal polarization


{{box|text=
{{box|text= 神経細胞は、一本の長い[[軸索]]と複数の短い樹状突起を伸ばし、高度に発達した細胞極性を形成する。このような神経細胞の極性は、シグナルの入力、統合、出力といった情報処理機能に重要な役割を果たす。これまでに神経細胞の極性化に関与する数多くの分子が同定され、極性化を担う細胞内外のシグナルのクロストーク、対称性の破れ、神経突起伸長のメカニクス、軸索や樹状突起に特異的に存在する分子の細胞内局在メカニズムに関して解析が進みつつある。}}
 細胞極性とは、細胞の構成成分や細胞内小器官などを細胞に非対称的に配置させることにより、その形態や機能に方向性を有することである。例えば、上皮細胞は頂端—基底(apical-basal)軸に沿った極性を持ち、細胞同士が強固に接着してシート構造を作ることで組織と外部環境とを[[隔離]]する役割を果たす。神経細胞もまた極性を持つ細胞であり、一本の長い[[軸索]]と複数の短い樹状突起を伸ばし、高度に発達した細胞極性を形成する。このような神経細胞の極性は、シグナルの入力、統合、出力といった情報処理機能に重要な役割を果たす。これまでに神経細胞の極性化に関与する数多くの分子が同定され、極性化を担う細胞内外のシグナルのクロストーク、対称性の破れ、神経突起伸長のメカニクス、軸索や樹状突起に特異的に存在する分子の細胞内局在メカニズムに関して解析が進みつつある。
}}


==神経細胞極性とは==
 細胞極性とは、細胞の構成成分や[[細胞内小器官]]などを細胞に非対称的に配置させることにより、その形態や機能に方向性を有することである。例えば、[[上皮細胞]]は頂端-基底(apical-basal)軸に沿った極性を持ち、細胞同士が強固に接着してシート構造を作ることで組織と外部環境とを[[隔離]]する役割を果たす。神経細胞もまた極性を持つ細胞であり、一本の長い[[軸索]]と複数の短い[[樹状突起]]を伸ばし、高度に発達した細胞極性を形成する。このような神経細胞の極性は、シグナルの入力、統合、出力といった情報処理機能に重要な役割を果たす。これまでに神経細胞の極性化に関与する数多くの分子が同定され、極性化を担う細胞内外のシグナルのクロストーク、対称性の破れ、[[神経突起]]伸長のメカニクス、軸索や樹状突起に特異的に存在する分子の細胞内局在メカニズムに関して解析が進みつつある。
==神経細胞の極性化の過程==
==神経細胞の極性化の過程==
===軸索と樹状突起===
===軸索と樹状突起===
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[[Image:Tmaeno002.jpg|thumb|350px|'''図2. 脳組織内における神経細胞の極性形成過程''' <br />大脳皮質における(A)興奮性神経細胞と(B)抑制性神経細胞の極性形成過程]] 
[[Image:Tmaeno002.jpg|thumb|350px|'''図2. 脳組織内における神経細胞の極性形成過程''' <br />大脳皮質における(A)興奮性神経細胞と(B)抑制性神経細胞の極性形成過程]] 


 [[大脳皮質]]の[[興奮性神経細胞]]は、[[脳室層]](ventricular zone ; VZ)での前駆細胞の非対称分裂で生じ、脳表面に向かう移動の途中で極性化が起こる。これまで、興奮性神経細胞は移動時の[[先導突起]](leading process ; LP)が樹状突起に、trailing process(TP)が軸索になると考えられていた<ref><pubmed> 20452947 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22715881 </pubmed></ref>。
 [[大脳皮質]]の[[興奮性神経細胞]]は、[[脳室帯]](ventricular zone ; VZ)での前駆細胞の非対称分裂で生じ、脳表面に向かう移動の途中で極性化が起こる。これまで、興奮性神経細胞は移動時の[[先導突起]](leading process ; LP)が樹状突起に、trailing process(TP)が軸索になると考えられていた<ref><pubmed> 20452947 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22715881 </pubmed></ref>。


 しかし最近になって、興奮性神経細胞の多くは[[中間帯]]まで移動すると減速し、先導突起とtrailing processを失い、培養海馬神経細胞と同様に、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返す現象が報告された(図2A)<ref><pubmed> 14602813 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 22267309 </pubmed></ref>。これらの神経細胞は、その後一本の突起を脳室に沿う接線方向に急激に伸長させ、軸索を形成する。一方、細胞体は脳表面に向かって別の突起を伸ばしながら移動し、最終的にL時型の軸索が生じる<ref name=ref8 />。
 しかし最近になって、興奮性神経細胞の多くは[[中間帯]]まで移動すると減速し、先導突起とtrailing processを失い、培養海馬神経細胞と同様に、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返す現象が報告された(図2A)<ref><pubmed> 14602813 </pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed> 22267309 </pubmed></ref>。これらの神経細胞は、その後一本の突起を脳室に沿う接線方向に急激に伸長させ、軸索を形成する。一方、細胞体は脳表面に向かって別の突起を伸ばしながら移動し、最終的にL時型の軸索が生じる<ref name=ref8 />。


 大脳皮質の抑制性神経細胞は、[[基底核原基]]で生じ、大脳皮質に向かって脳表面に接する接線方向に移動し、[[辺縁層]](marginal zone)を経て[[大脳皮質板]](cortical plate)へと至る。[[抑制性]]神経細胞も興奮性神経細胞と同様に、大脳皮質板において先導突起とtrailing processを失い、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返した後、一本が急激に伸長して軸索を形成する(図2B)<ref><pubmed> 21068327 </pubmed></ref>。
 大脳皮質の抑制性神経細胞は、[[基底核原基]]で生じ、大脳皮質に向かって脳表面に接する接線方向に移動し、[[辺縁帯]](marginal zone)を経て[[大脳皮質板]](cortical plate)へと至る。[[抑制性]]神経細胞も興奮性神経細胞と同様に、大脳皮質板において先導突起とtrailing processを失い、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返した後、一本が急激に伸長して軸索を形成する(図2B)<ref><pubmed> 21068327 </pubmed></ref>。


==軸索の形成と伸長==
==軸索の形成と伸長==
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===軸索伸長と膜輸送===
===軸索伸長と膜輸送===
 軸索の伸長のためには[[細胞膜]]の表面積を拡大させる必要があり、細胞内[[小胞輸送]]に関与する[[低分子量GTP結合タンパク質]][[Rab]]ファミリーが関与していると考えられている。これまでに、Rab5やRab8、Rab11などが軸索の形成や伸長に関わること<ref><pubmed> 17082457 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17267689 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22573681 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17046692 </pubmed></ref>、[[Rab7]]、[[Rab11]]、[[Ran27]]などが突起伸長のシグナル伝達を担う分子を軸索先端へ輸送すること<ref><pubmed> 19460344 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19759314 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20810886 </pubmed></ref>、[[Ran11]]が神経突起伸長を調節するインテグリンの輸送に関与することが報告されている。また、Rab5、Rab7、Rab8、[[Rab10]]、Rab11はエンドサイトーシスによって回収された小胞膜の細胞膜のリサイクリングに関与すると考えられている。さらに最近、[[Rab33a]]が細胞体で新たに合成された膜成分の軸索輸送と成長円錐における膜融合を引き起こし、軸索伸長に関与することが報告された<ref><pubmed> 22972995 </pubmed></ref>。また、[[SNAREタンパク質]]やRab10、[[TC10Exo70]]複合体が成長円錐における小胞膜と細胞膜の融合に関与することも報告されている<ref><pubmed> 19846717 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21856246 </pubmed></ref>。
 軸索の伸長のためには[[細胞膜]]の表面積を拡大させる必要があり、細胞内[[小胞輸送]]に関与する[[低分子量GTP結合タンパク質]][[Rab]]ファミリーが関与していると考えられている。これまでに、Rab5やRab8、Rab11などが軸索の形成や伸長に関わること<ref><pubmed> 17082457 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17267689 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22573681 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17046692 </pubmed></ref>、[[Rab7]]、[[Rab11]]、[[Rab27]]などが突起伸長のシグナル伝達を担う分子を軸索先端へ輸送すること<ref><pubmed> 19460344 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19759314 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20810886 </pubmed></ref>、[[Rab11]]が神経突起伸長を調節するインテグリンの輸送に関与することが報告されている。また、Rab5、Rab7、Rab8、[[Rab10]]、Rab11はエンドサイトーシスによって回収された小胞膜の細胞膜のリサイクリングに関与すると考えられている。さらに最近、[[Rab33a]]が細胞体で新たに合成された膜成分の軸索輸送と成長円錐における膜融合を引き起こし、軸索伸長に関与することが報告された<ref><pubmed> 22972995 </pubmed></ref>。また、[[SNAREタンパク質]]やRab10、[[TC10Exo70]]複合体が成長円錐における小胞膜と細胞膜の融合に関与することも報告されている<ref><pubmed> 19846717 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21856246 </pubmed></ref>。


==神経細胞の極性化に関与する細胞外分子群==
==神経細胞の極性化に関与する細胞外分子群==
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===神経極性に関与する拡散性シグナル===
===神経極性に関与する拡散性シグナル===
 ネトリンは[[線虫]]の[[UNC-6]]のホモログであり、[[UNC-40]]([[DCC]])等の[[受容体]]に結合する<ref><pubmed> 16520734 </pubmed></ref>。線虫のUNC-6やUNC-40の変異体では、産卵口の筋肉の神経細胞の軸索形成が遅れ、軸索ガイダンスにも異常が生じる。また、反発性ガイダンス因子であるSema3Aは、[[cGMP]]の産生を介して[[cAMP]]/[[PKA]]を阻害し、PKA依存的な軸索形成を抑制して樹状突起形成を促進する<ref><pubmed> 21835341 </pubmed></ref>。NGF、BDNF、NT-3などのニューロトロフィンは、[[PI3-キナーゼ]]、[[Ras]]、cAMP、IP<sup>3</sup>などを介したシグナル伝達経路に関与しており、受容体であるTrkを阻害すると大脳皮質内を移動する神経細胞の極性形成に異常が生じる<ref><pubmed> 22087032 </pubmed></ref>。また、[[TGFβ]]は[[Par6]]をリン酸化することで軸索形成に関与しており、TGFβの受容体である[[TβR2]]をノックアウトしたマウスは、大脳皮質の神経細胞において軸索形成に異常を示す<ref><pubmed> 20603020 </pubmed></ref>。IGF-1に関しては、大脳皮質内の興奮性神経細胞に対する軸索形成作用が示唆されている<ref><pubmed> 17057708 </pubmed></ref>。また、Wntも軸索形成と極性化に関与しており、[[Wnt5A]]は軸索形成を促進する<ref><pubmed> 16571624 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21557503 </pubmed></ref>。
 ネトリンは[[線虫]]の[[UNC-6]]のホモログであり、[[UNC-40]]([[DCC]])等の[[受容体]]に結合する<ref><pubmed> 16520734 </pubmed></ref>。線虫のUNC-6やUNC-40の変異体では、産卵口の筋肉の神経細胞の軸索形成が遅れ、軸索ガイダンスにも異常が生じる。また、反発性ガイダンス因子であるSema3Aは、[[cGMP]]の産生を介して[[cAMP]]/[[PKA]]を阻害し、PKA依存的な軸索形成を抑制して樹状突起形成を促進する<ref><pubmed> 21835341 </pubmed></ref>。NGF、BDNF、NT-3などのニューロトロフィンは、[[PI3-キナーゼ]]、[[Ras]]、cAMP、IP<sub>3</sub>などを介したシグナル伝達経路に関与しており、受容体であるTrkを阻害すると大脳皮質内を移動する神経細胞の極性形成に異常が生じる<ref><pubmed> 22087032 </pubmed></ref>。また、[[TGFβ]]は[[Par6]]をリン酸化することで軸索形成に関与しており、TGFβの受容体である[[TβR2]]をノックアウトしたマウスは、大脳皮質の神経細胞において軸索形成に異常を示す<ref><pubmed> 20603020 </pubmed></ref>。IGF-1に関しては、大脳皮質内の興奮性神経細胞に対する軸索形成作用が示唆されている<ref><pubmed> 17057708 </pubmed></ref>。また、Wntも軸索形成と極性化に関与しており、[[Wnt5A]]は軸索形成を促進する<ref><pubmed> 16571624 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21557503 </pubmed></ref>。


===神経極性に関与する接着性シグナル===
===神経極性に関与する接着性シグナル===
 軸索形成の方向性の決定には、ラミニンやL1-CAMといった細胞[[接着分子]]の方向性を持った刺激も関与する<ref><pubmed> 17482549 </pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed> 10414970 </pubmed></ref>。ラミニンやL1-CAMをストライプ状にコートした基質上に神経細胞を培養すると、ラミニンやL1-CAMに接触した神経突起が優先的に軸索になる。また、ラミニンでコートしたマイクロビーズを用いてステージ2の培養海馬神経細胞の未成熟な神経突起を刺激すると、マイクロビーズ接触した突起先端にPIP<sup>3</sup>が濃縮し、突起が急速に伸長して軸索へと分化する<ref name=ref39 />。これらのことから、ラミニンやL1-CAMは接着性の細胞外シグナル分子として働き極性形成に関与すると考えられる。また、[[インテグリン]]はラミニンのレセプターとして知られており、神経細胞の発生過程の早い段階から発現がみられ、[[Integrin-linked kinase]]([[ILK]])を介して[[GSK3β]]を不活性化する。ILKを阻害すると軸索形成が抑制され、反対にILKの活性化型変異体を発現させると複数の軸索が形成される<ref><pubmed> 17490631 </pubmed></ref>。さらに最近、β1インテグリンは[[SADキナーゼ]]を介して[[微小管]]を制御することで、神経極性に関与することも報告されている<ref><pubmed> 22430151 </pubmed></ref>。
 軸索形成の方向性の決定には、ラミニンやL1-CAMといった細胞[[接着分子]]の方向性を持った刺激も関与する<ref><pubmed> 17482549 </pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed> 10414970 </pubmed></ref>。ラミニンやL1-CAMをストライプ状にコートした基質上に神経細胞を培養すると、ラミニンやL1-CAMに接触した神経突起が優先的に軸索になる。また、ラミニンでコートしたマイクロビーズを用いてステージ2の培養海馬神経細胞の未成熟な神経突起を刺激すると、マイクロビーズ接触した突起先端にPIP<sub>3</sub>が濃縮し、突起が急速に伸長して軸索へと分化する<ref name=ref39 />。これらのことから、ラミニンやL1-CAMは接着性の細胞外シグナル分子として働き極性形成に関与すると考えられる。また、[[インテグリン]]はラミニンのレセプターとして知られており、神経細胞の発生過程の早い段階から発現がみられ、[[Integrin-linked kinase]]([[ILK]])を介して[[GSK3β]]を不活性化する。ILKを阻害すると軸索形成が抑制され、反対にILKの活性化型変異体を発現させると複数の軸索が形成される<ref><pubmed> 17490631 </pubmed></ref>。さらに最近、β1インテグリンは[[SADキナーゼ]]を介して[[微小管]]を制御することで、神経極性に関与することも報告されている<ref><pubmed> 22430151 </pubmed></ref>。


==神経細胞の極性化を担う細胞内分子群==
==神経細胞の極性化を担う細胞内分子群==
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 神経細胞の極性化を担う細胞内シグナル伝達に関して、この十数年の間に、さまざまな細胞内分子群が同定されてきている(図4)<ref name=ref2 /> <ref name=ref18 />。
 神経細胞の極性化を担う細胞内シグナル伝達に関して、この十数年の間に、さまざまな細胞内分子群が同定されてきている(図4)<ref name=ref2 /> <ref name=ref18 />。


===フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ===
===ホファチジルイノシトール3-キナーゼ===
 [[フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ]](PI3-キナーゼ)は、様々な受容体の下流で活性化され、様々な細胞の極性化に関与する。
 [[ホファチジルイノシトール3-キナーゼ]](PI3-キナーゼ)は、様々な受容体の下流で活性化され、様々な細胞の極性化に関与する。


 神経細胞においては、PI3-キナーゼの活性やその産物[[ホスファチジルイノシトール1,4,5 –三リン酸]]([[PIP3|PIP<sup>3</sup>]])は、ステージ3の培養海馬神経細胞の軸索に局在する。また、未成熟な突起における局所的なPIP<sup>3</sup>の増加は、その突起の急激な伸長と軸索化を引き起こす<ref><pubmed> 15030394 </pubmed></ref>。一方、PI3-キナーゼの活性の阻害や、[[phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10]]([[PTEN]])の過剰発現によるPIP<sup>3</sup>の産生阻害は、極性化を抑制される<ref><pubmed> 12526794</pubmed></ref>。PIP<sup>3</sup>の下流では、[[リン酸化]]酵素[[Akt]]が活性化され、別のリン酸化酵素[[glycogen synthase kinase 3]]β([[GSK3]]β)をリン酸化し、リン酸化されたGSK3βは不活性化する<ref><pubmed> 15652488 </pubmed></ref>。活性化型のGSK3βは[[collapsin response mediator protein]]-2([[CRMP-2]])をリン酸化し、不活性化する。活性化型の[[CRMP]]-2はチューブリンと結合して微小管の重合を促進することで軸索伸長に関与する分子であることから、PI3-キナーゼはAkt、GSK3βを経由して微小管のダイナミクスを制御し、細胞極性に関与すると考えられている<ref name=ref19 />。また、PIP<sup>3</sup>の下流では、[[RhoファミリーGタンパク質]]である[[Cdc42]]やRac1が活性化される。さらにその下流では、アクチンの重合を促進するArp2/3が活性化される。Arp2/3の活性を制御する[[WASP]]や[[WAVE]]を抑制すると軸索伸長が阻害されることから、PI3キナーゼは微小管だけでなく、アクチン線維のダイナミクスも制御することで極性形成に関与すると考えられる<ref><pubmed> 20484635 </pubmed></ref>。
 神経細胞においては、PI3-キナーゼの活性やその産物[[ホスファチジルイノシトール3,4,5 –三リン酸]]([[PIP3|PIP<sub>3</sub>]])は、ステージ3の培養海馬神経細胞の軸索に局在する。また、未成熟な突起における局所的なPIP<sub>3</sub>の増加は、その突起の急激な伸長と軸索化を引き起こす<ref><pubmed> 15030394 </pubmed></ref>。一方、PI3-キナーゼの活性の阻害や、[[phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10]]([[PTEN]])の過剰発現によるPIP<sub>3</sub>の産生阻害は、極性化を抑制される<ref><pubmed> 12526794</pubmed></ref>。PIP<sub>3</sub>の下流では、[[リン酸化]]酵素[[Akt]]が活性化され、別のリン酸化酵素[[glycogen synthase kinase 3]]β([[GSK3]]β)をリン酸化し、リン酸化されたGSK3βは不活性化する<ref><pubmed> 15652488 </pubmed></ref>。活性化型のGSK3βは[[collapsin response mediator protein]]-2([[CRMP-2]])をリン酸化し、不活性化する。活性化型の[[CRMP]]-2はチューブリンと結合して微小管の重合を促進することで軸索伸長に関与する分子であることから、PI3-キナーゼはAkt、GSK3βを経由して微小管のダイナミクスを制御し、細胞極性に関与すると考えられている<ref name=ref19 />。また、PIP<sub>3</sub>の下流では、[[RhoファミリーGタンパク質]]である[[Cdc42]]やRac1が活性化される。さらにその下流では、アクチンの重合を促進するArp2/3が活性化される。Arp2/3の活性を制御する[[WASP]]や[[WAVE]]を抑制すると軸索伸長が阻害されることから、PI3キナーゼは微小管だけでなく、アクチン線維のダイナミクスも制御することで極性形成に関与すると考えられる<ref><pubmed> 20484635 </pubmed></ref>。


 その他に、PI3-キナーゼと関連する分子として[[Single axon related 1]]([[Singar1]]/[[Rufy3]])が報告されている。Singar1の発現を抑制すると、PI3-キナーゼの活性依存的に軸索が過剰に形成される。また、Singar1を過剰発現すると過剰軸索の形成が抑制される。したがって、Singar1は過剰な軸索形成を抑制し、極性を安定させる分子と考えられる<ref><pubmed> 17439943 </pubmed></ref>。
 その他に、PI3-キナーゼと関連する分子として[[Single axon related 1]]([[Singar1]]/[[Rufy3]])が報告されている。Singar1の発現を抑制すると、PI3-キナーゼの活性依存的に軸索が過剰に形成される。また、Singar1を過剰発現すると過剰軸索の形成が抑制される。したがって、Singar1は過剰な軸索形成を抑制し、極性を安定させる分子と考えられる<ref><pubmed> 17439943 </pubmed></ref>。

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