「神経細胞極性」の版間の差分

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===軸索伸長と膜輸送===
===軸索伸長と膜輸送===
 軸索の伸長のためには[[細胞膜]]の表面積を拡大させる必要があり、細胞内[[小胞輸送]]に関与する[[低分子量GTP結合タンパク質]][[Rab]]ファミリーが関与していると考えられている。これまでに、Rab5やRab8、Rab11などが軸索の形成や伸長に関わること<ref><pubmed> 17082457 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17267689 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22573681 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17046692 </pubmed></ref>、[[Rab7]]、[[Rab11]]、[[Ran27]]などが突起伸長のシグナル伝達を担う分子を軸索先端へ輸送すること<ref><pubmed> 19460344 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19759314 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20810886 </pubmed></ref>、[[Ran11]]が神経突起伸長を調節するインテグリンの輸送に関与することが報告されている。また、Rab5、Rab7、Rab8、[[Rab10]]、Rab11はエンドサイトーシスによって回収された小胞膜の細胞膜のリサイクリングに関与すると考えられている。さらに最近、[[Rab33a]]が細胞体で新たに合成された膜成分の軸索輸送と成長円錐における膜融合を引き起こし、軸索伸長に関与することが報告された<ref><pubmed> 22972995 </pubmed></ref>。また、[[SNAREタンパク質]]やRab10、[[TC10Exo70]]複合体が成長円錐における小胞膜と細胞膜の融合に関与することも報告されている<ref><pubmed> 19846717 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21856246 </pubmed></ref>。
 軸索の伸長のためには[[細胞膜]]の表面積を拡大させる必要があり、細胞内[[小胞輸送]]に関与する[[低分子量GTP結合タンパク質]][[Rab]]ファミリーが関与していると考えられている。これまでに、Rab5やRab8、Rab11などが軸索の形成や伸長に関わること<ref><pubmed> 17082457 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17267689 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 22573681 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17046692 </pubmed></ref>、[[Rab7]]、[[Rab11]]、[[Rab27]]などが突起伸長のシグナル伝達を担う分子を軸索先端へ輸送すること<ref><pubmed> 19460344 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 19759314 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 20810886 </pubmed></ref>、[[Rab11]]が神経突起伸長を調節するインテグリンの輸送に関与することが報告されている。また、Rab5、Rab7、Rab8、[[Rab10]]、Rab11はエンドサイトーシスによって回収された小胞膜の細胞膜のリサイクリングに関与すると考えられている。さらに最近、[[Rab33a]]が細胞体で新たに合成された膜成分の軸索輸送と成長円錐における膜融合を引き起こし、軸索伸長に関与することが報告された<ref><pubmed> 22972995 </pubmed></ref>。また、[[SNAREタンパク質]]やRab10、[[TC10Exo70]]複合体が成長円錐における小胞膜と細胞膜の融合に関与することも報告されている<ref><pubmed> 19846717 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21856246 </pubmed></ref>。


==神経細胞の極性化に関与する細胞外分子群==
==神経細胞の極性化に関与する細胞外分子群==
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===神経極性に関与する拡散性シグナル===
===神経極性に関与する拡散性シグナル===
 ネトリンは[[線虫]]の[[UNC-6]]のホモログであり、[[UNC-40]]([[DCC]])等の[[受容体]]に結合する<ref><pubmed> 16520734 </pubmed></ref>。線虫のUNC-6やUNC-40の変異体では、産卵口の筋肉の神経細胞の軸索形成が遅れ、軸索ガイダンスにも異常が生じる。また、反発性ガイダンス因子であるSema3Aは、[[cGMP]]の産生を介して[[cAMP]]/[[PKA]]を阻害し、PKA依存的な軸索形成を抑制して樹状突起形成を促進する<ref><pubmed> 21835341 </pubmed></ref>。NGF、BDNF、NT-3などのニューロトロフィンは、[[PI3-キナーゼ]]、[[Ras]]、cAMP、IP<sup>3</sup>などを介したシグナル伝達経路に関与しており、受容体であるTrkを阻害すると大脳皮質内を移動する神経細胞の極性形成に異常が生じる<ref><pubmed> 22087032 </pubmed></ref>。また、[[TGFβ]]は[[Par6]]をリン酸化することで軸索形成に関与しており、TGFβの受容体である[[TβR2]]をノックアウトしたマウスは、大脳皮質の神経細胞において軸索形成に異常を示す<ref><pubmed> 20603020 </pubmed></ref>。IGF-1に関しては、大脳皮質内の興奮性神経細胞に対する軸索形成作用が示唆されている<ref><pubmed> 17057708 </pubmed></ref>。また、Wntも軸索形成と極性化に関与しており、[[Wnt5A]]は軸索形成を促進する<ref><pubmed> 16571624 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21557503 </pubmed></ref>。
 ネトリンは[[線虫]]の[[UNC-6]]のホモログであり、[[UNC-40]]([[DCC]])等の[[受容体]]に結合する<ref><pubmed> 16520734 </pubmed></ref>。線虫のUNC-6やUNC-40の変異体では、産卵口の筋肉の神経細胞の軸索形成が遅れ、軸索ガイダンスにも異常が生じる。また、反発性ガイダンス因子であるSema3Aは、[[cGMP]]の産生を介して[[cAMP]]/[[PKA]]を阻害し、PKA依存的な軸索形成を抑制して樹状突起形成を促進する<ref><pubmed> 21835341 </pubmed></ref>。NGF、BDNF、NT-3などのニューロトロフィンは、[[PI3-キナーゼ]]、[[Ras]]、cAMP、IP<sub>3</sub>などを介したシグナル伝達経路に関与しており、受容体であるTrkを阻害すると大脳皮質内を移動する神経細胞の極性形成に異常が生じる<ref><pubmed> 22087032 </pubmed></ref>。また、[[TGFβ]]は[[Par6]]をリン酸化することで軸索形成に関与しており、TGFβの受容体である[[TβR2]]をノックアウトしたマウスは、大脳皮質の神経細胞において軸索形成に異常を示す<ref><pubmed> 20603020 </pubmed></ref>。IGF-1に関しては、大脳皮質内の興奮性神経細胞に対する軸索形成作用が示唆されている<ref><pubmed> 17057708 </pubmed></ref>。また、Wntも軸索形成と極性化に関与しており、[[Wnt5A]]は軸索形成を促進する<ref><pubmed> 16571624 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21557503 </pubmed></ref>。


===神経極性に関与する接着性シグナル===
===神経極性に関与する接着性シグナル===
 軸索形成の方向性の決定には、ラミニンやL1-CAMといった細胞[[接着分子]]の方向性を持った刺激も関与する<ref><pubmed> 17482549 </pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed> 10414970 </pubmed></ref>。ラミニンやL1-CAMをストライプ状にコートした基質上に神経細胞を培養すると、ラミニンやL1-CAMに接触した神経突起が優先的に軸索になる。また、ラミニンでコートしたマイクロビーズを用いてステージ2の培養海馬神経細胞の未成熟な神経突起を刺激すると、マイクロビーズ接触した突起先端にPIP<sup>3</sup>が濃縮し、突起が急速に伸長して軸索へと分化する<ref name=ref39 />。これらのことから、ラミニンやL1-CAMは接着性の細胞外シグナル分子として働き極性形成に関与すると考えられる。また、[[インテグリン]]はラミニンのレセプターとして知られており、神経細胞の発生過程の早い段階から発現がみられ、[[Integrin-linked kinase]]([[ILK]])を介して[[GSK3β]]を不活性化する。ILKを阻害すると軸索形成が抑制され、反対にILKの活性化型変異体を発現させると複数の軸索が形成される<ref><pubmed> 17490631 </pubmed></ref>。さらに最近、β1インテグリンは[[SADキナーゼ]]を介して[[微小管]]を制御することで、神経極性に関与することも報告されている<ref><pubmed> 22430151 </pubmed></ref>。
 軸索形成の方向性の決定には、ラミニンやL1-CAMといった細胞[[接着分子]]の方向性を持った刺激も関与する<ref><pubmed> 17482549 </pubmed></ref> <ref name=ref39><pubmed> 10414970 </pubmed></ref>。ラミニンやL1-CAMをストライプ状にコートした基質上に神経細胞を培養すると、ラミニンやL1-CAMに接触した神経突起が優先的に軸索になる。また、ラミニンでコートしたマイクロビーズを用いてステージ2の培養海馬神経細胞の未成熟な神経突起を刺激すると、マイクロビーズ接触した突起先端にPIP<sub>3</sub>が濃縮し、突起が急速に伸長して軸索へと分化する<ref name=ref39 />。これらのことから、ラミニンやL1-CAMは接着性の細胞外シグナル分子として働き極性形成に関与すると考えられる。また、[[インテグリン]]はラミニンのレセプターとして知られており、神経細胞の発生過程の早い段階から発現がみられ、[[Integrin-linked kinase]]([[ILK]])を介して[[GSK3β]]を不活性化する。ILKを阻害すると軸索形成が抑制され、反対にILKの活性化型変異体を発現させると複数の軸索が形成される<ref><pubmed> 17490631 </pubmed></ref>。さらに最近、β1インテグリンは[[SADキナーゼ]]を介して[[微小管]]を制御することで、神経極性に関与することも報告されている<ref><pubmed> 22430151 </pubmed></ref>。


==神経細胞の極性化を担う細胞内分子群==
==神経細胞の極性化を担う細胞内分子群==
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 [[フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ]](PI3-キナーゼ)は、様々な受容体の下流で活性化され、様々な細胞の極性化に関与する。
 [[フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ]](PI3-キナーゼ)は、様々な受容体の下流で活性化され、様々な細胞の極性化に関与する。


 神経細胞においては、PI3-キナーゼの活性やその産物[[ホスファチジルイノシトール1,4,5 –三リン酸]]([[PIP3|PIP<sup>3</sup>]])は、ステージ3の培養海馬神経細胞の軸索に局在する。また、未成熟な突起における局所的なPIP<sup>3</sup>の増加は、その突起の急激な伸長と軸索化を引き起こす<ref><pubmed> 15030394 </pubmed></ref>。一方、PI3-キナーゼの活性の阻害や、[[phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10]]([[PTEN]])の過剰発現によるPIP<sup>3</sup>の産生阻害は、極性化を抑制される<ref><pubmed> 12526794</pubmed></ref>。PIP<sup>3</sup>の下流では、[[リン酸化]]酵素[[Akt]]が活性化され、別のリン酸化酵素[[glycogen synthase kinase 3]]β([[GSK3]]β)をリン酸化し、リン酸化されたGSK3βは不活性化する<ref><pubmed> 15652488 </pubmed></ref>。活性化型のGSK3βは[[collapsin response mediator protein]]-2([[CRMP-2]])をリン酸化し、不活性化する。活性化型の[[CRMP]]-2はチューブリンと結合して微小管の重合を促進することで軸索伸長に関与する分子であることから、PI3-キナーゼはAkt、GSK3βを経由して微小管のダイナミクスを制御し、細胞極性に関与すると考えられている<ref name=ref19 />。また、PIP<sup>3</sup>の下流では、[[RhoファミリーGタンパク質]]である[[Cdc42]]やRac1が活性化される。さらにその下流では、アクチンの重合を促進するArp2/3が活性化される。Arp2/3の活性を制御する[[WASP]]や[[WAVE]]を抑制すると軸索伸長が阻害されることから、PI3キナーゼは微小管だけでなく、アクチン線維のダイナミクスも制御することで極性形成に関与すると考えられる<ref><pubmed> 20484635 </pubmed></ref>。
 神経細胞においては、PI3-キナーゼの活性やその産物[[ホスファチジルイノシトール1,4,5 –三リン酸]]([[PIP3|PIP<sub>3</sub>]])は、ステージ3の培養海馬神経細胞の軸索に局在する。また、未成熟な突起における局所的なPIP<sub>3</sub>の増加は、その突起の急激な伸長と軸索化を引き起こす<ref><pubmed> 15030394 </pubmed></ref>。一方、PI3-キナーゼの活性の阻害や、[[phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10]]([[PTEN]])の過剰発現によるPIP<sub>3</sub>の産生阻害は、極性化を抑制される<ref><pubmed> 12526794</pubmed></ref>。PIP<sub>3</sub>の下流では、[[リン酸化]]酵素[[Akt]]が活性化され、別のリン酸化酵素[[glycogen synthase kinase 3]]β([[GSK3]]β)をリン酸化し、リン酸化されたGSK3βは不活性化する<ref><pubmed> 15652488 </pubmed></ref>。活性化型のGSK3βは[[collapsin response mediator protein]]-2([[CRMP-2]])をリン酸化し、不活性化する。活性化型の[[CRMP]]-2はチューブリンと結合して微小管の重合を促進することで軸索伸長に関与する分子であることから、PI3-キナーゼはAkt、GSK3βを経由して微小管のダイナミクスを制御し、細胞極性に関与すると考えられている<ref name=ref19 />。また、PIP<sub>3</sub>の下流では、[[RhoファミリーGタンパク質]]である[[Cdc42]]やRac1が活性化される。さらにその下流では、アクチンの重合を促進するArp2/3が活性化される。Arp2/3の活性を制御する[[WASP]]や[[WAVE]]を抑制すると軸索伸長が阻害されることから、PI3キナーゼは微小管だけでなく、アクチン線維のダイナミクスも制御することで極性形成に関与すると考えられる<ref><pubmed> 20484635 </pubmed></ref>。


 その他に、PI3-キナーゼと関連する分子として[[Single axon related 1]]([[Singar1]]/[[Rufy3]])が報告されている。Singar1の発現を抑制すると、PI3-キナーゼの活性依存的に軸索が過剰に形成される。また、Singar1を過剰発現すると過剰軸索の形成が抑制される。したがって、Singar1は過剰な軸索形成を抑制し、極性を安定させる分子と考えられる<ref><pubmed> 17439943 </pubmed></ref>。
 その他に、PI3-キナーゼと関連する分子として[[Single axon related 1]]([[Singar1]]/[[Rufy3]])が報告されている。Singar1の発現を抑制すると、PI3-キナーゼの活性依存的に軸索が過剰に形成される。また、Singar1を過剰発現すると過剰軸索の形成が抑制される。したがって、Singar1は過剰な軸索形成を抑制し、極性を安定させる分子と考えられる<ref><pubmed> 17439943 </pubmed></ref>。

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