「DARPP-32」の版間の差分

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• 構造  
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[[ファイル:Fig1 DARPP-32 構造.jpg|サムネイル|図1 DARPP-32の構造とリン酸化サイト マウスのDARPP-32アミノ酸配列とリン酸化サイトを上段に示す。Thr34がリン酸化されるとPP1活性を抑制し、Thr75がリン酸化されるとPKA活性を抑制する。また、P-Ser97は核外移行シグナル(NES)として機能する。下段には、ヒトのDARPP-32アミノ酸配列とt-DARPPアミノ酸配列を示す。]]
[[ファイル:Fig1 DARPP-32 構造.jpg|サムネイル|図1 DARPP-32の構造とリン酸化サイト マウスのDARPP-32アミノ酸配列とリン酸化サイトを上段に示す。Thr34がリン酸化されるとPP1活性を抑制し、Thr75がリン酸化されるとPKA活性を抑制する。また、P-Ser97は核外移行シグナル(NES)として機能する。下段には、ヒトのDARPP-32アミノ酸配列とt-DARPPアミノ酸配列を示す。]]
194-205アミノ酸(マウス 194; [[ラット]] 205; [[ヒト]] 204)より構成される酸性タンパク質である。リン酸化により機能が制御されるタンパク質であり、4つのリン酸化サイト[Thr34(PKA)、Thr75 ([[Cdk5]])、Ser97 (CK2)、Ser130 (CK1)(マウスアミノ酸配列による)]の機能的意義が明らかにされている<ref name=ref2 />。N末端の7-11アミノ酸配列(KKIQF)はPP1触媒サブユニット(PP1c)結合モチーフとなっており、PP1cとの結合に重要である。さらに、リン酸化Thr34(P-Thr34)を含む領域は、Thr34がリン酸化されるとPP1c活性部位と結合してPP1c活性を抑制する<ref><pubmed> 9651542 </pubmed></ref>。Ser97近傍の103-111アミノ酸配列は核外移行シグナル(nuclear export signal, NES)となっており、Ser97がリン酸化されたDARPP-32はchromosome region maintenance 1 protein(CRM1)と結合して核外に移行する<ref name=ref3><pubmed> 18496528 </pubmed></ref>。
194-205アミノ酸(マウス 194; [[ラット]] 205; [[ヒト]] 204)より構成される酸性タンパク質である。リン酸化により機能が制御されるタンパク質であり、4つのリン酸化サイト[Thr34 (PKA)、Thr75 ([[Cdk5]])、Ser97 (CK2)、Ser130 (CK1)(マウスアミノ酸配列による)]の機能的意義が明らかにされている<ref name=ref2 />。N末端の7-11アミノ酸配列(KKIQF)はPP1触媒サブユニット(PP1c)結合モチーフとなっており、PP1cとの結合に重要である。さらに、リン酸化Thr34(P-Thr34)を含む領域は、Thr34がリン酸化されるとPP1c活性部位と結合してPP1c活性を抑制する<ref><pubmed> 9651542 </pubmed></ref>。Ser97近傍の103-111アミノ酸配列は核外移行シグナル(nuclear export signal, NES)となっており、Ser97がリン酸化されたDARPP-32はchromosome region maintenance 1 protein(CRM1)と結合して核外に移行する<ref name=ref3><pubmed> 18496528 </pubmed></ref>。


• サブファミリー
• サブファミリー
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統合失調症
統合失調症
 線条体や側坐核の間接路神経に発現するDARPP-32はドパミンD2受容体作用に対して拮抗的に作用するため<ref name=ref6 /> <ref name=ref8 />、[[抗精神病薬]]の主な薬理作用であるドパミンD2受容体アンタゴニストと類似の作用([[陽性症状]]の改善)を持つと考えられる。線条体の間接路神経において、定型抗精神病薬の[[ハロペリドール]]によりP-Thr34 DARPP-32が増加し<ref name=ref9 />、カタレプシーの発現を増強する<ref name=ref8 />。つまり、間接路神経でのDARPP-32作用は、抗精神病薬の副作用である[[錐体外路症状]]にも関係している。一方、DARPP-32は[[前頭葉]]([[前頭前皮質]])においてもドパミンD1受容体によるリン酸化調節を受けており<ref><pubmed> 16687181 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21833500 </pubmed></ref>、[[陰性症状]]や認知機能障害の原因とされる[[中脳]]—皮質ドパミン系の低活動や、抗精神病薬の陰性症状や認知機能障害に対する治療効果にも関与すると考えられる。
 線条体や側坐核の間接路神経に発現するDARPP-32はドパミンD2受容体作用に対して拮抗的に作用するため<ref name=ref6 /> <ref name=ref8 />、[[抗精神病薬]]の主な薬理作用であるドパミンD2受容体アンタゴニストと類似の作用([[陽性症状]]の改善)を持つと考えられる。線条体の間接路神経において、定型抗精神病薬の[[ハロペリドール]]によりP-Thr34 DARPP-32が増加し<ref name=ref9 />、カタレプシーの発現を増強する<ref name=ref8 />。つまり、間接路神経でのDARPP-32作用は、抗精神病薬の副作用である[[錐体外路症状]]にも関係している。一方、DARPP-32は[[前頭葉]]([[前頭前皮質]])においてもドパミンD1受容体によるリン酸化調節を受けており<ref><pubmed> 16687181 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 21833500 </pubmed></ref>、[[陰性症状]]や認知機能障害の原因とされる[[中脳]]—皮質ドパミン系の低活動や、抗精神病薬の陰性症状や認知機能障害に対する治療効果にも関与すると考えられる。
  アンフェタミン([[覚せい剤]]、ドパミン神経伝達の亢進)、D-リセルグ酸ジエチルアミド([[LSD]]、[[セロトニン神経]]伝達の亢進)、フェンシクリジン(PCP、グルタミン酸神経伝達の抑制)などの薬物は、それぞれ異なる機序で実験動物に統合失調症様の行動異常を引き起こす。これらの薬物をDARPP-32欠損マウス<ref name=ref10 />、DARPP-32点変異マウス(T34A、T75A、S130A)<ref><pubmed> 14631045 </pubmed></ref>に投与しても統合失調症様の行動異常が起きないことから、統合失調症の病態にDARPP-32の関与が示唆される。
 アンフェタミン([[覚せい剤]]、ドパミン神経伝達の亢進)、D-リセルグ酸ジエチルアミド([[LSD]]、[[セロトニン神経]]伝達の亢進)、フェンシクリジン(PCP、グルタミン酸神経伝達の抑制)などの薬物は、それぞれ異なる機序で実験動物に統合失調症様の行動異常を引き起こす。これらの薬物をDARPP-32欠損マウス<ref name=ref10 />、DARPP-32点変異マウス(T34A、T75A、S130A)<ref><pubmed> 14631045 </pubmed></ref>に投与しても統合失調症様の行動異常が起きないことから、統合失調症の病態にDARPP-32の関与が示唆される。
 統合失調症患者において、抗精神病薬治療とは関係なく、前頭前皮質の神経細胞でDARPP-32タンパク質が減少していることが報告されている<ref><pubmed> 12150646 </pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed> 17521792 </pubmed></ref>。DARPP-32 mRNAについては、発現が前頭前皮質で低下しているという報告があるが<ref><pubmed> 18573638 </pubmed></ref>、不変<ref><pubmed> 16786528 </pubmed></ref>あるいは増加<ref><pubmed> 20874815 </pubmed></ref>という報告もあり、意見の一致を見ていない。また、双極性障害患者においても前頭前皮質におけるDARPP-32発現の低下が報告されている<ref name=ref15 />。さらに、統合失調症および[[双極性障害]]の前頭前皮質でDARPP-32のN末端を欠失した[[スプライスバリアント]]であるt-DARPP (truncated isoform of DARPP) [[mRNA]]が増加しているという報告がある<ref><pubmed> 23295814 </pubmed></ref>。動物実験では、抗精神病薬投与に伴うDARPP-32発現の変化は認められていない。出生前のリポ多糖類暴露による統合失調症モデル動物において前頭前皮質のDARPP-32の減少が見られるが<ref><pubmed> 17180123 </pubmed></ref>、すべての統合失調症モデル動物においてDARPP-32の発現が低下するわけではない<ref><pubmed> 22820052 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16132062 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 23313709 </pubmed></ref>。
 統合失調症患者において、抗精神病薬治療とは関係なく、前頭前皮質の神経細胞でDARPP-32タンパク質が減少していることが報告されている<ref><pubmed> 12150646 </pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed> 17521792 </pubmed></ref>。DARPP-32 mRNAについては、発現が前頭前皮質で低下しているという報告があるが<ref><pubmed> 18573638 </pubmed></ref>、不変<ref><pubmed> 16786528 </pubmed></ref>あるいは増加<ref><pubmed> 20874815 </pubmed></ref>という報告もあり、意見の一致を見ていない。また、双極性障害患者においても前頭前皮質におけるDARPP-32発現の低下が報告されている<ref name=ref15 />。さらに、統合失調症および[[双極性障害]]の前頭前皮質でDARPP-32のN末端を欠失した[[スプライスバリアント]]であるt-DARPP (truncated isoform of DARPP) [[mRNA]]が増加しているという報告がある<ref><pubmed> 23295814 </pubmed></ref>。動物実験では、抗精神病薬投与に伴うDARPP-32発現の変化は認められていない。出生前のリポ多糖類暴露による統合失調症モデル動物において前頭前皮質のDARPP-32の減少が見られるが<ref><pubmed> 17180123 </pubmed></ref>、すべての統合失調症モデル動物においてDARPP-32の発現が低下するわけではない<ref><pubmed> 22820052 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16132062 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 23313709 </pubmed></ref>。


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