差分

移動先: 案内検索

変換症

35 バイト追加, 2016年5月9日 (月) 17:05
編集の要約なし
<font size="+1">[[wj:柴山 雅俊|柴山 雅俊]]</font><br>
''東京女子大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月30日 原稿完成日:2016年月日 原稿受付日:2016年3月30日 原稿完成日:2016年5月9日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
==変換症とは==
 変換症とは、訴える症状が運動機能ないしは感覚機能の変化であるが、その症状が生理・解剖学的には説明できない状態を指す。以前は解離性障害と訳され、さらに以前には、転換ヒステリーとも呼ばれていたが、アメリカ精神医学会によるDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, fifth edition)の日本語版では、[[変換症]]との訳語が併記されるようになった。
 
 19世紀末、[[wj:ピエール・ジャネ|ジャネ]]は正常にあっては統合されている自己の[[意識]]、[[記憶]]、[[同一性]]、[[行動]]、[[運動]]、[[身体感覚]]などが、強い[[外傷体験]]によって分離するという[[解離]]の視点から[[ヒステリー]]を捉えようとした。
 
 ほぼ同じ時期に[[wj:ジークムント・フロイト|フロイト]]は、受け容れがたい[[無意識]]の心的葛藤が[[抑圧]]され、[[身体症状]]へと置き換えられる過程を転換/変換(conversion)と呼び、こうした転換型ヒステリーに注目することで[[精神分析]]を創始した。
 
 Van der Hart, Oらによれば、解離の諸症状は精神に現れる[[精神表現性解離症状]](psychoform dissociative symptoms)と身体に現れる[[身体表現性解離症状]](somatoform dissociative symptoms)に分けられ、変換症は、このうち身体表現性解離に含まれる。また精神表現性解離と身体表現性解離は、それぞれ陰性(機能の喪失)と陽性(正常では存在しない症状の出現)とに分けることができる。通常これら身体表現性と精神表現性、陰性と陽性の症状は互いに交代し合い、時に同時に存在する<ref name=ref1>'''van der Hart O, Nijenhuis ERS, Steele K'''<br>The Haunted Self: Structural dissociation and the treatment of chronic traumatization. <br>''W.W.Norton & Company,'' New York, 2006<br>('''野間俊一、岡野憲一郎訳'''<br>構造的解離:慢性外傷の理解と治療 上巻 基本概念編<br>''星和書店''、東京、2011)</ref>。陰性の身体表現性解離症状には、運動機能の喪失、種々の感覚の喪失などがある。陽性の身体表現性解離症状には、「させられ」的な身体感覚、[[チック]]や震えなどの身体運動、[[非てんかん性発作]]、外傷的出来事の再体験による感覚や運動などがある。
==症状==
 運動症状には、[[脱力]]・[[麻痺]]、[[振戦]]や[[ジストニア]]、[[ミオクローヌス]]などの[[異常運動]]、[[協調運動]]の障害、異常な肢位、[[歩行障害]]や[[失立失歩]]、[[嚥下困難]]、[[失声]]や[[構音障害]]、[[けいれん]]発作などがある。また感覚症状には、[[知覚麻痺]]や[[感覚脱失]]、[[複視]]や[[筒状視野]]などの[[視力]]障害、[[聴覚]]の変化、減弱、欠如、[[嗅覚]]異常、[[失神]]や[[昏睡]]に似た[[無反応エピソード]]などがある。
==診断基準==
 
(<u>編集部コメント:DSMの各版の比較は重要でしょうか?</u>)
 
 以前(DSM-Ⅲ、DSM-Ⅳ)は、それまでのヒステリー神経症を転換型と解離型に分け、前者を[[転換性障害]]、後者を[[解離性障害]]と名づけていた。転換性障害は[[身体表現性障害]]の下位診断の1つとされていた<ref name=ref3>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders (3rd ed.)<br>Washington, DC: 1980</ref>。この点はDSM-Ⅳ、DSM-Ⅳ-TRでも同様である<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders (4th ed.)<br>Washington, DC: 1994</ref>。
 DSM-5でもこうした分類の基本は変わらないが、身体表現性障害(somatoform disorder)は[[身体症状症]](somatic symptom disorder)に置き換えられ<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.)<br>Washington, DC: 2013</ref>。変換症/転換性障害 (conversion disorder)(以下、変換症と表記)は[[身体症状症群]]の下位分類となった。また変換症には[[機能性神経症状症]] (functional neurological symptom disorder)が併記された。DSM-5では、変換症はその持続が6ヶ月未満であれば急性エピソード、6ヶ月以上であれば持続性と特定する。
 ちなみにWHOの診断基準である[[ICD-10]]では、解離性障害の概念がDSMより広く、変換症は[[解離性障害]]に含められ「[[運動および感覚の解離性障害]]」に分類されている。「運動および感覚の解離性障害」には[[解離性運動障害]]、[[解離性けいれん]]、[[解離性知覚麻痺]][無感覚]および[[知覚]][感覚]脱失、[[混合性解離性(転換性)障害]]などが含まれる。
 DSM-Ⅳでは解離を「意識、記憶、同一性、または周囲の知覚についての、通常は統合されている機能の破綻(disruption)」と定義していた。しかし、DSM-5では解離症群の特徴を「意識、記憶、同一性、[[情動]]、知覚、身体表象、運動制御、行動の正常な統合における破綻(disruption)および/または不連続(discontinuity)」と変更しため、解離の定義は若干広くなり、ICD-10に近づいた。そのため、DSM-5の解離症と変換症の間の境界はより曖昧になった。
 
 身体表現性解離を評価するための質問紙としては、NijenhuisによるSomatoform Dissociation Questionnaire(SDQ-20)がある<ref name=ref2>'''Nijenhuis, E.R.S.'''<br>Somatoform Dissociation:
 Major symptoms of dissociative disorders.<br>''J of Trauma & Dissociation'': 2000, 1(4) ; 7-32</ref>。
==心因と疾病利得==
 また[[二次的疾病利得]]や[[美しき無関心]](la belle indifference)は変換症に特異的であるとはいえないため、診断に際して用いるべきではないと明記された。二次疾病利得とは病気になることで二次的に生じる利得のことである。(ちなみに[[一次疾病利得]]とは無意識的葛藤が症状形成によって回避されることである。)一般に二次疾病利得は神経症の症状を維持する要因として働くとされる。心理的ストレス因や二次疾病利得など、従来重視されがちであった特徴はあくまで付随的情報にとどめるべきであるとされている。また症状が故意に生み出されたことが明らかである場合には、変換症ではなく[[作為症]] (factitious disorder)や[[詐病]] (malingering)と診断されるべきであり、変換症とは診断されない。DSM-Ⅳ-TRで診断基準に含まれていたこうした確認が実際には困難であることから、変換症の診断基準から削除された。
 過去においてヒステリーに向けられがちであったのは、症状という偽物の背後に、隠された(意識的ないしは無意識的な)真の意図を見つけ出そうとする眼差しであった。心因、美しき無関心、疾病利得、症状の意図的算出などはこうした眼差しに通じるものであり、これらにとらわれることは診断や治療において好ましくないときがある。こうした今回のDSM 過去においてヒステリーに向けられがちであったのは、症状の背後に、隠された(意識的ないしは無意識的な)真の意図を見つけ出そうとする眼差しであった。前述の、心因、美しき無関心、疾病利得などは、こうした眼差しに通じるものであり、これらにとらわれることは診断や治療において好ましくないことから、こうした今回のDSM-5の変更は臨床の沿ったものであり、望ましいといえる。5の変更は、臨床に沿った望ましいものである。
==危険要因危険因子== ジャネは解離と幼児期の外傷体験との関連を指摘していたが、変換症の患者には小児期の虐待やネグレクトがみられるという報告はいくつかある<ref name=ref6>'''Singh, S.P., Lee, A.S.'''<br>Conversion disorders in Nottingham: alive, but not kicking.<br>J''. Psychosom. Res'' : 1997, 43; 425-430</ref>。Rolofsらは、変換症の患者54名と感情障害の患者50名を比較した結果、変換症群は虐待の頻度がより高く、性的虐待がより長期間にわたり、近親姦の回数がより多かったこと報告した。また変換症と虐待の関係は部分的に催眠感受性によって説明することができると述べている。Rolofsらは、変換症の患者54名と感情障害の患者50名を比較した結果、変換症群は虐待の頻度がより高く、性的虐待がより長期間にわたり、近親姦の回数がより多かったこと報告した。また変換症の症状は、心的外傷体験に対する防衛反応としての自己催眠により生じるという理論があるが、虐待後の変換症の発症に催眠感受性がある程度影響することは、この理論を支持していると考えられた<ref name=ref7><pubmed> 12411227 </pubmed></ref>。
==併存症==
 変換症の併存診断には、[[気分障害]]、[[パニック症]]、[[全般不安症]]、[[外傷後ストレス障害]]、解離症、[[社交不安症]]、[[強迫症]]などが多い。変換症の1/3に[[大うつ病]]が併存しているという報告もある<ref name=ref8><pubmed> 7872143 </pubmed></ref>。大うつ病と診断されたならば、[[抗うつ剤抗うつ薬]]などで治療することが望ましい。[[パーソナリティ障害]]が変換症に認められることは多い。神経疾患あるいは他の医学的疾患もまた変換症とよく併存する。
 非てんかん性発作の患者の併存症としては、[[うつ病]]が12—100%、[[不安症]]が11—80%、解離症が90%、他の身体症状症が42—93%、パーソナリティ障害が33—66%である<ref name=ref9><pubmed> 10496238 </pubmed></ref>。Reuberらは、非てんかん性発作の患者にはパーソナリティ障害が多くみられ、転帰はパーソナリティの特徴によって異なることを示した<ref name=ref10><pubmed> 15090571 </pubmed></ref>。
==治療==
 変換症の予後は症状の持続期間と大いに関連しているため、神経科医は時期を失せずに早期に精神科医に紹介することが望まれる。変換症に対しては、[[認知行動療法]]や[[行動療法]]、[[精神分析療法]]、[[抗うつ剤抗うつ薬]]療法、[[経頭蓋磁気刺激法]](transcranial magnetic stimulation:TMS)などの効果が報告されており、薬物療法、精神療法、理学療法などを適宜組み合わせることが推奨される。しかし、現状ではそれらを支持する経験的データは乏しいといわざるをえない。臨床家は過剰な検査や不適切な医学的治療による医原性の問題に注意しながら治療することが必要である。
==疫学==

案内メニュー