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[[双極刺激電極]] (bipolar electrode)は、不関電極の代わりに、もうひとつの電極をすぐ近くに配置して刺激する種類の電極である(図1)。大きくふたつに分けると、2本の針型電極をごくわずかな間隔をあけて固定したものと、同心円状にふたつの金属を細い棒状に配置したものがある。 | [[双極刺激電極]] (bipolar electrode)は、不関電極の代わりに、もうひとつの電極をすぐ近くに配置して刺激する種類の電極である(図1)。大きくふたつに分けると、2本の針型電極をごくわずかな間隔をあけて固定したものと、同心円状にふたつの金属を細い棒状に配置したものがある。 | ||
2本針型双極電極は、[[wj:デンタルワックス|デンタルワックス]]などで2本の金属電極を固定して自作することが多いが、ごく近くに2本の電極が並んでいるため、電圧をかけたときに、ごく近傍でのみ電流が流れるため、小さな領域を効率よく刺激することができ、アーティファクトも単極刺激に比べてはるかに小さくなる<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>。刺激したい領域に合わせて、電極間の距離を調節できるという利点もある。 | 2本針型双極電極は、[[wj:デンタルワックス|デンタルワックス]]などで2本の金属電極を固定して自作することが多いが、ごく近くに2本の電極が並んでいるため、電圧をかけたときに、ごく近傍でのみ電流が流れるため、小さな領域を効率よく刺激することができ、アーティファクトも単極刺激に比べてはるかに小さくなる<ref name=ref1><pubmed>19515929</pubmed></ref>。刺激したい領域に合わせて、電極間の距離を調節できるという利点もある。 | ||
一方、同心円型双極電極の場合は、作製するのが難しく、通常は専門業者によって作製されたものを使用するが、アーティファクトが小さいという点は2本型電極と共通するが、通常は電極間距離を刺激部位に合わせて変更できないため、それが最大の欠点である。また、構造的な必要性からやや太くなることが多いため、神経組織などに刺入する場合には、組織に障害をもたらす可能性が高いところも欠点である。 | 一方、同心円型双極電極の場合は、作製するのが難しく、通常は専門業者によって作製されたものを使用するが、アーティファクトが小さいという点は2本型電極と共通するが、通常は電極間距離を刺激部位に合わせて変更できないため、それが最大の欠点である。また、構造的な必要性からやや太くなることが多いため、神経組織などに刺入する場合には、組織に障害をもたらす可能性が高いところも欠点である。 | ||
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===ガラス管電気刺激電極=== | ===ガラス管電気刺激電極=== | ||
先端を細く加工した中空ガラス管ピペットに高濃度の塩化ナトリウム溶液(1~3M程度)やリンゲル液(等張)、[[wj:生理食塩水|生理食塩水]]などを充填して、刺激したい神経組織あるいは神経線維の近傍に刺入あるいは配置し、刺激装置やアイソレータに接続して、電気的に興奮させる電極である。小さな試料を用いるときに使用することがあり、一本の電極で刺激することが多く、その場合には、不関電極との間で電圧をかけるか、電流を流すかして興奮させるため、限局した部位を刺激できるものの、アーティファクトは一般的に大きくなる<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>。特殊な場合では、2本のガラス管を熱して融合させたのちに作製した2本のガラス管の先端が密接した電極で刺激することもある。この場合には、双極刺激になるため、きわめて限局した部位を刺激できるだけでなく、アーティファクトもかなり小さくなる。 | 先端を細く加工した中空ガラス管ピペットに高濃度の塩化ナトリウム溶液(1~3M程度)やリンゲル液(等張)、[[wj:生理食塩水|生理食塩水]]などを充填して、刺激したい神経組織あるいは神経線維の近傍に刺入あるいは配置し、刺激装置やアイソレータに接続して、電気的に興奮させる電極である。小さな試料を用いるときに使用することがあり、一本の電極で刺激することが多く、その場合には、不関電極との間で電圧をかけるか、電流を流すかして興奮させるため、限局した部位を刺激できるものの、アーティファクトは一般的に大きくなる<ref name=ref2><pubmed>1346229</pubmed></ref>。特殊な場合では、2本のガラス管を熱して融合させたのちに作製した2本のガラス管の先端が密接した電極で刺激することもある。この場合には、双極刺激になるため、きわめて限局した部位を刺激できるだけでなく、アーティファクトもかなり小さくなる。 | ||
===ガラス管化学刺激電極=== | ===ガラス管化学刺激電極=== | ||
先端を細くした中空のガラス管に[[神経伝達物質]]などの[[生理活性物質]]を充填し、それを神経細胞などの周辺に放出させて刺激するための電極である<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>。[[wj:pH|pH]]を適当に調節して帯電させた神経伝達物質などをピペットの先端に充填し、それと反発する電位を電極にかけることにより、電気的な反発力によりピペットから神経伝達物質などを放出させて神経細胞などを興奮させる。このような方法を[[wj:電気泳動法|電気泳動法]](electrophoresis)と呼ぶ。この際、ガラス管電極から神経伝達物質が漏出するのを防ぐために、[[阻止電流]](braking current)を持続的に流しておく必要がある。このような操作を容易に行えるような機器が市販されているが、簡単な装置なので自作することも容易である。なお、前項で述べた2本ガラス管電極を用いると、一方の電極で細胞外電位を記録しながら、もう一方の電極から電気泳動により生理活性物質を放出して、記録している局所の神経細胞などを興奮させることもできるので、そのような操作が必要な実験では強力な武器となる。 | 先端を細くした中空のガラス管に[[神経伝達物質]]などの[[生理活性物質]]を充填し、それを神経細胞などの周辺に放出させて刺激するための電極である<ref name=ref3><pubmed>7507335</pubmed></ref>。[[wj:pH|pH]]を適当に調節して帯電させた神経伝達物質などをピペットの先端に充填し、それと反発する電位を電極にかけることにより、電気的な反発力によりピペットから神経伝達物質などを放出させて神経細胞などを興奮させる。このような方法を[[wj:電気泳動法|電気泳動法]](electrophoresis)と呼ぶ。この際、ガラス管電極から神経伝達物質が漏出するのを防ぐために、[[阻止電流]](braking current)を持続的に流しておく必要がある。このような操作を容易に行えるような機器が市販されているが、簡単な装置なので自作することも容易である。なお、前項で述べた2本ガラス管電極を用いると、一方の電極で細胞外電位を記録しながら、もう一方の電極から電気泳動により生理活性物質を放出して、記録している局所の神経細胞などを興奮させることもできるので、そのような操作が必要な実験では強力な武器となる。 | ||
一方、電気的な方法ではなく、神経伝達物質などを含んだ溶液をピペットに充填し、ピペット後部から圧力をかけて物理的に神経伝達物質などを放出することにより神経細胞などを興奮させる方法もある<ref name=ref2 />。ごく短い時間だけピペットホルダーに一定の圧力をかけることができる装置(Picospritzerなど)が市販されており、一定量の溶液を設定した時間間隔で放出させて、神経細胞などを安定的に刺激することができる。 | 一方、電気的な方法ではなく、神経伝達物質などを含んだ溶液をピペットに充填し、ピペット後部から圧力をかけて物理的に神経伝達物質などを放出することにより神経細胞などを興奮させる方法もある<ref name=ref2 />。ごく短い時間だけピペットホルダーに一定の圧力をかけることができる装置(Picospritzerなど)が市販されており、一定量の溶液を設定した時間間隔で放出させて、神経細胞などを安定的に刺激することができる。 | ||
===細胞内微小ガラス管電極=== | ===細胞内微小ガラス管電極=== | ||
[[細胞内微小電極]](intracellular microelectrode;いわゆるsharp electrode)を神経細胞内や神経線維内に刺入し、その電極を介して脱分極性の電流を注入することで、神経細胞などを興奮させることができ、これも広い意味での刺激電極と考えることができる<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>。神経細胞に微小電極を刺入することは熟練すれば容易に行えるが、神経線維内に刺入するのには相当の熟練を要する。なお、市販されている[[増幅器]]によっては、[[膜電位]]を記録しながら電流を注入することができるものもあり、一本のガラス管電極で[[電位固定記録]](voltage-clamp recording)を行えるものもあるが、最近は、[[パッチクランプ記録法]](patch-clamp recording)が用いられることが圧倒的に多く、このような膜電位固定法はほとんど用いられなくなっているが、[[全細胞記録]]でしばしば問題となる細胞内成分がピペット内に流れ出すという欠点がないのが特長である。 | [[細胞内微小電極]](intracellular microelectrode;いわゆるsharp electrode)を神経細胞内や神経線維内に刺入し、その電極を介して脱分極性の電流を注入することで、神経細胞などを興奮させることができ、これも広い意味での刺激電極と考えることができる<ref name=ref4><pubmed>1361129</pubmed></ref>。神経細胞に微小電極を刺入することは熟練すれば容易に行えるが、神経線維内に刺入するのには相当の熟練を要する。なお、市販されている[[増幅器]]によっては、[[膜電位]]を記録しながら電流を注入することができるものもあり、一本のガラス管電極で[[電位固定記録]](voltage-clamp recording)を行えるものもあるが、最近は、[[パッチクランプ記録法]](patch-clamp recording)が用いられることが圧倒的に多く、このような膜電位固定法はほとんど用いられなくなっているが、[[全細胞記録]]でしばしば問題となる細胞内成分がピペット内に流れ出すという欠点がないのが特長である。 | ||
===パッチクランプガラス管電極=== | ===パッチクランプガラス管電極=== | ||
[[パッチクランプ法]]を用いると、例えば、脳スライス標本において、[[軸索]]や[[樹状突起]]などに直接電極をパッチさせ、[[全細胞モード]]で一本の神経突起を電気刺激することも行われるが、かなり高度な技術が要求される<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref>。また、パッチクランプに必要なギガΩシールを作るのではなく、それよりも低い抵抗値を示すような緩いシールである[[ルースパッチ]](loose patch)を形成し、細胞外電位刺激により一本の樹状突起や軸索を発火させることも可能である。 | [[パッチクランプ法]]を用いると、例えば、脳スライス標本において、[[軸索]]や[[樹状突起]]などに直接電極をパッチさせ、[[全細胞モード]]で一本の神経突起を電気刺激することも行われるが、かなり高度な技術が要求される<ref name=ref5><pubmed>8107777</pubmed></ref>。また、パッチクランプに必要なギガΩシールを作るのではなく、それよりも低い抵抗値を示すような緩いシールである[[ルースパッチ]](loose patch)を形成し、細胞外電位刺激により一本の樹状突起や軸索を発火させることも可能である。 | ||
ここでは、最もよく使用されるふたつの種類の刺激電極について述べたが、電気生理学の分野では、歴史的に、さらに多くの種類の刺激電極が考案され使用されてきたが、ここでは専門的過ぎるため、その解説は省略するので他書を参照されたい<ref name=ref6>< | ここでは、最もよく使用されるふたつの種類の刺激電極について述べたが、電気生理学の分野では、歴史的に、さらに多くの種類の刺激電極が考案され使用されてきたが、ここでは専門的過ぎるため、その解説は省略するので他書を参照されたい<ref name=ref6>'''平本幸男、竹中敏文・編'''<br>実験生物学講座 5<br>「電気的測定法」(大森治紀他・著)<br>''丸善株式会''社 1982年発行(本項執筆時では廃刊となっており入手困難)</ref>。電気刺激を用いる実験で最も重要なことは、どのような目的のために刺激電極を使用するかを事前によく検討し、最も適当な種類の刺激電極を選択するかである。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |